破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その6、バッキーの『チート』

 

 

 

 

 

「あの世の絵かよ。なるほど、地獄ってわけか」

 

 マコネはつまらなそうに言った。

 カーシャは黙って視線だけをシスターに送る。

 

 それをどう受け取ったのか、

 

「死後罪人はこの世界に落とされるそうです。地獄ではお互いに憎み合い、殺し合う。他にも地獄の魔物に殺されますが、涼しい風が吹けばまた蘇り、苦痛を味わうと」

 

「……」

 

 カーシャは目をむいた。

 

 覚えが、ある。

 

 あの荒野は、まさにそういう場所だった。

 

「それじゃ終わりがないってことかよ。なるほど、地獄だ」

 

「でも、その中を女神クシティーは巡り歩き、罪人を再び転生させます。もう一度チャンスが与えられるわけですね」

 

「チャンスねえ……。けど、どこぞのお嬢さまと貧民じゃ、天と地ぐらい差があるぜ?」

 

「それは、女神のおぼしめし次第ですね」

 

「いい身分に生まれたきゃ、せいぜい女神さまを拝んどけってか? へっへ」

 

 皮肉な笑いのマコネ。

 しかし、カーシャはそれらをまったく無視して、絵を見つめる。

 

「この地獄では――罪人は一方的に殺されるだけ、なのかしら?」

 

「え?」

 

 シスターは驚き、カーシャを凝視する。

 思わぬ質問だったらしい。

 

「罪人同士では殺し合いになると、言ってたかしら。なら、怪物相手には?」

 

「さあ、それは……」

 

「殺されたくなければ、殺すしかない。それは相手が何だろうと同じこと。少なくとも……」

 

 あそこは、そういう場所なのかしら。

 

 地獄の絵を指して、カーシャは静かに言った。

 

「地獄っていうか、修羅界みたいですね、それ……」

 

 と、後ろのほうにいたバッキー。

 

「――シュラ?」

 

 カーシャは振り返る。

 

「えーと、うちの故郷での伝説? 神話? んー、なんて言ったらいいのか。つまり、死んでから行く? いや、生まれ変わるのかな。そういう世界の話で……」

 

「ほーん。ところ変われば、何とかってやつかい? で、なんだよ、そのスラー? ってのは」

 

 マコネの問いかけにバッキーは、

 

「詳しくは知らないですけど、生まれ変わる世界の一つで、年がら年じゅう戦争してる世界で、修羅ってのは、元々神様の一種だったかな……正しくは阿修羅ですか」

 

「邪神……荒ぶる神ということ?」

 

「悪いとか良いとかはよく知りませんけど、激しいものの例えに使われるから、荒々しいのは確かなんでしょうね」

 

「あんた、なかなか面白いこと知っている」

 

 カーシャは興味をそそられた。

 

「ふへへ、ど、どうも……」

 

 このすぐ後だった。

 

「おーい、シスターさん! 早く来てくれ、まだまだいるんだ!」

 

 あわただしい声で、村人が一人教会に入ってきた。

 

「あ、いけない!」

 

 シスターはあわてて、色々詰め込んだカバンを手にする。

 包帯や医薬品などらしい。

 

「そうか、けっこうケガ人が出たんだな。当たり前か」

 

 マコネは言ってから、バッキーを見て、

 

「なあ、あんたヒーラーだろ? 手伝ってやったらどうだ? いくらかもらってよ」

 

「あ、そうっすね。ふひ……。じゃ、じゃあ……」

 

「お手伝いしていただけるんですか? ありがとうございます!」

 

 シスターはすぐにバッキーの手をつかんで、走り出て行った。

 

「せわしねえなあ」

 

「ケガ人か。こっちにできることはないわね。とどめを刺すなら別だけど」

 

「おっかねえな……」

 

「ジョークよ」

 

「本当かね……?」

 

「ふん」

 

 カーシャはもう一度地獄絵を見てから、教会を出た。

 することもないので、バッキーたちの後を追ってみる。

 

 

 

 

「……すっげえ! 一発だ!」

 

「おいおいおい! 古傷まで治っちまったよ!?」

 

 村のケガ人への治療。

 

 そこでは、意外な光景が展開されることになった。

 

 バッキーの治癒魔法によって、村人はドンドン完治していく。

 

 ――これは……。

 

 カーシャは内心驚いた。

 

「へえ、さすが専門家だねえ」

 

「……そんなレベルじゃあない」

 

 マコネは無邪気に感心しているが、

 

「治癒魔法も使い手やレベルによって大きな違いがある……。初歩はあくまで自然治癒の促進から、止血程度の応急処置。高等なものは複雑骨折、内臓破裂を修復する治癒というより復元。このレベルまで達するヒーラーは少ない…………しかも」

 

「いやー、すげえなぜんぜん痛くないわ!」

 

 治ったばかりの腕のブンブンまわす村人。

 

 ――痛みさえないのか……。

 

 急速で大掛かりな治癒魔法は痛みを伴う場合がある。

 あるいは、ポーションなどの補助がいる場合も。

 

 ――こいつの場合、それさえ必要ないのか? 確かに、強い魔力は感じたけど……。

 

 天才。

 こうなると、もはや反則技である。

 

「いや、いや。どうも、ふへ…………」

 

 バッキーは顔を赤らめながら、魔法を使い続ける。

 

 ケガ人の治療が終わると、すぐに村人は茶と菓子を用意して感謝を述べた。

 

「いやあ……あっちのお姉さんもすごいが、あんたもすごい!」

 

「助かったよ、ずっと腰が痛かったんだ」

 

「お前、それゴブリン関係ないだろ」

 

「だから余計にありがてーんだよ!」

 

「こんなもんしかないけど、どんどん食べて! あ、お仲間のかたもどうぞ!」

 

 菓子をすすめられ、カーシャは遠慮はしなかった。

 安い、田舎の菓子だ。

 

 しかし、

 

 ――美味しい。

 

 久しぶりの甘味だった。一体どれほどぶりだろうか。

 以前なら、笑うか怒って手もつけなかっただろう。

 

「ふふん……」

 

「ありゃ?」

 

 横で同じく菓子を食べていたマコネ。

 

「――なに?」

 

「ああ、いや笑ってるようだったからさ……」

 

「私が笑うと、なにか変?」

 

「いやあ、その……さ。あんまり表情を変えない人なんでねえ、正直驚いた」

 

「ふーん」

 

 自分の顔に触れながら、カーシャは思う。

 

 ――笑うか……。そういえば、あそこでは、笑うなんてしたかどうか。

 

 一時は絶望して、笑うしかなかった時期もあったように思う。

 それも、すぐに去ってしまったけど。

 

 見ていると、バッキーの治療は再び再開されたようだ。

 ゴブリン退治のケガ人がすんだ後は、

 

「すまんが、このところ腰が痛くって……」

 

「前に骨折したケガがまだ……」

 

「産後の肥立ちで……」

 

「虫歯が……」

 

 どんどん村人が集まってきていた。

 

 ――あきれたもんだわ。

 

「えーと、ケガとかいけるんですけど、病気とかそれはダメでして……」

 

 しかし、キョドりながらもバッキーは対応していく。

 

 ――バカ正直、いや善人というべきかしら……。

 

 全部が終わった後、ぐったりと机に顔を伏せていた。

 

「ああああ……。疲れたあ…………」

 

「すみません、みんなで押しかけてしまって……」

 

 シスターは新しいお茶をいれながら、それでもニコニコ顔。

 かなり感謝しているようだった。

 

「では、ごゆっくりしてくださいね。私はまだ片付けなどがあるので」

 

「ま、まあ私でお役に立つなら、けっこうなことでして……」

 

 シスターの背中へ、バッキーはそんなことを言っていた。

 照れた顔で、バッキーは笑う。

 

「謙虚なものね。それだけの魔法が使えるなら、もっと誇るのが普通だけど」

 

 カーシャは言った。

 

 褒めるというよりも、皮肉を込めている。

 謙虚も場合によっては、時に傲慢よりも不快だからだ。

 

「……そういうんじゃ、ないんですけどね。ふひっ」

 

「才能は授かりものというわけ?」

 

「いやまあ、授かりものではありますけど、まあ、一種のインチキというか」

 

「そこまでの才能を得られるって、どんなインチキよ」

 

「え。お前、なんかマジックアイテムでも使ってたのか?」

 

 マコネが探るような目つきでバッキーを見た。

 

「それはない。アイテムで発動したのとは違う。明らかにこいつ自身が使っていた」

 

「私のこれは、後付けっていうか。ある人からもらった力なんですよ。だから、努力してゲットしたもんじゃないんです」

 

「ンなアホな。そんなことができるのは、神様くらいのもんだぜ? まさか、ほんとに神から授けられたとでも言うのかよ? ギャグにもならねーぞ?」

 

「……」

 

 そんなことが、あるのか。

 カーシャは思うが、しかし自身をかえりみると、

 

 ――異常なことは私自身にも起こっている……か。なら、こいつにもそんなことがあったかもしれない。

 

「まあ、いい。あんたには優れた治癒魔法が使える。それだけ事実なら、後は知ったことじゃない。以上」

 

「いや、以上って……」

 

 カーシャの言葉に、マコネはさらに呆れた顔。

 

「ふひひひっ。ど、どうも……」

 

 まあ、ともかく、話はそれでおおよそ終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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