破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その51、ワシロー王国の王太子殿下

 

 

 

 

 

 

 

「――刃傷事件?」

 

「そうです、そうです」

 

 カーシャの声に、ユオンは訳知り顔でうなずいた。

 

 ワシロー国王別荘にて。

 国王へマクニオを【紹介】した後。

 

 カーシャたちは、別荘内の庭園に戻っていた。

 

 マクニオは、庭園で一番大きな()の根本――

 そこへ腰を下ろして動かない。

 眠っているのか。

 それとも。

 黙っているだけなのか。

 

「するてーと、なにかい? おーざっぱにまとめると……」

 

 カーシャの横で話を聞いていたマコネ。

 猫みたいな――今は男装少女はのびをしながら、

 

「その、大公っておえらいかたが、王宮内で王様を斬りつけた。で、その一家は取り潰されちゃったと。で……」

 

 潰された一家の、生き残り?

 そいつらが復讐(しかえし)を企んでるってか?

 

 話のあらましを要約した。

 

「はい。実にわかりやすいですね。1年前のことです」

 

 パチパチと拍手をするユオン。

 そんな仕草も絵になっていた。

 まさに天使か女神のごとき美少女ぶり。

 

「ついでに、大公家に残された妹君のほうは現在行方不明。ま、逃走中ですね」

 

「取り潰し。つまり完全な廃爵ね。当然の結果でもあるし、軽くても降爵(こうしゃく)……あるいは一族郎党――」

 

 こうなってもおかしくない。

 

 カーシャは手刀で首を叩き、斬首のジェスチャー。

 

「しかしよ? その大公さんはなんでンなことしちゃったんだ? フツーに考えたらさあ?」

 

「ええ。大問題になるのはわかってるはずだし……」

 

 同意を求めて自分のほうを向いたマコネに、バッキーもうなずく。

 

「さてさて。深い事情まではわかりませんが……。元から王家と大公家は微妙な関係だったんです」

 

「ああ、聞いたことがあるわ。旧来は、今の大公家にあたる血筋。それが王位についていたとか」

 

 カーシャがそう言うと、

 

「さすが事情に通じていらっしゃる」

 

「……社交界では、そんな情報(モノ)が飛び交うのよ。アレコレとね?」

 

 どうせよくわかっているくせに。

 

 ニコニコするユオンへ、カーシャは冷ややかな視線。

 

「ほんじゃ、今の王様? その一族が前の王様から国をとっちゃったのか?」

 

 

「どっちも、源流は同じ血族だがな」

 

 

「「え?」」

 

 いきなり響いた言葉に、マコネとバッキーは振り返った。

 

 樹木の根元に座ったまま、

 

「現王家は、元は王族から分かれた公爵家だ。それが1代前、現国王の父の代に取って代わったんだよ」

 

 語ったのはマクニオだった。

 

「はい。私も記録で読みました」

 

 ユオンは面白そうに元・人間だというバケモノを見た。

 

「俺も話でしか知らんが、その時代に隣国との戦争があった。この時に、大公家の先祖は戦死したのさ。それから、公爵の――現国王の父に支持が集まった。王太子も病弱だったそうでな」

 

「そんな人物が、よく嫡子に選ばれたわね」

 

 マクニオの説明に、カーシャは疑問を口にした。

 

「さてね? 何か裏事情や陰謀があったのか、そこまでは知らんよ」

 

「はあ。それで確執があったんですねえ……?」

 

 バッキーはうなずきながら、

 

 ――そう言えば、似たような話をどっかで聞いた? いや、読んだかな? ああ、これって……。

 

 鍋島猫騒動だ。

 

 転生前に、妖怪関係の本で知った知識。

 大名家が、家臣に家督を奪われたという話。

 そこから生まれた化け猫の怪談。

 

 ――こんな感じだったかなあ?

 

 バッキーは曖昧(あいまい)な記憶から、そんなことを思い出していた。

 

「だけど、それにしたって? いきなり刃物で斬りかかるなんて……」

 

「そりゃ次期国王の問題だろうさ」

 

 マクニオは肩をすくめる。

 

「王太子はいる。だが、さほど人望のあるおかたじゃないんでな。若き大公に王位を……そういう声も少なくなかった」

 

「ンーな時に、王宮での刃傷事件か。アハハ、そりゃ裏がありますと言ってるようなもんだ」

 

 マコネが皮肉をこめてケラケラ笑った。

 

「裏があったとして、王家やその一派のやったことだとも、言い切れないけれど」

 

 カーシャは、その青く美しい髪をいじりながら淡々と言って、

 

「現王家の政権が続いたほうが好ましい。都合が良い。そういうのが、国内外にいてもおかしくはない。そうよねえ?」

 

 ユオンを見た。

 

「はい」

 

 あっさり肯定する美少女エルフ。

 

「しかし……」

 

 マコネはマクニオを振り返りながら、

 

「お前さん、ずいぶん詳しいな?」

 

「――俺はこの国の生まれだからな」

 

「ほーん」

 

 カーシャはマコネとマクニオのやり取りを聞きながら、

 

 ――ということは、まあ……。反乱勢力を、援助してる連中がいても不思議はないか。

 

 音もなく、鼻でせせら笑ってから

 

 ――人望のない王太子か。どんな男かしらねえ。似たような立場だった者として……。

 

 興味があるわ。

 

 と、好奇心をくすぐられた。

 

 

 

 

 その夜――

 

 ――あ~あ……。

 

 外交官を迎える宴の場。

 その舞台となっている館。

 正門の前で、マコネは眠そうな顔をしていた。

 

 カーシャやバッキーがパーティーへ参加している間。

 館の警備を助けるため、ここで待機する羽目に。

 

「あのう、私も警備のほうを行きましょうか?」

 

 などとバッキーは言っていた。

 性格的に、ああいう華やかな場は苦手なのだろう。

 

 しかし、

 

「ダメ」

 

 カーシャに一蹴されて、同行させられていた。

 

 ――マナーとかよくわからんところに行くのは遠慮したいけどよ。退屈なもんだよなあ。

 

 と、野良猫風味の男装少女があくびを嚙み殺している頃――

 

 

 

「お会いできて、まこと光栄でございます王太子殿下」

 

 カーシャは令嬢時代より身についた動作で、挨拶を行っていた。

 

「これはこれは……。ご活躍は、この国にも聞こえております」

 

 そう返す王太子。

 名を、ビノーミ・ワシロー。

 

 ――へえ、なるほど。

 

 淑女の仮面をかぶりながら、カーシャは眼前の人物を観察。

 

 王族らしい育ちの良さはうかがえる。

 温厚そうと言えば聞こえはいいが――

 

 ――頼りない感じの男ね。見た目的には。

 

 そういう印象だった。

 

 ――聞いた話では、武芸でも学識でも目立つものはなし。地味で、才気走ったところもない。

 

「わたくしも、殿下のお人柄はうかがっております。多くのかたがたに、慕われておられると」

 

 つまり。

 何事にもひとまかせ。

 ほとんど、周りにやらせているということだが。

 

「いやあお恥ずかしい」

 

 王太子は微笑して、

 

「おかげで、民にも笑われております。良きにはからえ、と笑いのネタにされておりまして」

 

 ぬけぬけと言った。

 

 ――鈍感なのか、鷹揚(おうよう)なのか。

 

 令嬢であった頃のカーシャなら、

 

 ――こんな話を聞けば、激昂してたわね……。このおかた(・・・)も、内心はどう思っていることやら。

 

 と、

 

 ――む。

 

 王太子の背後。

 そこへ見える絵画へ気づき、カーシャは視線を送った。

 なにか、神話か伝説の1シーンを描いたものか。

 

「ああ、あれですか?」

 

 王太子は絵を振り返り、嬉しそうに笑った。

 

「失礼。あまりに見事なもので……つい目を奪われました」

 

「そう言っていただけるとは、実に嬉しい。よろしければ、あの絵についてお話ししましょうか?」

 

「はい。是非とも」

 

 絵は、戦場に立つ巨大な戦士を描いたもの。

 人間というよりも――

 赤い鎧を着た、ゴーレムという印象。

 背には、銀の翼がある。

 

 ビノーミ王太子殿下の説明によれば――

 

 かつてワシローを救った巨大な戦士。

 英雄と共に悪竜や、邪悪な妖術師(ソーサラー)と戦った。

 

 その名を、

 

 

「マギドル」

 

 

 そう王太子は語った。

 

 

 

 

 少し離れた場所。

 カーシャと王太子のやり取りを見ている、2人の少女。

 

「ひとたび動き出せば、あらゆる敵を粉砕するという無敵の戦士」

 

 王国に危機があれば、王家の血を引く者の呼びかけに応え――

 

「英雄と共に、危機を救う……。ワシロー王家の伝承では、そうあります」

 

 ユオンは訳知り顔で説明していた。

 王太子も、カーシャに同じようを語っている。

 

「はあ……」

 

 絵を見上げるバッキーへ、

 

「もしもこんなのが復活すれば、反乱を成功させることも可能、かも? そう、たとえ少人数でも」

 

 声をひそめ、ユオンは言った。

 

「いや、ちょっと……」

 

 場にふさわしくない話題に、バッキーがあわてると、

 

「アハハハ。あるわけないじゃないですか、そんなの。お話ですよ、お話。あるいは、大昔のことが大げさに伝わっただけとか。よくある、よくある」

 

 酔っているのか、ユオンはいつもより高いテンション。

 ヘラヘラとした笑顔。

 

「やめてくださいよ。その……すっごいフラグっぽいセリフ……」

 

 バッキーはものすごく嫌な顔で、ユオンの笑顔を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシロー王都から離れた、ある山岳地帯。

 

「マギードル、今日もサンキューな」

 

 黒髪の少年が、赤い巨人を見上げて笑っていた。

 

 赤い鎧をまとった巨人の戦士。

 大きさは、6メートル近くある。

 汚れもあるが、それ以上に輝く金属の光沢。

 

 ワシロー王家に伝わる、伝説の戦士。

 英雄のみが従えられる無敵の巨人。

 

 その姿をもしバッキーが見れば、

 

「え? ロボット???」

 

 そう言うのは、間違いなかった。

 

 

 巨人を見上げる少年のそばには――

 

 1人の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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