破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「お前さん、不服じゃないのかよ?」
マコネはそう尋ねた。
大使館の裏庭。
特殊合金で造られた巨大な檻。
マクニオはその中で座ったままだ。
「獣同然で、こんなとこに入れられてよ」
「快適とは言えんが、苦でもないな。実際、獣というかモンスターではある」
マクニオは気にした様子もなかった。
「それに、いつでも出れるからか?」
マコネはぶっきらぼうに言った。
皿に載った料理を檻へ入れながら――
檻には、食事を入れる小さな出入り口があった。
マコネのそばには、大きなワゴンが複数。
上には色んな料理がのっている。
「まあな」
料理を一気に喰らい、マクニオは肩を揺すった。
笑ったらしい。
「しかしまあ、お前も物好きなことだな。わざわざ餌を運んでくるとは」
「一応、おいらぁお前の
そう言いながら――
マコネは、酒樽を檻の中へと転がす。
「律儀だな」
マクニオは酒樽を片手でつかみ、じかに飲んでいく。
中身は、ワイン。
「美味いもんだな。久しぶりに飲んで実感した」
「元は人間って言ってたもんな」
「ああ」
「人間に戻りたいとか思わねえの?」
「ま、戻ったところでなあ」
マクニオは空になった酒樽を置き、
「さして良い思いをしたこともなし。こうなって面倒になったこともあるが、余計な心配もなくなった。衣服とか、色々な」
「だけど、その
「ああ、そうだな。だが、ベッドが恋しいわけでも、こういう料理が格別食いたいでもなし。嫌いじゃないが、苦慮するほどでもない」
「ふーん」
マコネは料理を入れながら、空の皿などを取り出す。
「……そういうのが、なんか似てるな。姿かたちってじゃなく、雰囲気がさ」
「誰に」
「うちの、姐さんだよ。つーか、お前さん知り合いって言ってたけど……」
「そりゃ似てるのはもっともだ……と言っても、わからんか。わかりやすく言えば、同じ
「同じ流派だってのかい?」
「そうとも言えるな」
「どこでどんな
「師事した相手はいないな。生きたまま地獄におっこちて、そこで何度も殺したり、殺されたり。そんなのを延々と繰り返す。それだけだな」
「……はあぁ?」
その説明に――
マコネはあきれ顔で、猫のような顔を歪めたが、
「ああ、そんだけつらい修業だったってことか。えらく大げさというか、詩的なこと言うじゃねーの」
「そういう反応になるよな。事実をそのまま言っただけなんだが」
マクニオはおかしそうに、
「ついでに言うと。あそこは、地上の1日が何百年にもなる。あるいはそれ以上か。だから半日でどえらく修業できるんだなあ」
「あー、はいはい。わかった、わかった」
マコネは適当に返しながら、肩をすくめる。
ともかく――
バシラ・カーサは親しみにくい。
と。
ワシロー国王太子ビノーミは、会うたびにそう思う。
自分を次の王だとをかつぐ〝ビノーミ派〟。
その会合の席。
表向きは、あくまで酒宴となっているが、
――まあ実質は会議のようなものだなあ。
参加者はアレコレと国策などについて意見を飛ばしあっている。
その中で特に声が大きく、よくしゃべる男がバシラ。
壮年だが背筋はピンとして若者に負けていない。
目にも、活力と胆力があふれていた。
頼りがいはある。
文武に長けた、質実剛健の人物。
そのように評価する声も大きい。
――確かにそうではある。それは事実なのだがなあ……。
真っ向から自分に意見を述べてくる――
というより押し付けてくるバシラへ、
「それでは何かな? いずれは芝居小屋とかそういうものを潰してしまうと?」
この言葉を突きだしながら語るバシラへ、ビノーミは問うた。
「いかにも。このようなものが王都のみならず、国のあちこちに建っておるのはまこと不健全と申すもの。悪所となり、無頼の輩が巣食っております」
飛ぶ鳥を落とす勢いの財務大臣は鼻息荒く、
バン!
と、机を勢いよく叩いた。
「確かにそのようなところもあるそうだが、いささか乱暴ではないのか?」
「何を仰せられます。そのような、遊興に耽溺しておって、いざ飢饉や災害の国難となった場合、どうなります! 安心だと、天下泰平だと浮かれておる時にこそ悪しきことはやってくるもの」
もっともと言えば、もっともかもしれない。
が――
「それもわかるがなあ……。聞けば、国民が生活が苦しく難儀しておるというぞ? これは国を治める側として憂うことではないかな?」
「それは贅沢をしようとするからでございます。日々を引き締め、それぞれの為すべきことに油断なくつとめておれば、おのずと充実するのです」
断言するバシラに、王太子は閉口してしまう。
それでも、
「しかし、なあ? 国が成るのは土台となる民がおるからこそ、ではないか? その民に、何の楽しみもなくタダ真面目に働けというのは、酷じゃないのか? 格別贅沢をさせよと言うのではない。だが、もうちょっとこう、何というか……」
「これは異なことを。年に一度の祭り。年明けの祝い。このように身を休める時はありますぞ。それ以上は過分というもの!」
「いや、しかし……」
「わたくしが財務を引き締めておるのは、あくまでも国のため。そも、見識のない者が無駄に金銭を有しておって、有意義なることに使えますか! 正しきことに使うため、国がしかと管理をせねばなりません。非常時に備え、心身を鍛えて必要なものを確保しておく。何か間違っておりますかな?」
――いやはや……。
王太子はどうしたものかと、頭を痛めた。
閉口しているのは王太子だけではない――
同席している者はみんな圧倒され、黙ってしまう。
と、その時、
「あ、話を変えて申し訳ないのですが……」
手を挙げたのは、学識豊かで知られる人物で、
「先に諸々の書物を集めて焼き払う、ということをされましたが……。財務を司る貴殿が行うのは……」
「何か問題でもあると?」
「いや問題って……」
ギロッと睨みつけるバシラにひるみながらも、
「そも、越権行為では?」
「む」
この意見に、バシラは少し考え、
「確かに、その通りであります。出過ぎた真似と言われれば反論できぬ。しかし――」
ぐるりと一同を見まわし、
「焼き捨てたのは、世に役立つ、国の益となる書物ではありませぬぞ。
これに、また場が静まり返った。
焼き払われ、発禁処分となった本。
それは娯楽品というのか――
恋愛や冒険、喜劇。
さらによく売れているのが、エロ関係。
「特によろしくないのが、ヤオアムトあたりから流れてきておる絵草紙です。不道徳を楽しみ、淫猥極まるものばかり。近頃は大人のみならず、明日に備えて鍛え、学ばねばならぬ年少者までは隠れて読んでおるそうな。ご一同、嘆かわしいとは思いませぬか!? このようなことでは……国が滅びまするぞ!!」
バン!
またも、机を叩くバシラ。
そのうち、破壊されるのではないかという勢い。
「かような悪しき堕落文化を廃して、質素倹約、粗衣粗食を課して質実剛健なることを目指す。これにつき申す! 不肖、わたくしも手本となるべく未熟ながら努めておる次第」
「……ううむ」
王太子は困り顔のままだ。
バシラの発言は事実ではある。
貴族であり大臣職にありながら、その生活は極めて質素。
酒はほぼ飲まず、食事も実質本位の粗食。
衣服も、公式の場以外では着古したものばかり。
破れれば何度も縫い直して使い続ける。
現にこの会合でも、出ているのは薄いお茶だけ。
この場で語ったことも、全て偽りのない本心だった。
――それだけになあ……。
ビノーミは、考えるふりをしてため息。
王になれば、この男を側近にすることになるのか。
それを考えると、ひどく気がふさいだ。
だが、こういう人物でも――
否。
こういう男であるがゆえに、年配の者からは支持が多い。
受けが良いとも言えるか。
「園遊会――か」
カーシャは見物をしながらつぶやく。
あちこちで使用人たちが忙しく動いていた。
その間を、魔導ワゴンが走っている。
王宮が色んな要人を招いて開催するとのことだった。
「見た感じ、なかなかのものになるみたいね」
会場の準備を遠目に見ながら、カーシャはとなりのエルフを見た。
「こういうものは久しぶりなので、皆さんはりきっておられますねえ」
「けど、良いのかしらね? コーキシュクセイとやらが言われてる中で、こんな派手なものを」
「いやいや。それがですねえ……」
ユオンは大げさに首を振って、
「何匹ものドラゴンを倒した英雄が来られてるので、ワシローでも国を挙げて歓迎の気持ちを表したいとのことですよ。王宮で十分な予算を工面できないため、賛成するかたがたが費用を寄付してくださったとか」
「それは光栄ね。是非とも参加しなければ。当日は軍服が良いのかしら?」
言葉とは裏腹に、カーシャの眼はさめていた。
「でも、清貧を良しとする財務大臣は良い顔なさらないのでは?」
「はあ。今回の園遊会をボイコットされる、という噂もありますねえ。いや、難儀なことで……」
と、ユオンは小さく首を振った。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人