破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その56、バシラ邸襲撃

 

 

 

 

 

 

 1年近く前――

 ワシロー王都より遠く離れた遺跡にて。

 

 

「ありがとうございます――」

 

 女の子はていねいな言葉と態度で感謝を表した。

 しかし。

 立丸は、すぐに返事ができなかった。

 

 赤い巨人。

 その力でグリフィンを倒したわけだが――

 

 バカでしぶとい。

 変なところで根性がある。

 普段からその無駄な体力というか、持久力をちゃんと出せ。

 

 こんな言われていた立丸だが、

 

「ぜぇぜぇ……」

 

 呼吸を荒くして座り込んでいた。

 体力というよりは気力の消耗。

 非現実的な、わけのわからないことの連続。

 さすがに、状況を全て飲みこむのは不可能だった。

 

 だが、それでも、

 

「つ、つまり、ここはワシローって国で……君は、大公? つまりえらい貴族のお嬢様で……。悪者から逃げてたと。で……ここで召喚魔法? を使って、俺を呼んだって。そういうこと?」

 

 立丸は、何とか女の子が語ったことを要約。

 

「はい。私のことは、クークとお呼びください」

 

 女の子は胸に手を当てて、親しげな微笑。

 

「う、う~~ん……」

 

 立丸は、汗をぬぐいつつ女の子(クーク)を見た。

 

 短めだが、きれいで神秘的なピンクの髪。

 宝石を思わせる緑の瞳。

 華奢な体。

 しかし、バストとヒップはなかなかで――

 

「……さま。勇者様?」

 

「えっ!? あ、いや、ごめん。なんだっけ?」

 

 間近で見る美少女の肉体。

 これにうっかり見惚れてしまった。

 若い青少年には致し方ないこと。

 

「って、勇者って、俺?」

 

 思わず自分を指さす立丸に、

 

「はい。このマギドルを操れる勇者。そのかたを呼ぶために、ここに」

 

 と、クークは遺跡を指し示しながら言った。

 

「勇者を招く召喚魔法は、とても個人は使えません。なので、この古い城跡に残る魔法陣を使って……」

 

「へえ……」

 

 確かに。

 石を敷きならべたその場所には、

 

 ――魔法陣。そんな感じのが刻んであるな。

 

 立丸は好奇心をくすぐられつつ、それを見ていたが、

 

「っつーか、その〝マギドル〟って、コレ?」

 

 目の前に立っている赤い巨人を指さした。

 ついさっきまで。

 この巨人に乗り込んでモンスターと戦っていた。

 

「はい。その昔、遠い国より来た魔導士が作り上げた戦士。勇者の剣となり、鎧となって戦うもの」

 

「見た目はロボットっぽいよなあ。ファンタジーっぽくもあるけど」

 

「ロボット?」

 

「えーと、まあゴーレムみたいなもんかな? いや、ここってゴーレムってあるのか?」

 

「ええ。大国のヤオアムトなどでは兵器や土木工事などに使っているそうです。この国では、数えるほどしかありませんが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り――

 

 

 

「行け、行けぃ!」

 

「止まるな、走れ!!」

 

「目指すはバシラ・カーサの首ひとつ!!」

 

 武器を手にした男たち――いや、女も交じっている――が、叫びながら走っている。

 バシラ・カーサの邸宅。

 王太子派とされる者たちが園遊会ボイコットのため集まっていたのだが、

 

「何としたこと!!」

 

「衛兵は何をしている!?」

 

「だ、誰ぞ救援を……!!」

 

 あわてにあわてている参加者たち。

 

 だが。

 

「ご一同、取り乱してはならぬ!!」

 

 小姓に武器を用意させたバシラは、

 

「まさにこのような時のため、日々備えておるのだ! 少数の賊など何するものぞ!!」

 

 テキパキと武装をしながら活を入れていた。

 

「兵や騎士は迎え撃っておるな? よろしい、日々の鍛錬の成果見せてくれる!!」

 

 バシラの叫びに応えるごとく――

 

「曲者だ!!」

 

「臆するな、数は知れている!」

 

「弓兵、援護をせよ! 砲兵も呼べ! 銃も用意せい!!」

 

 剣や弓のみならず。

 砲弾や銃器。

 そして魔法が投入された戦い。

 規模は小さいが、それは戦争と言ってよかった。

 

 ――くっ。やはり、守りはかたいか……!

 

 襲撃した賊。

 自分たちを〝大公派〟と称する武装集団。

 その中心の1人である女騎士は、剣を手に奥歯を噛んでいた。

 

 銃弾や弓を無効化する防具。

 魔力で威力を倍増させる武器。

 さらには、魔法で皆を援護する魔導士。

 できる限りの用意をしていたが、それは向こうも同じ。

 

 いや。

 数に差があるだけ、こちらが不利だった。

 

 ――だが……!

 

 そんなことは最初からわかっていた。

 想定済み。

 

 

 ゴオオッ!!

 

 

 いきなり、邸宅を守る壁が破られた。

 魔法を使い、強固さを誇るはずの防壁。

 それをたやすく破り、

 

 

「うおおおおおおおっ! どけどけどけえええええええ!!」

 

 赤い巨人が躍りこんできた。

 

「ご、ゴーレム!?」

 

「砲兵! 急げ!!」

 

「銃兵、よく狙って撃て!!」

 

 バシラ側は驚きながらも、すぐに迎撃態勢を整えるが、

 

「こんなもん、屁でもねえ!!」

 

 遠距離武器を受けながら、巨人は魔力弾で大砲を破壊していく。

 

 

 

「何者だ、あれは……!?」

 

 物見窓から様子を見たバシラは、さすがに狼狽する。

 

 ――まさか、マギドル!? おとぎ話のものが現れたというのか!?

 

 勇者が操る伝説の戦士。

 それを目の当たりにして、冷静さを崩されかけた。

 しかし。

 伊達に硬骨の士などと呼ばれる男ではない。

 

「魔導士に伝えよ、ゴーレムを出せと!!」

 

 命令を飛ばしながら、腕組みをする。

 

「いかに伝説の戦士だろうと、このような賊徒に加担するならば魔物も同じ!」

 

 

 

 ズシリ

 

 と、巨岩で形作られた戦士が奥より進み出る。

 マギドルと同等のサイズ。

 バシラお抱えの魔導士が操るゴーレムだった。

 

 同じく、岩で造られた大剣。

 それを手に、ゴーレムはノシノシとマギドルに接近。

 

「吹っ飛べ、岩野郎!!」

 

 マギドル内部で、立丸は吼えた。

 戦闘の中――

 かなりハイになっている。

 

 ボムッ!

 ドゥッ!

 

 マギドルの繰り出す魔力弾がいくつもヒットするが、

 

 ズシリ

 ズシリ

 

「うおっ?」

 

 立丸は思わず叫ぶ。

 

 ゴーレムは止まらず、マギドルへと肉薄した。

 風圧をまとって襲いかかる岩の剣。

 マギドルはそれを回避して、距離を取る。

 

<タテマル様! ゴーレムは魔法盾(フォース・シールド)をまとっています! 魔力弾では効果が薄いです!>

 

 内部で響くクークの声。

 それに立丸は唇をなめながら、

 

「だったら、こっちも接近戦だ!!」

 

 その叫びの応えて――

 マギドルの右腕から輝く刃が伸びた。

 さらに、

 

「ドツキあいが、そっちの領分だと思うなよ!!」

 

 ふわりと宙に浮き、マギドルはゴーレムへと突撃。

 モノ言わぬ岩巨人はこれを迎撃。

 

 ガギッ

 ギリュィィ!!

 

 刃がぶつかり合い、衝撃を周辺にまき散らす。

 

「パワーはあるけど……」

 

 押したり引いたりのやり取り。

 その最中に、

 

「動きがおせぇ!!」

 

 マギドルはくるりと動きを変え、ゴーレムの剣をそらした。

 ゴーレムは、つんのめるように姿勢を崩す。

 それに、

 

「おっりゃあああああああ!!」

 

 マギドルの刃が、真上から一刀両断。

 切り裂かれたゴーレムは、崩れて形を失っていった。

 

「な、なんとしたこと!?」

 

 後ろの魔導士はあわてる。

 

 もはやバシラ側で、マギドルに対抗できる戦力はない。

 ワシロー国の軍隊ならまだしも、

 

 ――わしの私兵では、これが限界……!

 

 バシラは折れんばかりに歯を食いしばる。

 私財を投じての守りだった。

 普段よりの倹約による貯蓄。

 それらでも、貴族にある身でも。

 個人で揃えられるものは限られていた。

 

 ――また、そろえて良いものではない……!

 

 そう考えながらも、

 

「否。言い訳はすまい……」

 

 大型の弓を手に、バシラは物見窓から乗り出した。

 幼少時より鍛錬を重ねた弓術。

 さらに、

 

 ――ヤオアムトより取り寄せた特別製の矢だ……。

 

 強力な爆撃魔法が仕込まれた、銃や大砲にも劣らぬ兵器。

 

 ――1本しかないのが情けないが、仕方もなし……。

 

 たとえ敗れるとしても、カーサ家当主として意地を見せてくれる!

 

 覚悟と矜持だけを胸に矢をつがえようと構えた。

 より正確には――

 その動作を行おうとした直線、

 

 

 ボッ

 

 

 音と、光。

 

 それを伴って、何かが戦場となったバシラ邸の庭に現れた。

 

 突然の事態。

 これに、双方の戦士たちは動きを止めた。

 マギドルに乗る立丸も同じ。

 

「……ッてえ、クソ……」

 

 現れたのは、小さな少年と巨大な檻。

 

「ぬあ!? じょ、じょ、ジョーダンじゃねえよ!!」

 

 少年はマギドルに気づくや――

 恐ろしいほどの速度と身軽さで逃げ出し、

 

「おい、後は任せたからな!? おいらぁ知らねえぞ!?」

 

 檻に向かって、そんなことを叫ぶ。

 

「へいへい」

 

 場に合わない、のんきな声。

 それが檻から聞こえた後、

 

 メリメリ

 バキッ

 

 檻を砕き、突き破って巨大なモンスターが姿を見せた。

 

 毛のない、装甲のような体。

 凶器のような手足。

 先端に刃のある長い尾。

 瞳がない複数の眼。

 

 異形の怪物が、

 

「こういうことになったか。まあそんな気はしてたが……」

 

 頭を掻きながら、のんきに言った。

 

「な、なんだコイツ……?」

 

 ハイテンションだった立丸も、驚き、戸惑っている。

 

「ふむぅ」

 

 怪物はあたりを見回してから、

 

「はあ。なるほど、そっちが敵か。じゃあ、まあ……」

 

 カッと、鋭い牙が並ぶ口を開いて、

 

 ボウゥ!

 

 〝大公派〟の戦士たちへ炎を吐きかけた。

 

「うわああ!!」

 

「ぎゃっ……」

 

 火だるまになって逃げ惑う戦士たちに、

 

<い、いけない!>

 

 クークの声で、マギドルは何かを撃ち出した。

 

 雪の結晶。

 それに似たものが降り注ぎ、炎を消していく。

 もっとも。

 受けてしまった火傷はどうにもできなかったが。

 

「あいつ、でっかくなってるじゃねーか。あんなンもできたのかよ……。っていうか、なんだあのでかいゴーレムは……またケバケバしいデザインしやがって」

 

 物陰に隠れた少年。

 正確には男装の少女となっているマコネはつぶやいた。

 

「特に恨みもないが、ま、成り行き上仕方ない」

 

 怪物――マクニオは首をぐるりと回して、マギドルと向かい合う。

 

「けっ! ロボット対怪獣かよ! ありがちな展開だ!」

 

 立丸の声が響き、マギドルが構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、狙いはあっちというわけね」

 

 カーシャは戦場となっているバシラ邸を見ながらつぶやいた。

 

 ――そして、アレは……。

 

 王太子があれこれと説明していた絵画。

 あれの巨人とよく似た、

 

 ――ゴーレム? いや、どこかちがうような。まあ、いいか。

 

 こめかみを指でかきながら、カーシャは目を細めた。

 

 視線の先には、マギドルとマクニオ。

 

 ――同門の戦い。ちょっと見させていただこうかしら。

 

 軍服姿の青い乙女は、その場から動かない。

 ただ水色の冷たい瞳で、バシラ邸の戦いを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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