破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その59、冒険者ガイストは思い返す

 

 

 

 

 

 ――こいつは、勝ち筋はなさそうだ……。

 

 青い髪の乙女。

 異形のモンスター。

 どちらも、同じ〝臭い〟。

 それはまるで。

 腐った血と臓物が焼け焦げた、肺が毒で蝕まれるような。

 

 ――思えば……。おかしな成り行きだったな。

 

 

 ガイストは構えることもせずに、そんなことを思う。

 

 1年近く前だったか。

 いや。

 感覚としては、何年ぶり――

 否。

 何十年ぶりかもしれない。

 

 あの時――

 

 ――こりゃ死ぬな……。

 

 ひどくあっさり、その現実を受けて入れていた。

 どんどん目の前が暗くなる。

 金を稼ぎたくて――

 上ランクのモンスターを狙った。

 これが、まずかった。

 大失敗である。

 

 ある程度のところまではいけた。

 そう思ってみたが、あまり意味はない。

 結果、返り討ちを喰らって死にかけている。

 

 これでも。

 20年以上モンスター相手にやってきた。

 時には、ヒトの野盗とも。

 

 思い返せば――

 

 18の時、夜逃げするように故郷を出た。

 いや。

 まったく。

 完全な夜逃げだったのだ。

 

 そして、冒険者になり。

 

 子供の頃から、選択の余地もなくやってきた木こり稼業。

 その鍛えた体だけでやってきた。

 

 先輩の冒険者に教えられ、素人剣術から一応冒険者剣術にランクアップ。

 それも一流には程遠かったが。

 

 他に弓、槍、それに斧。必要な時は色々使った。

 どれも一応は使えるというだけ。

 その程度のレベル。

 

 年を食ってルーキーからベテランにはなった。

 実質は、ただ無駄に年を食っただけ。

 鳴かず飛ばずで、せこいクエストをこなして――

 ただただ。

 地味にやってきた。

 

 ――思えば、しょーもない人生だった……。

 

 できるなら死にたくはない。

 だが、助かりそうもない。それも理解できた。

 このへんが、頃合い? だったのかもしれない。

 

 やがて。

 いよいよ何も見えなくなった。

 

 ――ついにおしまいか。あーあ……。やだねえ……。

 

 全ては終わった。

 この時は、そう思った。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 草一本見えない、荒野のど真ん中。

 上を見ると、赤黒い雲が広がっていて、太陽も月も星も見えなかった。

 

 そこで、文字通りの〝地獄〟を味わう羽目に――

 

 

 ――しかし……それを味わった後も、この様か。

 

 自嘲しかけたガイストへ、

 

「まさか無事にすむとも思っていないでしょう?」

 

 カーシャの声。

 

「見逃してくれるかい?」

 

「前にも聞いたわね。そんな都合の良い話があると思う?」

 

「そうだったな……」

 

 ガイストは笑って応え――

 剣を逆手に、後ろで構えた。

 先輩冒険者から教わった型。

 

 これを教えてくれた先輩冒険者は――

 とっくに、死んだ。

 ケガしたのを、無理に踏ん張った時。

 勝てるはずだったモンスターに、あっさりと殺された。

 血を、吐いて、すがるような目で。

 まともな治癒魔法が使える者はその場にいなかった。

 

 あの目。

 

 忘れられるものではない。

 だが、今さら逃げることはできない。

 (さい)はとっくに投げられた。

 

 構えた刃が、黒い蒸気で覆われる。

 あるいは、液体のようなナニか。

 

「……あいつぁ」

 

 マコネはハッとしてカーシャを見る。

 水色の瞳が、光ったようだった。

 

 ――オーラ……。

 

 カーシャは考える。

 無意識。

 あるいはほぼ自然体で使ってきたもの。

 目に見えるレベルとなれば、なかなかの高濃度? らしい。

 猫のゴトクが、そんなことを言っていた。

 

 ギン

 

 いきなり。

 マコネには、そう思えた。

 

 金属音が響き、ガイストがいつの間にか移動していた。

 カーシャは愛用の黒剣を構えている。

 

 ――わかっちゃあいたが……。

 

 ガイストは、静かに脂汗を流す。

 痺れの走る手に何とか力をこめた。

 そうしなければ、剣を落としかねない。

 

 ビュッ

 

「……っと!」

 

 振り下ろされる黒い剣を受け止め、瞬間で受け流す。

 それだけで、腕が引きちぎられるようだった。

 

 ――何とかもってるな。

 

 オーラでまとった剣に感謝しつつ、ガイストは低く構える。

 

 先に、カーシャから逃げた後、

 

「本来は、王家の宝物なんじゃが……」

 

 大公家の隠し倉庫。

 そこで老魔法使いより渡された剣。

 

「銀に様々な金属、それにドラゴンの骨を加えて造られたものじゃ。鉄をも斬ると伝わっておる」

 

「おいおい。値打ちはあるんだろうが、ちゃんと手入れされてんのかよ……」

 

 とは言ったが、

 

 ――俺にはもったない逸品だな。

 

 剣を振った感触、手ごたえ。

 わずかな時間だけで、それが飾り物ではないとわかった。

 

 ――とはいえ……。相手がこのお姉ちゃんじゃな……。

 

 一方でカーシャも、内心で驚いてはいた。

 

 ――使える、というのかしらね?

 

 以前戦った勇者――否、〝偽勇者〟か。

 あれも技はたぶんすごかったのだろうとは思う。

 

 だが。

 

 目の前の相手は、あのアレとは違う。

 五体にしっかりと染み込み、一体となった安定感がある。

 

 ――正直、興味はある……。でも、つまらないことで足をすくわれる。

 

 それはごめんだ。

 

 カーシャは相手を始末することを考え出す。

 

 ――いよいよ、まずいな……。

 

 相手の殺気が強まったのを感じて、ガイストはより強く死を意識する。

 どれほど引き延ばせるか。

 おそらく長くはない。

 

 ――あのガキ、くたばっちまったか?

 

 移動しながら、マギドルの方を見る。

 倒れたまま動かない。

 だが、色はまだ赤のまま。

 

 ――死んではいないか。とはいえ、あっちも時間の問題か。

 

 マギドルの前には、同じく〝黄泉がえり〟であろう怪物がいる。

 怪物は、マギドルを見ているだけ。

 いや、観察しているのか。

 

 ――ったく、あのガキども……。

 

 妙な縁だったな。

 

 そう思いながら、出会った時のことを思い出す。

 

 

「ま、こんなもんかしらん?」

 

 どこかで、女の声。

 

 それが聞こえたと思った時。

 目の前には、星空が広がっていた。

 どこかで草の上。

 大の字になっているようだと気づく。

 

「やあやあ、今までお疲れ様」

 

 誰かが――

 いきなり顔をのぞいてくる。

 

 ――猫?

 

 白い猫だった。

 

 ――こいつがしゃべった? いや……。

 

 魔導士の操る使い魔。

 高いレベルになると言葉を話し、使用人みたいなこともするという。

 さらに。

 妖精猫(ケット・シー)

 猫に変じる妖精族もいると聞いた。

 

「……ってて」

 

 起きてみると、自分が着ていた革の鎧。

 同じく革製の脚甲(グリーブ)

 どちらも使い古し。

 

「やあ、起きたね?」

 

「なんだぁ……?」

 

 その白い猫は、

 

「まあぶっちゃけると、あんたを地獄(あそこ)へ送り込んだのは、私だわさ」

 

 それから。

 白猫は自分の仕事やら、地獄についてのことをざっと語って、

 

「あんたは、まあ、あれだわさ。一番浅い階層だったから力も知れてるけど。前よりはずっと腕が上がってるだわさ」

 

 それは、何となくわかった。

 

「んじゃ。気をつけてな? こいつは餞別だわさ」

 

 白猫はそれだけ言って、消えた。

 まるで煙のように。

 その後には、1振の剣と小さな革袋。

 中身は、いくばくかの金。

 

「まあ、ありがたくはあるが……。こんなところじゃなあ?」

 

 その後。

 ガイストは人里を目指して歩き続けたのだが――

 

 

 ――あのガキどもに会ったのは、その途中だったか……。

 

 

 何かが暴れ狂う音と臭い。

 それを気づいた時、正直迷った。

 行くべきか、避けるべきか。

 あの時、行く選択した結果。

 今が、ある。

 

 

 ドゴオオオッッ!

 ベキ、バキ

 

 木々をなぎ倒して倒れる巨大なモノ。

 青黒い獣毛。

 巨大な角。

 突き出た顎。

 そして、大蛇の下半身。

 

「オピオタウロス!?」

 

 上半身が猛牛。下半身が大蛇。

 ブレスこそ吐かないが、極めて厄介なモンスター。

 単体でも危険な存在ではある。

 しかし。

 もっとも危険な部分は、

 

 ――来るんじゃなかったかな?

 

 群れを成すミノタウロスを見ながら、ガイストは軽く後悔。

 

 ミノタウロスを操って、手駒とする。

 それこそが――

 オピオタウロスの、もっと危険で厄介な能力だった。

 

 ――っつうか、なんだあっちは?

 

 倒れたオピオタウロスのそば。

 ゴーレムみたいな、赤い巨人が膝をついている。

 

 だが。

 不思議がっている場合ではなかった。

 統率者を失ったミノタウロスたちが、好き勝手に暴れ始めている。

 

「ったくよお!?」

 

 ガイストは剣にオーラをまとわせて、走った。

 ミノタウロスの巨体。

 その足元をかいくぐりながら、足を切り裂いていく。

 

 ――驚いたな、案外いけるぜ?

 

 〝地獄〟でさんざんな目にあった。

 しかし、無駄ではなかったらしい。

 身が軽く、面白いように動けた。

 転がり、倒れる1匹を横から斬りつける。

 

 ゴロン

 

 と、巨大な牛の首が転がった。

 

 余裕ぶれるわけではない。

 だが、勝てない相手ではなかった。

 

 1匹、また1匹と斬っていく途中、

 

「なにやってんだ……?」

 

 一匹が、死んだオピオタウロスに喰いかかっているのを見た。

 グチャグチャと。

 さっきまで統率者だった相手を喰らっていく。

 

 ブゥオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 やがて、その個体は凄まじい雄たけびをあげた。

 全身に鱗が浮き出し、手足の爪が巨大に。

 尾は毒蛇のそれに変わっていった。

 

 ――こいつは……。オピオタウロスの……!?

 

 聞いたことがあった。

 ドラゴンの因子を持つモンスターの血肉。

 それは喰った者に強大な力を与えると。

 

 ――おいおいおい、マジかよ!?

 

 強化した個体は、周りの同族を殴り殺しながらガイストへ向かってくる。

 突き殺そうと向かってくる巨大な角。

 

「こっのおお!」

 

 ガイストは回避しながら、その額を蹴りつけ――

 大きく後ろへ跳んだ。

 

 蹴られた個体は、頭を何度か振っただけ。

 それから。

 再びガイストを睨みつけた。

 

 ――こいつは、死ぬ気でかからんと……。

 

 ガイストは苦しい笑みを浮かべて、態勢を立て直した。

 オーラをまとった剣を逆手に。

 静かに後ろへとまわす。

 

 再び。

 強化したミノタウロスが叫び、突っ込んでくる。

 

 と。

 

 ガゴオオオオオ!!

 

「へ?」

 

 何かが、横からそいつを殴り飛ばした。

 ミノタウロスは頭蓋を砕かれ、吹っ飛んでいく。

 

「はぁはぁはあ……」

 

 荒い息で座り込んでいるのは――

 

 右手に、不釣り合いなほど巨大な赤いガントレット。

 それをつけた黒髪の少年だった。

 

 後に。

 

 これはマギドルのエネルギーを一点集中した短時間決戦モード。

 ……とかいうものだったと知る。

 

 

 ――あれが、あいつらとの出会いか。

 

 こんなこと考えるようじゃ、やっぱり先はねえな。

 

 ガイストは、カーシャとの間合いをはかりながら、じりじりと動く。

 自分自身を(わら)いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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