破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その7、望まない再会とわりと理由のある暴力

 

 

 

 

「……なあ、帰りは歩きか馬車にしねえ?」

 

 チュービ村を出る際に、マコネはそう提案してきた。

 

「どっちみち、ここからネビズへ戻るならそうなるけど」

 

 何を今さら……と、カーシャは言う。

 

「姐さんは、向こうで急ぐ用事でもあるのかい?」

 

「別に、ない」

 

「じゃそうしておくれよ。また、あんな風にピョンピョン移動するのはゴメンだぜ? バッタじゃねーんだからさ……」

 

「ふむ……」

 

 カーシャは考える。

 来る時は緊急クエストだったので、ちょっと? 乱暴な移動方法を取った。

 転移魔法でも使えれば良かったのだろうが、

 

 ――魔法を封じられる前から使えないし。使えたとして、なかなか運用の難しい魔法でもあるし……。

 

 なので、使い手もそう多くない。

 

 ま、それはどうでもよいことで、

 

 ――大した距離じゃないし、ゆっくり歩きか馬車で移動するのも悪くないか……。

 

「あのー……。私としてもそっちの案だと非常に助かるんですけど」

 

 そう言うのはバッキー。

 

 彼女は村人への治療で、一人別報酬をもらっている上、

 

「しかし、すっげえな、おい」

 

 こうマコネが言うのも無理はなく――

 

 バッキーは村人からもらったお土産で大荷物になっている。

 

「いくらか寄越せよな?」

 

 と言って、マコネも荷物を手伝っていた。

 

 

 

 こういうわけで、一行は馬車での帰還となった。

 

 

 

「え? 馬車って、これ……???」

 

 大型の乗合馬車を見て、バッキーは何故か驚いていた。

 

「馬……じゃないんすね???」

 

「あン? そりゃなあ、今時本物の馬使ってるとこは少ないわさ」

 

 馬車といっても、荷台を運ぶのは生き物の馬ではない。

 2輪の運搬用マジックアイテム。

 

「なんか、こう――農業の? 耕運機みたいですねえ……」

 

「元々は農業用に作られたものらしいから。荒れた道にも強いし、馬力もあるから馬の代わりになってるのよ。他の国じゃ珍しいだろうけど」

 

「ふへえ……。微妙なファンタジー……」

 

 カーシャが説明しても、聞いているのかいないのか。

 バッキーは、おかしなことをつぶやいていた。

 

 

 馬車は客を乗せて、予定時刻に出発する。

 

 しばらくは問題なく進んでいたが。

 

「なんかさ、変じゃねえか?」

 

 外を見ながら、マコネは首をひねっていた。

 

「妙に人が多い……つうか、夜逃げしてきたような奴らばっかだぜ」

 

 その言葉通り。

 

 まるで難民のような人間が、疲れた様子で大勢歩いていた。

 中には、本物の馬が引く車もある。

 

 だが、ほとんどは人間がリヤカーを引くか、歩きばかり。

 

「戦争でもあったんですかね……?」

 

 不安そうに言うバッキー。

 

「そんな話は聞いてねえけどよ、見た感じこの国の連中じゃねえな?」

 

「他国の難民が、そう簡単に入れるの?」

 

 カーシャは思わず言った。

 国境とかはどうなっているのか、と。

 

「ここらは、中央と違って緩いからな。いくらか袖の下出せば通れることも多いのさ」

 

「ふん」

 

 下が賄賂を取って……ということ、らしい。

 見れば、後ろだけではなく前にも大勢いた。

 

 と。

 

 急に馬車が停止する。

 見れば、前のほうで何かトラブルが起こっているようだ。

 

「馬車同士がぶつかったとか、そんなとこらしいなあ?」

 

 様子を見たマコネが苦笑。

 

 どちらもヒートアップしており、なかなかおさまる様子はない。

 

「やれやれ……」

 

 面倒くさい。

 

 カーシャは馬車から降りて、揉め事を観察していた。

 前のほうでも、止められた馬車などが渋滞中。

 

「お前たちは好きにしなさい。私は、歩いて帰る」

 

 さっさと、歩き出そうとしたところ――

 

「……?」

 

 前方の人垣から視線を感じた。

 

 冒険者のパーティーらしき連中の一人が、こっちを見ている。

 金髪をした、魔導士らしい服装の女。

 

 ――? はて……。

 

 昔の知り合いだろうか? しかし、こんな辺境にいるとも思えない。

 だが、明らかにカーシャへ意識を向けていた。

 

「何か用?」

 

 目の前まで近づき、カーシャは言った。

 

「あ……」

 

「ん?」

 

 驚くその顔を見て、フッと記憶が刺激されて、

 

「シーラ・チゴ・ガイミヌ?」

 

 カーシャは、思い出す。

 確か下級貴族の娘で、魔法の才能があるとかで話題になったこともあった。

 

「あ、あんた、やっぱり……!?」

 

 やはり、本人らしい。

 それで大体わかった。

 追放された人間を、思わぬ? ところで見かけて驚いたというところか。

 

「ふん」

 

 わかると、興味は失せた。

 カーシャはすぐに後ろを向いて引き返す。

 別に、会って話したいこともないし、そんな相手でもない。

 

「待ちなさいよ、このクソ女!!」

 

 罵倒され、うるさく思いながらカーシャは振り返った。

 

「あんたに……あんたにバカにされたことは忘れてないわよ!? ろくな才能もないくせに、家柄でいばりちらしてたクソ女のことは!!」

 

「……」

 

 さらに、思い出す。

 下級貴族ながら優れた才能を持つこの女は、何かとやっかみを受けていた。

 生意気だと上級貴族の娘にいびられたことは多かろう。

 まあ単純な魔法の才能なら、カーシャの2倍も3倍もあったと思う。

 

 それだけに、憎らしい相手ではあった。

 

「いいざまね! しょぼい魔法も封じられて、追放されて……。今は何してるの? 物乞い? それとも娼婦? あんたにゃお似合いよ!!」

 

「……」

 

 不愉快な。

 表情は動かなかったが、カーシャはいらついた。

 

 激怒するほどではないけれど……。

 

 うるさく飛び回るハエへの感情に近い。

 

「――え……?」

 

 忙しくわめいていたシーラは、言葉を止める。

 向こうには、いつの間にかカーシャが目の前にいた。

 

 ように、見えただろう。

 

「黙れ」

 

 それだけ言って、カーシャはシーラの鼻を引きちぎった。

 

「……ふぇ?」

 

 何が起こったのか理解できないシーラは、ぼかりと穴のあいた顔でつぶやく。

 

 

 そして、

 

 

「ぶぎゃああああああああああああああ!!?!?」

 

 シーラは豚のような声を上げてうずくまった。

 鼻を投げ捨てて歩み去るカーシャの後ろで。

 

「待てよ、てめええ!!」

 

 後ろから背丈の高い女が走ってきた。

 甲冑を着た、女戦士。

 

 レベルはなかなか高そうだったが――

 

 カーシャは振り返りもせず、裏拳でそいつを殴り飛ばした。

 兜が砕けて、女戦士は顎を砕かれ、歯を散らしながら横に吹っ飛ぶ。

 

 ――貧弱な……。

 

 顔面血まみれになった女戦士を横目に、カーシャは失笑した。

 表情には出なかったが。

 

「ちょっと、待った」

 

「まだ何かあるの?」

 

 さらにもう一度かかる声。

 うんざりしながら、カーシャは振り向いた。

 

 ――む。

 

 そいつを見て、奇妙なものを感じる。

 

 何と言うのかどうにもアンバランスな印象だった。

 黒髪に黒い眼をした、バッキーと似たような特徴の若い男。

 強い魔力を感じるわけだが、どこか変だった。

 

 ――まるで、子供が背丈に合わない武器でも持っているみたいな……。

 

 そういう印象。

 

「こんだけ好きにやって、ハイサヨナラはできないだろ」

 

「……要点を言いなさいな」

 

「売られた喧嘩は買うってこと」

 

「売ってきたのはそのバカ女じゃなくて?」

 

「いきなり、アレはないだろう……」

 

「ふふん」

 

 カーシャは冷笑した。

 

「つまり、仲間の仇を討つと? いいわ」

 

 少し道からはずれると、背丈の低い草原となっていた。

 そこで、カーシャは男と相対する。

 

 街道から、多くの人間が注目していた。

 ちょっとした見世物だろう。

 

 そして。

 

 

 

 

 私こと、古井椿は緊張しながらそれを見ていた。

 固唾をのんで……とは、こういうことだろう。

 

 わけのわからんまま異世界に転生? 転移してしまった今の状況。

 で、これまたわけのわからん流れでパーティーに組み込まれてしまってる現状。

 

 幸いというか……。

 

 転生? の時にもらったチート回復魔法でどうにかなってる、のだけど。

 いきなりの初クエスト? の帰りに、トラブル。

 

 ……なんか同じ転生者? というか日本人っぽい男と、リーダーがにらみ合ってる。

 

 宝玉のついたサークレットをつけた、勇者っぽい服装。

 

 勇者っぽいってなんだよ。

 

 その自信から、すげえ強いか、すげえチート持ってそうだ。

 リーダーのほうは、何考えてるかわかんない。

 動揺してる感じでもないけど……。

 手には、短い槍と普通? の剣を持ってる。

 

「手加減してやるけど、死んでも知らねーぞ!」

 

「……」

 

 男が、やばそうな剣を抜いた。

 なんか伝説級のそれっぽい……。

 んで、チャンバラが始まってしまって。

 

 バキーン! と。

 

 リーダーの槍が真っ二つに。

 

「……ふん」

 

 ああ、やっぱノーマルクラスの武器じゃ、相手が悪い!

 

 そう思ってると。

 

 シュウウウウウ…………。

 

 そんな音が聞こえて、リーダーの剣が赤黒い煙みたいな、蒸気みたいなものに包まれて。

 

 

 なんだ、あれ?

 

 

 リーダーの体から出てるのか?

 そして、剣は赤黒く染まってしまう。

 呪われた武器って感じ。

 

「――コケ脅しが!」

 

 叫んで、勇者男が動いた。

 そう思った時、リーダーが消えた。

 

「あ」

 

 私がつぶやいた時、リーダーは勇者男の後ろに立ってた。

 

 

 

 ドチャリ。

 

 

 

 変な音がして、勇者男が倒れ……あれ? なんか、変……ええええ!?

 勇者男の手足が切り落とされ、ダルマ状態に……???

 

 な、なにが起こったん?

 超スピード???

 

「終わり?」

 

 ダルマの勇者男を見下ろして、リーダーは冷たい声で言った。

 

 と、思うと、

 

 ドス!!

 

 うつ伏せ状態のダルマ勇者を、踏みつけた。

 

「終わりかと聞いてるのよ、『勇者様』?」

 

 静かな声で言いながら、何度も踏む。何度も、何度も。

 

 うえ……。

 

 私は吐きそうになって、いや実際に吐いた。

 

 もう、見てられない……。

 

「……やべえ、死ぬぞ。あれは!?」

 

 吐いてる私を、マコネがつついてくる。

 

「おい、お前の出番だ! こんな場所で、殺しはまじぃよ!」

 

 そ、そうか!

 私には回復魔法がある!

 

 いくらなんでも、これ以上は……いや、ダルマにしてる段階でカンペキやりすぎなのだけど。

 

 

 

「あの、そのへんでどうぞごかんべんを……」

 

 

 

 そんな声が割り込んできたのは、私が顔を上げたのと同時くらいで。

 

 銀髪の、エルフ美少女がリーダーのそばにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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