破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ものすごい励みになっております!
トリヤマ教授。
不思議な運命でこの世界に来てしまった老人。
いくつもの、骨格標本や剥製が並んだ部屋。
トリヤマはそこを静かに歩いていた。
様々な生物が、その種族別に陳列されている。
やがて。
ある標本の前で立ち止まる。
一見人間の骨格標本だが――
台座のプレートには、
エルフ
と、刻まれている。
「ここにおられましたか教授」
美声が響く。
トリヤマは振り返って、声の主である少女を見た。
外見は、そうとしか見えないエルフの女。
ユオン・キナ。
「エルフの骨ですか」
ユオンはつい、と標本を見上げる。
「そういえば、君の髪や爪をもらったことがあったな」
トリヤマはいきなり、妙なことを言った。
「ええ。何かの参考になればと」
「わしは医学者ではないが、生物学者としてエルフのことも研究した……」
「はい。存じておりますよ」
「色んな未来の機材を使ってみたが、調べれば調べるほど」
君と彼らが同種とは思いがたいな。
そうトリヤマは言った。
「こちらで使われる魔法。それは程度の差はあれど、使用者に負荷をかける。小筆を持ち上げる程度のものから、何か月も過酷な強行軍のようなものまでな」
「もちろん知ってますよ、専門家なので」
「そうだ。わしよりもずっとわかっているはずだ」
トリヤマは静かなにユオンを見て、
「エルフは人間よりずっと高い魔力を有する。だから高度で威力の高い魔法を容易に扱える。だが、強力な魔法はその分扱う魔力が大きくなり、その負荷が跳ね返ってくる」
「そうです、そうです」
「しかし、エルフは……不老長生と見える美しい種族は、ある部分では人間よりもはるかに弱く、脆い。それを魔法で補うわけだが、高度な魔法を連続して使用するため知らず知らずのうちに、寿命を削っていく。だから早逝してしまうことが多いようだ」
「はい」
「実際、肉体への負荷で死亡したエルフの死体を調べさせられたことがあった。かなりひどいものだったよ。門外漢でもわかるほど、内部の損傷は大きかった」
「気の毒ですねえ」
「そして、いつか君の肉体も調べさせてもらったな」
「もちろん。おぼえてますよ。教授は照れておられました」
「あの時、わしは強い違和感をおぼえたよ。外見に反して、君の肉体は他のエルフとはまるで別物だった。骨、内臓、筋肉。そして細胞も。全てがな。いや
「お褒めいただけると照れますねえ」
ニコニコとするユオン。
しかし。
トリヤマは厳しい目つきだった。
「一度聞きたいと思っていた。君は本当に、エルフなのかね?」
「はい、もちろん。
「………」
トリヤマは、もう一度骨格標本を振り返った。
「答える気はないか。まあ、ええわい。そもそも、この世界の人間自体が、わしらホモ・サピエンスとは違うんじゃからの。同じヒト属ではあるが……」
「あ、申し遅れました~。私は、ワソーカと申します~~」
「これはどうも、ご丁寧に。私はヤコーです。ヤコー・ビマ……」
頭を下げてくるエルフに、ヤコーも挨拶を返す。
「それで、あの、あなたたちがエルフとか」
「はい」
と、ヤコーはうなずいて、
「今もこちらの神話に残ってますが~、エルフの女性に恋をした人間の王様が、その女性そっくりの人形を作って~、命を吹き込んだ――っていうお話。聞いたことありません?」
と、ワソーカは言った。
「似たような話を、本で読んだかも……。いや、お芝居のあらすじだったかな?」
ヤコーはあれこれ思い出しながら、返事を返す。
「色々形を変えて残ってるようですね~~。その元ネタは、こちらにあるわけで~~~」
言いながら、死体の浮かぶ容器をなでた。
「で、でもなんのために、そんな……」
思わず聞いたヤコーへ、
「聞かんほうがいいぜ」
厳しい声で、ゴトクが制した。
「え……」
驚いて振り向くヤコーに、ゴトクは無言で首を振る。
「そうですね~~。あんまり心温まるような話じゃないですね~~~」
「は、はあ……」
何となく――
語られない裏にある
ヤコーはそれを感じて、黙った。
「それで、ワソーカさんはここをどうされるんですか?」
「え? 別にどうもしませんけど~~?」
ワソーカは、むしろ不思議そうに言った。
「いやでも……。あなたたちをモデルに造ったって、それにその、倫理的? にも……」
「う~~ん。正直言うとあんまり良い気持ちはしませんけれど~~。けど、私が生まれるずっと前のことですし~~、貴重な遺跡でもありますから、個人的な感傷でどうこうするのは~~~……」
エルフの少女の態度。
良い気持ちはしない。
そんな言葉の割には、実に冷静だった。
見方によっては、冷淡とも言える。
「あと、他種族の魔導技術は色々学ぶところも多いんですよ~~。私たちは寿命が長い分、文化と技術が停滞する危険性があるので~~、積極的に色んなところから勉強しないと~~」
「でも、すごい魔法とか使えるんですよね?」
ヤコーは疑問だった。
神とさえ言われた者たち。
そんな上位種族が、他から学ぶものなどあるのか?
「それはな――」
女子2人が話している間、遺跡を調べていたゴトクが振り返った。
「原初のエルフってのは、頭が悪いヤツが多かったのさ」
「はい?」
頭が悪い?
上位種族には似合わない単語。
ヤコーは意味がよくわからず、ゴトクの顔を凝視してしまった。
「あんたも言ったように、強い魔力。高度な魔法。長寿に戦闘力。なまじそんなのを持ってるから、知恵とか工夫とがおざなりになってたんだよ。それで」
これじゃいかんと、色々やり始めたのさ。
「中には、やりすぎの連中もいるがな」
苦笑しながら、ゴトクは首を振った。
「さてと~~」
話しながらも調査を続けていたワソーカは、
「大よそのことは終わったので、私はこれで失礼します~~」
「あ、あの!」
それに、ヤコーは思わず声をかけて駆け寄る。
「なんでしょうか~~?」
「私は行くあてもないし、お金もなくって。そのなんとか助けていただけませんか……?」
土下座するような勢いで、ヤコーは頼む。
必死だった。
「ん~~~……。いいですけど~~、私はもう家に帰るんですよね~~。とりあえず、うちに来て相談しましょうか~~?」
ワソーカは、ヤコーが思いもかけないことを言った。
「え? 家って、それは……」
「つまりエルフヘイムですね~~」
「そこってその、あなたたちエルフの国、ですよね」
ヤコーがオロオロしながらたずねると、
「はい~~。おいやじゃなければ~~」
「いやでも、いいんですか? 私、ただの人間なんですけど……!」
それに、とヤコーは思う。
エルフというのはプライドが高く、極めて排他的。
そういうイメージが強い。
今話しているエルフたちには、そんなものは感じられないのだが、
――いきなり、よその国に行って、大丈夫なのか? っていうか、捕まるんじゃ!?
「それは知ってますけど~~……。なにか問題でも? あ、別に言葉は普通に通じますし~~、水や食べ物が合わないってこともないと思いますよ~~~?」
と、ワソーカは不思議そうな顔。
「いえ、ですから、その? そういう話じゃなくって……」
ヤコーが言葉に困っていると、
「不法入国とか、人間だから排除されるとか、殺されるんじゃないかと、そのへんを心配してるんだよコイツは」
ゴトクが呆れた顔で助け舟を出してきた。
「なるほど~~。思慮深いかたなんですね~~」
「は、はい、どうも……」
感心したようにうなずいているワソーカ。
ヤコーはもう何も言えない気分。
「そのへんはちゃんとしますから、大丈夫ですよ~~。エルフ以外の種族だって、珍しくはないですし~~」
と、まあ。
こうした次第で――
ワソーカの使った転送魔法。
移動用魔法陣の光が消えると、
「うわああ……」
そこはエルフヘイム――
ということだった。
「なんだろ、これ……」
何だか、妙な街並みだった。
ヤオアムトで慣れ親しんでいるような――
そういう感じの建物がある。
かと思えば?
見たこともないような、異国の建物もたくさんあった。
一言で片づけると、
――と、統一感がぜんぜんない……。
中には長方形の、細長い変な建物も。
10数メートル近い高層建築。
窓がビッシリがついている。
さらに、
――ホントにエルフだらけ……。っていうか?
ドワーフ。
獣人。
ヴァンパイア。
とにかく色んな種族があちこちにいた。
だが。
ヤコーが思わず見つめ、かたまってしまったものがある。
――塔? え、いや、山……?
遠くに、天を突くような巨大な山があった。
まるで塔のような形で、天空にそそり立っている。
恐ろしく荘厳な雰囲気、気配を肌に感じた。
「それじゃあ、うちに行きましょうか~~」
ワソーカに手を引かれ、連れていかれたのは、
――ああ、これなら……。
ヤコーにも、わりと親しみやすいデザイン。
小さめの屋敷だった。
「けど、良いんですか? こんな簡単に……」
「来る前に手続きを済ませたから、平気ですよ~~」
――手続き……。アレかな?
転送魔法を使う前、
「これに手を置いてください~」
と、ワソーカは空中に半透明のボードを出した。
薄い緑で、中央に魔法陣。
触れるとボードの光が一瞬強くなり、
「はい、もういいですよ~~」
そして、連れてこられたわけだ。
「あれであなたのことは、ちゃんと役所に報せました。許可も出ましたからご心配なく」
「え、あれで?」
「はい。あ、でも~、念のために言っておきますけど、犯罪行為はしないようにしてくださいね~~。盗んだり、暴力とか~~」
「それは、はい。わかってます……」
ヤコーはうなずきながらふと窓を見る。
そこからでも。
あの塔に似た山はハッキリ見えた。
「……あの山、すごいですね」
「ええ。シュメイル山です。上位のエルフが住んでいる、というか上位だけに居住許可がおりるところですね~~」
「こっちのエルフにも、そういう身分差があるんですね、やっぱり」
「ありますね~~。能力差とか実力差とも言えますけど~~」
――あれ、シュメイル山?
ヤコーは思い出す。
「そういえば、神様たちが住むシュメイル山の話は子供の頃にも聞いたけど……。あそこが?」
「ん~~~。あそこにいるかたがたはずば抜けた、言うなればエリートですから~~。他の種族にはそう感じるかもしれませんね~~~」
「ふうん……」
「あのシュメイル山から、私たちは山のエルフ――とも名乗ったり、呼ばれたりしてます~~~」
「はあはあ、なるほど……。山の? ひょっとすると、他にも……」
そんなヤコーの疑問に、
「ええ、闇のエルフ。空のエルフ。で、私たち山のエルフ。それから、丘のエルフ。海のエルフ。最後に、地下のエルフですね~~。エルフの国は全部で6つになります~~~」
どうやら。
〝本物〟のエルフ社会も、なかなか複雑であるようだ。
長くなってしまったので中編とします
次は後編にて
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人