破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※ライワの設定改変のため、
その14を少し書き直しました


その65、某伯爵夫人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルド本部の一室。

 応接室にて。

 

「ショケラ・ロシトー伯爵夫人?」

 

 カーシャは、怪訝な顔で聞き返した。

 見慣れない相手には、不快そうに見えたかもしれない。

 

「そうなんです。女性ながらドラゴンスレイヤーとして、多くの武勇で名をはせた女傑にお会いしたい……と、要望を受けましてねえ」

 

 そう答えながら、ギルドマスターこと、ラリー・ヌーン・ヒョーは頭を掻いた。

 こうしてみると、全体的にそらっとぼけた印象。

 ギルドナイトなどをたばねるボスには、

 

「ちょっと見えない……」

 

 人物だった。

 

 もっとも、カーシャはある程度の付き合いから、

 

 ――なかなか図太くて、したたかな男……。

 

 と、睨んでいた。

 

「ふうん……」

 

 カーシャは令嬢時代のことを思い出しながら、

 

「ああ……。あの慈善事業とか、婦女子の支援とやらをしているかただったわね」

 

 社交界で、噂を聞いたり見かけたりした相手。

 やたら御大層なことを話す妙な女。

 そういう印象だった。

 

「嫡男もすでに結婚されて、暇だと思うけれど……。なんだかあちこち動き回っているとか」

 

 あまり話題にのぼらなかった。

 ということは。

 大したものではないのだろうが。

 

「それで? その伯爵夫人がなぜ私に? 理由が思いつかないのだけど」

 

「さて、私としてもあまり確信がないので、迂闊なことは言えんのですけどねえ……」

 

 ギルドマスターは困った顔で、

 

「もしかすると、あなたに協力というか? そのへんかもしれんです」

 

「――まさか寄付金でも頼むと?」

 

 確かに――

 カーシャはこれまでのクエストなどで、無駄に金が貯まっている。

 使うこともないため、ギルドの専用金庫でほぼ放置状態。

 

「だったらいいんですが……」

 

 と。

 ギルドマスターは、また頭を掻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サキュバス街の規制?」

 

 なんですか、それ。

 

 と、バッキーは不思議そうな顔で言った。

 

 この日も――

 バッキーはゴトクの指導で魔法の訓練を行っていた。

 

「んー? なんか貴族のご婦人とかがそんなことを言い出してるってよ。今日の記事にでてらあ」

 

 マコネは新聞を読みながら、お菓子をつまんでいる。

 

「サキュバス街ねえ……?」

 

 バッキーは休憩に入りながら、首をかしげる。

 

 こっちの世界。

 というよりは、ヤオアムトという国では――

 全般的に性犯罪はかなりの重罪。

 極刑だったり、去勢されたりする例もあるそうだ。

 

 だが。

 同時に、売買春も禁止されている。

 しかし?

 それに代わるがごとく、サキュバス街というのがあちこちにあった。

 

 これも要するに風俗店。

 ただやっているのが、全てサキュバスである。

 あるいは。

 その手の商売は、彼女らの特権にもなっていた。

 

「といって。あそこなら病気ももらわねーし、高くもつかない。色んなタイプもよりどりみどりだしなあ」

 

 下手なことするのは、よっぽどのバカか。

 ここのヤバいやつさ。

 

 言いながら、マコネは意地悪く笑って頭を指した。

 

「そういえば前にそんな話を聞きましたね。ドラゴン騒動の時、ミズイの街で……」

 

 バッキーは思い出しながら、改めてマコネを見た。

 

 その生い立ちゆえかドライで、達観したところがある少女だ。

 バッキーやカーシャ以上に世慣れていると言えた。

 ただ。

 それでも風俗関係の情報まで知っているとは、

 

 ――落ちついて考えると、やっぱりちょっとアレかも……。

 

 前世。

 現代日本の常識で言えば憂慮することであろう。

 

「あそこに客を引っ張ってったり、紹介すると良い小づかい稼ぎになんのさ。特によそからきた連中や、田舎から出てきたガキとか連れてくと喜ばれるぜ?」

 

 つっても。

 ここも辺境つうか、田舎か。

 

 アハハハ、とマコネは楽しそうに笑った。

 

「た、たくましいんですね」

 

「今さらなに言ってんのさ。ンなものいちいち気にしてたら、飯は食えねーの」

 

 マコネはポンポンとバッキーの肩を叩く。

 

「あ、でも。規制とかなんとか……」

 

 バッキーはマコネの読んでいた新聞をのぞいてみた。

 

『ショケラ・ロシトー伯爵夫人、公共良俗と風紀の美化を求めて――賛同者と共に行動』

 

 つまり。

 

 サキュバス街があっては王都の美観を損なう。

 なので、それらを撤去するべき。

 

 だいたい、こんな内容だった。

 

 ――なんかどっかで聞いたような話だな、これ……。

 

 バッキーがそう思っていると、

 

「あ。そういや、このオバハン」

 

 マコネはポンと手を打って、

 

「悪書がどうのとかそんなことも言ってたな。前にも新聞に出てたわ」

 

「あくしょ?」

 

「そうそう。なんか、エロ本とかそんなのはダメだから禁止するべきとか。そんなん」

 

「これはまた……」

 

 再び、どこかで聞いたような話。

 ある程度文化や文明が進むと、こういうのが出てくるんだろうか。

 

 ――もとオタク趣味者としては、いかがなものか……な話だよ。

 

 バッキーはちょっと嫌なものを感じてしまう。 

 この異世界にきても、密かに……あまり密かでもないが、

 

 ――BLを(たしな)んでる身としては……。っていうか、BLマンガがある国で本当に良かった。

 

「なんでこういうことになっちゃうんでしょうかねえ……」

 

 サキュバス街の効果かどうかは知らない。

 ただ。

 ヤオアムトはモンスター被害を除けば比較的治安がいい国である。

 

 ――他の国から来たヒトの話とか聞くと、かなり世紀末なところも多いっていうし。

 

 色んな原因や要素から、サキュバスに否定的なところも多いようだ。

 悪魔や魔族。

 そういったレッテルを貼られて、排除される場所も。

 

 文明圏、というのか。

 ヤオアムトから離れるほど、その傾向は強いようだ。

 おそらく。

 地球でいう宗教的な禁欲主義というのも、

 

 ――あるみたいだし?

 

 バッキーが前世……地球のことを思い返しながら新聞を置くと、

 

「またぞろ、こういうのが出てきたか」

 

 店のほうからやってきたゴトクが新聞を拾い上げてつぶいた。

 

「またって、なんだよ? 前にもこんなんがあったのかい?」

 

 マコネが顔を上げてゴトクを見る。

 

「その時は、サキュバスとの混血とかにも疑問を言ってたが。だから、つぶされたようなもんだが」

 

「混血ですか」

 

 バッキーは、好奇心に駆られて言った。

 

 サキュバスと、人間。

 あるいは他の種族。

 どんな子供が生まれるのか。

 

「ああ。だいたい、他種族との間にできた子供が忌避されることも多い。サキュバスってのは、性質が性質だしな」

 

「やっぱり、そういうもあるんですよね」

 

 バッキーは首をひねる。

 あまり詳しいことは知らない。

 だから、自分のイメージや先入観でどうこう言うべきではない。

 それは理性としては、承知している。

 

 ――でも、本音を言うと正直……良いイメージはわきにくいなあ……。

 

「だが、この国の場合。建国の始祖からしてサキュバスとの混血だからな。かなり事情も違う。神話に近い話だから、どこまで本当か知らん。だが」

 

 ヤオアムト人の魔力レベル。

 魔導士の才能。

 

「このへんを見ると、サキュバスの血があったのは事実だろうな。今だってそういうのは普通にある」

 

「あるんですか」

 

「そう、あるよ。契約して金を払えば子供くらいいくらでも産むさ。サキュバスってのそういう種族だ」

 

「え……!?」

 

 かなりショッキングな話。

 これに、バッキーは目を見開いて、

 

「ほ、本当なんですか!?」

 

「本当だ。あいつらにとっちゃ孕むのも産むのも大したことじゃないからな」

 

 あっさり肯定するゴトクに、

 

「いや、でも、ほら、その、ええと? 産んだらそれで終わりじゃないでしょ?」

 

 バッキーはあたふたして、無意識に手をバタバタ動かす。

 横から見ると、変なパントマイムみたいだった。

 

「独り立ちできるまでちゃんと育てるさ。〝商売〟だからな。定期的に養育費を払う必要があるけどな。ま、それは当然のことだ」

 

「結婚、するわけじゃないんですね……」

 

「しない」

 

「じゃ、そこに愛情は……」

 

「それは知らん。個人差もあるだろうし、何とも言えんよ」

 

「…………」

 

 バッキーはどう言っていいのかわからなくなった。

 まさか。

 こんなカルチャーショックを受けるとは。

 あまりにも、予想外。

 

「おい、大丈夫かお前?」

 

 マコネが沈黙しているバッキーを揺する。

 

「興味がある……か、どうかは知らんが、気になるならギルドのライワにでも聞いてみるんだな。あいつも、そういう生まれのヤツだ」

 

「あのヒトが……?」

 

「探せばもっとあちこちにいるさ。特に、冒険者が集まってる辺境にはな。自分でもそのことを知らない、あるいは何代か前にサキュバスがいるってのは」

 

 当たり前でもある。

 

 と、ゴトクは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サキュバス街。

 【夜の街】とも言える場所だ。

 しかし。

 昼間は単なる飲食店街にしか見えない。

 

 いや。

 実質ただの飲食店街なのだ。

 食事に来る者はたくさんいる。

 

 さらには。

 〝その手の店〟以外にも、酒場なども複数あった。

 

 そこを――

 ライワ・ヘイメルフントは部下を連れて歩いていた。

 

「こんなところ、こんな時間に巡回する必要あるんですかね?」

 

「仕事だ。いちいち文句を言うな」

 

「ですが、複数のサキュバス相手に何かできるヤツなんてどれだけいるんです? いたとして……」

 

 そんなの、俺たちにどうにかなる相手じゃないですよ。

 

 と、部下はぼやく。

 

「その時には逃げ帰って上に報告するだけだ。逃げられたらの話だがな」

 

 ライワは不愛想に言って、巡回を続ける。

 

 ――この場所に来ると……。

 

 嫌でも母親を思い出すな。

 

 ライワは心の中でつぶやきながら、サキュバス街を見まわした。

 

 ――別れて、もう10年近くか……。どこでどうしているのやら……。

 

 まあ、いい。

 とも思う。

 

 ――いくら親子でも、互いに寿命もまるで違う。考えても意味はないさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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