破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「このような身にお声がけくださり、感謝にたえません」
カーシャは令嬢時代に培ったマナーと所作で挨拶をした。
着ているのはかつてのようなドレスではなく――
中性的な、パンツルックの礼服だったが。
今の彼女には、恐ろしく似合っている。
並外れた美貌を、否が応でも際立たせていた。
「まあ、そんな……。今は国の誇る英雄ではございませんか」
鼻につくような
そういったものを繰り出しながら、伯爵夫人は微笑んでいる。
年齢相応のふくよかな体型。
貴族らしい優雅な仕草。
若い頃は魔導に優れた才女であったという。
学識にも優れていたとか、いないとか。
「――いきなりで、大変にご無礼かとは存じますけれども……わたくしのようなものを」
すると。
向こうもそれを待っていたのか。
時間が惜しかったのか。
あるいは、その両方か。
――つまりは……。
王都の外観を著しく乱し、平民のみならず、
「まったく嘆かわしいこと、上流の貴族まで隠れて通っているとのことですわ。すでに、貴族や富裕者を相手にする……」
そんなものまで出来ている始末。
「野蛮な大昔ならともかく。このような風潮は、今や魔導のみならず文化文明大国となったヤオアムトには相応しくありません。国の恥となりますわ」
大よそ――
こういった内容のことを夫人は熱弁した。
しゃべっているうちに、
「自分で自分の言葉に酔ってきた……」
という印象をカーシャは受けた。
――別にどうだっていいけど……。
そんなもの。
当たり前というか、今さらだとは思う。
――女としてあまり楽しい気分にならないのは、まあわかるけれど。
しかしながら、
――くだらない。
カーシャのハッキリと言えば、それにつきる。
――でも、サキュバス街ね?
令嬢時代はほぼ興味も関心もなかった場所。
――だけど、そんなのを覗いてみるのも面白いかしら。
正直つまらないところだったとしても、
――それはそれでいい……。
このように決めてから、
「そこまで熱意をもって運動されているとは、驚嘆いたしました」
「まあ! ではご協力をお願いできるのかしら?」
「いえ」
ぐいと体を乗り出して夫人へ、
「わたくしごときが、あまり表に出てはかえってご迷惑でしょう。ドラゴンスレイヤーの称号を
多少コネクションがないでもありません。
そちらから、内情を調べてみましょう。
と、カーシャは慇懃な態度で言った。
「サキュバス街に行きたいたぁ、どういう風の吹き回しなのかねえ」
「さあ。暇つぶしでいいじゃないのかしら?」
道を歩きながら――
何の気なしのゴトクの言葉……。
少なくとも、表面上はそう見える質問。
それにカーシャは淡々と答えた。
いつものような表情で。
「あの……それで、なんで私たちまで?」
少し後ろを歩くバッキー。
地味目のヒーラーは若干所在なさげな態度。
「今は昼間だし、食事に行くのは普通なのでしょう?」
振り返らずにカーシャは言った。
「そうだとは、聞いてますけど……」
「心配すんな。ああいう場所だけど、ヘタすりゃ一番治安が良いんだぜ?」
困っているバッキーに、マコネがパンパンとお尻を叩く。
――こういうスキンシップにも慣れちゃったなあ……。
明るい猫っぽい少女の態度。
バッキーはやれやれと微笑む。
さすがに最初からではなかったが、
――だんだん変なオッサンみたいな接し方するんだよね。女同士だと、そんな感じになる子はいたけど。
やがて目的のサキュバス街に到着。
一行はゴトクがすすめる店に入った。
「へえ……」
店構え、そして内装と雰囲気。
これにカーシャは感心した。
堅苦しくはないが、落ちついている。
ゆっくりとリラックスして食事を楽しめそうだ。
店員が全員サキュバスなのは場所柄当然なのだろう。
「今日は、あんたの奢りだそうだな?」
メニューを見ながら、ゴトクはちょっとだけ笑う。
「ええ。お好きにどうぞ。あなたのことだから、料理のおすすめがあるんでしょう?」
「バレてたか」
ゴトクは料理を注文してから、
「ここは多少値もはるし、その分味も良い。けどドレスコードだのマナーにうるさいわけじゃない。気楽に楽しめばいいさ」
マコネやバッキーに言った。
「そりゃありがてえな。しかも奢りでごちそうが食える」
「ど、どうも」
マコネは嬉しそうにしている。
バッキーはやはり緊張気味だったが――
気をまぎらわせるため、
「けっこうお客さんいるんですね」
店内を見ながら、感想を述べる。
確かに、その通りだった。
満員御礼というほどでもない。
だが、客の数はそれなりにいた。
「そこそこ金の入った冒険者なんかも来るのさ。中には、サキュバスだけじゃなくってこっち目当てで稼ぐヤツらだっている」
「ほえ~……」
――なるほど……。確かに美味しい。
カーシャは少し驚き、感心した。
令嬢時代。
色々贅沢なものは食べた。
それだけの味であったが、
――コスト面で言うのなら、こっちが上かもね。
「へえ……! 美味いもんだなあ!? こら、ホントにごちそうだぜ……」
マコネは素直に喜んでいた。
「…………」
ただ。
バッキーは少し固まっていた。
途中で、食事をとる手が止まっている。
彼女は目の前にあるスープを見つめて――
明らかに困っていた。
――他の料理はおいしいんだけど……。なにこのスープ……。みんな同じもの食べてるし、喜んでるし。まさか、私のだけ変なものは入ってる? いや、でも……。
それなら臭いで気づくはずだ。
驚いていないところをみると、
――やっぱりこういう料理なのかな……。でも食べなきゃ悪いし……。
しかし。
それに顔を近づけると、
――おっえ……。くっさ……。オッサンのワキガみたいな臭いがする……!
味は良いのかと思って挑戦――
しようと、何度か決意はするのだが、
――……ダメ。臭くてとても食べる気になれない……。今まで、こっちの食事で食べられないものってなかったんだけど……。
こればっかりはダメだった。
「ありゃ、どしたんだバッキー?」
バッキーの様子に気づいたマコネが聞いてくるので、
「あ、すみません……。ちょっとこのスープ苦手、かも……。良かったら……」
「そーなんか? ま、いいけどよ」
マコネは普通に皿を受け取る。
そして。
やはり普通に食べてしまった。
「はー。フングスって初めて食ったけど、なかなかうまいもんだなー」
――マジですか……!?
満足そうにしているマコネ。
バッキーはそれにただ驚愕し、カルチャーギャップを感じるばかり。
「……あのフングスって?」
「これに入ってるキノコだよ。高級品で美食の1つとされてる。匂いがいいって、食通ぶった連中は言うがね。高いから喜んでるだけかもな」
――ええ~~……。こ、これが???
心の中で叫ぶバッキー。
驚きの表情が出ていたため、
「ああ、そっか。苦手か。そういやお前さん、かなり遠くから来たんだったな。じゃそういうこともあるか」
ゴトクは納得したようだった。
するとマコネが、
「キノコっていやあ、ジロのオッサンがこないだ、なんとかいう……変なキノコを喜んで食ってたな。いろんなもん酒で煮たヤツ……」
そんなことを言った。
「おいら、毒じゃなかったらなんでも食う主義だけど、ありゃいただけなかったわ。臭いがな……」
オッサンが1日はいた靴下みてーな臭いだったぜ。
マコネは苦笑して肩をすくめる。
「キノコ、ですか?」
「うん。なんてったかな、マチュターク? 言いにくい名前で呼んでたなオッサンは」
――んん?
バッキーは思い当たるものが脳裏に浮かぶ。
「ひょっとして、マツタケ?」
「そうそう、それ。ひっでえ悪食だよな、あれは」
――……やっぱり好みのちがいってあるんだ……。
バッキーは変なところでここが異世界だと実感した。
なんやかんやで――
食事を楽しんだ後、
「小耳にはさんだがね。新聞にも出てた、あのショケラ夫人。何度かワシローに出向いたことがあるそうだぜ」
食後のお茶でリラックスをしている時だった。
「なんで?」
カーシャはわずかに目を細める。
確かに山野は美しい国だ。
だが。
そういった場所ならヤオアムトにもたくさんある。
わざわざ他国まで行く理由は――
一見なそうに思えた。
「財務大臣のバシラ・カーサってかたと会ってたようだな。いや、元か。この前の1件……もと大公派の連中に屋敷を襲われた事件な。あの後辞任して、隠居生活に入ってるらしいやね」
「それはそれは――」
カーシャは、あの頑固そうな男の顔を思い出す。
「でも、会ってどうするのかしらね? 話のはずむ楽しい人物じゃないと思うけど」
有閑の貴族夫人を楽しませる。
そんな、気の利いたトークなどできない人物だ。
できたとしても、まずやるまい。
「色っぽい話じゃないですね。どっちも既婚者だし、そもそもあのカーサ大臣はクソ真面目……融通の利かない石頭だ。そのへんはありえないが……」
ゴトクはちょっと横に目をやりながら、
「バシラ・カーサは、あれこれ娯楽……特に、下半身関係のヤツを規制してただろ? その中には、娼館も対象に入ってたのさ。当然かもしれないねえ。サキュバス街と違って、他の種族がやってるところは病気だの犯罪だのの温床だ。全部が全部じゃないけどな」
「ふうん。確かに……そういう点では話が合いそうね」
マコネとバッキーがケーキを食べている横で――
カーシャたちはそんな会話をかわし続けていた。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人