破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その67、サキュバス街

 

 

 

 

 

 

 

 

「……困ったねえ」

 

 国王は、疲れた声でつぶやいた。

 

 ヤオアムト王宮内。

 図書館の特別室である。

 一部の者しか存在を知らず、一部の者にしか入れない部屋。

 

「くだらねえ」

 

 明らかに――

 面白がっている笑い声が響いた。

 

 無数の蔵書や資料の並ぶ棚。

 国王は腕を後ろで組み、それを眺めている。

 

「サキュバス街の規制要請。実に、困った」

 

「定期的に、ああいうのが出るなあ?」

 

 国王の背後。

 エルフの女が椅子に座って、国王の背中を見ていた。

 ウェーブの銀髪。

 傷だらけの顔。

 

 ゴーギャ・キナ。

 

「下手なことをすると、契約違反で揉めることになる……。サキュバスたちと敵対するのは、まずい。非常にまずいよ」

 

「ヤツらは、契約は必ず守る。だが、こっちが破れば何をするかわかんねーからな」

 

「ああ……」

 

 と、国王は片手で頭を押さえる。

 

「表立って公表はできないが――」

 

「この国は、ずっとサキュバスたちと契約してきた。協力を得る代わりに、ヤツらの〝餌場〟を提供する」

 

「うん」

 

 ゴーギャの言葉に、国王はうなずいた。

 

「勝手に餌でもなんでも狩ればいいもんを、わざわざ回りくどいことするもんだよ。なんか理由があるのか、趣味なのか……」

 

 せせら笑いつつ肩をすくめたゴーギャは、

 

「それに、わざわざ人間のガキまで産んでやるとはね。あいつらにゃ片手間ごとだろうが」

 

 だが? この国にとってはそこもでかい。

 

「なにせ、強い魔導士の資質を持った人間が増えるんだからな。おまけに、次の世代が減ることもない」

 

「そうなんだ。そこも大きいんだよ。この国は魔導大国なんぞと言われているけど、それでも死亡率は高いんだ」

 

 モンスターによる被害。

 一般人だけではない。

 それを駆除するための軍隊でも死傷者は多かった。

 

「モンスターや、そいつらを吐き出すダンジョンがランダムにわくからなあ。けど? それはどこの国だっておんなじさ。いや……ジャンブー大陸全体とも言える」

 

「野外ならまだしも、ダンジョンや市街地で高火力の兵器は使いにくい。下手を打ったら、モンスター以上の被害を出しかねないんだ。予算だってかかる」

 

 国王は憂鬱な顔でため息。

 

「かてて加えて。混乱に乗じて他の国がちょっかい出してくるのも心配しなきゃならないってか?」

 

「国レベルとはいかなくっても、侵略的な武装集団とかね」

 

「他にも、被害者づらで好き勝手するテロリストとかな。あの模造品(・・・)が良い例だぜ」

 

「エルフか。あの問題もずっと続いてるんだなあ。私が生まれる前からだよ」

 

 国王は振り返ってから、別の棚へ移動する。

 

 そこに収められているもの。

 いくつもの重要書類。

 中には、極めてセンシティブーー

 あるいは国の恥部とも言える記録や情報が記されていた。

 

「当り前だろ。お前さんどころか、この国ができるよりも前から人間とヤツらは揉めてるんだからなあ」

 

 ゴーギャの言葉に、

 

「そうだねえ」

 

 国王は、気弱な顔で笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――盛況なものね。

 

 夜のサキュバス街。

 あちこちで笑い声が響き、男たちが行きかっている。

 それに声をかけていくサキュバスたち。

 色とりどりの灯り。

 

 カーシャは2階のベランダでそれを見ていた。

 用意された小さなテーブル。

 その上に、酒といくつかのおつまみ。

 

「にぎやかなもんだなあ」

 

 カーシャの近くで、マコネがつぶやいた。

 同じく下の様子を見ている。

 

「でもなんだな。鼻の下のばしてるオッサンの顔ってのもなかなか面白(おもしれ)えや」

 

 ケケケと笑うマコネに、

 

「そうですか?」

 

 バッキーは部屋の中から疑問の声。

 

 

 サキュバス街にある、一軒の店。

 街の中でも、高級店といえるもの。

 それだけあって、内装も店員の所作も――

 全てが洗練されている。

 

 ――お酒に、おつまみもかなりのレベルね。

 

 カーシャは先ほど飲んだ酒を見ながら、そう評価した。

 

 

 今現在。

 カーシャは【客】として店に来ていた。

 といっても。

 サキュバス街には女性客も来る――というわけではない。

 

 ゴトクの伝手(コネ)で、密かに裏口から入ったのだ。

 さらに。

 用心というのでもないが、男装をしている。

 青い髪を短く切り、冒険者風の服装をしていた。

 

 おとも? のマコネやバッキーも同じ。

 マコネは元から中性的であり、容姿も幼く見える。

 プラス。

 ワシローでの経験もあった。

 

 バッキーも服装は男だが、フードを深めにかぶって入った。

 あと。

 少し変わった化粧もしていた。

 そのため、太めの男に見える。

 

 ――鏡見たらえらいショックだったよ……。ただのキモオタじゃん。しかも小デブの……。

 

 正直。

 これにはかなり抵抗のあったバッキー。

 

 

 

「しかし……」

 

 カーシャは街を見おろしたまま、

 

「案外、若い男も多いのね。それもかなり」

 

 歩いている客層。

 その中には、現代でいうところの――

 中高生くらいの少年も見かけられた。

 

 とはいえ。

 

 単独で来ている者はいないようだ。

 年上の男や、客引きらしい者に先導されている。

 

 その客引きも男ばかりだが……。

 みんな中年か初老。

 

「安く遊べる店も多いとは聞いていたけど」

 

 カーシャがつぶやくように言うと、

 

「だいたいどこのサキュバス街でも、初回無料が基本だからなあ」

 

 マコネが伸びをしながら言った。

 

「ああ……」

 

 バッキーはうなずきつつ、

 

 ――最初に無料ガチャがいっぱい回せるとか、電子で最初の1巻だけ無料とか……。ああいう感じなのかなあ?

 

「他にもアレだ。初回で行った後、割引チケットがもらえるって聞いたな。10枚くらい」

 

「……ずいぶんサービス良いんですねえ」

 

 バッキーは微妙な気分。

 

「リピーターを作るためらしいや。まんまとそれに引っかかって、通いつめるのが大勢いるな」

 

「でも、安いお店でもそう何度も行ってたらお金とか。まさかツケ?」

 

「いンや。基本現金払いだけ。ただ頼めば色々仕事を回してくれるらしいや」

 

 マコネは部屋に入りながら肩をすくめる。

 

「はあ……」

 

 バッキーが曖昧な相づちを打った時、

 

「よろしゅうございますか」

 

 声とノックがした。

 男の声。

 

「どうぞ」

 

 カーシャは部屋に戻り、ドアを開けた。

 

「お邪魔いたします。料理を持ってまいりました」

 

 と、ワゴンで料理を運んできた初老の店員が頭を下げた。

 これも男である。

 

「ありがとう」

 

 カーシャは店員に近づきながら、

 

「実は、あまりこういう場に慣れていない者ばかりなので。話を聞きたい」

 

 さりげなく店員に紙包みを渡す。

 高額紙幣が数枚包まれたもの。

 

「それはそれは。私なんぞでよろしければ」

 

 店員はにこやかに、柔らかい所作で部屋に入る。

 

 

 

「話は通っていると思うから、説明は省くけど」

 

「はい。(うけたまわ)っております」

 

 店員はうなずく。

 頭はすでに白髪におおわれている。

 だが健康そうであり、動きも緩やかながらスムーズ。

 

「最初に、個人的興味の質問からしたい」

 

「はあ。なんでございましょう」

 

「あなた、元軍人?」

 

 いきなりの質問。

 これに店員は苦笑して、

 

「いえいえ。そんな立派なものじゃあございません。ただの、しみったれた冒険者でして」

 

「軍人も、将軍から末端の歩兵まで色々だけれど」

 

「こりゃまいりました」

 

 店員はおどけるように頭を叩く。

 

「ここが再就職の場所というわけかしら?」

 

「というよりは、お情けで下働きをさせてもらってるようなもんで。稼ぎもない冒険者(ヤクザもの)がジジィになっちゃどうにもなりませんや」

 

「あなただけじゃなく、他にも大勢いるようだけど?」

 

「ははは。そういうヤツが多いってことですよ。カタギになったり、金をためてのんびり過ごしたり。そんなのもいますがね、なかなか……」

 

「そう」

 

 小さくうなずきながら、カーシャはマコネに視線を送った。

 察したマコネは、機敏に動いて杯に酒を注ぐ。

 それを、店員の前にすっと出した。

 

「ま。おやりなさい」

 

「や、こりゃどうも……。お心づかい大変にありがたいんですが、まだ仕事中でして」

 

 店員が照れた顔で言うと、

 

「別にあびるほど飲めとは言っていない。まるでダメというのでなければ、1杯や2杯はご祝儀(チップ)の範囲ではないの。ここの流儀に反する、というなら別だけど?」

 

「まったくもって、重ね重ねありがたいことで。では、お気持ちありがたくお受けいたします」

 

 店員はカーシャの言葉に礼を述べた。

 そして。

 酒の入った杯を押しいただき、ゆっくりと美味そうに飲んだ。

 

「いやあ……。いいお酒ですなあ。こういう場所で働いておりましても、こんなお酒は手銭じゃあ飲めませんで」

 

「それはなにより」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日――

 

「で。何かわかったかい?」

 

 ゴトクは、駒を手に取りながら聞いた。

 

「情報だけなら、あなたから聞いても良かったでしょうけどね」

 

 雑貨屋のカウンター。

 チェスボードを見ながら、カーシャはそう答える。

 

「無駄足かい」

 

「そうでもないわ。色々初めて見るものばかりだったから」

 

「なら、いいがね」

 

「理由もわかった気がするわ。正解かどうかは、わからないけれど」

 

 カーシャは長考しながら、遠回しな物言いをした。

 

「理由?」

 

「夫人が、サキュバス街をつぶそうとした理由かしらね……」

 

 手の中で駒をもてあそびながら――

 カーシャは小さく失笑する。

 

「どうせあなたならわかってるんでしょうけど」

 

 ようやく。

 コマを進めながら、

 

「あそこの、というよりサキュバスの存在そのもの」

 

 それ自体が、女全般の価値を大きく下落させるのよ。

 

 つまらなそうに、カーシャは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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