破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「勇者様ご一行は、そろそろチュービあたりかねえ?」
ギルド本部で、ミゾイは女騎士へぼそりと言った。
「勇者か……」
「国の正式な召喚魔法で呼び出された勇者様だ。王家の印を持ってるようなもんさね」
「異世界から召喚された勇者ね……マユツバな気もするが」
女騎士ライワは紫の髪を苛立たしそうにかく。
「私は遠目で見ただけだが、相当の魔力は持ってるようだ。ルーンフェンサーとしちゃかなりのもんだろうさ」
「お前が言うのなら、そこは確かなんだろうさ。しかし……」
「国難が予見されている中で、それに対処する英雄を呼び出す。国家の一大儀式であり正式な事業だよ」
「その召喚魔法を使うためにどれほどの魔力を使ったことやらな。あちこちから相当量の魔石を王都へ運んでるぞ」
「ここはまだマシさ。辺境ゆえにそれなりの自治が認められてるからな。他の地方はなかなか悲惨らしいよ?」
「しかしな……。その勇者様とやらがどれほどのものか知らんが、そんなものに頼るほど、国軍は脆弱なのか? 天下に響く魔道大国だぞ、ここは」
「だからってこともあるさね」
「――なに?」
「仮に国軍で対処できるとしても、そこで生じる損耗はどうかね? 魔石は時間がたてばまた地下にたまる。けれど、人材はそうはいかないさ。軍隊を維持するには金も時間もかかるからねえ。特に優秀なのは失われたら補充するのも難しいときたもんだ」
「なるほど……。厄介ごとはよそものに押し付けるつもりか。仮に勇者がどうなっても……」
「そ。損は許容範囲ってわけさね」
「中央は、ずいぶんと人を大事にするもんだな」
どこか皮肉げに、ライワは笑う。
「まあ、損得の問題だろうねえ。それに、魔王が近隣に現れるらしいって噂もある……」
「そんなもの……」
「まあ伝説か昔話のもんだと、フツーは思う。けど、どこの国にも歴史にしっかり記録されてる。色んな場所に、色んな魔王が出てきちゃあ悪さをしてる。実際、そういうのに滅ぼされた国もあるからね」
「魔族か……。敵対的な種族をそう呼ぶだけだと思ってたがな」
「そういう意味じゃ、ゴブリンだのオーガもみんな魔族かねえ。あるいはオークもな。あいつらは排他的で頑固だからな。他種族の文化や文明を嫌う。敵対することはよくあるからなあ?」
「しかし、その程度じゃ魔族だの魔王だのとは呼ばれまい」
「ああ、一国が危険になるほどの軍勢を集め、統率できる危険な存在。そうじゃなきゃ魔王なんて呼ばれないさ」
その時だった。
通信機が鳴り、会話が中断される。
「私だ――は? なに? ……。それは、また。で、どうしろと? ああ、わかった」
通信機を切り、ライワは息をついた。
「問題でも起こったかい?」
「話の勇者様だが、半殺しにされたんで、治療のためこっちに戻るそうだ」
「……は?」
「どこかの冒険者パーティーと揉めて、やられたとさ」
「そいつぁ、また。人間性はどうか知らないが、あの勇者の力は相当なもんだった。それを……」
「やった相手だが、特徴からあの元・ご令嬢らしい」
「……確か、かい?」
「長い髪に、目立つ美貌。間違いはないだろうな。他に心当たりもない」
「召喚された英雄様を半殺しか。やるねえ。しかし、面倒でもあるな、こりゃ」
「ああ、中央は良い顔をするまいな。いやそんなレベルではないかもしれん」
「だったら?」
「穴埋めはやった相手にしてもらうのが筋だろうな」
「なるほど。良い手だ」
時間は少しだけ戻り。
冒険者ギルドへ連絡がいく、少し前――
「エルフ?」
思わず、カーシャは口に出していた。
森の貴族と呼ばれ、魔力に長けた美しい種族。
あの赤黒い世界では、一度も目にしなかった。
「はあ、さようです。それでですね……」
どこか眠そうな顔をしたエルフの美少女は、頭を下げて、
「どうか仲間の無礼を許していただきたく。命ばかりはお助けを……」
丁寧に、そう詫びてきた。
――なんだ、こいつ。
胡散臭い。
他の者には、はかなげ、あるいはすれていない少女に見えているのか。
でも。
カーシャの目には、油断のできない不気味なものとして映った。
殊勝にたれた頭の下から、ナイフでも飛び出してきそうな。
カーシャはエルフから目をそらさず、赤黒く染まった武器を握りなおす。
「どうぞお許しを――」
黙っていると、エルフは膝をついて革袋を両手にかかげた。
「なに、それは」
「お詫びの気持ちと言いましょうか」
「……」
このまま、こいつを踏みつぶしてやろうか。
足元の男をわずかに見て、カーシャは考える。
――しかし。
それは、つまりこのエルフとの完全な敵対を意味する。
「……ふん」
カーシャはダルマ状態の男から足をどかす。
そのまま、数歩ほど離れた。
周辺の空気は、少しだけゆるんだ。
野次馬たちの安堵の息。
が、しかし。
「てめぇ!!!!」
殺気を感じて、カーシャは振り向いた。
大剣を構えた女戦士が、突っ込んでくる。
刃が、稲妻をまとっていた。
剣技と魔法をミックスさせた攻撃。
「あ」
エルフが少し目を大きくして片手をあげかける。
――しつっこい。
カーシャは無造作に剣を振るって、女戦士の両腕を切り払った。
どさり。
大剣を持ったままの両腕が、地面に落ちる。
それに合わせて。
女戦士の右膝頭を、踏み折った。
いや、踏みつぶした。
そして片手で、女戦士の首をつかむ。
「が…………!?!?!?」
喉を押さえられ、女戦士は声を出せない。
「ついでよ」
つかみ上げたまま、残った片足を蹴り折る。
骨が飛び出し、血が飛んだ。
両腕からも、滝のように血が流れ落ちる。
「まだわからないのなら、わからせてあげるわ」
それから。
カーシャは拳で女戦士の顔を数発殴りつけた。
メキ、バシ、ボカ、グシャリ。
「あ、やめて」
エルフ美少女が小さく止めるも、すでに遅し。
「ふん……」
殴り終えたカーシャは、女戦士をゴミのように放り捨てた。
「……」
エルフは静かに放り出された女戦士をのぞきこんで、
「……うわっ」
と、だけ言った。
詳細は省くが、女戦士の顔面はほとんど原型を残していなかった。
死んでいないだけだ。
――くだらないことに時間を使ったわ……。
カーシャは歩きながら、苦々しく思う。
これなら、まだマコネやバッキーの駄ばなしを聞いてるほうが有意義だった。
そう思った時、魔力の流れに肉体が反応する。
視線の先。
シーラが両手をこちらに向けていた。
嫌でもわかる。
攻撃魔法を放とうとしていた。
魔法陣が空中を回転。
炎の槍が10数、カーシャに向かって飛んでくる。
――火炎槍弾。
かなりの上級火炎魔法。
――少なくとも、私は使えなかった。
それほどのレベルのものだった。
――よける? いや……。
簡単だが、少し不愉快でもあった。
なんとなく、この女にいくらか負けを認めるようで。
いや、実際魔法の才能では確実に負けていたわけだが。
「……うるさい」
カーシャは炎の槍を剣で切り払いながら、そのまま進んだ。
赤黒い世界で、何度も、絶望するほど体験して身についていた技術。
「あ……」
目の前に立つカーシャに、シーラは絶句してへたりこんだ。
この時、カーシャは気づく。
――鼻が治りかけてる。引きちぎったのに……。
あれだけのケガで、欠損とくれば治療も難しいはず。
――あのエルフ……?
女戦士と変な男と、魔導士であるシーラ。
他にできそうなヤツはいない。
というか、4人パーティーなのだ。 カーシャはチラリとエルフ美少女に注意を払ってから、シーラを見る。
――殺すか。
ごく自然に、そう考える。
さっきの魔法も、普通なら焼け死んでいる威力。
なら、遠慮する意味はない。
その時、風のように誰かがシーラの隣に立った。
エルフの美少女。
――こいつ……。
速い。
まるでわからないほどでもないが、かなりの速度だった。
しかも、息切れもしていない。
「申し訳ございません」
エルフは、細身に似合わない力で、シーラの頭をつかみ――
「お腹立ちは重ね重ねごもっともです。でも、そこをどうにかお許しのほどを……」
地面にこすりつけた。
――白々しい……。
カーシャは鼻白んだ。
でも、やはりこのエルフと揉めるのは気が進まない。
少なくとも、今はまだ。
力が足らない。
心から、そう思った。
「勝手にしたら?」
言い捨てて、街道へ戻る。
――もっと力を蓄えないと……。
気がはやる。
今の体は、赤黒い世界での経験を生かし切れていない。
肉体が未完成だ。
強い骨や肉を作らなければ。
大地を蹴って、カーシャはジャンプ。
多くの旅人や荷馬車を飛び越えて、先へ先へ。
「なにあれ……?」
「モンスターじゃないよな?」
「ば、バッタか、ありゃあ?」
そんな声が飛び交うけど、カーシャの耳には入らない。
とりあえず。
――体を作るには、食事ね……。
手近な宿場、手近な飲食店を探した。
「いっちゃった……」
「どーすんだよ、さんざん好き勝手暴れてよお……」
マコネ、バッキーは馬車の中でつぶやいていた。
「いやはや、なんとも……」
エルフの美少女は、半殺し状態の仲間たちに治癒魔法をかけていた。
シーラはまだ、正気を取り戻していない。