破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その8、連続する暴力・殴ろうとしたら半殺しになった話

 

 

 

 

「勇者様ご一行は、そろそろチュービあたりかねえ?」

 

 ギルド本部で、ミゾイは女騎士へぼそりと言った。

 

「勇者か……」

 

「国の正式な召喚魔法で呼び出された勇者様だ。王家の印を持ってるようなもんさね」

 

「異世界から召喚された勇者ね……マユツバな気もするが」

 

 女騎士ライワは紫の髪を苛立たしそうにかく。

 

「私は遠目で見ただけだが、相当の魔力は持ってるようだ。ルーンフェンサーとしちゃかなりのもんだろうさ」

 

「お前が言うのなら、そこは確かなんだろうさ。しかし……」

 

「国難が予見されている中で、それに対処する英雄を呼び出す。国家の一大儀式であり正式な事業だよ」

 

「その召喚魔法を使うためにどれほどの魔力を使ったことやらな。あちこちから相当量の魔石を王都へ運んでるぞ」

 

「ここはまだマシさ。辺境ゆえにそれなりの自治が認められてるからな。他の地方はなかなか悲惨らしいよ?」

 

「しかしな……。その勇者様とやらがどれほどのものか知らんが、そんなものに頼るほど、国軍は脆弱なのか? 天下に響く魔道大国だぞ、ここは」

 

「だからってこともあるさね」

 

「――なに?」

 

「仮に国軍で対処できるとしても、そこで生じる損耗はどうかね? 魔石は時間がたてばまた地下にたまる。けれど、人材はそうはいかないさ。軍隊を維持するには金も時間もかかるからねえ。特に優秀なのは失われたら補充するのも難しいときたもんだ」

 

「なるほど……。厄介ごとはよそものに押し付けるつもりか。仮に勇者がどうなっても……」

 

「そ。損は許容範囲ってわけさね」

 

「中央は、ずいぶんと人を大事にするもんだな」

 

 どこか皮肉げに、ライワは笑う。

 

「まあ、損得の問題だろうねえ。それに、魔王が近隣に現れるらしいって噂もある……」

 

「そんなもの……」

 

「まあ伝説か昔話のもんだと、フツーは思う。けど、どこの国にも歴史にしっかり記録されてる。色んな場所に、色んな魔王が出てきちゃあ悪さをしてる。実際、そういうのに滅ぼされた国もあるからね」

 

「魔族か……。敵対的な種族をそう呼ぶだけだと思ってたがな」

 

「そういう意味じゃ、ゴブリンだのオーガもみんな魔族かねえ。あるいはオークもな。あいつらは排他的で頑固だからな。他種族の文化や文明を嫌う。敵対することはよくあるからなあ?」

 

「しかし、その程度じゃ魔族だの魔王だのとは呼ばれまい」

 

「ああ、一国が危険になるほどの軍勢を集め、統率できる危険な存在。そうじゃなきゃ魔王なんて呼ばれないさ」

 

 その時だった。

 

 通信機が鳴り、会話が中断される。

 

「私だ――は? なに? ……。それは、また。で、どうしろと? ああ、わかった」

 

 通信機を切り、ライワは息をついた。

 

「問題でも起こったかい?」

 

「話の勇者様だが、半殺しにされたんで、治療のためこっちに戻るそうだ」

 

「……は?」

 

「どこかの冒険者パーティーと揉めて、やられたとさ」

 

「そいつぁ、また。人間性はどうか知らないが、あの勇者の力は相当なもんだった。それを……」

 

「やった相手だが、特徴からあの元・ご令嬢らしい」

 

「……確か、かい?」

 

「長い髪に、目立つ美貌。間違いはないだろうな。他に心当たりもない」

 

「召喚された英雄様を半殺しか。やるねえ。しかし、面倒でもあるな、こりゃ」

 

「ああ、中央は良い顔をするまいな。いやそんなレベルではないかもしれん」

 

「だったら?」

 

「穴埋めはやった相手にしてもらうのが筋だろうな」

 

「なるほど。良い手だ」

 

 

 

 

 時間は少しだけ戻り。

 

 冒険者ギルドへ連絡がいく、少し前――

 

「エルフ?」

 

 思わず、カーシャは口に出していた。

 

 森の貴族と呼ばれ、魔力に長けた美しい種族。

 

 あの赤黒い世界では、一度も目にしなかった。

 

「はあ、さようです。それでですね……」

 

 どこか眠そうな顔をしたエルフの美少女は、頭を下げて、

 

「どうか仲間の無礼を許していただきたく。命ばかりはお助けを……」

 

 丁寧に、そう詫びてきた。

 

 ――なんだ、こいつ。

 

 胡散臭い。

 

 他の者には、はかなげ、あるいはすれていない少女に見えているのか。

 

 

 でも。

 

 

 カーシャの目には、油断のできない不気味なものとして映った。

 殊勝にたれた頭の下から、ナイフでも飛び出してきそうな。

 

 カーシャはエルフから目をそらさず、赤黒く染まった武器を握りなおす。

 

「どうぞお許しを――」

 

 黙っていると、エルフは膝をついて革袋を両手にかかげた。

 

「なに、それは」

 

「お詫びの気持ちと言いましょうか」

 

「……」

 

 このまま、こいつを踏みつぶしてやろうか。

 足元の男をわずかに見て、カーシャは考える。

 

 ――しかし。

 

 それは、つまりこのエルフとの完全な敵対を意味する。

 

「……ふん」

 

 カーシャはダルマ状態の男から足をどかす。

 そのまま、数歩ほど離れた。

 

 周辺の空気は、少しだけゆるんだ。

 

 野次馬たちの安堵の息。

 

 

 が、しかし。

 

 

「てめぇ!!!!」

 

 殺気を感じて、カーシャは振り向いた。

 大剣を構えた女戦士が、突っ込んでくる。

 

 刃が、稲妻をまとっていた。

 剣技と魔法をミックスさせた攻撃。

 

「あ」

 

 エルフが少し目を大きくして片手をあげかける。

 

 ――しつっこい。

 

 カーシャは無造作に剣を振るって、女戦士の両腕を切り払った。

 

 

 どさり。

 

 

 大剣を持ったままの両腕が、地面に落ちる。

 

 それに合わせて。

 

 女戦士の右膝頭を、踏み折った。

 いや、踏みつぶした。

 

 そして片手で、女戦士の首をつかむ。

 

「が…………!?!?!?」

 

 喉を押さえられ、女戦士は声を出せない。

 

「ついでよ」

 

 つかみ上げたまま、残った片足を蹴り折る。

 

 骨が飛び出し、血が飛んだ。

 両腕からも、滝のように血が流れ落ちる。

 

「まだわからないのなら、わからせてあげるわ」

 

 それから。

 

 カーシャは拳で女戦士の顔を数発殴りつけた。

 

 

 メキ、バシ、ボカ、グシャリ。

 

 

「あ、やめて」

 

 エルフ美少女が小さく止めるも、すでに遅し。

 

「ふん……」

 

 殴り終えたカーシャは、女戦士をゴミのように放り捨てた。

 

「……」

 

 エルフは静かに放り出された女戦士をのぞきこんで、

 

「……うわっ」

 

 と、だけ言った。

 

 詳細は省くが、女戦士の顔面はほとんど原型を残していなかった。

 死んでいないだけだ。

 

 ――くだらないことに時間を使ったわ……。

 

 カーシャは歩きながら、苦々しく思う。

 

 これなら、まだマコネやバッキーの駄ばなしを聞いてるほうが有意義だった。

 そう思った時、魔力の流れに肉体が反応する。

 

 視線の先。

 

 シーラが両手をこちらに向けていた。

 

 嫌でもわかる。

 

 攻撃魔法を放とうとしていた。

 

 魔法陣が空中を回転。

 炎の槍が10数、カーシャに向かって飛んでくる。

 

 ――火炎槍弾。

 

 かなりの上級火炎魔法。

 

 ――少なくとも、私は使えなかった。

 

 それほどのレベルのものだった。

 

 ――よける? いや……。

 

 簡単だが、少し不愉快でもあった。

 なんとなく、この女にいくらか負けを認めるようで。

 

 いや、実際魔法の才能では確実に負けていたわけだが。

 

「……うるさい」

 

 カーシャは炎の槍を剣で切り払いながら、そのまま進んだ。

 

 赤黒い世界で、何度も、絶望するほど体験して身についていた技術。

 

「あ……」

 

 目の前に立つカーシャに、シーラは絶句してへたりこんだ。

 

 この時、カーシャは気づく。

 

 ――鼻が治りかけてる。引きちぎったのに……。

 

 あれだけのケガで、欠損とくれば治療も難しいはず。

 

 ――あのエルフ……?

 

 女戦士と変な男と、魔導士であるシーラ。

 他にできそうなヤツはいない。

 

 というか、4人パーティーなのだ。 カーシャはチラリとエルフ美少女に注意を払ってから、シーラを見る。

 

 ――殺すか。

 

 ごく自然に、そう考える。

 さっきの魔法も、普通なら焼け死んでいる威力。

 なら、遠慮する意味はない。

 

 その時、風のように誰かがシーラの隣に立った。

 

 エルフの美少女。

 

 ――こいつ……。

 

 速い。

 

 まるでわからないほどでもないが、かなりの速度だった。

 しかも、息切れもしていない。

 

「申し訳ございません」

 

 エルフは、細身に似合わない力で、シーラの頭をつかみ――

 

「お腹立ちは重ね重ねごもっともです。でも、そこをどうにかお許しのほどを……」

 

 地面にこすりつけた。

 

 ――白々しい……。

 

 カーシャは鼻白んだ。

 でも、やはりこのエルフと揉めるのは気が進まない。

 

 少なくとも、今はまだ。

 

 

 力が足らない。

 心から、そう思った。

 

「勝手にしたら?」

 

 言い捨てて、街道へ戻る。

 

 ――もっと力を蓄えないと……。

 

 気がはやる。

 今の体は、赤黒い世界での経験を生かし切れていない。

 

 肉体が未完成だ。

 

 強い骨や肉を作らなければ。

 

 大地を蹴って、カーシャはジャンプ。

 多くの旅人や荷馬車を飛び越えて、先へ先へ。

 

「なにあれ……?」

 

「モンスターじゃないよな?」

 

「ば、バッタか、ありゃあ?」

 

 そんな声が飛び交うけど、カーシャの耳には入らない。

 

 とりあえず。

 

 ――体を作るには、食事ね……。

 

 手近な宿場、手近な飲食店を探した。

 

 

 

 

「いっちゃった……」

 

「どーすんだよ、さんざん好き勝手暴れてよお……」

 

 マコネ、バッキーは馬車の中でつぶやいていた。

 

 

 

 

「いやはや、なんとも……」

 

 エルフの美少女は、半殺し状態の仲間たちに治癒魔法をかけていた。

 

 シーラはまだ、正気を取り戻していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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