破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「それにしても……」
と、バッキーはしみじみと言った。
「まあな。おいらも、実物見たのは初めてだった」
冒険者ギルド。
マコネとバッキーは、掲示板を見上げていた。
やりやすい、あるいは割の良いクエストはないものか。
そういう考えのもと、そうしているわけ。
…の、はずなのだが――
2人とも、今ひとつ集中し切れていない。
昨夜。
サキュバス街にて見たもの。
それが、まだ尾を引いていた。
「とりあえず、聞きたいことは聞いたわ。帰りましょう」
店員から話を聞いた後。
カーシャはゆらりと立ち上がった。
さて。
では帰路につこうかと、廊下に出た時だった。
――うん?
バッキーは、少し離れた部屋の前を見る。
そこに。
1人のサキュバスが、客らしき男と話していた。
背が高い。
ムチムチとした豊満な肉体。
匂い立つように艶っぽく、煽情的。
それでいて、どこか品の良い美貌。
ハスキーな声。
どことなく――
他のサキュバスとは、印象が違っていた。
見るともなく見ているうち。
話は終わったらしく、サキュバスは客と離れた。
それから。
優美な動作でバッキーたちとすれ違う。
この時。
サキュバスは不思議な微笑を浮かべて、会釈をする。
その微笑に、バッキーは一瞬思考が止まってしまったが、
「あ、どうも……」
急いで、頭を下げる。
しかし。
その時にはもう――
サキュバスは行ってしまった。
「なんか、ちょっと不思議な感じのするヒトでしたね」
バッキーは首をかしげる。
あのサキュバスに感じた奇妙なモノ。
それは、何だったのだろう。
「うん。なんか変……ってんじゃないけど、妙なヤツだったよな?」
マコネも同意する。
ここに来て、サキュバスという種族は何人も見た。
が。
そのどれとも異なる何かが、さっきのサキュバスにはあった。
「……あ、いけね。ボヤボヤしてるうちに、姐さん先行っちまった」
マコネはあわてて、歩き出す。
カーシャはすでに1階に降りてしまった。
「置いてけぼりにはならないと思うけど、待たせると悪いですね」
と。
2人は早歩きを開始したのだが、
「おっと」
前から、トントンと進んできた者がいた。
思わず立ち止まりかけたところ、
「おや? 豪傑さんのお連れのかた」
その相手は、先ほどの店員。
カーシャと話し終えた後
するり。
そんな感じで部屋を去っていったのだが。
見ると、またもワゴンで酒や料理を運んでいる。
「オッちゃんも忙しくて大変だな」
「なぁに。千客万来で忙しいのは最高の贅沢というやつさ」
マコネの言葉に軽快な口調で答える店員。
この時。
バッキーはふと好奇心がわき出てきた。
「あの、さっきこちらですれちがったサキュバスさんなんですけど」
不思議な雰囲気のサキュバス。
その特徴をこれこれと説明したところ、
「ああー。いや、なかなかお目がききますな。あのヒトぁね、サキュバスじゃあないんですよ」
「え?」
店員の返答にバッキーは首をかしげる。
「でも……」
「いやなにね? 違うといやあ違うんだけど、同族といやあ同族ではあるんですな」
と、店員は苦笑。
「なんか特別なんですか?」
「特別ってほどのもんじゃあないです。あっさり言っちまえば、サキュバスと対をなす――インキュバスってやつですよ」
――インキュバス?
その名称に、バッキーは記憶を刺激された。
前世の知識。
これから引っ張り出してきた情報は、
――女性を獲物にする男の夢魔……だよねえ?
雑然とした記憶を掘り返している途中、
「え!? じゃあ、あのヒト……男性なんですか?」
「そうなりますねえ。あっちの
店員は陽気に笑った。
「マジかよ……? 確かに
マコネが身を乗り出すと、
「生まれつきだそうで。インキュバスにはああいうタイプのもいるんですよ」
「あれがねえ。どっちもでかくて揺れてたけど、またぐらの名剣もでかいのかな?」
マコネがやや品の悪いことを言っている横で、
――え? じゃ、じゃあ……えーと、なんていうんだったかな? あ、シーメール? そういうの?
バッキーは半ば混乱しつつ、
店員は、落ちつけという感じで片手をあげて答えた。
「でも。それならここで何してるんです? インキュバスなら女性の相手をするんじゃないんですか? あれ、それとも女性用のお店もある?」
バッキーがつい先走った感じでそう言うと、
「え?」
「えっ?」
マコネは店員はほぼ同時につぶやいた。
そして。
やはり。
ほぼ同時にバッキーを見た。
「……え? 私変なこと言っちゃいました?」
「いえ、まあ……」
店員はとまどった顔で頭を掻いている。
「インキュバスだって、女の相手はしねえよ」
お前さんの故郷じゃちがうのか?
マコネは言いながら、やや流し目気味にバッキーを見る。
「へ?」
キョトンとするバッキーへ、
「遠い国のことは無学なもんで存じ上げませんがね」
と、店員は気を取り直したよう咳払い。
どうやら、バッキーが遠い異国の出だと察したらしい。
「まあ女人と関係することもあるっちゃあるらしいですが、少ないですねえ」
で、まあ。
店員はマコネを顔を見てから、
「こちらさんのおっしゃった通り、インキュバスも男相手のナニをするわけですな。いやいや、場合によっちゃあサキュバス以上にお馴染みさんもできるくらいでね? 私が若い頃のこったが」
是が非でも――
一緒になりてえと。
「そう言ってねえ、何ともはや困ったお客さんもいたほどでね」
「……一緒になるって」
「つまりは夫婦になるってことですかね。まあずっと一緒に暮らしてえってことで」
「そ、それはまた……」
バッキーは何とも言い難い気分になるが、
――ある意味? 先進的なのかな? いやでも、この場合なにかちがうような……。
「どうなったんだ、そいつ? 叩き出したのか? 営業妨害で」
マコネが聞くと、
「場合によっちゃそうなりかねなかったですが。そのインキュバスってのが、そこまで
「一緒になっちゃった?」
「ええ。互いに手と手を取って遠方へ行ったらしいですよ。まるでお芝居ですな」
どこか。
懐かしむような顔で、店員へそう言った。
「すごい話でしたよねえ……」
「まったくなー」
結局。
ギルドではこれというクエストもなく――
マコネとバッキーは、おしゃべりをしながら歩いていた。
「インキュバスってのがいるとは知ってたけどよ。さすがに初見はビックリさせられた」
「ですねえ」
2人はしばらく無言で歩いていた。
やがてマコネが、
「それにしても……」
首をひねりながら腕を組む。
「昨夜のヤツは見た目完全に女みてーだったけど。アレぁどういうところに需要があンのかね?」
「へ?」
マコネが口にした、妙な疑問。
「だって、男が良いってのなら、ちゃんと男のインキュバスっているだろ? あれだと、女がチ〇〇コはやしてるようなもんじゃねーか」
「……どうなんでしょ?」
性自認? は男なのか。
それとも女なのか。
あるいは。
どちらもでないのか。
――んん?
やがて。
ある考えにいきついたバッキーは、足を止めた。
「どうしたい?」
マコネが振り返ると、
「あの……。サキュバスはもちろん、インキュバスも男性の相手をするんですよね?」
「そうだって。昨夜オッチャンが説明してたろ」
「うん……」
と、バッキーは曖昧にうなずいてから、
「じゃあ、人間の女性は……」
「そりゃてめえで稼ぐか、金持ちや貴族の
「あ、はい」
「金持ち物持ちがオンナを囲うのは、半分義務みてえなもんだしなあ。うちの姐さんがよ、もし男だったとすりゃアッチコッチから紹介されたり、てめえから売り込んでくるのがワンサカ来ただろうな」
アッハハハ。
マコネは伸びをしながら笑う。
「あるいは、おいらもお前さんもお情けで愛人の末席くらいにゃ入れてもらえたかもしれねえわ」
「………」
冗談を飛ばすマコネ。
だが、バッキーは黙然としている。
「おいおい。なんか様子おかしいぞ?」
「あ、はい……。すいません、ちょっとボーッとしちゃって」
バッキーは首を振りながら、
「なんていうか、うまくは言えないんですけど……。ものすごい、悪意みたいなものを感じたんです」
「誰のだよ? サキュバスか?」
「いえ、そういうんじゃなくって。こういう世の中になってることに……です」
バッキーは所在なさげだった。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人