破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

81 / 357
誤字報告をくださるかたがた
いつもありがとうございます

本気で助かっております!


その69、胡蝶の夢ではない

 

 

 

 

 

「こうしてみると……。王都から離れるほど、サキュバス街は多くなっているわけね」

 

 数枚の資料を見比べながら、カーシャは指で額を掻く。

 

「興味がなかったから無知だったけど、ネビズ(・・・)のやつはかなりの大規模だわ。比べると、王都にあるサキュバス街はささやかなものね」

 

「その代わり、値段はかなりのもんだがな。貴族や金持ち物持ち、そんな連中が【粋な遊び】を楽しむところさ」

 

 雑貨屋の店内。

 ゴトクはナイフの手入れをしながら応える。

 言葉には、若干の揶揄(やゆ)があった。

 

「貧乏人相手のヤツらは店を持たずに、一人で勝手にやってる。酒場とか路地裏とかで目立たんようにな」

 

「ふうん」

 

「ネビズもそうだが、辺境の街は全部もと開拓地だ。荒れた荒野、モンスターが多くって危ねえ。そういうところを切り開いて、街を作っていったのさ。まあ、どの国も街も起源をたどればそんなもんだけどな」

 

 で。

 そういう場所で、仕事だから男所帯だ。

 女はいねえ。

 

「それにサキュバスたちはくっついていった。まさに適材適所で、どっちもお得だってことだな」

 

「他にも……。古くさかのぼれば、地方は元々ちがう国だった」

 

 カーシャは資料に目を向けたまま、静かに言った。

 

「おう、そこもあるな。あけすけに言えば侵略して征服して領土を広げていったわけだ」

 

こちら(・・・)側では、統一と表現するけれど」

 

 くすり、と。

 カーシャは唇を歪めた。

 

「戦乱をおさめたのも、ホントではある。その時、軍隊にサキュバスたちもくっついてった。で、占領地でも客を取り始めた。ついでなのか、それも目的だったか知らんけど」

 

「戦争で負けた国ってのは悲惨でな。略奪は付き物だからな、金や物、食い物だけじゃない。女子供だって普通にその対象……ではあるんだが」

 

 そこで。

 ゴトクは手を止めて、少し上に視線をやった。

 

「この場合、むしろ戦勝軍がオンナを連れてきたってことか。占領地でサキュバスが正式に【商売】を始めたのは、わりと落ちついてから……だな、確か」

 

「つまりは?」

 

 カーシャがゴトクの顔を見る。

 

「そうとう好き勝手にやってたんだろうな。制約なしでほぼ自由に【食事】ができるんだ。だが、それのおかげで女たちは嬲り者にならずにすんだわけだが……」

 

「へえ……」

 

 カーシャは音もなく息を吐いて――

 

「その状況を、敗戦国の女はどういう目で見てたのかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あ。コレ夢だ。

 

 目を開いた瞬間、バッキーは思った。

 

 深夜。

 マコネとおしゃべりをした後、ベッドに入ったのはおぼえている。

 今日も疲れた。

 そう思いながら、目を閉じて。

 

 今、バッキーは道を歩いていた。

 

 ネビズの街ではない。

 

 道路。

 信号。

 電柱。

 アスファルトで舗装された。

 行きかう自動車。

 横断歩道。

 コンビニ。

 

 前世の世界。

 【現代】の日本。

 

 そして。

 バッキーは登校している最中だった。

 

 明晰夢の一種。

 こう確信した理由もある。

 

 夢特有の違和感? みたいなもの。

 それも要因なのだが、

 

 低空を、フワフワと――

 羽のはえた美少女が飛んでいた。

 

 ――どー見てもサキュバスです。

 

 街中にチラホラと明らかにファンタジーな異種族がいるのだ。

 【普通】の【現実】の【現代日本社会】。

 そんなところに、

 

 ――あんなもんがいるわけないもんね……。

 

 

 

 

 やがて。

 ごく自然に、高校に到着。

 夢の中でバッキーは高校生となっている。

 

 ――昔、通ってた学校じゃん……。

 

 学校が夢に出てきたことはあった。

 

 なぜか。

 30近くで学生生活をフツーに送っている。

 そんな夢は何度か見たが、

 

 ――さすがは明晰夢。再現度半端ないなあ。サキュバスをのぞけば……。

 

 学校内。

 そこにサキュバスの姿はない。

 どうやら、彼女らは基本大学より下の学校には行かないようだ。

 中高も小学校、さらには幼稚園すら。

 こんな【常識】が、ごく自然に頭にある。

 

 

 

 学校生活。

 それも、過去の経験と大差なかった。

 教室内ではちんまり隅っこで存在感を消している。

 

 休み時間などに――

 オタク系の友人と、目立たないように駄話(だばなし)

 

 ――こういうのまで再現しなくても……。

 

 そう思い、スマホでネットを見ている。

 

 やはりというか。

 あちこちでサキュバスの情報があった。

 

 ただ?

 色々調べてみると、

 

 ――あれ? 前世よりも色々良くなってない。

 

 環境。

 住宅。

 経済。

 出産率

 エトセトラ。エトセトラ。エトセトラ……。

 

 日本だけではない。

 世界レベルで注目されていた問題が解決しつつある。

 

 たとえば。

 性犯罪の高い国や地域など。

 そこで犯罪率がどんどん低下している。

 成人女性だけではない。

 子供への犯罪も。

 

 ――ああ、そっか。これって……。

 

 サキュバスの容姿は千差万別。

 それは見た目の年齢も同様。

 加えて。

 

 ――実年齢は、基本どの人間よりもずっと上……。経験値的にも、成人ばっかり……。

 

 すなわち。

 見た目は中高生でも、その中身は老練な【魔物】。

 こんながウジャウジャいるわけだ。

 

 しかも、

 

 ――人間の女性、子供よりもずっと近づきやすいんだよね……。おまけに、いやこれが一番重要なんだけども……。

 

 

 

 肉体関係になっても(・・・・・・・・・)犯罪にはならない(・・・・・・・・)

 

 

 

 ――ついでに、性病も心配なしで……。これは、現実っていうか? あっちの世界のサキュバスとおんなじ。

 

 

 そして。

 ぶっちゃけ。

 

 身もフタもないことを言えば。

 サキュバスにとって、人間との性行為は食事である。

 

 人間と同じ食事での補給も可能だが、効率が悪い。

 特に。

 彼女らにとって、もっとも重要度が高い魔力の生成。

 これが非効率なのは致命的らしい。

 

 ―――ようするに、人間とホニャララできないと力が衰えたりするから……。

 

 ウィンーウィンの関係。

 あるいは、互いに利用し合う関係。

 

 こういうわけで。

 

 よほどの異常者でなければ――

 リスクを冒して犯罪に走る意味などない。

 

 ――そこはいいよね。うん。

 

 調べてみれば、

 

 ――ああ、やっぱし。さんざんネタにされたり問題にされてたパパ活もほぼゼロだわ。

 

 これもまた、

 

 ――良いことではあるよねえ?

 

 一時的に大金を得られるが、同時に色んなものを失う。

 あるいは、狂わせてしまう。

 

 ――将来的に考えれば、やらないほうが絶対いいし。

 

 サキュバスたちは、基本性行為で金銭のやり取りをしない。

 ここは、【現実】とちがっている。

 

 いくら金持ちの男でも、使う金が少ないなら少ないほうが良い。

 むしろ。

 富裕層であればあるほど、金銭の使い方にはシビアだろう。

 

 ただ。

 

 それは同時に、極めて危険なことだった。

 ある種の歯止め(・・・・・・・)が、完全に失われていることを意味する。

 

 ――あ、予想してたけど、これもそうだわ。

 

 サキュバスと関係する中高生も増加傾向にある。

 当然とも言えるが。

 

 ――あ……。企業経営とかしてるヤツもいるんだ。自分で起業したり、色んな手段で乗っ取ったり……。

 

「はあ……」

 

 ネット検索に没頭していたバッキーは、ため息をついた。

 調べただけで、ものすごい疲労感。

 

 一見社会はよくなりつつある。

 ……ように思える。

 

 が。

 ゆっくりと、しかし確実に世界規模で崩壊に向かっている。

 嫌な予想、あるいは確信がバッキーにはあった。

 

 

 

 

 

 

 気づけば。

 もう放課後になっていた。

 

「かえろ……」

 

 夢なんだから、とっととさめてほしい。

 そう願いながら教室を出た。

 

 すると、

 

「へ?」

 

 そこは、上も下もない空間だった。

 周りには何もない。

 グニャグニャと色々が変わっていく。

 

 ――あ、やっとさめてくれるの? 助かった……。

 

 バッキーが安堵していると、

 

 

 

 

 

「お前らは、いくら……とりつくろったって寄生虫じゃないか!」

 

 誰かの叫び。

 中年男性の声。

 そう思えた。

 

「あははは♥ うまいこと言うじゃないの? まったくもってそのとーり♥ でも、栄養(・・)をもらう見返りに、宿主が健康になるように働きかけてるわよ? 寄生先が死んじゃったら困るもの♥」

 

「確かに卑怯な手段で乗っとった! 自分でも感心しちゃうくらいに。だが!? お前よりもずっと会社を大きくしてるし、お前よりもずーっとたくさんの給料や税金を、いーっぱい払ってるぞー?」

 

 

 

 

 

 

 

「――おい!」

 

「ひっ……!?」

 

 大声。

 体を揺さぶる強い力。

 それに、バッキーは叩き起こされた。

 

 起き上がると。

 マコネが渋い顔で自分を見ている。

 

「あ、マコネちゃん……」

 

 つぶやくと、口の中がカサカサした。

 

 ――やっとさめた……。

 

 今度こそ。

 バッキーは本気で安堵する。

 

「ふけよ。ひでえ汗だぞ」

 

 マコネがぶっきらぼうに言った。

 手元にタオルが投げられる。

 

「あ、ありがと……」

 

 指摘された通り。

 バッキーは全身汗だくになっていた。

 着ている服がじめっとしている。

 

 のろのろと汗を拭いていると、

 

「――飲めよ」

 

 マコネは水を入れたコップを突きだした。

 

「……うん」

 

 確かに。

 喉も渇いていた。

 

 水を飲み干してようやく落ち着きを取り戻す。

 

「お前どんな夢見てたか知らねーけど、ひどいうなされようだったぞ。ウンウンウンって」

 

 と、マコネは疲れた顔でため息。

 

「おかげでこっちは嫌でも起きちまった。まだ夜明け前だぞ? 特に仕事も用事もねえのに」

 

「ごめん……」

 

 バッキーは密かに、目の前に少女に感謝する。

 どうにか。

 ドンヨリしたものだが、笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。