破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その71、問題解決は困難である

 

 

 

 

 

 

 

 ゴトクの雑貨屋。

 その店内で、バッキーはゴトクと向かい合い、座っていた。

 

「……なるほどな」

 

 猫のゴトク。

 金髪のエルフは、バッキーに向けていた手をおろした。

 さきほどまで。

 手の前には、魔法陣が浮かんでいた。

 

「あの、やっぱりなんかあるんでしょうか?」

 

 バッキーは少し身を乗り出して質問。

 

 カーシャから指摘されたこと。

 バッキーは忠告通りにゴトクへ相談していた。

 

「お前さん、言ってたな? その冗談みたいな治癒魔法はもらいもんだと」

 

「はい」

 

 バッキーの返事に、ゴトクはフム……とつぶやいて、

 

「どうやら魔法の修練を重ねるうちに、魔力や魔法そのものが馴染んできたんだな」

 

「?」

 

「そもそも。お前がもらったっていう治癒魔法な。最初はちゃんと身についてなかったんだよ」

 

「え? でも最初から普通に使えましたけど」

 

「あのな」

 

 ゴトクは立ち上がって、カウンターへ。

 置かれていたポットからお茶をいれる。

 

「使えるってことと、使いこなすってのはぜんぜん別モンなんだよ。それとも……最初の頃、ホントーに何の苦労もなく魔法を使えたのか?」

 

 バッキーにお茶をすすめながら言った。

 

「あ」

 

 指摘され、バッキーは思い出す。

 ほぼ無意識に、お茶を受け取りながら。

 

「言われてみれば……。最初は大勢に魔法をかけたらかなり疲れました」

 

「で。今は?」

 

「大人数でも、同時にかけたりもできます。かなり効率も良くなったですね。でも」

 

 それはゴトクさんがうまいこと教えてくれたからでは?

 

 と、バッキーは言ったが、

 

「そこもあるにはある。ただ時間をかければそれくらいには自力でやれるようになったかもな。ただ、適応が早まったからおかしな要素も出てきたんだろうぜ」

 

「じゃあ、あの変な夢は副作用みたいな?」

 

 すると。

 ゴトクは困った顔でくびをひねり、

 

「何しろ、お前さんのそれはかなり特殊だ。そいつがよくわからん作用で〝遠見〟を夢でやってんだな、無意識のうちに」

 

「とおみ? ですか。確か、遠くの様子を見たりする魔法ですよね?」

 

 その単語に、バッキーは学んだ知識から答える。

 

「おそらく、お前さんは夢で遠い場所を見てるんだよ。夢で自分の体験としてな。だからお前さんに関する部分は作り事が多いかもしれねえ……」

 

 そこで。

 ゴトクはいったん言葉を止めた。

 その眼が、鋭く真剣にバッキーを見つめる。

 

「だが。そこで見たもんは多分本当のことだぜ?」

 

「じゃあ、アレって本当にあったこと? いや、そんな……」

 

「異なる世界のことか、それともお前が前世でいた世界かは知らん。だが、話を聞く限りじゃ異世界ってことは間違いだろうよ」

 

多元(マルチバース)……?」

 

 バッキーがつぶやき、考え込んでいると――

 

「三千世界って言葉がある」

 

 ゴトクは腕組みをして天井を見た。

 

「つまり【世界】ってのは、それこそ数えきれないほどあるって話だ。転生者だの、勇者召喚ですでに証明済みではある」

 

 ま。今さらそれをアレコレと考えても仕方ないが……

 

「お前さんの夢は、ある意味魔法が暴走してるようなもんだからなあ……。そいつをどうコントロールするかとなれば難しいやね」

 

「いや、そんな……。じゃあまたあんな夢を見るんですか? やだなあ……」

 

「同じ世界のことを見るってのは、考えにくいがな。いっそ芝居や絵草紙でも見る気分で鑑賞したらどうだ? 所詮は手の届かない場所の話だ」

 

 ゴトクは茶器を手に取りながら気楽な意見。

 

「そうカンタンに割り切れますかね……?」

 

 正直、今のところ自信はない。

 何ともはや、モヤモヤした気持ち。

 バッキーは無言で、お茶の入った茶器を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼時――

 

 

「うわああ~~……。それはたまらんなァ」

 

 冒険者食堂内。

 

 ネイテクと雑談をしていたジロは困った顔をした。

 いや。

 切実とも言える。

 

 伯爵夫人による、サキュバス街規制の呼びかけ。

 新聞などで、情報は各地に伝わっていた。

 

「わしみたいなオッサンみたいなオッサンには憩いの場ちゅうか、生きてくための希望やで?」

 

「大げさ……でもないですか、あなたの場合」

 

 ネイテクは片眼鏡(モノクル)をクイと上げた。

 そして。

 少しだけ、憐れむように笑う。

 

「せやねん。何しろ? わしみたいな〝キモくて金のないオッサン〟は、人間のウーマンなんか相手してくれんのやで。サキュバスちゃんの癒しのおかげでやね」

 

 よっしゃ。明日も仕事がんばろう!

 

「ちゅう気持ちになって、日々がんばれるんやないかい」

 

「そこは、同意しますよ。私だって、似たようなものですから」

 

「まったくやで! これはもはや非モテ男への弾圧やで!」

 

 ドン

 

 ジロは飲み干したジョッキを、テーブルに置いた。

 叩きつけるように。

 強めの力で、感情をこめて。

 

「しかしねえ」

 

 ネイテクは苦笑しながら(さかな)をつまみ、

 

「女の側からすると、不満が出るのが当然でしょう。むしろこの国では適応してますよ」

 

「そうなん?」

 

「ずっと遠方にいけば、サキュバスそのものを邪悪な魔族として敵視する国も珍しくないですから」

 

「うーむ。人種差別みたいなもんやね」

 

「どうですかね?」

 

 ネイテクは肩をすくめ、

 

「彼女たちからすると、子犬がキャンキャンうるさいくらいの感覚じゃないですか? 向こうが本気ならほとんどの国は占領されて支配されてますよ」

 

 それほどまでに――

 サキュバスの魔力は並外れてるんです。

 

 他人事(ひとごと)のように言った。

 事実、他人事(ひとごと)なのだが。

 

「人間からすると、子犬や子猫なんて殺すのも蹴飛ばすの簡単でしょう? でも、一般的な感性を持ってたらやらないじゃないですか」

 

「確かにそうやねえ」

 

 ジロも納得をしてしまう。

 

「人間にしろ、鳥類(とり)哺乳類(けもの)にしろ。小さな子供を殺すのは嫌なもんですよ」

 

「うん」

 

「そう言いつつ? 虫やトカゲだったら平気なのが勝手なもんですが」

 

「あははは。……あー、おかわり頼むわ」

 

 通りがかった店員に空ジョッキを見せて注文をしながら――

 

 ――考えてみれば、犬猫の保護を熱心にしとるヤツが蛇とかトカゲにそれをやるかっちゅうたら、アレやね。

 

 キャパシティーの限界ということもある。

 しかし。

 犬の保護と、絶滅危惧種の昆虫。

 これを同レベルで見て、考える人間というのはいるのか。

 

 ――おるとは思うけども……。少数派と違うんかなあ。

 

 とりとめもないことを考えつつ――

 

「いっそアレやで? ホストクラブでも出したら儲かるんとちゃう?」

 

 と。

 

 極めて無責任。

 かつ。

 テキトーなことを酒の勢いで口走っていた。

 ゲラゲラ笑いながら。

 

「なんですか、それは」

 

「えーっと、なんちゅうたらエーかなあ?」

 

 ネイテクの疑問に、ジロは色々思い出しながら、

 

「わいの知ってるところを言うとやね……」

 

 

 ただその場で流れていくような雑談。

 その程度。

 

 が。

 

 ジロたちの死角。

 ちょうどその位置のテーブル。

 

「…………」

 

 そこに座っていた猫みたいな雰囲気の――

 小柄で中性的な少女。

 

 マコネはジッと、その会話に耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんが……」

 

 ショケラ・ロシトー伯爵夫人

 淑女の前で、カーシャは丁寧に謝罪の言葉。

 

「断れない仕事が舞い込んでしまい、お手伝いできそうにありません。半端なことをすればかえってご迷惑。どうぞご容赦くださいませ」

 

「まあ、それは……。残念だけれど、事情がおありなら無理強いはできませんものねえ」

 

 残念そうな顔。

 夫人はそれを出しながらも、柔和な態度だった。

 

 少なくとも。

 

 外見上はそう見える。

 本心のところは、不明だが。

 

「ですが、その事業は淑女のかたがたに喜ばれるものだと思っておりますわ」

 

 カーシャは少し手を広げた動作。

 それを行いつつ、優美な笑顔を浮かべた。

 

「はて?」

 

「できるだけ急ぐ次第ではございますけれど。準備には万全を期したいと愚考しております」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほすと、くらぶ???」

 

 なんじゃ、それは。

 

 キューモは不審そうにタロザを見た。

 

「お酒を飲んで、女子(おなご)と話したり遊んだり。そういうお店はありますやろ? それの女性用みたいなもんどすわ」

 

 タロザは色んな書類を手に、ニコリと微笑む。

 その顔だけなら――

 はんなりとして、ゆるやか。

 優し気な美女だった。

 

「それ、大丈夫?」

 

 メッカイがギョロッとタロザを見た。

 半分睨んでいるとも言えた。

 

「準備資金はよそからたんまり出ますよって心配ありません。お店の権利も儲けも勝手にせいということで」

 

 ただし。

 つぶれて借金作るのも、こっちの責任やそうで。

 

 タロザはそう言いながら、目を細めた。

 

「物好きなヤツじゃのう? 金をドブに捨てるようなもんじゃが」

 

「お金にはぜんぜん執着のないかたですよって」

 

「どこの【お貴族様】じゃ、そいつは」

 

「元・貴族というべきですねえ」

 

 ジト目のキューモへタロザはあだっぽい笑みを返し、

 

「貴族のかたがたは、むしろ金銭(おあし)にはシビアどすけど」

 

「それ、あの青髪?」

 

 メッカイは目を見開いた。

 驚いてる。

 

「はいな」

 

 タロザはうなずき、

 

「あてのことを見込んでこれをまかせてくれはったんです。放り投げてきたと言えますけどなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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