破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その72、まあなんでもいいですけれど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……裸踊りのできるヤツだと?」

 

 タロザと話していた男は怪訝な顔。

 

 大きな男だった。

 腕も足も手も指も、首も。全てが太い。

 分厚い筋肉の上を脂肪が覆っている。

 表面の皮膚。

 それは頑丈ななめし革みたいだった。

 

 いかつい。

 その言葉しか似合わない顔。

 

「はいな。隊長はんやったらお顔のお広いやろ思いましてなあ」

 

 タロザはニコニコと言った。

 

「そんなこと言われてもなあ……」

 

 いかつい男は、困った顔で頭を掻く。

 長めの髪。

 その上にバンダナを巻いている。

 

 ボーサ・メコー。

 ネビズのギルドナイト。

 その2番隊長をつとめる男である。

 

 ちなみに。

 1番隊長をつとめるのはライワだった。

 

「宴会の席でそんなのをやるのはいるけどなあ?」

 

 言いながら、頬を掻くボーサ。

 その表情は魁偉な風貌とは裏腹に親しみやすさがあった。

 

 むしろ。

 冷酷な雰囲気を持つライワ。

 陰湿な気配のするミゾイ。

 上位の幹部に比べると優しいものがある。

 

「別に踊らんでもよろしおす。ただ、ポージングつけて体を見せつけてくれたらええんですわ。まずはそのへんから色々試してみたいんで」

 

「そりゃガタイのいい野郎はゴロゴロいるけどよ」

 

 言いながらボーサは大きくため息を吐いて、

 

「基本無学で教養とかマナーと無縁の連中だぞ? 金持ちのご婦人がたを楽しませるおしゃべりなんざできるかんねえ。いや無理だと思うぞ」

 

「探せばいてはりますやろ」

 

「そういう小器用な真似ができるヤツは、とっとと足洗ってカタギになってる」

 

 と、ボーサは首を振る。

 

「いえいえ」

 

 しかしタロザはあくまでにこやかに、

 

「おしゃべりなんかは、今すぐとは申しません。それはもっと後、本格的にお店を開く時ですわ。まず体がムキムキなんをそろえたい思いましてなあ」

 

「う~~~ん。しかしなあ」

 

「見栄えも化粧やらお手入れやらを事前にやっとけばよろし」

 

 やはり困っているボーサへ、

 

「とりあえず? お願いしますえ」

 

 柔和ながら強引な要求をし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「……で。あいつらなにやってンのかね?」

 

 集団となり、汗だくでひたすら走り続ける男たち。

 それを見ながらマコネは不思議そうに言った。

 

 街の外である。

 ネビズの外壁――

 これにそって、何周も走っているのだ。

 

 体力自慢の冒険者たち。

 いや。

 体力そのものが商売道具とも言える連中。

 そんな男たちでも、きつく苦しく感じる長時間のもの。

 

「体を絞っている、ということらしいわ」

 

 食事にも制限があるようね。

 

 と、カーシャは言った。

 

「なんでさ?」

 

「見栄えのある体にするためだそうよ。ただ単にごつくていかついものじゃ女、特に貴婦人がたは喜ばない」

 

「まあ、単に裸になるだけじゃむさ苦しいだけだもんな」

 

 マコネはしゃがんだ姿勢で、両手で頬杖(ほおづえ)をついた姿勢。

 

「しかしさあ、あの商売って、うまくいくのかねえ?」

 

 カーシャを見上げながら、マコネは言った。

 

 ジロたちの話で盗み聞ぎした〝ほすとくらぶ〟なるもの。

 これについてカーシャへご注進したのは彼女である。

 

 カーシャは、その大まかな概要をタロザに話し――

 丸投げした。

 資金は用意するが、それだけでもある。

 

「さあね」

 

 カーシャはいつもの淡々とした声で、

 

「やりようによっては儲かるでしょうけど……。それであの手の女が静かになるかは疑問ね」

 

「そうなン?」

 

「ええ」

 

 と。

 カーシャはわずかに唇を歪めて、

 

「話を聞いた分では、確かに女を引き寄せて楽しませることはできると思う。ただ……」

 

 その店には、致命的な弱点がある。

 

 断言した。

 

「なんだよソレ?」

 

「店でどれだけ美男子にチヤホヤされても、マウントは取れないからよ」

 

「?」

 

「そうね。男でたとえるなら金で娼婦を買ったようなものかしら。そんなもの、どれだけやったところで自慢にはならないわ」

 

「あー。金払ってサービスしてもらうのはおんなじなわけか。なるほど」

 

「割り切って楽しみ、ストレスを発散させるのもいるでしょうけどね。でも、それ自体は自慢にならないのよ」

 

「だったらそれで良いと思うけどな」

 

 マコネはやや不思議そうな顔。

 

「他の女にマウントを取り、優越感を得るには――自分がお姫様になるだけでは不完全。誰にも自慢できるような男を夫や恋人にしないとダメなのよ」

 

「なんだ、それ」

 

 猫っぽい少女は、あきれた顔。

 

「ンなもの、ロバがライオンの皮かぶってイキってるようなもんだろ。ダメじゃん」

 

「あなたみたいなタイプは、そうでしょうね」

 

 カーシャはマコネを見た。

 表情はほとんど変わらない。

 ただ。

 その瞳はどこか穏やかに見えた。

 

「けど、いるのよ。一部にはね。マウントとらないと生きていけない。マウントとれないと気が狂うってタイプがね」

 

「そんな根性じゃ、なんかあったら野たれ死ぬぜ?」

 

「かもねえ。私も野たれ死んでた可能性が高かったわけだし。そういう一部の女だったから」

 

 ククク。

 

 と。

 カーシャは、明確な自嘲をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、こりゃあミズんところの……」

 

「あ……。これは、どうも」

 

 ネビズの街中。

 屋台店が並ぶ道を1人歩いていたバッキー。

 

 最近続くアレコレのおかげで、

 

 ――しんどいわ、精神的に……。

 

 という状態だった。

 

 そこに声をかけてきたのが、

 

「面白そうな話が出ているじゃないのさ」

 

 蛇のような眼。

 痩せた長身。

 フェイスベールで口元を隠した女。

 

 死霊魔術師(ネクロマンサー)・ミゾイ。

 

「男に女の接待させたり、ストリップ見せたり。面白い、面白い」

 

 と、蛇のような女は手を叩きそうな態度。

 

「他の国に、そんなものがあるようには聞いてたが。ここで商売として始めるたぁね。いけるかもしれないよ?」

 

「私はなんにも関わってないんで、よくわかんないんですけどね……。喜ぶ人は、まあ、いるんじゃないですか?」

 

 バッキーは気のない返事である。

 

「ずいぶん元気がないのじゃないか。腹でも痛いのかい?」

 

「いえ……」

 

 バッキーは苦笑して首を振る。

 

「ただ、夢見が悪かっただけですよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中。

 そこに、バッキー本人はいない。

 ただ見ているだけだ。

 

 夕暮れ時。

 

 男が河原に座っている。

 ずんぐりとした体形で、背も高くはない。

 顔は、お世辞にも良いとは言えなかった。

 ガマのような顔をしている。

 

 だが。

 

 哀れな容姿とは裏腹に、男の目はどこか圧力がある。

 相対する者を押しのけるような。

 強烈なものを密かに燃やし、放っているようだった。

 

「どうです? これからあなたの力と存在を世間にお見せになさったら」

 

 いつの間にか――

 女が男の後ろに立っていた。

 美女。

 猫の雰囲気をした、妖艶な女である。

 

 しかし。

 

 ゾッとするような気配を、女は放っている。

 まるで闇夜に潜む獣みたいに、見えにくく、わかりにくい。

 でも。

 確実にあるもの。

 

「ふん」

 

 男は鼻で笑った。

 

「俺の力? お前がお膳立(ぜんだ)てしたものじゃないか」

 

 ばあちゃんからもらった小づかいを自慢するガキみたいなもんだ。

 

 男の態度は、冷たかった。

 

「あら。でもそれはもはやあなたご自身のものになっていますわ。血となり、肉となって」

 

「それは光栄だね」

 

「――私はあなたが満足し、自然の寿命を迎えるまでお仕えする。そういう契約になっておりますの」

 

 あるいは、望まれるものを。

 

 女は微笑む。

 

「望み? 望みだと? なら、俺の望みを言ってやろうか」

 

 男は芝居がかった仕草で片手をあげた。

 

「俺は世の女どもというのが我慢ならない。つまり――」

 

 女という生き物に復讐をしてやりたいのさ。

 

 自嘲か。

 嘲笑か。

 どちらにも見えるものを男は浮かべた。

 

「それなら簡単ですわ。誰もがひれ伏し、あるいはありがたる女。そんなのをあなたの雌奴隷にしてしまえば」

 

「くだらない」

 

 女の言葉をさえぎり、

 

「そいつは結局、女を飼って楽しませてやるってことじゃないか。そいつらは幸せだろうよ、たとえ客観的にはドラッグでバカになってるようなものでもな」

 

「これは思わぬお返事」

 

 女はむしろ楽しそうな反応。

 

「俺は女に選ばれるために意識無意識にかかわらず、あくせくと競争をする男という存在。それそのものに哀れさを感じた。自分が同類な分、より強烈に」

 

「でもそれは自然の法則というものですわ」

 

「理屈などどうでもいい。俺は、女の価値そのものを崩壊させてやりたいのさ」

 

「なるほど?」

 

 女は興味の瞳で男の背中を見つめた。

 

「女の存在が黄金だというなら、そうだな。俺は黄金を雨のようにばらまいてやる。世界中にだ」

 

 男は立ち上がる。

 その眼は、沈んでいく太陽を見つめていた。

 

「ただ? それは悪魔の所業ですわね」

 

 ニコニコと。

 嬉しそうに。

 楽しそうに。

 

 女は微笑する。

 

「人間という種そのものを滅亡へ導くようなものですから」

 

「かまうものか」

 

 男は振り向かない。

 ただ。

 夕陽を見続けている。

 

「こんな社会も文明も、あと百年、いや50年先だって怪しいモノだ」

 

 どうせ滅びるのなら――

 最後は華やかに。

 

 男は言った。

 何かの託宣みたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次の話はミゾイ・シーダを中心にしたものを予定。
(変わるかもしれません)

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
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