破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

86 / 357
その73、逃げる女

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれ?

 

 歩いていたバッキーは足を止めた。

 

 少し前の道。

 背の高い女が身をかがめるようにして歩いている。

 どこか隠れるような足取り。

 

 フードをかぶっている。

 ただ。

 そこからのぞく顔つきに、

 

 ――??? あれ?

 

 バッキーはオカシイなと首をかしげる。

 

 蛇のような切れ長の目。

 ミゾイ・シーダ。

 ギルドナイトに所属する死霊魔術師(ネクロマンサー)

 

 ふてぶてしく、毒蛇のような――

 そういう雰囲気の女。

 ……なのだが。

 

 ――どうしたんだろ?

 

 どこか世間をはばかるような。

 コソコソした態度。

 普段のミゾイからは、考えられない。

 

 ――なんか、あったのかしらん……。

 

 正直。

 俗っぽい好奇心がわいてしまうバッキー。

 

 とはいえ、

 

 ――あんまり変なことにかかわるのもなあ……。

 

 カーシャに巻き込まれて、色々な目にあった。

 そういう経験上、

 

 ――見ないふりしよう……。

 

 やや薄情だと、自分でも思った。

 しかし。

 考えなしに人助けなどと考えられるほど、

 

 ――善意で動けるわけでもないしなあ。

 

 なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……。やっと終わった……」

 

 ジロはブツブツと言っていた。

 ネイテク、そして数人の冒険者と一緒に街道を歩いている。

 

「まあ時間がかかるとは、最初からわかってましたけどねぇ?」

 

 クエストの説明で、そう釘を刺されたし。

 

 ネイテクは苦笑を漏らしながら応えた。

 

 2人はあるクエストを、(ほか)数人の冒険者と共に受けた。

 しかし?

 クエストは予想外にてこずり、数日を要した。

 それでも、何とか無事終了。

 意気揚々とまでいかないが、笑顔を共に――

 全員無事でネビズへ帰る途中だった。

 

 その途中。

 

「失礼」

 

 旅姿の男が近づいてきた。

 せかせかとした早足だ。

 なかなかの健脚らしい。

 

「何でしょう?」

 

 ネイテクが応対する。

 ジロは見るともなく、男を見たが、

 

 ――なかなかの男ぶりやんけ。

 

 わりと素直にそう思った。

 

 旅の途中だからだろう。

 無精ひげで、全体に汚れている。

 だが、不快感はなかった。

 整ってはいるが、美男子というより【男前】という感じだ。

 顔立ちだけはなく、スッキリとした雰囲気。

 あまり若くはないが、筋骨はたくましかった。

 

「ヒトをたずねているのだが……」

 

 コレコレのような女性をご存じないか?

 

 男はそんな質問をした。

 

「え? それって……」

 

 横で聞いていたジロは、思わずつぶやいてしまう。

 

「そちらのかた、何かご存じですか?」

 

 男は丁寧な口調で聞いてくる。

 しかし、かなり強い圧だ。

 

「ミゾイのおねえさんとしか……」

 

 探しているいう人物。

 女性。

 説明された独特?の 特徴は、

 

「ミゾイ・シーダのおねえさんとしか……」

 

 なので、そのままを語ると、

 

「それはどのようなかたで?」

 

 ぐいと、男は詰め寄ってきた。

 瞳に強いものがギラギラと光っている。

 

「確か、ネクロマンサーとか……」

 

「さようですか」

 

  男はうなずき、

 

「お手数をかけました。感謝いたします」

 

 丁寧に礼を言って歩き出していく。

 半分は知っているとも言えた。

 

「な、なんじゃ、あのオニイチャンは……」

 

「目の光が普通じゃあなかったですねえ」

 

 と、ネイテクは首をかしげて、

 

「しかし、仇敵(かたき)を探しているような感じでもなかったかな?」

 

「生き別れの家族かなんかかな? あんまり似てなかったけど」

 

 ともかく。

 ジロたちはポカンと男の背中を見送るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? シーダさん?」

 

 冒険者ギルド本部。

 大勢の冒険者が仕事(クエスト)を求める場所。

 

 ミゾイは仕事の用事で、カウンター近くに行って――

 そこで、不思議そうな視線を受けた。

 

「なにさ?」

 

「ああ、いえ?」

 

 と、視線を送ってきた受付は、

 

 ――おかしい、変だな?

 

 そんな顔で、

 

「シーダさん、ついさっき宿屋通りのほうを歩いてなかったですか?」

 

「は?」

 

「なんかいつもとちがう様子で、歩いてるのを見たから……」

 

「あたしゃ、さっきまで上で仕事してたんだけど?」

 

 ミゾイはちょっと嫌な顔で天井――

 正確には、2階を指す。

 

「けど、あれは確かにシーダさんだったと……。見間違いだったのかなあ?」

 

 納得いかない。

 そういう感じで受付は【?】をいくつも頭上に浮かべる。

 

「よしなよ。ドッペルゲンガーじゃあるまいし……。いくら死霊魔術師(ネクロマンサー)だって、早々そんなものに出られちゃたまんないね」

 

 ドッペルゲンガー。

 自分と瓜二つの相手が、現れる現象。

 死の予兆などとも言われるが……。

 

「そいつ、どんなだったのさ?」

 

「えーと、こうフードを頭にかぶってて、ちょっと落ちつかない感じだったかな? あ、後フェイスベールつけてませんでしたね」

 

「……」

 

 ミゾイはムスッとした顔でそれを聞いていたが、

 

「口元は?」

 

「え?」

 

「これを取った、下の顔はどんなんだったか? それを聞いてるんだよ」

 

 と。

 蛇に似た女は、自身のトレードマークにもなっている――

 フェイスベールを触りながら聞いた。

 瞳の奥に、鋭いものがある。

 

「どんなって……普通でしたよ? 普通の顔」

 

「……そうかい」

 

 ミゾイは何気ない仕草で髪を掻きながら、

 

「ちょっと出てくるよ」

 

 それだけ言って、ギルドを後にした。

 

 

 少したってから――

 

 

「……」

 

 その乙女が入ってくるなり――

 ギルド内部に緊張が走る。

 

 カーシャ。

 王都を追放された元・公爵令嬢。

 悪評高く、悪名は地方に知れ渡っていた乙女。

 

 だが。

 同時に。

 

 ドラゴンスレイヤーとして。

 恐ろしい殺戮者として。

 

 尊敬ではなく、恐怖の対象として冒険者全体に見られている人物。

 

 それが、

 

「姐さん、ここに来るのはしばらくぶりじゃないのかい?」

 

 野良猫のような少女……マコネと共に入ってきた。

 

「あまり、その手の仕事(クエスト)がなかったものだから」

 

 そんな会話をかわしつつ。

 クエストの並んでいるボードの前に。

 

「さーてと」

 

 マコネが下唇に指を当て、ボードを見上げた時、

 

 こっそりと。

 まさに。

 そんな感じの動作で、女がギルドに入ってくる。

 

 薄汚れたフードを目深にかぶり、遠慮気味だった。

 

「すみません。こちらで、仕事がもらえると聞いたもので……」

 

 そう言いながら、女は受付カウンターへ、

 

「ありゃりゃ?」

 

 マコネは女を見るなり、

 

「おい、あんた?」

 

「……?」

 

 女は、フードの下から(いぶか)しげにマコネを見る。

 

「いや、なにやってんだ。ギャグか、それ?」

 

「はい……?」

 

 女は、ただ困っている。

 どうにも対応ができないようだ。

 

 その時、

 

 ファサ……

 

 いきなり。

 女のフードがはずされた。

 

 黒く、長い髪がこぼれて落ちて――

 素顔があらわになる。

 

 細く、切れ長。

 蛇に似た眼。

 

「あ」

 

 受付から小さな声。

 

「ああ、やっぱり」

 

 マコネが肩をすくめた。

 

「……!?」

 

 女はあわてて後ろを振り返る。

 

 いつの間にか。

 カーシャは女の後ろに立っていた。

 

「な……何をなされますっ」

 

 女はあわててフードをかぶりなおそうとする。

 

 この時。

 また、1人がギルドへやってきた。

 

「……!」

 

 旅人らしき男。

 それは。

 先ほど、ジロたちに話しかけ、たずねた男。

 

「イオ殿……!」

 

 男は女を見るなり、顔色を変えた。

 

「ここに、おられたのか……。探しました、まったく探しました……!」

 

 どこか。

 嬉しげに。

 

 男は女に近づいていくが、

 

「存じません! ヒト違い……ヒト違いです!!」

 

 女は悲鳴のような声をあげて、逃げ出した。

 思わぬほどに。

 機敏ですばやい動きだった。

 

「……待ってください!」

 

 男は追おうとする。

 だが。

 

 とっさのことで――

 

 足元が狂ったらしく、よろけて動きが遅れてしまう。

 その間。

 女はドアを蹴破るように出ていく。

 

「……!!」

 

 男は、必死の顔で起き上がる。

 そして。

 女を追って出て行ってしまった。

 

 ほんのわずかな。

 

 しかし。

 嵐のような出来事だった。

 

 

「なんだ、あれ……?」

 

 マコネは呆れたような顔でつぶやく。

 

「あの、死霊魔術師(ネクロマンサー)のねえちゃん、色恋のドタバタでもあったのかな?」

 

「いや――」

 

 それに、カーシャは小さく首を振る。

 

「ミゾイ・シーダじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。