破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その74、悪い奴ら

 

 

 

 

 転がるように――

 ……というよりも。

 水の中で溺れるように、女は道を走っていた。

 

 必死の顔。

 顔は汗だくになっている。

 

 ちょうど、小さな路地裏の前を通り過ぎかけた時。

 

 まるで。

 溶けるように。

 

 女の姿は消えた。

 

「イオ殿……!」

 

 小さく叫びながら、追っていた男。

 不意に女の姿を見失い、

 

「……! …………!?」

 

 これも必死の顔で周囲を見回した。

 だが。

 女の姿は見えない。

 

 路地裏も覗き込み、念入りに探した。

 しかし。

 結果は変わらない。

 

 それから。

 男は今まで以上の勢いで、また走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶんと、忙しいお体のようだねぇ?」

 

 ある小間物店の裏口前。

 そこにへたりこんだ女へ、ミゾイは静かな声で言った。

 

「……? ……? …………!?」

 

 一体、いつ。

 どうやって。

 自分がそこに引っ張ってこられたのか――

 

 まるでわからない女は水をかけられた猫みたいだったが、

 

「…………えっ?」

 

 ミゾイの顔を見上げて、絶句した。

 

「生き別れの姉妹……だったら芝居みたいだけど。私にゃそんなものはない」

 

 それに。

 種族からしてちがうもの。

 

 ミゾイはからかうように言いつつ、フェイスベールをおろした。

 耳まで、大きく裂けた蛇のような口。

 チロチロと動く蛇の舌。

 

「あんたは、人間のようだからね」

 

 ミゾイはフェイスベールを戻して言った。

 

「しかし、ま。こうしてそっくり同じ顔と出会ったのもなんかの(えん)ってものさ。お困りの様子だし、手を貸さないでもないよ」

 

「……」

 

 女は目をそらしている。

 おびえと、警戒。

 明らかにそういうものがあった。

 

「ふうん」

 

 ミゾイは、自分そっくりの女を面白そうに見つめ、

 

「さっき追われてた男は、何者だい?」

 

「……それは」

 

 女は、言いよどんだ。

 

 ――まあ、会ったばかりのそっくりさんだ。怪しく思うなってのが無理ってものさ。

 

 ミゾイは内心苦笑する。

 彼女自身も、この女をそういう目で見ているのだから。

 

「与太者の(たぐい)なら、難しく考えるこたぁない。これでも、ギルドじゃ顔がきく立場だからね。ちょいと人手を借りるのも簡単さ」

 

 あの男を、適当に痛めつけて追い出せばいいんだろう?

 

「なに、かまうことはないさ。腕の1、2本もへし折ってやれば――」

 

「や、やめてください!!!」

 

 ミゾイが芝居がかった態度で言っている途中。

 女は、必死の形相でミゾイの足にすがりついた。

 

「ちがいます、ちがいます! あのかたは、そんな者ではありません! 私が、私がいけないのです! 仕置きをするなら……私を打つなり蹴るなり、存分になさってください」

 

 叫ぶ女。

 その眼には、涙がにじんでいた。

 

「おや?」

 

 と、ミゾイは女の顔を覗き込み、

 

「どうやら、悪いヤツというわけじゃあなさそうだ。それに、お前さんも嫌っているとかそんなでもないね?」

 

「……」

 

 女は、また黙り込んでしまう。

 

「察するに、お前さんの〝男〟かね? つまり亭主か、それとも」

 

「そ、それは、それは…………」

 

 女はひどく言いにくそうだ。

 ただ。

 そのわずかに紅潮した頬や、目つきを見るに、

 

「男の女の関係ってのは、確からしいね」

 

 と。

 蛇性の女は、好奇の目を細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガクア。

 

 ヤオアムトから見ると、ずっと南にある国。

 ここからヤオアムトへ向かう場合――

 海路を使って行くのが一般的、もっとも速い。

 

 それはさておき。

 

 ガクアのある街。

 これにつながる街道。

 

「もうすぐ、つきますね」

 

 地図を広げながら、1人の少年が言う。

 見たところ。

 魔導士らしい、そんな服装。

 10歳か、もう少し上か。

 利発そうで、形の良いおでこに黒髪の少年。

 

 この少年――そのとなり。

 無精ひげの冒険者風の男が並んでいた。

 

 ガイスト。

 

 カーシャたちが、ワシローにおもむいた時――

 色んな巡り合わせで敵対した人物。

 

 この男が、何故この少年といるのか。

 それについては。

 また別の話となるが……。

 

案内書(ガイドブック)によりゃあ、地酒やらキノコ料理やらが美味いらしいな」

 

 ガイストは顎をなでながら、気楽な態度。

 

「観光旅行じゃないんですけど……」

 

 少年はジト目で見る。

 半分睨むような目つき。

 

「別に急ぐ旅でもなかろうさ」

 

「期限は特にないけど、できるだけ早くと言われてますよ?」

 

「それでもだ。たまにゃあ骨休めをして英気を養わんとな」

 

「ガイストさん、骨休めばっかりしてませんか?」

 

 などと。

 ガイストはヘラヘラお気楽な態度だった。

 

 が。

 

「……」

 

 不意に。

 立ち止まると、鋭い目つきで街道の外を見る。

 

 街道といっても――

 周辺は木や草のしげる林。

 

「あの」

 

「……」

 

 怪訝(けげん)に思った少年に、

 

 ――静かに。

 

 そんな仕草をしてみせ、ガイストは街道を離れて木々の中に。

 少年は、わけもわからず。

 あわてて、その後に続く。

 

「………!」

 

「……!!」

 

「……っ」

 

 ――なんだ?

 

 物音。

 いや、何か怒鳴り、叫んでいる声。

 

「……」

 

 ガイストは身を低くして、静かに――

 だが、見た目に反したすばやさで近づいていく。

 少年も遅れながら、これを追った。

 

 そこで見えたもの。

 

 数人の男が、1人の少女を取り囲んでいた。

 というより。

 寄ってたかって押さえつけ、衣服をむしり取っている。

 

 その近くには、血まみれになった子供が倒れていた。

 

「あ……!?」

 

 声をあげそうになった少年の口を、ガイストがふさぐ。

 

「いいか。こうだ。急げよ?」

 

 男が何事か指示して、少年は強い瞳でうなずいた。

 

 そして。

 

 ドカッ

 

 草むらから飛び出したものが、男の1人を蹴り飛ばした。

 

「なにっ!?」

 

「……なんだぁ!?」

 

 奇襲を受け、驚いた男たち。

 襲ってきたのは、真っ黒な(もや)のようなもの――

 それに全身を覆われた得体のしれないナニカ。

 

 ガッ

 ゴッ

 ベチィッ!

 

 何がどうなり、どうされたのか。

 

 男たちは転がり、吹っ飛ばされた。

 予想外の事態。

 これに恐怖して、男たちは先を争って逃げ出した。

 

「……」

 

 黒い靄をまとった怪人。

 正体を隠す細工をしたガイスト。

 男は、他に気配がないのを確認する。

 

「うわ、ひどい……」

 

 少年が、血まみれになった子供を見ながら小さな悲鳴。

 

「確かにひでえが、まだ息はあるぜ」

 

「そ、そうですね!」

 

 少年は、あわてて子供に治癒魔法をかけ始めた。

 

 少女は状況を理解できず、ただ状況を見つめているばかり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、ガクアの生まれで、名前をイオ・ヘビューテ……と申します」

 

 ミゾイそっくりの女は、ポツポツと語り出す。

 

 場所は、ネビズの郊外。

 そこにひっそりと建っている小さな家。

 家というより、大きめの小屋という感じだが。

 あまり知る者のない、ミゾイの家だった。

 

「私はそこで、死霊魔術師(ネクロマンサー)をしておりました。いえ、大した術は使えない、ほとんど墓守みたいなものでしたけれど……」

 

「へえ?」

 

 イオの職業に、ミゾイは面白そうに笑った。

 

「そこも、偶然だねえ」

 

「?」

 

「いやなに、こっちのことさ。それで?」

 

「私はそこで、ヒトを殺めて逃げてきたのでございます……」

 

「ヒト殺しねえ?」

 

 ミゾイは何気なく言いながら、ついっとイオの右手を取る。

 

「え、なにを……?」

 

「あんた、本当に殺しをしたのかい?」

 

 ミゾイは、刃物を突き付けるようにたずねた。

 

 ――嘘は許さない。

 

 そういう目だった。

 

「いえ……。それは……。もう、しょうがないことです。今さら、どう言っても……」

 

「つまり。実際に殺ってはいないけど、その罪を被せられて、逃げたってことか」

 

「……」

 

 イオは、何も言わない。

 力なくうなだれたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつは、間違いなくヴァイパーの連中ですよ?」

 

 街の小さな……というより、ボロい宿屋。

 不愉快そうに言ったのは、店の主人(おやじ)

 

 あの後。

 少女たちを、家があるという村へ送ってから。

 ガイストたちは街に入ったのだが。

 

 襲われていた少女のことなど。

 余計なことは省きつつ――

 ガイストがチップをはずんでから、それとなく聞いてみたところ。

 

「まったく、むかっ腹が立つやら……くやしいやら」

 

 主人は憤慨している。

 

「盗賊かい、そいつらは?」

 

「このへんを治めてる領主に飼われてる、まあ騎士団ってことになってますがねえ。何のことはない、たちの悪いゴロツキどもですよ」

 

「おっかないな、近づかんようにしてくか」

 

「悔しいけど、そいつが賢明ですよ。ことに、首魁(ボス)のヤツが街を離れているもんで、余計好き勝手にやってるんです」

 

「ふーん。その領主様にお呼ばれでもしてるのかね?」

 

「いや、それが……」

 

 主人は声を潜めて、

 

「実はねえ? そのボスってのは最近先代にとって代わった野郎なんだが、先代を殺したって女を追って遠出してるんです。どうも遠国、船でヤオアムトまで行ったらしいですねえ」

 

 腕利きの、凶暴な連中を選りすぐってね。

 

「……本当に、遠いな」

 

 あまり良いとは言えない経験。

 それを思い返しながら、ガイストは相づちを打つ。

 

「だけどねえ? そんなのは絶対でっち上げですよ。イオさんにそんなことできるわけない」

 

 と、主人は心底同情した顔。

 

「それが、その逃げた女の名前かい?」

 

「ええ。かわいそうなヒトでねえ……。先代のヒヒオヤジに(めかけ)にされて、さんざん嬲り者にされてたそうで……」

 

「かわいそうに……」

 

 ガイストは言いながら目を閉じる。

 似たような話はどこでもあるが――

 間近で聞くと、嫌なものだった。

 

「イオさんを心配して、ナディゾのあんちゃんも行っちまったし……」

 

 主人は、心配そうにため息。

 

「誰だい、そりゃあ」

 

「イオさんと仲の良かった職人でね、半分冒険者みたいなこともしてた男なんだが。ヴァイパー団の連中に捕まっちゃあ大変だってね。ありゃあ絶対惚れてるんですよ」

 

「ほう……」

 

 ガイストは顎をなでて、

 

「すると、そのイオって(ひと)は相当に美しいんだなあ」

 

「ああ、いやあ、それが……」

 

 そこで。

 主人はちょっとバツの悪そうな顔で、

 

「良いヒトだったから、あんまり悪くも言いたくはないんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガイストさん……。一体、何話してるんだろ……」

 

 部屋では――

 少年が暇を持て余してつぶやいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
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