破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
沈んだ顔で、男は席についていた。
ネビズの街。
色んな客の来る大型食堂。
料理にも何にも手をつけず。
男はただそこにはない何かを見ている。
と。
食堂に足音もなく入ってきた者がいた。
それは、気配もなく男のそばに立つ。
ポン
小さく、男の肩を叩いた。
「……?」
男は、
「あ……!」
搾り出すような声をあげて、立ち上がる。
そして。
相手の顔をマジマジと凝視していたが、
「……」
失望した目で、また席に座る。
「ふーん? 見分けはハッキリつくようだねえ? 感心、感心」
その相手――
ミゾイ・シーダは笑いながら、男の顔を見る。
「私と似た女と、それを追っかけてる色男がいるってんで。来てみたが……」
「あなた、まさか……!?」
男はハッとして目を見開き、ミゾイを振り返った。
「いやいや」
ミゾイは軽く手を振りながら、
「別にイオさんの双子の姉妹、って落ちはない。他人の空似だよ。現に、あんたもすぐわかっただろう」
「しかし……。やはり、イオさんのことをご存じでは?」
「ふうん。でも、知ってたらどうするね? 国へ連れて帰るかい? 罪人なんだろ?」
「違う!」
と、男は強く否定する。
「あのひとは、そんなものじゃない。濡れ衣だ……!」
「そうらしいね。運の悪いことさ」
ミゾイは肩をすくめて、
「かといって。公平なお裁きで無罪になるってな、楽観的な考えでもあるまい?」
「……確かに、そうです」
男は苦しそうな顔で拳を握りしめた。
「……?」
カーシャは、宿の部屋から下を眺めていた。
その時。
何となく、気になるものを見つけた。
上から見える道を、見かけない集団が歩いている。
マントを羽織り、フードをかぶった旅姿。
背格好や、歩き方から見て取れる骨格など。
そこから、
――全員、男か……。
カーシャはそのように見て取った。
また。
発散している剣呑な雰囲気。
血と暴力の気配。
そうしたものを
これが漂わせる独特の臭気。
――珍しい。
冒険者の街。
ここでも、あそこまで露骨に臭わせている者はいない。
――かといって……。
連中が、ネビズの冒険者よりも強いとか上とか。
そういうことでもないが。
確かに暴力沙汰には慣れているらしい。
けれど。
――殺し合いには、どれだけ慣れているのやら……。
殺すということ。
そして。
殺しあうということ。
これらは、同じようでまるで別のものだ。
カーシャは自然と思い出していた。
あの、赤い地獄。
そこでは、
――こっちが一方的に、ただ殺せばいい……。そんな美味しいことは……。
ほぼなかった。
と、断言しても良い。
油断していい気になっていれば、後ろから刺される。殴り殺される。
相手をウサギだと思い、狩りをするつもりでいれば、
――喉を食いちぎられたもの……。
カーシャは血と死臭ばかりの記憶を思い返した後、
――しかし、あの女……。
ミゾイそっくりの女について、考えて。
窓から、外に飛び出していった。
「変なのが群れで入ってきた?」
報告を受けて、ライワは眉をひそめた。
「ええ。西の街道から。数人の、明らかに
「そんなもの、門の前で追い払えば良かった。というわけにもいかないか」
色んな事情。
あれこれ面倒くさいものが入りまじり、
――安易に、出入りする者を排除できない……。面倒なものだ。
ライワは、部下の報告に剣を取りながら、
「賞金首じゃあるまいな?」
「いえ。それはないです。手配書にはない顔ばかりです」
「ふん」
「言葉のなまりからみると、異国人のようです」
「まったく……」
ライワは舌打ちをして、
「一応監視はしておけ。何かやらかされても面倒だ」
「…………」
ミゾイの家。
イオは、妙な気持ちで座っていた。
テーブルの上には、ポットが静かに湯気をたてて――
手にした茶器の中。
半分近く飲んだお茶が揺れている。
足元には、蛇。
ただし。
全身青白い光におおわれた骨だけの蛇。
つまりスケルトン……アンデッド。
――なんと、すごい……。
イオは静かに感嘆する。
わずかなものながら。
同業であるだけに、ミゾイの実力が嫌でも理解できた。
――私の術など、まるで遊び事だ……。
コンプレックスよりも、むしろ清々しくさえある。
マホーラガ。
ミズイは自らをそういう種族だと言った。
ベールに隠れていた、裂けた口を見せながら。
――でも、なんだか……。
顔がそっくり同じせいか。
それとも、どこか親しみを感じるミゾイの所作ゆえか。
イオは、ふるさとの家にでも戻ったような。
不思議なものを感じていた。
家。
イオにも、育った家というものはある。
物心ついた時から――
イオは自分が他の家族とは違う立場なのだと思っていた。
実際。
そのような扱いだったわけで。
他人から言わせると、
「まるで、使用人以下の扱い」
だったという。
イオ自身は、
「そういうもの」
「仕方のないこと」
こんな認識だった。
食事も寝る場所も違う。
ただ、
「真面目にやれ」
「なまけるな」
「きちんとしろ」
そう言われて。
ただ、ただ。
従うだけだった。
他に、生き方など知らなかった。
墓守として。
死人を葬り、墓場を整える。
家族よりも墓と一緒にいた時間のほうが長かった。
血がつながっているのか、いないのか。
ここは、よくわからない。
ただ、
――自分は、他のヒトと同じでいられる立場ではない。
そう思って、何事も流して、従っていた。
他の者が前者なら、自分は後者。
言葉や表現は違っても、そのように言われてきた。
だから。
なるべく、静かに死者と共に生きてきたようなもので――
カラン
物音。
それに気づいたイオは、顔を上げた。
ミゾイが帰ってきたか、と思ったのだが、
「なるほど。やはり、そっくりね」
立っていた女。
青い髪をした、ゾッとするような美女だった。
「あ……」
イオが仕事を探しに冒険者ギルドに行った時、
「あの時は、失礼」
フードを後ろからはいだ青い髪の女は、静かに言った。
「なるほどねえ」
ガクアにて――
宿屋の主人から話を聞いた後。
ガイストは何度かうなずいてから、
「まあ、俺もその気の毒な
そう言ってから、部屋に戻り――
「何かわかったんですか?」
「簡単だよ。悪い奴らが、悪いことをしてる。それだけの、嫌な話さ」
少年の質問に、ガイストの気のない返事。
「なんか、子供扱いですね?」
「そりゃしょうがないな。実際、あんたはまだ子供だ」
「むう……」
「とりあえず、俺はちょっと寝るぜ。疲れたんでな」
ガイストは言ってベッドに寝転がったが――
瞳は閉じても、頭はしっかり起きたままだった。
逃亡した女・イオ。
その家族は、魔導士としてそれなりの技を持つらしいが……。
ヴァイパー団先代のボス。
60を過ぎた老人であったが、その迫力も支配力も相当だったらしい。
これに、家は借りを作ったそうだ。
さて。
家には美人で知られた長女がいたのだが、
「それに俺の面倒を見てもらおうじゃあないか」
と、ねじこんだ。
可愛がっていた娘なだけに、親は何とか別のことで……と、頼み込む。
そこで先代は、
「まあ今回のところは、次女で勘弁をしてやろう。だが、この後は色々手を貸してもらわんと困る」
妥協案を出した。
加えて、後々も協力をしろという。
つまり。
魔導士を手駒とするため、そのようにした。
そういうことらしい。
しかし。
ガイストは知らないことだが。
先代は初めから、次女……つまりはイオを目的としていた。
別に、
そういったものが目当てだったわけでもない。
イオの能力は、そこまで高いものではないからだ。
わりと、単純に。
老齢の悪党は、痩せて顔色も悪く、蛇のような眼をした――
そういった、けして美女とは言えない女に、ひどく情欲をそそられた。
これだけだった。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人