破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その75、血で血を洗う

 

 

 

 

 

 

「おや? 珍しい。いや? よくここがおわかりで」

 

 カーシャとイオがお互いを見つめている時。

 ミゾイが声と共に入ってきた。

 

 その後ろには、

 

「イオさん!?」

 

 ナディゾが立って――

 イオの姿を見るなり、ミゾイやカーシャの横を走り抜けて、

 

「よく無事で……」

 

 感極まった男の声。

 イオは、それを喜びと哀しさを複雑にからませた表情。

 そして。

 苦しげに顔をそむけた。

 

「妙な場面に出くわしたものね」

 

 カーシャは言ってから、ミゾイを見る。

 

「あんたも暇人だねえ?」

 

 ミゾイは、苦笑しながら黒髪をかき上げた。

 

 椅子に座るカーシャは、

 

 

「ギルドがクエストをまわしてくれないもので――」

 

「困った、とは言わないさ。ちょうど良かったかもね」

 

「……」

 

「ま、色々と話そうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくねえ……。呆れきったもんですよ」

 

 墓地。

 といっても――

 街の郊外にある寂しい場所。

 貧困層、あるいは名前もわからない浮浪者などなど。

 そういった者たちが投げ込まれる無縁墓地に近い。

 中流以上の墓は、また別のところにある。

 

 ガイストは、その近くの屋台前で老人と話をしていた。

 墓堀り人足をしている、貧しい老人。

 

「いやあ、どうやらここに俺の知り合いが葬られたと聞いてなあ」

 

 ガイストはそんなことを言って、老人に話しかけた。

 そこから、

 

「知り合いが世話になったんだ、ま、一杯」

 

 屋台店で酒をふるまい、それとなく話を聞いていた。

 

「何しろあの野郎、年齢(とし)はとっても腕に力はあるし、でかい体だ。若い時分はレスリングで相当な勢いだったそうで」

 

 偶然のような顔で、イオについて聞いてみると――

 老人は酒も手伝ってか。

 あるいは、よほどため込んだものがあったのか。

 色々としゃべってくれた。

 

「そんなのが、遠慮なしに挑んでくるもんだから、たまったもんじゃあない。おまけにねえ……」

 

 と、

 心底情けなさそうに顔を歪めて、

 

「ほら、墓地の中にね。古い納骨堂があったでしょう? まあ、今は使っちゃあいないんだが……。野郎、どういう趣向のつもりだか、あン中ですよ、イオさんを引っ張り込んでね、時間なんぞ関係ない。気の向いた時に(なぶ)っていやがったんで」

 

「なんてこった。死人の眠ってる場所で女をいたぶるとは嫌なジジィだな」

 

 ガイストは同調しながら――

 いや、本心からそう思っていたのだが。

 酒をすすめつつ、相づちを打った。

 

「ひどい時には……。人の来ない場所じゃあるが、見えにくい木陰に連れ出してきてね、ひでえご乱行だ」

 

「聞けば聞くほどひどい話だな……」

 

「私にねえ、ちょっとでも力というものがあったら、ぶん殴ってやりたかったんだが」

 

 ため息をつく老人。

 

「そりゃしょうがねえさ。年は食ってても、乱暴な子分を引きつれた大男だ。力持ちの男だって二の足を踏むさ」

 

 ポンポン

 

 と。

 ガイストは慰めるように老人の肩を叩く。

 

「見たくもなかったが、何度か見ちまってねえ。手籠めにするとか、そんな生易しいもんじゃあないんですよ。いやはや……。そのひどいことと言ったら。あれじゃあ、家の中、部屋の中じゃあどんなことをしてたんだか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、ここにいるんですかね?」

 

「ああ。先々で集めた情報(ネタ)だ。間違いない」

 

 手下にそう答えながら――

 ヒマムシは険しい顔で道を進む。

 

 いかにも。

 そういう悪相をした、(ほお)のこけた顔。

 

「あの女を捕まえていかなきゃあ、面子(めんつ)がたたねえ」

 

 独り言か。

 手下に言っているのか。

 ヒマムシの態度は剣呑なもの。

 

 

 対外的には――

 

 

 ヒマムシは先代の息子。

 ということになっている。

 だが、

 

「アレの母親ってのは、だらしのねえ女でな。まったく誰の種だかわかったもんじゃあねえ」

 

 と、先代は幾度も言っていた。

 これが本当か。

 あるいは、ぞんざいに扱う言い訳だったか。

 それはもはや闇の中。

 

 ただ。

 

「おめえのような、売女(バイタ)のガキを食わせてやっているんだ。恩を返すつもりでいやがれ」

 

 ヒマムシはそう言われて育った。

 

 ――ヒヒオヤジが、今に見ていろ。

 

 密かに恨みつらみをためこんでいたが……。

 結果として。

 その凶暴さと悪事の才能で、血の証明をしていた。

 

 やがて、先代の右腕に成り上がっていったが、

 

 ――いつまでも、あんな親爺(オヤジ)の尻をなめていられるもんじゃねえ。

 

 頭を下げながら、機会を狙っていた。

 

 こういった時。

 イオが先代の【持ち物】となった。

 

 ――ふうん。トリガラみたいな体のくせに……。

 

 女の好みも、親譲りだったのか。

 先代の目を盗んで、

 

「あいつがくたばれば、あいつのモノはみんな俺のものになるんだ。先のことを考えろぃ」

 

「気取ってるんじゃあねえ」

 

 と。

 

 イオに何度も、けしからぬ(・・・・・)振る舞いをしてきた。

 

 

 しかし。

 

 

 確証はなくとも、先代はそれとなく察していたようで――

 

「こいつ、どこの野郎をくわえこんできた!」

 

「お前が誰の【持ち物】か、ようく教えてやる!」

 

 嫉妬を燃やして、日々その行動はエスカレート。

 (なじ)りながら、変質的な行為を繰り返した。

 これが実に悪く作用して、

 

 ――あのクタバリゾコナイが。この、(アマ)……!

 

 **のほうも黙っていない。

 公然と見せつける目的でイオを嬲る様子に、こっちも憎悪と嫉妬を燃やした。

 

 そして。

 

 先代が留守の時を狙い――

 よりにもよって。

 先代の使う個室へイオを引きずり込んだ。

 そこで。

 イオを手籠めにしようとした時、

 

「こ、このうすぎたねえ盗人が!!」

 

 いきなり。

 先代が暴れこんできた。

 

 どうやら。

 こういった事態を予想して、見張っていたらしい。

 

 その後は……。

 

 怒鳴り合い。

 殴り合い。

 ついには、ヒマムシは先代――

 すなわち。

 父親の頭を叩き割って殺してしまう。

 

 それ自体に、ヒマムシは後悔などしていない。

 元よりも情など皆無。

 そういう関係だったのである。

 

 だが――

 

 そうかと言って、

 

「オヤジは片づけた。俺が今日からボスだ」

 

 というわけにもいかない。

 

 実質は無法(やくざ)者の集まりとはいえ……。

 表向きは、領主子飼いの騎士団という立場だ。

 身内を殺して、はいそうですか、とはいかない。

 

 なので。

 

 犯人はイオ。

 そういうことにして。

 

「逃げた仇を追いかける」

 

 こんな名目で、ヒマムシはイオを追いかけてヤオアムトまで来た。

 

 もっとも。

 ヒマムシはイオを殺す気はない。

 ボスを殺してまで手に入れようという女。

 

 ――捕まえたら、どんな目にあわせてやるか、覚悟していろ……。

 

 凶暴な眼の中で、獣欲をたぎらせ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件のちゃんとした中身。

 

 イオはそのへんをよくおぼえていない。

 どこをどう走って、逃げ回ったのか。

 

 ただ、

 

「団長が殺された!」

 

「あのアマだ!」

 

「逃がすな!」

 

 そんな声が、後ろから聞こえていたのはおぼえている。

 これで。

 自分の置かれた状況を理解した。

 

 もはや、進退窮まったイオは、

 

「い、いけねえ……。すぐにお逃げなさい」

 

 墓掘り人足の老人に手引きされ――

 街を、国を、逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――しかし」

 

 と。

 カーシャはジロリとナディゾを見た。

 

「あなた、よく故国(くに)を捨てる気になったわね?」

 

 それが――

 尋常なことではないことは、誰にでもわかる。

 

「そこまでする義理が、この女にあると? 命の恩人だとでも言うの?」

 

 あえて。

 カーシャは意地悪な問いをする。

 

「このヒトはこんな目に合うような、あっていいヒトではありません」

 

 断言するナディゾ。

 イオは、そのとなりでうつむいている。

 

 わずかに。

 頬を紅潮させて。

 

「だから、こんな真似をすると? 英雄願望としても致命的ね……」

 

 カーシャはあきれたように言った後、

 

「お芝居にすれば、実にうけるでしょうね。無駄に感じやすい小娘は感涙ものだわ」

 

「まあまあ。あんまり野暮を言いなさんな」

 

 ミゾイは苦笑しながら割って入る。

 

「ただ、こうして首を突っ込んでくれたのは、むしろありがたい。この一件でね、あんたの腕を見込んで仕事を頼みたいのさ」

 

「……仕事ね?」

 

 カーシャは目を細め、チラリとイオたちを見ながら肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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