破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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続きを読みたいという声をいただいたので、大よそ書いてそのままだったものを1話分ですが投稿。


その9、ちょっと危険地帯に突入してきてください

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 なんだこの空気は、とミゾイは思っていた。

 

 冒険者ギルド本部に呼び出されたカーシャ。

 それに応接間で向かい合っているライワ。

 ライワの横にいるミゾイ。

 

 みんな、無言だ。

 嫌な緊張感がはりつめている。

 

 ――疲れるんだよねえ、こういうのは……。ま、私も人のこと言えんけど。

 

 ミゾイは声を出さずにあくび。

 

 ちょうどそのタイミングで、

 

「やー、お待たせ」

 

 ブルネットの髪をした、中年の男が入ってくる。

 身なりは良い。

 明らかに金持ちとわかる服装。

 でも、その雰囲気はどこかゆるんでいて、だらしない印象。

 

「一応ギルドの責任者をしてる者です。いわゆるギルドマスターですか」

 

 形ばかりのオールバックにした髪をなでながら、男は席に座る。

 

「貴族でいらっしゃるのね――」

 

「いやまあ、一応。あんまり、そこはお気になさらずに」

 

 カーシャの言葉に、ギルドマスターはどうでも良さそうに返した。

 

「……それで、本日のご用件は?」

 

「うーん。それなんですがね、ちょっと困ったことになってまして。あなた、先日街道のほうで喧嘩、というには血生臭い揉め事を起こされてますね」

 

「殺人は、していませんが」

 

「ああ、それはわかってます。まあ被害者? も治療を受けて命に別状はありません。これが冒険者同士なら……いや良くはないですが、こっちも色々やりようはあるんですがね。相手が問題でして」

 

「つまり? やんごとないおかただった……とでも?」

 

「んー、つまりですなあ、彼らには中央の出した役目というか、お仕事ですか。そういうものがありまして。でも、ケガの為に続行不可能になったわけでして。こっちのほうに責任を求めてるんです」

 

「……」

 

「ああ、いや誤解なさらず。別に裁判とか逮捕とかいう話じゃないんですな。向こうもさほど本気ではない、形の上では抗議してる感じで」

 

「人望のないかたがただったのですね」

 

「そう言われると彼らもつらいでしょうが……。あなたも中央の出身でしたら、勇者召喚はご存じでしょう?」

 

「……は?」

 

 確かに、カーシャも知っている。

 国が危機に陥った時、異世界から神の力を得て召喚されるという勇者の物語。

 

「知識としては……。でも、それはおとぎ話では?」

 

 カーシャにとっては、この程度の認識ではあったけど。

 

「おとぎ話でも、神話でもない。れっきとした国の正式なお仕事なんですなあ。そして、勇者として召喚された相手を、あなたは半殺しにしてしまったわけで……」

 

「その程度の相手が、勇者? 詐欺に引っかかったのでは?」

 

「いやあ、そりゃ謙遜が過ぎますなあ。ある意味、あなたこそ勇者をやっていただきたいくらいです」

 

「…………」

 

「ま、冗談はさておき。勇者のやるはずだった仕事、これをどうにかせにゃならんわけでして」

 

「…………」

 

「いや、あまり殺気出さんでください。こっちもケガ人や死人を出す義理もないので」

 

「どうしろとおっしゃるのかしら?」

 

「あっさり申しますと、勇者がやるはずだった仕事を、あなたにやっていただきたい……と」

 

「それはそれは」

 

 カーシャは、(わら)った。

 

「勇者、英雄の代役とは光栄なことですわね」

 

「で、その任務と言うのが、隣国――ヒーダ王国の調査なんですわ」

 

「ヒーダ」

 

 カーシャは記憶をたどってみる。

 確か、数年前に王が病没。王妃が女王として統治している国だった。

 武勇と美貌で有名なお姫様がいるとか。

 

「ええ、いわゆるT字山脈を越えた国ですな。元から国交もあまりなかったところですが、最近、そこからの難民が出てきましてねえ」

 

 難民。

 カーシャはゴブリン討伐から戻ってくる時のことを思い出す。 

 確かに、それらしい連中を見た。

 

「数は少ないですが、どうもねえ、国が乗っ取られた、とかいう情報でして」

 

「所詮は、よその国でしょう?」

 

「そういうわけにも、いかんようなんですわ。まだ情報は未確定ですが、難民からの聞き取りなどを参考にすれば……。どうやらかなり攻撃的というか、侵略的な連中らしく……隣国であるうちも他人事じゃあないと」

 

「……それで?」

 

「はい。つまり、あなたにヒーダの情勢を探ってきていただきたいんですよ」

 

「情勢も怪しい隣国に、いきなりスパイにいけとおっしゃるのですか? 死ねと言われているも同然ですね」

 

「申し訳ないが、そういうことなんです」

 

「ふん」

 

「まあ、ある程度のことさえわかればひとまずはそれでいいとのことです。クーデターの首謀者とか、どういう集団なのか。そのへんをね」

 

「あいにく、そんな小器用なことはできません」

 

「まあ、嫌ですよねえ」

 

 困ったなあ、とギルドマスターは頭を掻いた。

 

「――お気遣いなく。別に、断るとも言っていません」

 

「ほう」

「行きましょう」

 

 ――面白そうだし。

 そんな本音をかけらも見せずに、カーシャは不愛想に了承した。

 

「いやありがたい。では、必要なものはギルドの受付で言ってください。できる限りは用意いたしますので」

 

「なかなかのサービスですこと」

 

「いやあ、このくらいは別に」

 

「でしょうね。仮にも、中央の命令でしょうから」

 

「はあ、まあ、そういうわけなんですわ」

 

 

 

 

 

 

「うまくいった、と言うべきなんですかねえ……?」

 

 カーシャが部屋を出て行ってから、ミゾイはギルドマスターへ言った。

 

「良いも悪いもないよ。中央、王宮からの命令だからな。公式な命令書出されたら逆らえない。逆らう義理もないし」

 

 ギルドマスターは両手を頭に後ろに回す。

 

「ですが……。あの女まともではありませんよ。あっさり引き受けたのも――」

 

「そりゃあアレかね、好きなだけ人殺しができるから?」

 

 進み出たライワが意見を言おうとすれば、即座にギルドマスターは返した。

 

「……そうです。まだ幼い頃ですが、私も似たような者を見た経験がある。戦場で生きがいや喜びを得て、引き返せなくなった者を」

 

「うん。ライワの意見もわかる。でも、あれはそういうのとは違う……違うというか、もっとたちの悪いものかもしれんよ。そう、息を吸うように嘘をつく、なんて言葉があるが――あの元ご令嬢は息を吸うように殺す。そんな感じだ。楽しいとか興奮するとか、そんなもんすらない。普通、息を吸って吐くのを嬉しいとかどうとか考えたり思ったりせんだろう?」

 

「……それは、確かに。しかしそれでは」

 

「だからさ」

 

 前のめりになったライワに対して、ギルドマスターは手をあげて、

 

「できるだけ穏便に。中央に逆らわない。あのご令嬢とも敵対しない。そんなコウモリみたいなことしかできないんだよ、俺たちにはな。下手に色気を出して、自分やギルドを危険にさらす意味もない」

 

「……しかし」

 

「まあまあ。こじれて、力ずくでどうこうとなってみな? 少なくとも、こっちは何人も人死にを出すよ? 割にあわない」

 

 と、ミゾイはライワの肩に手を置いた。

 

 つまりは、そういうことになったわけである。

 

 

 

 それから、数日がたった。

 

 

 

「おい、あいつ……」

 

「あの没落貴族?」

 

「悪徳令嬢だったって……」

 

「生きてたのか?」

 

 ヒソヒソ声と、多種多様な視線。

 

 それらを無視して、カーシャはネビズの街に入ってきた。

 少しばかり薄汚れてはいるが、出ていった時とさほど変化はない。

 ただ、出発時には持っていなかった大きな革袋をかついでいた。

 ぷーんと、生臭い悪臭が漂っている。

 

「あ、姐さん!?」

 

「ふへっ!?」

 

 声と気配でカーシャが顔を上げると、宿屋の2階から見知った顔。

 マコネとバッキーだった。

 

「ご無事だったんで!?」

 

「一応は、生きてるわ。それと今別にヒーラーはいらない」

 

「やべーことになってる隣国へ行かされたって……」

 

「まあ、はずれてはいないわ」

 

「そいで、一体どんな仕事を」

 

「後で話せたら話してもいい。とりあえず、ギルドに用があるから」

 

 それだけ言って、カーシャはまた歩き出す。

 ギルド本部へつくまで、視線と声はほとんど途切れなかった。

 

 

「クーデターというよりは、蛮族の侵略だったわ」

 

「ははあ、なるほど。しかしあの国がねえ……?」

 

 カーシャの説明に、ギルドマスターは何か考えている。

 

「だが、あの国には……英雄姫とうたわれたシルトクレーテが……」

 

 ライワはやや不審げに、

 

「その姫騎士だか歌姫だかは、蛮族の妾になってたわよ? 女王……母と一緒に」

 

「な……!?」

 

「で、蛮族の頭目はこれ」

 

 床に、かついでいた革袋が転がる。

 その途端に、中身が――

 

「……っ!」

 

「これは!!」

 

「……うわあ」

 

 ギルドマスター。ミゾイ。ライワ。

 三者三様の顔と声。

 

 転がったのは、オーガともオークともつかない亜人の生首。

 正確には、その半分。

 首は真っ二つにされており、半分はない。

 悪臭の正体はこれだったらしい。

 

「首から察するに、かなりの巨体だったようですなあ……」

 

 ギルドマスターはしげしげと半分だけの首を観察する。

 

「そうね」

 

「で、その蛮族の頭目をなんでまたあなたが?」

 

「犯そうとしてきたから殺した。それだけ」

 

「ああ、まあ、はあ。当然といえば当然ですか」

 

「それでヒーダの姫と女王は?」

 

「お姫様はとち狂って襲いかかってきたから、殺したわ」

 

「ははあ」

 

「女王は、ドタバタしてるうちに死んでたわ。まあ、国を売ったバイタだから……恨みはさぞたくさん買ってたでしょうね」

 

「なるほど」

 

「なに? そいつらの首も持ってきたほうが良かった?」

 

「いえ、十分すぎるほどで」

 

「そ。じゃあ」

 

 報告をさっさとすませて、カーシャは出ていく。

 残された3人は全員大きなため息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

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