破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
薄暗いBARの中。
おそらくは――
現代日本の、どこか。
都会なのか、地方都市なのか。
男が黙々と飲んでいた。
このままだと泥酔するという感じ。
くたびれたサラリーマン。
「ずいぶんと、お疲れのようですね?」
いつの間にか。
となりに誰かが座っていた。
顔つきは、よくわからない。
それどころか。
年齢も、性別さえもよくわからなかった。
まるで黒い
情報が完全に隠されているようだ。
――夢の、せい?
見えざる観客。
図らずもそうなっているバッキーは、変な気分。
「まったくねえ……。男の子なんて、持つもんじゃありませんよ……」
赤い顔で、男は言った。
きっとその息はアルコールでひどい臭いだろう。
「まあ育てるのは大変だなんて聞いたりしますが……。それはそれで良いものだとも言いますよ」
「いやあ……。よそのことは、よくわかりませんが、うちの場合はね……」
「何やら、ご苦労をなさっているようで。いや、子育てというのは苦労の連続だそうですが」
「それもねえ。しがいのある苦労なら、私だって
男は、苦虫を噛み潰したような顔。
「失礼ですが、お子さんはよほど荒れているようですな。不良、と言うんですか?」
「いやいやいや」
と、男は質問に苦笑を返した。
「そんな元気があれば、まだ良かったんですよ」
「はて?」
「何といいますかねえ……。引きこもり、というんですか。学校には一応行ってるんですが……帰宅部、というやつでね。休日だって、部屋の中でウダウダするだけで……」
「友人と遊びに行ったりはするでしょう。外からは暗く見えても、案外楽しくやってることもありますよ」
「それも、ぜんぜんですねえ……。やることと言ったら、スマホをいじってゴロゴロして。他にやるのはゲームくらいで、それもくっだらない」
男は、吐き捨てるように言った。
「はっはっはっは。まあまあ、我々オジサンから見れば、若い人の趣味とか楽しみはそんな風に見えたりもします。ま、我々も通った道ですな」
「そうですかねえ?」
男は納得いかない様子だ。
「娘のほうは、ねえ。下の子なんですが。こっちは良い子でして、本当に可愛いですよ。同じ子供でどうしてこうも……」
「父親にとっては、娘は特別だと言いますよ。男の子とおんなじだったらかえっておかしいでしょう。憎らしいとかうざいとか、お互いそう思ってるほうが健全かもしれんですよ」
「いやあ、それでもねえ……。恥ずかしいことに、内弁慶というやつでねえ。娘の、妹にはえらそうにするくせに、外に出るとてんでだらしがない。情けなくって、涙が出そうになるんです」
「ふうむ。そういえば、現代の若者はとにかく生命力がないとか消極的とか、週刊誌で読みましたっけ」
「そうなんですよ。そのくせに、少し叱ると恨みがましい眼を向けてくるもんだから、こないだは1発殴ってしまった……」
「おう。今時珍しい、熱血ですな。懐かしい」
「あれでねえ。勉強に身を入れるんだったら、救いがあるんですが。そっちも、最近特に成績が落ちてきてるようで。まったく、あれじゃあ将来が思いやられる……」
「難しいもんですなあ」
「いっそねえ。別に女の子がいれば、と常々思うんですよ。あれの代わりに、下の子を同じくらい、良い
そう言って――
男はグラスの酒を一気に飲んだ。
「よほどに、悩んでおられるようですな?」
そこで。
その口調が変わってきた。
「なら、そうしてみますか?」
「はぁ?」
「できの悪い息子と、可愛くて素直な娘。それを入れ替えてみては?」
「はははは。そんなのができたら、嬉しいんですが……」
「できますよ――」
暗転。
それから。
「じゃ、いってきまーす!」
元気の、ハキハキとした声。
長い黒髪の、きれいな顔だちの少女。
高校生くらいか。
その少女が、家から飛び出すように出ていく。
「おねーちゃん、待ってよぅ!」
少しむくれた顔で、ボブカットの愛らしい少女が続く。
髪の毛は、日に当たると少し茶色がかって見えた。
「おーい、気をつけろよ?」
少女たちに続いて、父親らしい男が出てきた。
いかにも。
出勤前のサラリーマンというスタイル。
それは。
前の
「わかってまーす」
「お父さんも気をつけてね?」
娘たちは手を振って、走っていく。
「さて、お父さんもがんばってきますか!」
軽く伸びをした後、男は出勤していく。
あの夜から――
正確には、その翌日から。
不出来で、可愛げのない息子は消えた。
代わりに、家族を、妹を大事にする愛らしく美しい娘がその位置に。
みんな、それを自然に受け入れている。
古いアルバムにも、息子の姿はない、
あるのは、娘たちの写真ばかり。
どれも、可愛く、愛しかった。
あの息子のこと。
それは男の記憶にしかない。
初めから、存在しなかったかのように。
――いやあ、実際そうかもしれない。
男はすぐそう思うようになった。
今の生活。
今の子供たち。
それこそが真実なのだ
あの息子こそ、
――悪い夢だったんだなあ、きっと。
やがて。
男は、悪夢の記憶を頭から追い払う。
そして。
家族を養うため、職場へ歩き出した。
「なんだ、これ……? どういうパターン……?」
嫌な目覚め。
ベッドの上で、目に隈を造ったバッキー。
ぼんやりした声で、ただつぶやいた。
空の雲。
あるいは、雲に似た何か。
きっと、濁った血の海が気体となったもの、かもしれない。
だが。
どれだけ空に雲があっても――
雨は降らない。
振ったとしても、それは腐った血の雨だろう。
潤いのない、乾いた大地。
どれだけ血が流れても、永遠に乾いたままだ。
そのくせ。
死体の放つ悪臭だけは満ちている。
花はおろか、草も木もない。
あるのは、石ころと
そして、錆びついた刃物や鈍器だけ。
喉の渇きを癒すものは、どこにもなかった。
その大地に転がっている死体、死体、死体。
最悪なのは――
死体はいずれ起き上がってくる。
ほんの一瞬。
刹那の時間。
吹き抜ける涼しい風。
その直後、死体は再び生を得る。
ただ。
生き返ったところで。
それも、結局無為なもの。
お互いを殺して、殺される。
相手の血と臓物。
それが、唯一飢えと渇きを満たせるのかもしれない。
しかし。
のんきに食べて、飲む。
そんな余裕などはありはしない。
生き物としては、ただ当たり前の行為。
でも、それは殺してくれと――
と、他の者に言っているのと同じ。
事実、それをして死んだ者は無数にいる。
死んだところで。
すぐに生き返り、殺すか、殺される。
赤く焼けた空。
まるで、夕焼けのような。
決定的に違うのは……。
夕焼けのような美しさはない。
じりじりと、肉体を
夏の西日。
これを何千倍にも増して、歪ませたような光。
光。
その表現は果たして、正確なのか。
夕日は、すぐに沈む。
そこからは、休息の時間だ。
普通の世界なら、そうなる。
だが――
太陽に似た赤く無慈悲なものは、いつまでも消えない。
いつまでも。
いつまでも。
空にあって、地上を焦がし続ける。
沈まない夕日。
永遠の夕焼け。
悪夢でしかない。
普通の感性でいるのなら――
そうだろう。
けれど。
道のない道。
荒野というのも、凄まじすぎる。
なのに。
平坦でもない。
いくつのも、草木のない丘のような場所。
というより。
墳墓みたいなもの。
こんなものばかりを、進んでいく。
同じ場所に、とどまることはない。
とどまって同じなのだ。
なのに。
まるでそう仕掛けられたオモチャみたいに。
漠然と、ただ進み――
歩く。
出会うのは、敵であり、自分を食物(しょくもつ)としか思わない怪物。
そこにはもう。
哀しさとか孤独とか。
感傷。
そんな
貧弱な〝心〟はない。
その無価値で、無意味なものは、
とっくの昔に……
死んでいた。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人