破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「…………」
崩れかけていた体勢を立て直す。
周辺の気配。
殺気はない。
体にダメージなどはないようだ。
「…………」
何か、ドジを踏んだらしい。
木々や土。
そこから。
さっきまでいた場所とはまるで違うのだと理解。
遠くか、近くか。
多分遠くのほうへ飛ばされたのだろう。
「…………」
立ち上がり、歩き出す。
どこに行こうが。
同じことだ――
「いや~……。こういうのも、悪かないねえ?」
湯上り。
さっぱりした服装で、マコネは言った。
「そうね」
カーシャは、窓枠に片腕を置いて下を見ている。
マコネと同じく、さっぱりとした服装。
視線の先には、にぎやかな街並み。
あちこちから立ち昇る湯気。
セーヅの街。
ヤオアムトでも、名の知れた温泉街。
数日前のこと。
マコネの買ってきた新聞。
それ自体に目を引く記事はなかったが――
1枚のチラシ。
セーヅの温泉街を宣伝するものだった。
――温泉ね……。
令嬢時代、貴族たちの使う保養地。
そこの温泉には何度か行ったが、
――こんな、いかにも観光地的なところに行ったことは、ないわね。
ただ、これだけ。
それで行動は決まった。
「そういや、バッキーは?」
「大通りをブラついてくるそうよ」
マコネの問いに、カーシャは街を見たまま答える。
「でも――追ったほうがいいのかもね」
「ああ……」
カーシャの言葉。
マコネはそれに反応して、同じように街を見る。
「なんか、わかりにくいけど変な空気つうか、雰囲気つうか?」
「さっき、目立たない場所でギルドナイトが動いていたわ」
わずかに、カーシャは口角を持ち上げる。
「でも、パッと見たところじゃあ? なんか警報とかが出てるようには見えねえよな」
「だったら、こんなのんきにしてるものですか」
「ふうん……」
マコネは腕組をして首をかしげてから、
「じゃあちょいと行ってくるかね? バッキーも迷子になってたらヤベーし」
窓から外に飛び出していった。
――はあ。なんか、ホッとするなあ……。
セーヅの雰囲気。
それは日本の温泉街によく似ていた。
バッキーは温泉饅頭みたいなお菓子を食べつつ、道を歩く。
――最近、
ちょっとウキウキしながら、歩いている。
その最中、
「…………!?」
ぞわり
背中に、いや、全身に走る悪寒のようなナニか。
――なに、これ?
あたりを見ても、その原因らしいものはない。
しかし。
間違いなく、どこかに。
バッキーは本能的なものに従い、大通りから離れていった。
出たのは、荷車などが通る道。
客が歩いて楽しむものではない。
あくまで、交通路としての道。
そこを。
道の端を、ヒトを避けるように。
いや、間違いなく避けながら歩く旅人。
早足だった。
バッキーは、その旅人を凝視する。
つば広の三角帽子。つば部分がかなり大きい。
ボロボロのマント。
どちらも
そこからわずかにのぞく、黒髪。
伏し目がちの黒い瞳。
帽子を押さえる左手には、鉄製らしき手甲。
――なんか、サブスクで観たアニメに、あんな帽子のキャラ出てきたな……。カバの妖精が主人公のアニメだったっけ?
冒険者だか浮浪者だかわからない。
唯一、腰にある小剣がそれっぽい要素か。
年齢はまだ若い。
間違いなく10代の少年。
でも。
その雰囲気は少年という言葉を使いたくないような――
朽ち果てて、乾いたもの。
――あの子だ。
離れた場所から。
よく見えないはずの顔。
それでも。
バッキーは少年の顔をハッキリ認識した。
「あの息子の代わりに、優しくって可愛い娘が欲しい」
そんなことを――
ずいぶんと。
勝手なことを言っていたサラリーマン。
夢の中。
そこで、バッキーはさらに見てしまった。
「娘が欲しかった」
男は、結婚間もない頃からそう言っていたらしい。
それは、どうやら。
心からのものだったようで。
少年は、物心がつく頃には感じ取っていた。
自分が家族の中で〝異物〟だということに。
下の妹。
その可愛い娘に、父親は夢中だった。
溺愛というやつである。
実際。
妹は成長するに従い、どんどん可愛らしくきれいになっていく。
「お父さんやお母さんの、いいとこばっかり集まったようなお子さんで」
誰かが、そんなおせじを言っていた。
それは確かに事実なのだが。
母親も、やはり娘を溺愛した。
というのも。
娘が生まれるや――
夫である父親はいきなり家事育児に協力的になったからだ。
育児で疲労気味だった母には、娘は救いの天使だったかもしれない。
明らかに傾いた比重。
これに子供が気づかないわけもない。
頭では無理でも、感覚で理解する。
そうなると。
親の関心を引こうと、色んな行動に出る。
反抗したり、ものを壊す。
泣き喚く。
残念ながら。
これらは全て裏目に出た。
家族にとって。
周囲にとって。
少年は
「なんだ、その言い方。恩着せがましい!」
「腹立つ子ね! いちいち逆らって……」
とはいえ。
あるいは、【神の視点】で見てしまうと……。
少年の言動、短所・欠点。
それは全て親から学習し、受け継いだものに過ぎない。
恩着せがましい態度は父親のもの。
何をしたって文句を言うか、批評家になりたがる。
母親は、気分次第で対応をいちいち変える。
気に入った言動をしなければ、反抗ととらえる。
けれど。
そんなことに自覚はない。
むしろ。
自分を被害者だと思っていた。
こんな状態で素直で優しい子に育てば、
――それこそ異常だよ……。
あの夢で――
バッキーはひどく
――でも……。
仮に、父親の理想どおりになったとしても、
――長くはもたないな、きっと。
バッキーはそんな確信があった。
どんなにきれいで、どんなに愛らしくても。
娘はあくまで、娘だ。
恋人でも、花嫁でもない。
いつかは他の誰かのもとに行ってしまう。
もちろん、それは当たり前。
普通のことなのだが――
――あのオッサンが、どこまでそれを理解してるのやら……。
そして母親も、
――あれって、
少年はそこに適応はできなかった。
だから疎まれたのだろう。
でも。
感情的サンドバッグがあったからこそ、
――妹ちゃんは可愛がれたんだろうね……。
その、サンドバッグが失われれば、どうなるのか。
――……ああ、もうやだ!
バッキーはわけのわからない気持ちで、少年の後を追う。
――会ってどうするの? あなたのこと知ってるとか、夢で見たとか? バカかお前って思われるよね、フツー……。
そう考えるのだが、足は止まらない。
やがて。
少年は、小さな食堂に入った。
肉体労働者。
あるいは、金のない者が利用する大衆向けのもの。
正直、今のバッキー……。
観光客丸出しのスタイルでは入りにくい場所。
――困ったな……。
別に。
そのまま引き返せばいいことだった。
だが。
バッキーはそれができずにいた。
「旧街道あたりからさ、モンスターがやたらに出るそうだぜ」
「それくらいなら、どこでもありそうだけどね」
「うーん、それがさ……?」
マコネが聞き集めたところによると――
・弱ったモンスターがちょくちょく出てくる。
・逆に、飢えて凶暴化したモンスターも出てくる。
・モンスター、あるいは獣の死体がよく転がっている。
「で、どうやら中心地点らしい場所を調べると」
奥に行くほど、
「さっき言ったようなのが増えるらしいや」
「凶暴化というのなら、わかるけど。弱るというのも珍しいわね」
語るマコネを見ながら、カーシャは白い顎をなでる。
「けど、こんなのを
なるほど。
確かに汚点だ。表沙汰にしたくないか。
と。
カーシャは納得する。
「ここはさ、温泉とそこに来る客を飯のタネにしてるだろ? 客が減るような真似はしたかねーだろうな」
「バレたら一気に信用を失うでしょうけど」
ククク。
カーシャは表情を変えずに笑った。
それから、ふわりと――
浮き上がるように、立った。
「少し、出てくるわね」
「どこへ――」
マコネはそう言いかけて、
「ああ、そういう……」
という感じで、言葉を止めた。
バッキーは、店の前で行ったり来たりしていた。
少年が店に入ってから、5分もたっていない。
けれど。
バッキーにはひどく長く感じる時間だった。
と。
――ん?
店の前を通り過ぎようとしていた、誰か。
黒い修道女っぽい衣服。
よく見ればわりと頑丈そうで。
ボディラインはほぼ見えない。
――シスター? ヒーラー? いや、両方かな?
いわゆる。
聖職者とヒーラーを兼任する者はわりと多い。
役割がら、相性が良いのだろうか。
そのヒーラーは急に引き返すと、店の中を覗き込んだ。
というか。
首をつっこんだ状態。
――なにやってんの?
バッキーは若干気味悪く思う。
すると。
シスターは店にズカズカと入っていった。
――んん?
バッキーはつられて店を覗き見る。
シスターは例の少年が座る席。
その前で仁王立ちになって、
「お食事中、失礼」
そう言ってから、
バン!
いきなり。
テーブルを両手で叩いた。
――え? なに? 喧嘩?
思わぬ展開。
バッキーは驚きと好奇心の中、状況を見守るだけ。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人