破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その77、無縁墓に灯はともった-1

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 崩れかけていた体勢を立て直す。

 周辺の気配。

 殺気はない。

 体にダメージなどはないようだ。

 

「…………」

 

 何か、ドジを踏んだらしい。

 木々や土。

 そこから。

 さっきまでいた場所とはまるで違うのだと理解。

 

 遠くか、近くか。

 多分遠くのほうへ飛ばされたのだろう。

 

「…………」

 

 立ち上がり、歩き出す。

 

 どこに行こうが。

 同じことだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~……。こういうのも、悪かないねえ?」

 

 湯上り。

 さっぱりした服装で、マコネは言った。

 

「そうね」

 

 カーシャは、窓枠に片腕を置いて下を見ている。

 マコネと同じく、さっぱりとした服装。

 

 視線の先には、にぎやかな街並み。

 あちこちから立ち昇る湯気。

 

 セーヅの街。

 ヤオアムトでも、名の知れた温泉街。

 

 数日前のこと。

 

 マコネの買ってきた新聞。

 それ自体に目を引く記事はなかったが――

 

 1枚のチラシ。

 セーヅの温泉街を宣伝するものだった。

 

 ――温泉ね……。

 

 令嬢時代、貴族たちの使う保養地。

 そこの温泉には何度か行ったが、

 

 ――こんな、いかにも観光地的なところに行ったことは、ないわね。

 

 ただ、これだけ。

 それで行動は決まった。

 

「そういや、バッキーは?」

 

「大通りをブラついてくるそうよ」

 

 マコネの問いに、カーシャは街を見たまま答える。

 

「でも――追ったほうがいいのかもね」

 

「ああ……」

 

 カーシャの言葉。

 マコネはそれに反応して、同じように街を見る。

 

「なんか、わかりにくいけど変な空気つうか、雰囲気つうか?」

 

「さっき、目立たない場所でギルドナイトが動いていたわ」

 

 わずかに、カーシャは口角を持ち上げる。

 

「でも、パッと見たところじゃあ? なんか警報とかが出てるようには見えねえよな」

 

「だったら、こんなのんきにしてるものですか」

 

「ふうん……」

 

 マコネは腕組をして首をかしげてから、

 

「じゃあちょいと行ってくるかね? バッキーも迷子になってたらヤベーし」

 

 窓から外に飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――はあ。なんか、ホッとするなあ……。

 

 セーヅの雰囲気。

 それは日本の温泉街によく似ていた。

 バッキーは温泉饅頭みたいなお菓子を食べつつ、道を歩く。

 

 ――最近、()な夢ばっかり見るしなあ……。しばらくここでのんびりしたいよ。リーダーに頼んでみようかしらん?

 

 ちょっとウキウキしながら、歩いている。

 その最中、

 

「…………!?」

 

 ぞわり

 

 背中に、いや、全身に走る悪寒のようなナニか。

 

 ――なに、これ?

 

 あたりを見ても、その原因らしいものはない。

 しかし。

 間違いなく、どこかに。

 

 バッキーは本能的なものに従い、大通りから離れていった。

 

 出たのは、荷車などが通る道。

 客が歩いて楽しむものではない。

 あくまで、交通路としての道。

 

 そこを。

 道の端を、ヒトを避けるように。

 いや、間違いなく避けながら歩く旅人。

 早足だった。

 

 バッキーは、その旅人を凝視する。

 

 つば広の三角帽子。つば部分がかなり大きい。

 ボロボロのマント。

 どちらも(ほこり)まみれ。

 そこからわずかにのぞく、黒髪。

 伏し目がちの黒い瞳。

 帽子を押さえる左手には、鉄製らしき手甲。

 

 ――なんか、サブスクで観たアニメに、あんな帽子のキャラ出てきたな……。カバの妖精が主人公のアニメだったっけ?

 

 

 冒険者だか浮浪者だかわからない。

 唯一、腰にある小剣がそれっぽい要素か。

 

 年齢はまだ若い。

 間違いなく10代の少年。

 

 でも。

 その雰囲気は少年という言葉を使いたくないような――

 朽ち果てて、乾いたもの。

 

 ――あの子だ。

 

 離れた場所から。

 よく見えないはずの顔。

 

 それでも。

 

 バッキーは少年の顔をハッキリ認識した。

 

 

 

 

 

 

「あの息子の代わりに、優しくって可愛い娘が欲しい」

 

 そんなことを――

 ずいぶんと。

 勝手なことを言っていたサラリーマン。

 

 夢の中。

 そこで、バッキーはさらに見てしまった。

 

「娘が欲しかった」

 

 男は、結婚間もない頃からそう言っていたらしい。

 それは、どうやら。

 心からのものだったようで。

 

 

 

 少年は、物心がつく頃には感じ取っていた。

 自分が家族の中で〝異物〟だということに。

 

 下の妹。

 その可愛い娘に、父親は夢中だった。

 溺愛というやつである。

 

 実際。

 妹は成長するに従い、どんどん可愛らしくきれいになっていく。

 

「お父さんやお母さんの、いいとこばっかり集まったようなお子さんで」

 

 誰かが、そんなおせじを言っていた。

 それは確かに事実なのだが。

 

 母親も、やはり娘を溺愛した。

 というのも。

 娘が生まれるや――

 夫である父親はいきなり家事育児に協力的になったからだ。

 

 育児で疲労気味だった母には、娘は救いの天使だったかもしれない。

 

 明らかに傾いた比重。

 これに子供が気づかないわけもない。

 頭では無理でも、感覚で理解する。

 

 そうなると。

 親の関心を引こうと、色んな行動に出る。

 反抗したり、ものを壊す。

 泣き喚く。

 

 残念ながら。

 これらは全て裏目に出た。

 

 家族にとって。

 周囲にとって。

 少年は(うと)ましい存在になっていった。

 

「なんだ、その言い方。恩着せがましい!」

 

「腹立つ子ね! いちいち逆らって……」

 

 とはいえ。

 俯瞰(ふかん)して――

 あるいは、【神の視点】で見てしまうと……。

 

 少年の言動、短所・欠点。

 それは全て親から学習し、受け継いだものに過ぎない。

 

 恩着せがましい態度は父親のもの。

 何をしたって文句を言うか、批評家になりたがる。

 

 母親は、気分次第で対応をいちいち変える。

 気に入った言動をしなければ、反抗ととらえる。

 

 けれど。

 そんなことに自覚はない。

 むしろ。

 自分を被害者だと思っていた。

 

 こんな状態で素直で優しい子に育てば、

 

 ――それこそ異常だよ……。

 

 あの夢で――

 バッキーはひどく(いや)な気分になった。

 

 ――でも……。

 

 仮に、父親の理想どおりになったとしても、

 

 ――長くはもたないな、きっと。

 

 バッキーはそんな確信があった。

 

 どんなにきれいで、どんなに愛らしくても。

 娘はあくまで、娘だ。

 恋人でも、花嫁でもない。

 いつかは他の誰かのもとに行ってしまう。

 

 もちろん、それは当たり前。

 普通のことなのだが――

 

 ――あのオッサンが、どこまでそれを理解してるのやら……。

 

 そして母親も、

 

 ――あれって、(よう)は自分の子供に自分のゴキゲンとりさせようとしてたんだよなあ……。でも。

 

 少年はそこに適応はできなかった。

 だから疎まれたのだろう。

 

 でも。

 感情的サンドバッグがあったからこそ、

 

 ――妹ちゃんは可愛がれたんだろうね……。

 

 その、サンドバッグが失われれば、どうなるのか。

 

 ――……ああ、もうやだ!

 

 バッキーはわけのわからない気持ちで、少年の後を追う。

 

 ――会ってどうするの? あなたのこと知ってるとか、夢で見たとか? バカかお前って思われるよね、フツー……。

 

 そう考えるのだが、足は止まらない。

 

 やがて。

 

 少年は、小さな食堂に入った。

 肉体労働者。

 あるいは、金のない者が利用する大衆向けのもの。

 

 正直、今のバッキー……。

 観光客丸出しのスタイルでは入りにくい場所。

 

 ――困ったな……。

 

 別に。

 そのまま引き返せばいいことだった。

 だが。

 バッキーはそれができずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旧街道あたりからさ、モンスターがやたらに出るそうだぜ」

 

「それくらいなら、どこでもありそうだけどね」

 

「うーん、それがさ……?」

 

 マコネが聞き集めたところによると――

 

 ・弱ったモンスターがちょくちょく出てくる。

 ・逆に、飢えて凶暴化したモンスターも出てくる。

 ・モンスター、あるいは獣の死体がよく転がっている。

 

「で、どうやら中心地点らしい場所を調べると」

 

 奥に行くほど、

 

「さっき言ったようなのが増えるらしいや」

 

「凶暴化というのなら、わかるけど。弱るというのも珍しいわね」

 

 語るマコネを見ながら、カーシャは白い顎をなでる。

 

「けど、こんなのを(おおやけ)にしないで、解決にも手間取ってると――」

 

 なるほど。

 確かに汚点だ。表沙汰にしたくないか。

 

 と。

 カーシャは納得する。

 

「ここはさ、温泉とそこに来る客を飯のタネにしてるだろ? 客が減るような真似はしたかねーだろうな」

 

「バレたら一気に信用を失うでしょうけど」

 

 ククク。

 カーシャは表情を変えずに笑った。

 

 それから、ふわりと――

 浮き上がるように、立った。

 

「少し、出てくるわね」

 

「どこへ――」

 

 マコネはそう言いかけて、

 

「ああ、そういう……」

 

 という感じで、言葉を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バッキーは、店の前で行ったり来たりしていた。

 少年が店に入ってから、5分もたっていない。

 けれど。

 バッキーにはひどく長く感じる時間だった。

 

 と。

 

 ――ん?

 

 店の前を通り過ぎようとしていた、誰か。

 黒い修道女っぽい衣服。

 よく見ればわりと頑丈そうで。

 ボディラインはほぼ見えない。

 

 ――シスター? ヒーラー? いや、両方かな?

 

 いわゆる。

 聖職者とヒーラーを兼任する者はわりと多い。

 役割がら、相性が良いのだろうか。

 

 そのヒーラーは急に引き返すと、店の中を覗き込んだ。

 というか。

 首をつっこんだ状態。

 

 ――なにやってんの?

 

 バッキーは若干気味悪く思う。

 すると。

 シスターは店にズカズカと入っていった。

 

 ――んん?

 

 バッキーはつられて店を覗き見る。

 

 シスターは例の少年が座る席。

 その前で仁王立ちになって、

 

「お食事中、失礼」

 

 そう言ってから、

 

 バン!

 

 いきなり。

 テーブルを両手で叩いた。

 

 ――え? なに? 喧嘩?

 

 思わぬ展開。

 バッキーは驚きと好奇心の中、状況を見守るだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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