破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その79、無縁墓に灯はともった-3

 

 

 

 

 

 

 カーシャたちが宿泊している宿。

 その裏手に流れる川。

 何艘(なんそう)もの船が水上を行く。

 川べりに、カーシャは立っている。

 

「来てくれて、嬉しいわ」

 

 川を見たままカーシャは言った。

 その後ろには、つば広帽子にマント姿の旅人――少年。

 

 テラ。

 

「仕事なので」

 

「それはけっこう」

 

 カーシャは、振り返り目を細めた。

 

 ……。

 

「と、まあ。大体こんなところかしら」

 

 説明と、打ち合わせ。

 それを軽く済ませてから、

 

「他に、なにか気になることは?」

 

「その仕事は、あんたが自分で片づけたほうが早いんじゃあないですか?」

 

 カーシャが質問すると――

 テラは質問を質問で返した。

 

「質問で質問を返すのってよろしくはないわね。けど、理由としては休暇(バカンス)中なので。わざわざお仕事なんかしたくないの。これでよろしい?」

 

「そうですか」

 

「クエストの話はこれで良しとして。ねえ、テラ」

 

 家族はあるのかしら?

 

 カーシャは皮肉めいた口調でたずねた。

 

「いません」

 

 テラは淡々と、簡潔に応える。

 

「へえ。そう。じゃあ、ひょっとして故郷(ふるさと)もないのかしら?」

 

「おっしゃるとおりですね」

 

「ふーん……」

 

 まるで他人事のような返答。

 カーシャはそれを面白そうに聞いている。

 

 そして。

 

「なら、少し大げさだけど生きがいというのある?」

 

「そんなものありませんよ」

 

「あらまあ」

 

 カーシャは上品な仕草で口元を隠して、

 

「それじゃ、あなた――何のために生きてるか、わからないわねえ?」

 

「考えてもしょうがないので」

 

 死ぬまで生きるんでしょうね。

 

 やはり、テラの返事は他人事みたいだった。

 

「なるほど、なるほど……」

 

 カーシャはゆったりとした動きで手をおろし、

 

「そこは私と似たようなものね」

 

 笑みが消えた。

 氷のような瞳。仮面のような顔。

 それは――

 ある意味、素顔とも言える。

 

「……」

 

 青と黒。

 2人の若い男女は、暖かみのない、かといって敵対的でもない――

 乾いて、淡々とした視線で見つめ合う。

 

 やがて。

 

 テラは視線を動かして、宿の2階を見た。

 

 そこで――

 カーシャたちの様子を見ていた者。

 バッキーは驚いて引っ込む。

 

「ああ。あなたを尾行させてた件ね。そこはまあ、謝罪するわ」

 

「そうですか」

 

 テラはやはり淡々としていた。

 

 会話が途切れた時、

 

 歌声が聞こえた。

 数人の女の子が、歌いながら遊んでいる。

 そのうちの1が――

 手に、小さな人形を抱いていた。

 安物のようだが、できは悪くない。

 愛くるしい姿の人形。

 

「私はねえ、テラ? お人形って嫌いなのよ」

 

 いきなり。

 カーシャは妙なことを言った。

 

「……」

 

 テラは何も言わない。

 つば広帽子からのぞく顔も、変化はなかった。

 ただ。

 少しばかり、驚いてはいた。

 

「お人形ってかわいいわよね」

 

「……?」

 

 わずかな困惑。

 カーシャの語る言葉に、テラの瞳はほんわずかだが――

 揺らいだ。

 

「みんなにかわいいって言われて、かわいがられるでしょ。だから嫌い」

 

「…………」

 

「だって、生意気でしょう? 単なるモノのくせに、私みたいな絶世の美女……子供の頃は美少女ね。それを差し置いて。許されないと思わない?」

 

 先ほどとは違う刃物のような……。

 同時に、煮え立つ泥のような。

 奇妙な微笑。

 カーシャは、それをテラに向けた。

 

「よく、わかりませんね。教養も、芸術の才能もないんで」

 

「へえ」

 

 カーシャは大げさに驚いた顔を見せ、

 

「あなたなら、共感してくれると思ったんだけど?」

 

「ご期待に沿えませんでしたね」

 

「どうかしら?」

 

 カーシャは、ククッと少女のように笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 バッキーは宿の中に引っ込んだまま――

 床に座り込んでいた。

 

 あの少年……テラ。

 

 今の姿。

 それは、前世やこちらに【転生】したばかりの彼とはまるで違う。

 

 ――あの時は、こう……二次創作とかだったら、正統派オリ主の引き立て役になる最低オリ主みたいな感じだったけど……。

 

 暗い瞳。

 他人を避け、希望も絶望も抱かない。

 死ぬのは1人。

 生きるのも1人。

 そんな人間になっていた。

 

 ――いや、ちがう……のかな。

 

 変わった。

 というよりも。

 

 テラの奥底にあった本質的な部分。

 それがむき出しとなり、それだけになった。

 

 心の奥底。

 きっと、本人も自覚していなかった潜在意識。

 

 最初から――

 

 他人の愛情など信じていない。

 かわいい女の子との恋とか。

 胸躍る冒険とか。

 そんなもの、本音・本心の部分では求めていない。

 

 本人も気づいてはいなかった。

 

 前世で、アニメだのその二次創作を読みふけっていた時。

 アレもただの暇つぶしと、

 

 ――ドラッグみたいなものだったんだ……。

 

 単なる現実逃避の手段。

 

 ――そりゃ空回りにもなるよ……。

 

 実際に自分の欲求でないものを求める。

 チグハグになって当たり前だ。

 

 【最低オリ主】だった時も、

 

 ――女の子に、まぶしさとか憧れとか、まるで感じてなかったんだ。

 

 だから、図々しい態度を平気でとれたのだろう。

 

 ――そうか……。仮に、そういう願望とか本当にあったら。

 

 おそらく。

 いくらチートを持っていようが、かっこいい美形になっていようが、

 

 ――まちがいなく、テンパッてまともな会話とかできないよ……。

 

 自分の本心を、勘違いしていたわけである。

 

 ――けど、それは……。

 

 やはり。

 なるべくして、なったのだろう。

 

 状況・環境に適応していった結果に過ぎない。

 不完全ではあったけど。

 

 女性。

 特に、同年代の女の子。

 その美点というのか。

 魅力、価値。

 

 そういったものを、寺生は現実で見たことがない。

 

 特に。

 寺生のようなタイプの少年。

 これに、同世代の女子がどれだけ冷酷で、残忍になるのか。

 それはバッキー……古井椿自身が自分の目で見てきたことだ。

 

 きれい。

 可愛い。

 そんな感情や価値観なんか抱くわけもない。

 

 架空の、創作(つくりごと)の世界ですら――

 本心では、そうだったのだろう。

 否。

 創作(つくりごと)であるからこそ、なおさらに。

 

 

「誰かを愛するんじゃなく、ただ愛されて、誉められて、肯定されることだけを願うような、クズ」

 

「本当は誰も愛してないし、好きじゃない」

 

「自分自身だって怪しいもんだわ!」

 

 

 この指摘は、まったくもって正しい。

 反論の余地は、完全にゼロ。

 

 あの瞬間――

 

 神の視点で見ていたバッキーにはわかった。

 

 寺生――テラがストン、と納得したことに。

 

 

「なるほど、そうだったのか」

 

「言われてみればその通り」

 

「じゃあ、しょうがないか」

 

 

 ならば。

 嘆いても、哀しんでも。

 妬んでも、憎んでも、恨んでも。

 意味など、どこにもない。

 無駄で無為なもの。

 

 

 ――哀しい……。いや。

 

 思いかけて、バッキーは1人首を振る。

 そんなものを感じるほうが、傲慢なのだ。

 同情。あわれみ。

 嫌な表現だが――

 裏を返せば、見下して優越感を覚えているとも言える。

 

 ――私だって、他人(ひと)にどうこう言える立場じゃないし、そんな人生も送ってこなかったしなあ……。

 

 むしろ。

 自省することばかり。

 バッキーは、目を閉じて深々とため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は――

 冒険者ギルド・セーヅ支部。

 

「ドラゴンスレイヤー……?」

 

 ナーサは驚き、しばらく絶句した。

 彼女に説明をした職員は、

 

「ああ、もう何匹も狩ってるバケモンだよ。お前気づかなかったのか?」

 

 抜けてるなあ、とあきれ顔。

 

「……え、ああ。そういえば……」

 

 ここでも、画像などでカーシャの情報は伝わっている。

 いや。

 冒険者ギルドの全支部に伝わっている。

 

 ――か、髪の毛が短くなってて、雰囲気もなんかちがってたから……。でも、ぜんぜん気づかないなんて……!

 

 カーシャは先のサキュバス関係の際。

 変装というか、男装をしている。

 この時、あっさりと髪を短くしたのだ。

 

「……う」

 

 ナーサはうめいて、赤面。

 指摘された通り、抜けている。

 

「うぐ……。そ、それで、例の調査については……」

 

「……まあ、そりゃ話したよ。彼女もギルド所属の冒険者だしな。しかもドラゴンスレイヤーの称号持ちだ。さらにプラスして、クエストの報酬を個人で払ってくれるってことだし……」

 

「い、いいんですか、それ?!」

 

 思わず詰め寄るナーサに、

 

「気まぐれか何だか知らないが、ギルドとしても金がかからんですむからなあ」

 

「でも……」

 

「あれの調査は前から頭痛の種だったんだ。うまく解決か原因がわかれば良し。失敗しても元々だ」

 

「それはいくらなんでも……」

 

 ナーサは頭痛を感じるが、

 

「なら、私も参加します!!」

 

 憤然としてそう言った。

 

「そりゃお前の勝手だけどな、このクエストで救援は期待するなよ。あと、こいつはあのお嬢様の個人的なもんだ。ギルドは仲介してない。ってことは、クエストの報酬は向こうと相談ってことだ」

 

 職員は、若干突き放すような態度。

 

「わかっています!」

 

 

 

 

 

 そして。

 ナーサが去って行った後、

 

「長生きしないな、あいつは……。良いヤツではあるんだけど……」

 

 すると別の職員が、

 

「そういえば、あのドラゴンスレイヤーさん? さっき来てたよね、ナーサが来る前」

 

「え。そうだったの?」

 

「うん、裏口から入ってきて。なんか通信機貸せって。本部? に連絡入れてたらしいけど」

 

「本部には、このことも一応報告してるはずだけど……」

 

 支部長はこの1件に関して、

 

「できれば、しばらく内密に……」

 

 と、ギルドマスターに平身低頭で頼み込んでいた。

 

「それはわかんないけど、なんか死霊魔術(ネクロマンシー)がどうとか話してたって」

 

「なんで?」

 

「いや、知らんけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
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