破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その80、無縁墓に灯はともった-5

 

 

 

 

 

「なんだ、こりゃあ?」

 

 その光景に、マコネは驚きとあきれ。

 

 岩と土ばかりの、荒涼とした景色。

 他にあるのは、枯れ木ばかり。

 あちこち掘り返された土。

 

 加えて。

 微かに臭ってくるのは、

 

「死体でも焼いたのか?」

 

 まるで。

 火葬をした後のような、独特の臭気。

 

「………」

 

 テラは、無言でしゃがんだ。

 そして、地面を何度か触る。

 ゆっくりとすくい上げた手には、

 

「灰のようね」

 

 見おろしながら、カーシャは言った。

 

「やっぱり、死体のかい?」

 

「そのようではあるけど」

 

 カーシャはマコネにそう返すが、

 

「とはいえ、かなりの量ね? ここら一面はほとんど灰が混じっているわ」

 

「ええっ!?」

 

 バッキーはピンと背筋を伸ばし、キョロキョロと地面を見る。

 

「あと、アレ」

 

 カーシャは、枯れ木の一部を指す。

 

「ありゃりゃ……」

 

 気づいたマコネは目を見張る。

 

「焼けた跡みてーだな?」

 

「そうね。ただ、資料で見たけれど……。この辺りはほとんど森林でこんな岩と土ばかりの場所は――」

 

 記録にないわ。

 

 カーシャは言いながら、こめかみを人差し指で掻く動作。

 

「ってこたぁ、そんなところで火葬かなんかすりゃあ……。ま、フツー大火事になるわな。大事件(おおごと)だぜ」

 

 マコネは不審そうな顔となる。

 

「そんな、いつの間に……」

 

 ナーサは驚きのあまり、うまく頭が回らなかった。

 

「誰も気づかないうちに、こういうことになってたわけねえ? 自然になったというには、ちょっと無理があるわ」

 

 カーシャは言いながら、岩場の奥を見る。

 

 と――

 

「ところでよ? ありゃなんだ?」

 

 マコネは首をかしげ、ある個所を指して言った。

 

 地面に、灰や土と共に転がっている岩。

 一見単なる岩のようだが……。

 

「………」

 

 テラは無言のまま、灰を踏みながら進む。

 そして。

 黒い鞘におさまったままの小剣で、岩を掘り返す。

 

「何か刻んである。元は、石碑らしい」

 

 淡々と。

 しかし、ハッキリとした声で言った。

 

「石碑……?」

 

 ナーサは少し考え込んだ後、

 

「……まさかっ?」

 

 地面の灰を見て、顔色を変えた。

 

「それは、墓石ね。たぶん」

 

「……」

 

 カーシャの言葉に、テラは少しだけ振り返る。

 その黒く、暗い瞳は――

 まったく揺らいでいない。

 

「おいおい、じゃあここって墓場かよ?」

 

「もと・墓場ね」

 

 あわてるマコネの声。

 それを訂正するカーシャ。

 

「墓と言っても、色々あるけれど……」

 

 カーシャはフムフム、とうなずきながら墓石に近づく。

 そして。

 しゃがんで、ジッと見つめる。

 

「あまり、見たことのない形ね」

 

「……」

 

 テラはやはり無言。

 ただ。

 墓石の一部分。

 それに、視線を送っていた。

 

「……ふうん?」

 

 気づいたカーシャも、その部分に目を向けて、

 

「十字の紋章……。んー、どこかで聞いた……いえ、なにかの本で読んだかも」

 

 と、顎をくいっと持ち上げて空を見る。

 

「ああ。アレだわ。どこかの、一神教で使うものだったわね。あなた、なにかご存じない?」

 

 カーシャはテラに視線を向け、ニッと笑う。

 

「さあ。知ってたかもしれないけど、忘れた」

 

 返ってきたのは、不愛想な返事。

 

「なるほど? だったら、こんな場所で忘れられたのもわかる」

 

 立ち上がりながら、カーシャはマコネたちのほうへ戻っていく。

 

「ど、どう……わかったんです?」

 

 ナーサは動揺しながら問いかけた。

 

「もしかすると、あなたのほうが詳しいかもだけど。唯一絶対の神だけを信仰して、それ以外は偽物、あるいは悪魔と呼んで否定する。大ざっぱに言うとこんなのが多いわね。それも身内だけで完結してればいいけど、他の神を信仰する相手を攻撃するか、自分たちの神を押しつける……つまり改宗を迫るわけね。救いとかいう名目で」

 

 実に――大きなお世話という話。

 

 と、カーシャは肩をすくめる。

 

「敵対する宗派とか信仰なんて珍しくもないけど、他の全部を敵に回しちゃおしまいだわ」

 

「自分たちのほうが追われる身かい」

 

 マコネは微妙な表情。

 

「悲惨ではあるけど、自業自得とも言える」

 

「すると、ここらに火葬した灰を埋めてたのか」

 

「いえ。一神教は土葬することが多い。死体が焼けたのは、別の要因でしょうね」

 

 カーシャは振り返り、皮肉な目で地面の灰を見る。

 

「すごいですね、そんな知識とか推測とか……」

 

 ナーサは感嘆する。

 

 が――

 

「いいえ? 事前に聞いてただけよ、知り合いの死霊魔術師(ネクロマンサー)に」

 

「え?」

 

「昔、この辺りに一神教信者の村があったこと。それにプラスして」

 

 3年前。

 賞金首の死霊魔術師(ネクロマンサー)が領主の騎士団に討たれたことも。

 

 カーシャは淡々と語った。

 

「え? え? いや、それは確かにそうですけど……」

 

 地元で、冒険者ギルド所属であるだけに――

 ナーサ自身もよく知っている事件。

 

「この時の失態で、ギルドは信用を失墜させたそうで」

 

「あ、はい。それもあってます……」

 

 困惑するナーサの横から、

 

「姐さん、そンなことまで調べたのかい?」

 

 マコネは感心と驚き、そしてあきれのまざった顔。

 

「いいえ? 死霊魔術師(ネクロマンサー)があれこれ話してくれたのよね、聞いてもいないのに。ついでとばかりに」

 

「あー、あの蛇ねーちゃんな」

 

 納得顔でうなずくマコネ。

 が。

 不意に顔を上げて、表情を変えた。

 

「そろそろだとは思ってたけど。案外遅かったわねえ」

 

 カーシャが見つめる岩場。

 その下から、熱気と火葬の臭いが噴き出してきた。

 

 テラは、小剣を抜いている。

 真っ黒な、(うるし)で塗り固めたような刃。

 

「うぐっ……!」

 

 熱気で――

 バッキーは膝をついて、杖で体を支える。

 

 さらに。

 

 先にかけておいた防御魔法が反応して、あちこちに火花が飛んだ。

 それは、他の2人。

 マコネとナーサも同様だった。

 

「エナジードレイン。つまり、コレの仕業だったということかしら」

 

 カーシャが、首をかたむけながら視線を送る先。

 

 そこには――

 巨大なトカゲ……いや、両生類みたいなモンスターが這い出していた。

 頭から尾の先まで、モヒカンみたいな(たてがみ)

 形は、奇形のオオサンショウウオみたいだ。

 

 全身を青白い燐光が包んでいる。

 加えて。

 体のあちこち。およそ半分近く。

 骨や筋肉、あるいは内臓が露出していた。

 

「サラマンダー!?」

 

 バッキーは叫びながら、魔力をたばねて魔法の準備に入る。

 ほとんど、無意識の行動だった。

 

「い、いえ。これは……アンデッドですよ」

 

 ナーサはバッキーに寄り添うように、杖を構えた。

 

「サラマンダーのゾンビってことか? こりゃまた……。ン?」

 

 マコネはしゃがんで身を低くしながら、

 

「じゃ、死体を灰にしてたのもこいつかよ!?」

 

「でしょうね。死体を焼いてそこから魔力を集めて、より強力なアンデッドになっていった。あと、周辺の精気を吸いながらね」

 

「おいおいおい……」

 

「当然? こんなの自然に生まれるモンスターじゃない。手の込んだ 死霊魔術(ネクロマンシー)よ」

 

 死霊魔術(ネクロマンシー)

 この言葉に、ナーサは声を震わせて、

 

「まさか……。3年前の」

 

死霊魔術師(ネクロマンサー)。より正確には、その置き土産かしら」

 

 術者本人は死んだけど。

 念入りに組まれた術式はそのまま稼働。

 そして。

 今に至るという次第、でしょうね。

 

 ク、ク、ク、ク、ク。

 

 カーシャは、肩を軽く揺らして笑ってから、

 

「さあ? ここからはあなたの仕事よ、テラ」

 

「…………」

 

 テラは何も応えない。

 振り返りもしない。

 ただ。

 小剣を手に、その場に立っているだけ。

 

「あぶなっ……!」

 

 思わず、ナーサが叫ぼうとした瞬間、

 

 ボバァァアアアアア……

 

 大きく開いた、その奥に大きな青い火の玉が燃える。

 ゾンビ化したサラマンダーの口内。

 

 それが、台風のような風を起こす。

 いや。

 それは感覚的なものにすぎない。

 土も灰も、まるで動いてはいなかった。

 

 だが。

 

「エナジードレイン……!」

 

 バッキーは顔をしかめてつぶやく。

 

 ――魔法で防御対策してなきゃ、HPもMPも吸い取られて死んじゃってたな、これ。

 

 しかし。

 カーシャは無反応だった。

 最前線に立つ、テラも同様。

 

 ――な、なんで平気なの!?

 

 ナーサがどうしていいかわからず、目を白黒させている時、

 

 

 ザッ……

 

 

 いきなり。

 サラマンダーは顎から地面に倒れこむ。

 

 いつの間に、

 テラは右横で、小剣を構えていた。

 

「え……?」

 

 そして、倒れたサラマンダーの頭は真ん中から見事に両断され――

 

 ザムッ

 ギョリッ

 ビュッ

 

 風を切るような音。

 肉や骨を引き裂き、断ち切る音。

 

 サラマンダーの姿、形は、消えた。

 

 文字通り。

 バラバラに解体され、原型をとどめていない。

 

 やがて……。

 その肉片は灰と化し、他の灰と区別がつかなくなった。

 

「…………」

 

 テラは、やはり無言。

 静かに立っているだけ。

 

「……もうちょっと、大型モンスター相手の活劇を見れると思ったんだけど。腕が良かったのか、相手が弱すぎたのか」

 

 カーシャは腰の手を当てて、ふうと息をつく。

 

「え、そんな……。だって……」

 

 アンデッド・サラマンダー。

 もしも、あれが――

 

 ――街に出てきてたら、とんでもない災害に……。それこそ、騎士も冒険者も総出で当たっても、どれだけ犠牲が出たか……。

 

 多少なりとも。

 実戦で経験を積み、モンスターと対峙してきたナーサ。

 彼女から見ても、あのモンスターはとんでもない相手だった。

 

 だが。結果は……。

 あまりにもあっさりとしたもので。

 

「けれど。なったものはしょうがないわ。次のラウンドに期待しましょう」

 

「……はい?」

 

 カーシャの言葉に、ナーサはハッとする。

 

 ――そういえば……?

 

 テラは、まだ剣を鞘におさめていない。

 

 ゴウゴウ……

 

 と、炎が燃え上がるような音。

 だが。

 さっきのような熱も臭いもない。

 ただ、生臭い肌に不快感をおぼえる気配が岩場の奥から発せられる。

 

 よくも……。

 よくも、よくも……。

 

 まるで。

 背中にナメクジが這いまわるような感覚。

 

「ね、死霊魔術師(ネクロマンサー)……!?」

 

「話に聞いたヤツか? 生きてたのかよ?」

 

 驚くバッキーとマコネに、

 

「いえ。その残りカスよ」

 

 カーシャは冷たく言った。

 

「…………」

 

 テラは、感情の見えない眼。

 陽炎(かげろう)のように現れた、黒衣の男を見ていた。

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
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