破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「よくも……邪魔を……せっかくの…………」
空中で蠢く黒衣の男。
顔はロウソクみたいに真っ白。
骸骨に、薄皮をはったような顔。
下半身は
――まさに、幽霊だ……。
バッキーは何となく感心してしまう。
色んな経験もつんできた。
死ぬかという思いも味わった。
いいかげんでファンタジー世界にも慣れてきたが、
――ああいうタイプのアンデッドは、初めて見たかも……?
「きさ…れ……私の………くら…」
黒衣の男は、聞き取りにくい不快な声で何かを言った。
「あ? なんだ、ありゃ? 聞こえねーぞ?」
「聞かなくってもいいわ。どうせ役にも立たないタワゴトよ」
つぶやくマコネに、カーシャは苦笑を返す。
「…………」
テラは、無言のまま黒衣へ近づいていく。
小剣をだらりと下げたまま。
ゆっくりと、歩く。
しかし。
その速度は異常に速かった。
「……侮ルな! 貴様の弱サモ、穢れもワカっているゾ………!!」
不安定な発音。
それと共に、
ブォォウウウウウウ…………
全身から、黒い霧をまき散らした。
異様なまでに、黒い。
一切の光を通さず、文字通り漆黒の闇。
「な、なんだあ!?」
「……みんな、下がって!!」
マコネとナーサを後ろにやりながら、
「*********!!」
バッキーは魔法で障壁を造り出す。
魔力の防壁。
物理的にも魔力的にも、極めて強固なもの。
呪いの類に対しても、強い耐性を有する。
「これは……すごいっ」
ナーサは驚き、バッキーの横顔を見た。
――治癒魔法だけじゃなく、こんなレベルの防御魔法まで……。
素直に、感動と尊敬の念を抱いていた。
一方で。
「…………」
敵の姿が見えなくなると、テラは動かなくなった。
やはり。
小剣は下げたまま。
時どき、暗い瞳だけが闇の中を見まわしている。
そして――
小剣のほか、左手に鞘を持った。
つまり。
2刀流の形になったわけだが。
ザワ
ザワワ
ザワザワ
闇の中で、何かが聞こえてきた。
やがて。
無数の人影がゆらゆらと現れる。
――……?
妙な服装ね、とカーシャは思った。
しかし。
その人影がどういうものか、すぐ理解できた者もいた。
バッキー。
――あ。これは……。
多分、前世。
そこでテラ……都筑寺生の家族であった者たち。
学校などの関係者。
「お前のためになあ、俺やみんながどれだけ苦労してると思ってるんだ?」
「なんなの、その嫌な目つきは!? いっつもいっつも……!!」
「あんまり、家にいてほしくない……」
――おやま。素敵なご家族だったようね?
――やっぱり、夢で見ちゃったとおりの……。
カーシャは肩をすくめ、バッキーはいたたまれない気持ちに。
「どうせ将来引きこもり確定だろ、あいつ」
「そのうち通り魔事件でも起こすんじゃね?」
――友人関係? にも恵まれてたようで。
カーシャは、なんとなく親近感をおぼえた。
できれば。
この後、何か話したいような気持ち。
――でもなにを?
話すことなどない。
赤い地獄での体験でも語り合うのか。
そう思っていると。
急に、現れる人影の様子が変わり出す。
「あんた、なんなの? 気持ち悪い」
「恩を売ったから、返せってのか? だったら返してやるよ。金貨に宝石だ! 好きなだけ持って行って、失せろ!」
「あんたを誰も愛さないのはね、当たり前のことなんだよ」
「誰かを愛するんじゃなく、ただ愛されて、誉められて、肯定されることだけを願うような、クズにはね!」
「お前が前の世界で、誰にも相手にされなかったのは――周りが、みんなのせいじゃない。お前がどうしようもなクズ野郎だからだ!!」
「どこに行ったって、周りがどうであれ」
「クズはどこへ行ったってクズなのよ!!」
「お前はホントに情けないヤツだな」
「前の世界で、前世で――現実とも戦わずに」
「こんなところで、ヒーローごっこみたいな真似をして」
――??????
なんだか。急に。
――服装とか、いや、人種? 種族? 国、文化圏? ガラッと変わったけど……。
どうにも、珍奇な体験をしているらしい。
カーシャにわかったのは、それだけだった。
――よくわからんけど、こりゃ嫌な手口だよなあ……。人前で過去の恥を並べられるってのはぁ……。
マコネはため息をつきながら、黒衣の
「……こんな」
ナーサはヒーラーの杖を握りしめながら、息苦しさを感じていた。
そのうち、過呼吸にもでなりそうな……。
――彼は、いや、この子は……。ヒトに好かれたということがないんだ……。
こんな環境で生きてきた子供が、どう成長するか。
けなげで優しい人間になど、なるわけがない。
そんなものは、おとぎ話の中だけだ。
何しろ。
成長の過程で悪意ばかり学ぶのだから。
教会でも、孤児院でも。
成長の中で歪んでしまった子供は大勢いた。
ほとんどは、愛されるとか、同情されるとか。
そういうものが得にくい気性だった。
あるいは、仮面をかぶっているかだ。
「………」
テラは無言のまま、動かない。
どう感じているのかは、他人からはわからなかった。
いや、
――気にもとめてないか。
カーシャを除いては。
人影が罵りながらテラを囲む。
そんな中。
闇の間から、無数の骨――だけの腕や手がテラに襲いかかった。
「あっ……!?」
ナーサが立ち上がりかけた時、
ブン!!
黒く冷たい旋風。
それが、人影と骨を一瞬で砕き、薙ぎ払った。
「お……が………だが、だが……奥に………続き………」
闇から、追い出されるように出てきた黒衣の男は白い顔を歪める。
すると。
景色が、変わった。
暗く、じりじりと熱してくる夕日。
乾ききった大地。
そこから、死体が起き上がって殺し合い、あるいは喰いあう。
巨大な蜂に毒針で貫かれた。
牙を持つ、犬ほどの芋虫に脳をすすられた。
無数のバケモノ。
潰され、皮をはがれ、内臓を引きずり出される。骨を引き抜かれる。
見ていることさえ耐えがたいもの。
まるで、共食いしあう虫の群れだった。
死んでも。
殺されても。
一瞬吹く、涼しい風。
それが吹き抜けた後、再び再生して――
また。
殺して、殺される。
いつまでも、グルグルと。
回り続ける車輪みたいに、終わりはない。
「うっ……」
バッキーは口を押さえて、うずくまる。
「な、なんだ、これ……!? 地獄ってやつか? マジかよ……!?」
いつもしぶとく、タフな生き方を見せるマコネ。
その野良猫みたいな少女もへたりこみ、歯を鳴らしていた。
ナーサは杖を落とし、頭を抱えたまま地面にうずくまっていた。
ほぼ、失神しかけている。
「ふふ。懐かしい……」
カーシャは腕を組み、目を細めて悪夢そのものの光景を見ていた。
「おま、え……あ、うああ…………」
黒衣の男はおびえていた。
理解できない。
未知への恐怖で、形が崩れかけている。
見てはならないモノ。
それを、攻撃するつもりで開いてしまった。
テラには意図はない。
むしろ、勝手に経験や記憶を引っ張り出された〝被害者〟だ。
かといって。
だからどうだというわけでもなかったが。
凄惨で、その経験値はしみつき、永遠に離れることはない。
骨の髄。
細胞のひとかけら。
魂の奥の奥まで。
だが、
――
事実であっても。
現実に、それこそ嫌というほど体験しつくしたことでも。
――
テラは、一瞬で黒衣の男を切り裂いてた。
恐怖に歪んだ顔。
それが、両断されたと同時に静かに燃えて――
消えた。
かつて墓だった場所。
そこには、もう。
ただ死体の灰があるだけ。
マコネも、バッキーも。
そしてナーサも。
みんな何も言えない。
ただ黒い刃を鞘におさめる、少年の横顔を見ているだけだった。
そんな中、
「おみごと、おみごと」
カーシャだけが愉快そうに手を叩き、褒め称えていた。
「街を出る? もう?」
カーシャは振り返った。
街に戻った時には、もう夜になっていた。
失神したナーサを、カーシャは肩に担いでいる。
まるで荷物みたいな扱いだった。
「よりにもよって、こんな場所で?」
「場所は関係ない」
テラは不愛想に言った。
カーシャはチラリと横を見る。
街の郊外にある、小さな墓地の前。
一般的な墓地ではない。
いわゆる、無縁墓地。
行き倒れや引き取り手のない死者。
それも火葬した灰、骨の残骸を適当に埋める。
実に乱暴に葬られた死者の家。
柵で囲まれた中央に、苔むした古い墓石があるだけ。
昼間でも寂しく、陰気な場所だ。
夜となれば、ものすごい雰囲気。
「仕事はきっちりやってくれたから、まあいいけど」
カーシャはナーサを担いだまま、
「じゃ。これは後金よ」
ゆっくりと、軽やかな動作で革袋を差し出す。
「………」
テラはそれを受け取り、重さをはかるような仕草。
そして。
足音もなく、背を向けて歩き出す。
「その腕なら」
カーシャは、テラの後ろ姿に声をかける。
まるで。
独り言のような口調だった。
「冒険者ギルドでは大歓迎でしょうね。やり方次第であっという間に大金持ちか、英雄になれるわ」
「………」
「つまり、富も名声も転がり込むわけだけど?」
「………」
「まさか、名も欲も捨てた求道者を気取ってるわけじゃないでしょう?」
「良い話のようだが――」
テラは立ち止まり、わずかに振り返った。
感情の見えない視線をカーシャへ返し、
「ゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだよ」
「ふむ。なるほど」
テラの返答に、カーシャはうなずく。
「それならまあ、しょうがないわ」
「………」
テラは応えない。
「あの……。どういう?」
「おいらにも、あんまりわかんねーけどさ」
マコネは野良猫みたいな仕草で
「あんだけ腕のあるヤツだからな、そりゃ欲しがる連中も多いだろうよ。けど、そうなりゃあ姐さんへの……対抗馬ってのかい? うまいこと使って
「それは……」
ありうるのかも――と、バッキーは小さくうなずいた。
――核兵器に対抗して、核兵器を持つ……みたいな? あー、確かにゴタゴタだ……。
「でも? とはいえ」
カーシャはよそ見をしながら、独り言のように、
「夢も愛も全部捨てて、放り投げて、どこに行ってどうにかなるのかしら? なにか、プランでもあるの?」
「………」
テラはカーシャを見ながら、
「おかしな言い方をするんだな」
「うん? どういうこと?」
カーシャはわざとらしい顔で言った。
腰を曲げて、顔を突き出すような姿勢。
「最初から無いものを、捨てるなんておかしな話だろ」
「……。あっははははははは!!」
テラの返事に、カーシャは弾かれたように笑った。
まさに、大爆笑。
マコネとバッキーはドン引き。
「それはそれは、また正確な自己分析だこと」
なら、ますますしょうがないわ。
カーシャは、ゆっくりと片手を振るった。
そこに暗い紫の炎が燃える。
炎は、闇を飛んで無縁墓地の墓石を包んだ。
闇を、わずかに照らす紫の炎。
何かを燃やすこともない火。
隠火。
「死人同然のあなたへの送り火よ。まあせいぜい好きにおやんなさい」
「………」
テラは、炎のともった墓石を見た。
供養する者もなく、名前も残らない。
そんな無用者たちが、雑に葬られる廃墟のような墓地。
テラ――
かつて、都筑寺生と呼ばれていた少年。
紫の
ほんの一瞬。
彼は、そこに自分の
「…………」
けれど。
テラはそのまま、早足で歩きだした。
仮に髑髏として消えても、
――何度も繰り返す、〝
星も月もない中。
テラはもう振り返ることはなかった。
テラの後ろ姿が、夜道の向こうに消えた頃。
――誰にも、必要とされない嫌われ者、か……。
小さく、静かなものだが――
カーシャは珍しく、本心から笑った。
――だから、あいつが気にかかったのかもしれないわ。
同病相憐れむか。
それとも?
同族嫌悪か。
どちらかは、カーシャ自身にもわからない。
「
誰にも聞こえないつぶやき。
青い髪の乙女は、それを口の中で転がした。
カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら
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親族(父方)
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親族(母方)
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とりまき
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使用人