破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

99 / 357
誤字報告をいただきありがとうございます
なかなか直す暇がないので大変助かってます!


その81・5、異物の夢

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれ。またこういうパターンか……。

 

 【夢の中】で、バッキーこと古井椿はため息。

 

 顔を上げると、机に座っていた。

 あんまり懐かしくもない教室机。

 ザワザワとした朝の教室。

 

 何度か似たような【夢】は体験した。

 高校だったり、中学だったり。

 あるいは社会人だったり。

 時には小学校や幼稚園すらあった。

 

 ――今回も、高校生か。なんだかなあ……。

 

 これも、どこかの並行世界を体験しているのか。

 頭を抱えたくなる気分。

 憂鬱な気持ちのまま。

 バッキーは聞くともなく教室内の声を聴いていた。

 

 その中で、

 

「転校生」

 

 という単語がやたら出てくる。

 

 ――なんか、アニメか漫画の1話みたいだな……。男にしろ、女にしろ? こっからお話が……。

 

 そんなことを考えているうち。

 担任がきて、始まるホームルーム。

 

 が。

 

 さっきまでうるさかった教室内が、静まり返った。

 

「えー、聞いてるヒトもいるかもしれませんが、今日からこのクラスに入る、ま、転校生ですね」

 

 チラッと転校生を見る担任。

 転校生はうなずいた後、教壇の前に立つ。

 

 スラリとした背丈。

 女性としてはかなりの大柄。

 175近くあるかもしれない。

 明らかに日本人とちがう……。

 かと言って欧米人などとも違う顔立ち。

 わかるのは、恐ろしいほどの美形だということだ。

 

長壁(おさかべ)カーシャ。どうぞ、よろしく」

 

 深窓の令嬢。

 そんな雰囲気と、優美な仕草で転校生は黒板に名前を書いた。

 

 ――り、リーダー!? そ、そうきたか~~~~~~…………。

 

 この後。

 

 まあ、お決まりの展開。

 転校生を囲んでの質問合戦。

 

 ――まあ、当然なんだけど……。

 

 並の女優やモデルなぞ相手にもならない。

 そんな女子高生がいたら、

 

 ――誰だって騒ぐわ……。

 

 カーシャは、騒ぐ連中に当り障りのない対応をしている。

 

 ただ?

 それなりに一緒に過ごしたバッキーには、

 

 ――わかりやすすぎるほどの猫かぶり、いや、演技……。

 

 騒がしい中、時間は過ぎていく。

 気づけばもう昼休み。

 

 と。

 

 ――ありゃ?

 

 いつの間にか、カーシャの姿が消えていた。

 

 みんな探しているようだ。

 他のクラス、あるいは上級生なども顔を見せている。

 

 遊びへの誘いとか、部活の勧誘とか。

 まあ、色々らしい。

 

 バッキーは、カーシャとはまったく口をきいていない。

 ひどく気恥ずかしい。

 あるいは、

 

 ――なんか、対応に困るっていうか……。

 

 学食に行こうと教室を出てから、

 

 ――んん?

 

 妙な音。

 あるいは、気配か。

 

 冒険者生活で、いつの間にか身についてしまったある感覚。

 平和? な現代日本では、一般人には縁のないもの。

 そのはずだが――

 

 気にかかり、バッキーはそれを感じる方向へ。

 

 ごきっ

 ばきっ

 

「え?」

 

 やはり、冒険者生活。

 その中で聞き慣れてしまった音。

 生身の体。

 肉や骨を叩く嫌な音だった。

 

 校舎の裏手。

 

 そこで、カーシャは男子生徒の頭をつかんでいた。

 

 男子の顔は、ボコボコ。

 顔が腫れ上がり、歯も数本折れているのがわかる。

 金髪に染めた頭が血の染まっていた。

 

 足元には、似たような男子生徒が丸まって、

 

「~~~~………! ……!」

 

 聞き取れない声でうめいた。

 やっぱりボコボコにされている。

 

 ――ああ、この程度か。

 

 そう思った自分に、

 

 ――いや、とんでもない暴力沙汰じゃん!?

 

 すっかり変わってしまった自分の感覚に頭を振る。

 

 彼女の知るカーシャなら、

 

 ――とりあえず生きてます……くらいまでメチャクチャにすることもあるし……。

 

 あっさりと。

 文字通りハエのように叩き潰してしまうことも、

 

 ――フツーにあるし?

 

 死骸は、原型などとどめない。

 死ななくても、

 

 ――手足を最低1つは潰されるか、目と耳とか……って、そんな場合じゃない!!

 

 ハッとしてバッキーは顔を上げる。

 

「もう、カンベンしてください……」

 

 多分――

 金髪はそんなことを言ったのだろう。

 しかし。

 唇が切れ、歯が折れ、顔も腫れ上がった状態。

 言葉もうまく話せないようだった。

 

 ごっ

 

 カーシャは、それに暴力で応えた。

 何も言わない。

 ただ。

 殺さない程度に、致命傷にならない程度に。

 手をいくつも抜いて。

 

 やられるほうは――

 むしろたまったものではないだろうが。

 

「い、いけません! い、いけませんって! 事件になりますよッッ!!」

 

 バッキーはカーシャの腰に抱きつき、叫んだ。

 

 すると。

 カーシャは無造作に金髪から手を放した。

 

 どさり

 

 金髪が死んだ魚みたいに転がる中、

 

「お互い、妙なことになったものね」

 

 カーシャは小さくそう言った。

 

「え?」

 

 バッキーが顔を上げた時には、カーシャはもういなくなっていた。

 

 

 

 

 

 ――えらいことになった。

 

 半殺しにされた男子2人。

 彼らは当然のごとく救急車で運ばれた。

 もちろん。

 学校は大騒ぎである。

 バッキーはカーシャほどではないが、すばやく逃げた。

 

 なので。

 騒ぎを外から見ているだけですんだが。

 

 2日の臨時休校の後。

 学校は普通? に再開した。

 

 どうやら、

 

「ヤンキー同士? の喧嘩」

 

 みたいなことで話はおさまったらしい。

 カーシャのことはまったく上がっていないようだった。

 

 ――いいのかね、これで……。

 

 バッキーは現実逃避するように、休み時間は漫画を読んで過ごした。

 

 ――【夢の中】で現実逃避ってのも変な話だけどね……。

 

 ふと、気配を感じる。

 顔を上げると、

 

「それ、他のはないの?」

 

 漫画の単行本を指さし、カーシャが言った。

 

「え、ああ、ありますよ。ちょうど1巻目が」

 

「それはけっこう。ちょっと貸してくれる?」

 

「どうぞ」

 

 つい。

 いつもの感覚で会話して、本を手渡す。

 

 ――あ。

 

 ここが【夢】だと思い返して妙な気持ちになるバッキー。

 

「えーと、漫画お好きなんですか?」

 

「あまり読んだことはないから。読み始めたのも最近だし」

 

「そうですか……」

 

 ――このへんも本人? とおんなじだなあ。

 

 このあたりでは、まだ平穏だった。

 

 

 しかし。

 

 昼休みのこと。

 

「私は、お前と話しているのよ。言葉、わかる? それとも、わからないフリでもしてるのかしら?」

 

 おだやかな、普通の声としゃべりかた。

 だが?

 カーシャは片手で男子生徒の顔をつかんでいる。

 

 みし、みし

 

 微かに聞こえる嫌な音。

 男子は必死でもがくが、カーシャはビクともしない。

 

 何故、こうなっているとかいうと。

 

 少し前。

 カーシャは数人の女子に誘われて、昼食をとっていた。

 どうということもないおしゃべり。

 そんな中でも。

 カーシャの仕草は、その容姿を抜きにしても高貴な雰囲気。

 

 バッキーは見るともなく、それを見ていたのだが……。

 

 この時。

 

 突然、何かがカーシャのほうに飛んでいった。

 カーシャはそれを、見もしないでキャッチ。

 

 ――まあ、そうなるか……。

 

 バッキーには当然のものだったが、

 

「え?」

 

「今の……」

 

「すご……」

 

 間近で目撃した女子たちは呆然としている。

 

 紙パックのジュース。

 ストローもついて、飲みかけなのは一目瞭然。

 

「そこのお前」

 

 カーシャは立ち上がりながら、1人の男子生徒の前に。

 途中。

 紙パックをゴミ箱に放りながら、

 

「まさか、喧嘩でも売っているつもり?」

 

 手をウェットティッシュでふきつつ、カーシャは言った。

 

「あ、いや……」

 

 冷たい水色の瞳。

 その視線を受けた男子はあわてふためく。

 かと思えば、

 

「お前、何やってんだよ、**!!」

 

 いきなり、他の男子に怒鳴った。

 

 ――あ、そういう……。

 

 2人を見比べ、バッキーは何となく察した。

 

 つまり。

 この男子は、もう1人の男子へのいじり……というより嫌がらせ。

 それで飲みかけの紙パックを投げたらしい。

 

 ただ。

 へぼだったのか、よけられたのか。

 紙パックはカーシャのほうへ飛んだらしい。

 

 そして、今に至る。

 とっさに責任転嫁しようとしたらしいが、

 

 ――通じるわけないか……。

 

 みし、みしみし

 

 カーシャにとって、人間の頭を握り潰すなど簡単なものだろう。

 

 ただ。

 そこまでする気もなかったのだろう。

 

 ぶん

 

 カーシャは、片手で男子を教室の後ろ。

 その壁に叩きつけた。

 

 ごろん、と。

 荷物棚の上に落ちた男子。

 カーシャをその髪をつかんで引っ張り起こす。

 

「前から気になっていたんだけど――」

 

 男子生徒のおびえた顔。

 それを見おろしながらカーシャは言う。

 

「キャンキャンキャンと。野良犬みたいにうるさいのよ、お前たちは」

 

 野良犬みたいに、殺処分されてみる?

 

 おだやかで、上品な声。

 しかし。

 背筋を引き抜かれるような、ゾッとする響き。

 

「ちょっ……!!」

 

 バッキーはあわてて立ち上がって――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いけませんって、それ以上!!」

 

 跳ね起きながら、バッキーは叫んでいた。

 

 そこは、昇りかけた朝日のさす部屋の中、

 

 セーヅの街。

 温泉宿の部屋。

 

「は~~~~~~………」

 

 大きなため息をつくバッキー。

 

 ――やっと目がさめた……。

 

 ホッと胸をなでおろしていると、

 

「あ」

 

 横のベッドに腰かけたカーシャ。

 青い乙女が、バッキーを見ている。

 

 おはようございます。

 

 バッキーがそう言おうとした時、

 

「お互い、変な夢を見たわね」

 

 

「へ?」

 

 カーシャの言葉に、バッキーは目を丸くした。

 

「どれだけ遠い場所でも、くだらないのはくだらないものね」

 

 まあ、そういうものでしょうけど。

 

 カーシャはそう言って伸びをして、カーテンをゆっくり開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーシャの令嬢時代関係者で登場するとしたら

  • 親族(父方)
  • 親族(母方)
  • とりまき
  • 使用人
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。