チリちゃんさんとのポケモンバトルがあった日から一夜明けた、テーブルシティの西側のポケモンセンター。
そこでモンスターボールを10個買い込んだ俺はオマケで貰ったプレミアボールを左手で弄びながらポピーを待っている。
しかし…俺の好きそうな岩タイプのポケモンって何なんだろうか?
ヨーギラスやココドラ、サイホーンのような怪獣めいた見た目のポケモンかな。もしくはダンゴロやタンドンのようなthe鉱物なポケモンかもしれない。
俺はポピーと頻繁に連絡をとりあっている訳では無かったのでパルデアの事情には疎く、どこにどのポケモンが生息しているかは全く知らないので、何が現れるのか楽しみだ。
プレミアボールを指先に乗せて回すこと約10分、ポピーが大通りの方からやってきた。
「お待たせしましたの!」
今日のポピーの格好はいつものワンピースではなく、長ズボンに長袖のシャツとフィールドワークのための装いとなっていた。
あのバカデカイ鍵型のポシェットも小振りなものに変えており、リュックサックを背負っていたのでかなり印象が変わっている。
「んにゃ、今来たところだ。
…今日の服装も似合ってるな。」
「えへへ~ありがとうなのです。
さっそくいきましょう?」
「あぁ、案内をお願いするよ。」
視界の端にジョーイさんとフレンドリーショップの兄ちゃんがニッコニコしてるのが映り込むが無視だ、無視。
こーゆー細かい気づかいは大切だって今世の親父に仕込まれてんだよ。カロス地方なめんな。
西門からテーブルシティを出て道なりに進むと、オリーブ畑が見えてきた。
ポピーとの会話の合間にスマホロトムで調べてみるとここは南2番エリアと呼ばれており、パルデア地方の名産品、オリーブの大農場が有名なんだとか。
オリーブ…オリーブかぁ…
少し前に流行ったオリーブオイルを毎回料理に入れていた料理系PokeTuberに想いを馳せながらオリーブ畑の間に引かれた小道をポピーと並んで歩く。
彼女との会話は特に無いが案外気楽なもので、辺りの景色や野生のポケモンの様子を眺めながら進んでいる。
「あ!アンタムくん!」
「ん?どうした?」
急に横にいるポピーから話し掛けられた。
「チリちゃんからのでんごん!おなしするのわすれてましたの!
えっと…アンタムくんのポケモンはきょうはポケモンバトルにだしちゃ、めっ!なんですの。」
「はぁ…って、えっ!
じゃあどうやってポケモン捕まえるんだ?モンスターボールをポケモンの後頭部にぶちかませってことか?」
「それはたぶんだれにもできませんの……
ですので!きょうはポピーのポケモンをかしてあげますの!」
ポピーがぴょんぴょんと大袈裟な身振り手振りをしながらそう言うと、リュックの中からモンスターボールを取り出し、中にいるポケモンを出した。
「キリキザちゃん!でばんですの~!」
現れたのは俺より
首からは紫色の石…進化の輝石がついた紐を下げている。
「む…キリキザンはもう最終進化系なのに進化の輝石を持たせてるのか?」
「むっふっふっ~
パルデアちほうのキリキザちゃんはあといっかい、しんかできるのです。
だからしんかのきせきをもたせてカッチカチにできるのですよ!」
「ほぉ~」
知らなかったな…路銀稼ぎのために下調べそっちのけでバトルシャトーに籠っていたのが響いている。
「キリキザちゃんは、みねうちと、でんじはと…ふいうち、アイアンヘッド、がつかえますの!」
このキリキザン、ガチガチの捕獲要員だった。
確かに輝石があれば不意にとんできた格闘技でやられる心配も減るのか。
「ではでは…キリキザちゃんのモンスターボールですの。」
「あっこれはどうも。」
ポピーから預けられたボールに一旦キリキザンを戻す。
「きをとりおしてしゅっぱつですの~」
「気を取り直して、だぞ。」
ポピーのかわいらしい言い間違いを指摘するとポピーは顔を赤くしながらぴょんぴょんと目一杯跳ね、弁明してきた。
「…わっ、わざとですの!
アンタムくんのことをためしたのですの!」
「はいはい。」
「むぅ~!!!ほんとですの~!!!」
なんだこのかわいい生き物、最高か?
オリーブ畑を抜けた先にある町、セルクルタウン前のポケモンセンターでひと休みした後、道を外れて北の方に進む。
辺りに崖が見えてきたところでポピーが立ち止まり、近くの木の影に隠れた。俺も同じ木の影に隠れる。
「アンタムくん、アンタムくん。ちょうどあそこにアンタムくんにぴーったりなポケモンがいますの。」
ポピーの指差す方には薄茶色の毛並みと真っ白なしっぽが特徴のこいぬポケモン、イワンコの群れがいた。
ポピーの言っていた俺が好きそうなポケモンとはイワンコのことだったようだ。
実際、イワンコもその進化系であるルガルガンも好きな部類であるので捕まえるとするか。
「群れからはぐれているイワンコちゃんを狙うんですの。」
「りょーかい。」
ポピーの指示を聞きながらイワンコの群れに意識を向ける。
どの個体も他の個体との距離を適度に置いており、バトルを仕掛けようとすると必ず気づく位置取りである。
既に充分理解していたつもりだったが、ポケモンの本能は良くできていることを再度実感する。
張り込むこと約20分、群れからはぐれたであろうイワンコを見つけた。
そのイワンコは身体中に傷を付けているにも関わらず、軽い足取りで群れから離れた場所を悠々と歩いている。
おそらく群れを追い出されたか進化が近いために自ら群れを離れたかのどちらかだろう。
俺はそのイワンコに狙いを定め、草むらに身を潜めながら近付く。
ポピーは木陰からこちらを見守っている。
イワンコとの距離が20mくらいになると、相手もこちらに気付いた。
こちらを真正面に見据えて犬歯を剥き出しにし、唸り声を出している。
「頼むぞ、キリキザン。
でんじはだ。」
ポピーのキリキザンを繰り出し、すぐさまでんじはを指示する。
「キザンッ」
キリキザンは俺の指示を忠実にこなし、イワンコをマヒされる。
「グルルルゥ…」
だがイワンコの闘志は未だ燃え盛っているようだ。
草むらに紛れて接近、キリキザンに飛び掛かり、噛みついてきた。
だが、その抵抗はレベル差の壁に阻まれ、キリキザンの脛にかすり傷を付けるに終った。
「次は、みねうち。」
迂闊にも接近してきたイワンコにすかさず一撃。
キリキザンの手加減された攻撃により、イワンコはひんし一歩手前の状態になった。
「うっし。よいしょー!」
息も絶え絶えのイワンコに向けて空のモンスターボールを投げる。
オーバースローで投げだされたモンスターボールは縦回転しながらまっすぐ飛んで…
「キッ!?!」
キリキザンの後頭部に直撃した。
どこに向かって投げてんだ。と言いたげな非難の視線が痛い。
しょうがないじゃん!俺ノーコンなんだもん!!
これでもかなり改善したんだぞ!
「ワフッ?」
俺が心の中で弁明の言葉を考えていると、キリキザンの足元に転がったモンスターボールにイワンコが興味を示した。
バトル中で自分が劣勢という状況なのに随分と肝の太いイワンコだ。
「…ワッフ?ワフ。……キャン!?」
イワンコが鼻先でモンスターボールをつついては転がし、つついては転がしを続けているとモンスターボールの開閉ボタンが前足にぶつかり、イワンコがボールの中に吸い込まれていった。
ボールが揺れること3回、カチリと音がしてイワンコが捕まった。
「えぇ…」
「キリ…」
「ほぇ…」
なんだか締まらないが、まぁ捕まえられたから良しとするか。
▼▼▼
パルデア地方のポケモンリーグ本部のとある会議室、そこにはポピーを除く四天王の3人とトップチャンピオン、オモダカがスクリーンに映された昨日のチリとアンタムのポケモンバトルを見ていた。
『これで終いや!ドオー!じしん!』
『どぉーおぉー!』
『ユレイドル、戦闘不能。よって勝者チリ。』
ドオーのじしんが氷漬けのユレイドルに直撃させ、ひんしにしたところでオモダカが手元のリモコンで映像を止める。
「さて、このバトルの結果から彼に四天王の任務、特にポケモンバトルを含むタスクを割り振るべきか、忌憚の無い意見をお願いします。」
オモダカが他の3人に視線を向ける。
「ふむ…小生の所感とすると、彼のトレーナーの腕前ならば充分かと思うのですよ。
気性の荒いことで知られているガチゴラスと信頼関係を築けているのですから。」
真っ先に口を開いたのは四天王の1人、ハッサク。
パルデア地方随一のドラゴンタイプ使いとして名を馳せている人物だ。
「ただ…思うところもあるのですよ。
彼の主力であるガチゴラス、彼女が街中でバトルすれば少なくない被害が出ることは必至。
街中以外でも環境に与える被害も鑑みるならば、今の彼の手持ちのままでは任せられない。という判断が妥当かと。」
「チリちゃんもそれに賛成やな。」
ハッサクに賛同したのはアンタムと実際にポケモンバトルをしたチリだ。
「それと、実際に相手してから分かったことなんやけどな。
アンタム、結構要領悪いで。あと、トレーナーとしての経験値…特に搦め手やらのがな、足りんな。
お行儀いいバトルしかしとらんやろ、あいつ。」
事実、アンタムは紳士的なバトルをモットーにしているバトルシャトーを中心にポケモンバトルの経験を積んできたため搦め手の経験が圧倒的に不足しているのである。
「せやけどなぁ、あいつは搦め手覚えたら化ける思うで。」
チリはそう付け加えてから締め括った。
「なるほど…アオキは何かありましたか?」
オモダカはこの場にいる最後の1人、非凡サラリーマン、アオキに話題を振る。
アオキは少し考え込んだ後、口を開く。
「彼の戦い方は終始、チリには効果の見込めない戦法をとっていたのが気になりました。」
そう結論だけ言うと口を閉ざしてしまった。
他の3人からの催促の視線を受けて嫌々といった風に続ける。
「ユレイドルのステルスロックとやどりぎのタネで相手方の足を鈍らせ…
オムスターとガチゴラスが広範囲の攻撃と一点突破の攻撃で緩急を付けながら確実に仕留める…
堅実かつ、動き回る相手に良く効く戦い方だと思いました。
しかし、それは鈍足なポケモンが主力のチリには悪手…
そこが気になりました。」
「言われてみれば確かになぁ…
なんやろ?
ウチがガブリアスやら速いの使こうてくるとヤマはったんかいな?」
「私の所見としては、その戦い方しか出来ないのかと。…勝手な推測…もはや邪推ですが。」
「なるほど…経験がないから作戦のバリエーションが貧弱であると。そう言いたいのですね?アオキ?」
「……はい。」
「ふむ…ではアンタムに関して、当面の内は事務方中心にしつつ、ポケモンバトルのスキルアップに努めてもらうとしましょう。
チリ、しばらく彼の面倒を見てくださいね。」
「りょーかいさんや。
いやー今年は忙しいなぁ、大将は突然美術の教師を兼任し出すし、ウチはポピーと新人秘書の面倒見なアカン。アオキさんは相変わらず社畜やし。」
「今期の3人へのボーナスは期待しても構いませんよ。」
「おっ?チリちゃん真に受けたで。後からナシはアカンやつやで?」
「えぇ、もちろん。
では、今回はここまでにしましょう。
また明後日に。」
オモダカはそう言って会議室から颯爽と退出していった。
アオキも手早く荷物をまとめ、チリとハッサクに会釈をしてそそくさと出ていった。
ぶつぶつとタスクが…ノルマが…と呟いていたのでおそらく営業の仕事があるのだろう。
ハッサクと共に会議室に残されたチリは独り言のようにぼやく。
「…今日のトップ、えらく上機嫌やったけど、何かあったん?ボーナスの話なんて普段滅多にせんやろ、あの人。」
その疑問をハッサクが何とはなしといった風に拾った。
「オレンジアカデミーの方で若い芽を見つけたそうですよ。
確か名前は…ネモ、でしたね。まだ13歳にも関わらず柔軟な戦い方が出来るのだとか。」
「ほーん。
トップがあんな風なるなんて相当な逸材やない?
もしかしたら最年少でチャンピオンクラスになってまうかもな?」
「その時は全身全霊で迎え撃つまでですよ。」
「せやな。」
その人物が今年のジムチャレンジを掻き乱すのをこの時の2人はまだ知らないのであった。
・アンタム(♂)
運動音痴なトレーナー。
岩タイプのポケモンは基本誰でも好き。
初めてモンスターボールを投げたら明後日の方向に飛んでったので必死に矯正した。
・キリキザン(♀)レベル54
ポピーのポケモン。いじっぱりな性格。
ポピーが四天王に就任する直前に捕まった。
ドドゲザンになるため日々修行に勤しんでいる。
捕獲要員。
・イワンコ(♂)レベル14
ようきな性格。
マイペース過ぎて群れから置いてかれた。
が、全く気にしていないし、むしろ置いていってしまったなと考えている。
アホの子。
ボールと甘いものが好き。
・アオキ(♂)
みんな大好き社畜さん。
チャンプルジムジムリーダー兼四天王兼ポケモンリーグ営業部所属。
好きなタイプはノーマル。
・ハッサク(♂)
おもしれーおじさん。
四天王兼オレンジアカデミー美術教師。
音楽で食べていくためにドラゴン使いの一族から出奔したことのある。
好きなタイプはドラゴン。
原作開始1年前です。
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