ポピーとイワンコを捕まえた次の日、所持金が底をついたのでホテルをチェックアウトしてデカい鞄を肩に提げて金稼ぎにトレーナーをボコしに行こうと西門にうとそこにはオモダカさんが居た。
「一昨日ぶりですね。アンタム。
今から私についてきてもらいます。」
拒否権ない感じですかね、これ。
オモダカさんに付いて行った先はテーブルシティの外れにある少し年季の入ったマンションだった。
「こちらはポケモンリーグが管理している社員寮の1つです。
あなたはこちらに拠点がないのでしょう?2階の右端の部屋を使うと良いでしょう。」
え?何…この…新手の詐欺みたいな囲い込み方は……?
「家賃や家具なんかはどうすれば…?」
「こちらで用意してありますよ。もちろん来月からはしっかり払ってもらいますが。」
何…俺の逃げ道、塞がれてるの…?
「不躾なことを聞きますがそのお金はどこから?」
「私のポケットマネーです。
幸い、最近は大きな買い物をする機会がなかったので結構余裕があるんですよ。」
もしかして俺ってこの後…
「サシカマス漁船に乗せられるのか…?」
「将来有望な人材をそのように使い潰すつもりは毛頭ないので安心してください。」
サシカマス漁船以外の方法で使い潰す気満々かよぉ!
「詳しい話は中でしましょうか。」
オモダカさんに促されるまま件の部屋に入ると案外小綺麗な玄関に出迎えられ、そのままダイニングに入る。
オモダカさんはそこに運び込まれていたダイニングテーブルの木目を撫でながら口を開いた
「さてと…この社員寮の一室を貴方に用意するに到った理由をお話しましょう。
結論から言いますと、パルデア地方のポケモンリーグのイメージを悪化させないためですね。
貴方はまだ15歳。
ただでさえポピーを四天王にしている中で貴方のような、他の地方からやって来た生活基盤の無い未成年を何のサポートもせずにポケモンリーグで雇用するのはスポンサー企業やジムチャレンジ挑戦者に悪い印象を与えてしまいます。
ですから私が後見人になることで“トップチャンピオン肝いりのトレーナー”としてその悪評が出る前に蓋をしてしまおうと言う訳です。」
oh…大人の世界って面倒ネ…
「勿論、他の理由もありますよ。」
「へ?」
「まぁこの意図がかなりの割合を占めていますが…
誇張やさっきの建前を抜きにして、私が貴方を高く評価しているからですよ。」
「はぁ…」
「信じられないといった様子ですね。
貴方のカロス地方の8つのジムを半年で突破し、四天王への挑戦は5回。
結果は全てガンピ氏に敗北という形で終わっていますが。
それを2年前の13歳の時点で成し遂げているのですから十二分に評価に値します。」
あぁ。俺の半年でジム突破はパルデア地方では異常な速さと認識されているのか。
俺の名前でエゴサすると、『カルム以下』だの『絶対にガンピに負けるマン』だの『10年に1人レベルの痴れ者』だの…
ヤバいちょっと泣きそう。
…とにかくボロクソに言われていたので感覚がマヒしていた。
カロス地方は
いやまぁ、世界の危機を救ったガチの英雄様だからそうなるのはある意味当然なのだが。
「あぁ、それと。
明日からポケモンリーグに着ていく制服も用意してありますから、サイズ確認のために着替えて下さい。」
オモダカさんはダイニングの隅にあった段ボールを手渡した。
これだけの厚待遇の対価でサシカマス漁船以外の選択肢って何が来るんだよ。
怖ぇよ。
「いや、似合わねぇだろ。」
シャワールームの脱衣所で着替えを済ませた俺が洗面台の鏡の前で放った第一声はそんな感じだ。
黒いスラックスに白のワイシャツとクリーム色のセーター。ネクタイは岩タイプモチーフの黄色みが入った茶色で岩タイプを表す八角形の鉱物の模様が入っている。
服装のみ見れば少しユニークな学生と言った格好だが、着ている人物が悪い。
天パ気味で伸ばしっぱなしの金髪と碧色の下三白眼。極めつけに目の下にくっきり刻まれた隈。
パンジーさんの取材を初めて受けた時に話題になっていた中性的で端正な顔立ちも、不機嫌そうな人相で隠れてしまっている。
とにかく、壊滅的な組み合わせの悪さだ。
彼女殴ってるホストか陽キャモドキみたいなルックス。
こんなんがポケモンリーグに出入りする場面を想像したら乾いた笑いが込み上げてくる。
「着替えは済んだようですね。」
「うおっ!?」
オモダカさんがヌッと現れた。何の前触れもなく出てきたもんだから心臓に悪いぜ。全く。
「ふむ…乱れている髪を直してみましょうか。失礼しますね。」
そう言って後ろに立つと何処からか取り出した櫛で俺の髪を梳きだした。
特に天パに対するこだわりも髪を触られる抵抗もないのでされるがままになっていると何とはなしにといった風に彼女は口を開いた。
「あなたのことは何度かポピーから聞いていました。」
「へぇ。ちなみになんと?」
「ポピーとポケモンバトルをして、初めて“もう一度”と言ってくれたおともだち。だそうです。」
そんな大したものかね?負け惜しみで言っただけなんだが。
「…貴方は表情が顔に出すぎですね。」
ぐ…おっしゃる通りです…
「ポーカーフェイスの練習も後でしましょうか。
何かとできた方が便利な技能ですから。
…終わりましたよ。ふむ。やはり髪を整えた方が似合っていますね。」
鏡をのぞいてみると先程よりかはマシな見てくれになった俺が居た。
あっちゃこっちゃにはねていた髪が真っ直ぐに直され、雑に束ねていた後ろ髪もイーブイのしっぽのように小綺麗に纏まっている。
髪型1つでここまで変わるとわね。
「明日からは自分で髪を整えてくださいね。」
「…善処シマス…」
櫛ってどこに入れてたっけなぁ…
鞄から探すのめんどいなぁ…
その後、オモダカさんは用事があると言って、部屋のカギを置いて帰ってしまった。
風みたいな人だな、と思った。
目上の人と話す機会は久しぶりだったためどこか疲れたが気を取り直して小遣い稼ぎに行こう。
イワンコは、昨日の晩に飯をあげたことである程度こちらの指示を聞くようになってくれたが、“飯をくれる奴”としか認識していないので、バトルのためにもより深い信頼関係を築かねばならない。
スーツからさっきまで着ていたジャージに着替え、イワンコの入ったモンスターボールを片手で弄びながら俺は外へと繰り出した。
テーブルシティの南側のエリア、通称南1番エリアは比較的穏やかな気候と危険なポケモンが少ないことで知られている。らしい。
そこに俺は小遣いと経験値稼ぎに繰り出した。
まずは、イワンコのコンディションを探るために野生のポケモンと戦わせよう。
「よし、行くぞイワンコ。あそこのヤヤコマに岩落としだ。」
「ウ…ワフッ!」
イワンコは俺の指示を聞き、一瞬の躊躇こそしたがヤヤコマに岩を当て、一撃でヤヤコマを気絶させた。
「よーし、よし。良くやった。」
「ワン?ワフゥ!」
少し大袈裟に褒めると、イワンコは満更でもなさげな様子。
この調子ならガチゴラスの時のような苦労をせずに仲良くなれそうだ。
そうして、俺とイワンコが野生のポケモンを倒したり、近くの学校の生徒とポケモンバトルしたりして、日が西に傾き出したころ。
イワンコをジョーイさんに預け、ポケモンセンターで休憩をしていると、オレンジアカデミーの制服に身を包み、褐色の肌をした少女が話しかけてきた。
「ねえ!そこのキミ、トレーナーだよね?ポケモン勝負しよ?」
黒い髪に緑色のメッシュが印象的な彼女はモンスターボール片手にそう言った。
「えっ…ちょっ…「あ、そうだった。ポケモンは何匹?レベルはどれくらい?20レベル以下までなら合わせられるよ!」…はぁ?」
俺より少し…ほんの少ーしだけ大きい彼女は今日会ったトレーナーの中でも一番の熱意を瞳の奥で燻らせ、グイグイこちらに詰め寄りながらバトルの催促をしてくる。
こんなにも熱いトレーナーはパルデアに来てから初めてだ。ここは一つ、真摯に応えなければ。
「えーっと…手持ちは1体で、レベルは…18だな。」
「分かった!じゃあ…早速1対1で
ルビの振り方がバトルジャンキーのそれなのは触れた方が良いのだろうか。
ジョーイさんから全回復したイワンコを受け取り、ポケモンセンターの前の原っぱでバトルジャンキーちゃん(仮称)と10m程度の距離を置いて向かい合う。
「頼むぞ。イワンコ。」
「よろしく!フカマル!」
「ワンッ!」「フカ!」
幼体とはいえドラゴンタイプのポケモンとは…中々できるようだ。
心してかからねば。
一瞬のにらみ合いの後、ほぼ同時に指示を飛ばす。
「先手必勝!地ならし!」
「砂かけだ。」
フカマルがジャンプし、落下する勢いで地ならししようとする前にイワンコの砂かけがフカマルに命中。
「フッカァ!?」
空中で視界の潰れたフカマルは空中でバランスを崩し、地面に転がる。
「岩落とし。連打だ。」
その隙を見逃す訳もなく、イワンコの岩落としが炸裂。フカマルがジャンキーちゃん(仮)の足元まで転がっていった。
「やられた~…でも!
私の相棒はこれからなんだよ!
フカマル、砂地獄!」
彼女の声を聞いて立ち上がったフカマルを中心にイワンコが引き寄せられる。
「ワッフゥッ!」
見るからに狼狽えている様子だが、慌てるのはまだ早い。
「落ち着け!岩落としで足場を作れ!」
「ウゥ…ワン!」
イワンコは自分の近くに岩を置き、その上に乗ることで砂地獄から逃れる。
「折り込み済みだよ!地ならしで引きずり下ろして!」
地面が揺れ、不安定な足場に立っていたイワンコは地面に落ちる。
「そこ!メタルクロー!」
フカマルが砂地獄に足を取られたイワンコに肉薄し、金属のような質感の爪で引っ掻く。
「キャウン!?」
イワンコが仰け反るが砂地獄のせいで動けない。
「慌てるな!体当たりだ!」
「押し通すよ!メタルクロー!」
腕を振りなぶるフカマルよりも、イワンコの方が一瞬速かった。
フカマルを突き飛ばし、メタルクローが顔に掠めながらも距離を離すことができた。
これなら…!
「フカマル!?」
「岩落としだ!遠慮は要らん!ぶちかませ!」
「ワオン!」
イワンコが全力で打ち出した岩がフカマルに殺到した。
砂煙が晴れた先には目を回して倒れるフカマルの姿。
結構ギリギリな勝負だったな。
「辛勝、だな。」
数秒でも遅れていたら勝敗はまた変わっていただろう。
「いや~惜しかった!後、ちょっとだったのになぁ…
次はこの子で行こうかな…いや、あえてこの子という選択肢も…って、もうこんな時間!?ごめんこれ賞金!
じゃあまた勝負しようねー!」
「お、おー」
彼女は慌てた様子で気絶したフカマルをボールに収め、賞金を押し付けるように手渡してテーブルシティに駆けて行った。
今日は疲れた。当面の資金は確保できたし早く帰って、早く寝よう。
俺の足元をクルクルと回るイワンコの頭を撫でながら、そう思った。
あ、名前聞き忘れた。
・イワンコ(♂)
レベル18
ご飯をくれるのでアンタムの言うことを聞いている。
バトルの時に指示通りにやると勝ちやすくなっていることに感動している。
・ネモ(♀)
オレンジアカデミーに編入してすぐの原作ライバル。
周りはまだ“バトルが好きなんだね~”程度の認識。
・フカマル(♀)
レベル18
ネモの相棒。バトルが好きなのでバトルジャンキーであるネモのことは気に入ってる。
基本スタイルはガンガン行こうぜ。