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この日本という国は常に「平和」の理想郷であり続けようとする。
昼のニュースに流れるのは、有名人の浮気だの税金が上がるだの、命の危機を感じさせるような内容を公に流れることは基本的にない。
それは、偏に取り繕った平和というポーズを国民の共通意識として持たせているだけにほかならない。国民の隣に危険はなく、常に明るい朝が来るのは当たり前。仕事に対する愚痴や、趣味に胸をはせて「当たり前の日常」を過ごしている。
そんな日常は私たち、『リコリス』によって彩られたもので有ることをこの取り繕った日常を謳歌する人々は知らない。
リコリスとはDAという治安維持組織に指揮を受ける実働部隊員であり形だけではあるが、私もそこに籍を置いている。戸籍などないのに皮肉なものだ。所属しているといえるのはここと、個性の強い喫茶店だけだ。
それを当たり前にするために、任務赴く。
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はぁ、と吐いた息は白く頬に触れる鉄筒を微かに曇らせる。指先が悴むがそんなことは視線の中央でとらえている人間への集中を切らせるきっかけにもならない。周りに群がる同じ黒服に身を包む連中から隠れるように移動する様は、客観的に見ていて滑稽だ。周囲の人間のことは捨て駒だと思っているのかもしれないが、それだけの肉の鎧が機能するほど腕はなまっていない。
やれ、という淡白な命令が引き金のきっかけになった。
気の抜けるような軽い音の結果は、長い待機時間を返してくれるものではなかった。
「ご苦労。相変わらずお前の腕は遊ばせておくには惜しい。」
「遊んでるわけじゃないですよ。命令も聞いているし、優秀な部下でしょ。」
上司との会話とは言えない軽口で相手へ言葉を投げ返す。
「紅葉、お前は千束のブレーキでくすぶっているだけだ。お前を前線に投入するまでにどれだけの関門があると思っている。」
「楠さんがうちのお嬢様を説得すればぜーんぶ解決しますよ。」
「あの我儘はお前が説得するのが一番の近道だと思うが?」
「命令ばっかりで、人間的コミュニケーションをやってこなかったからでしょ?それに、千束に関係なく私は勝手にやるよ。」
耳元で圧力をかけ続ける声色をよそに、私の上半身ほどの銃を解体しながらアタッシュケースに片していく。こんな任務ばかりでこんな腕ばかり向上してしまう。
殺伐とした技術よりも、将来のパートナーのために家事のスキルでも磨いていたいものだ。
「それに、うちのお姫様はわがままで、『やりたいこと最優先』だからね」
「お前が命令を聞く内は千束に口うるさくいう必要もないしな。ただ努々忘れるな。」
ようやく撤退の準備が整ったときに、改めて張り詰めた空気に背筋が伸びる。この人は相変わらず、コミュニケーションのレパートリーを「圧力」と「命令」しか知らないらしい。
「お前が支部で油を売っている間に、平和というハリボテは崩れ去る。それだけ脆いものであるとお前たちは知っているだろう。」
「私が知っているのは、朝日の気持ちよさと笑顔の尊さだけだよ。」
そうカッコつけた捨て台詞を吐きながらインカムを踏み砕く。いつまでも耳元で説教するんじゃないよ。目頭を揉みながら止めていたバイクへ向かう。
こんな日常を誰かのために送っている。そんな事実は知る必要はない。ただ、今の静かな水面を維持するだけ。それがファーストリコリスである私、柊紅葉(ひいらぎ くれは)の仕事である。
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もの心つく頃には、銃を手に平和の癌を処理することが当たり前になっていた。その命令を受けることにも疑問はなかったし、やりがいすら感じていたのは遠い昔の話のように感じる。それを変えてくれたのは、天真爛漫が擬人化した少女のおかげだろう。
冷え込む体で自宅に自分の身長ほどのアタッシュケースを投げ込み、温まるためにシャワーを浴びる。しかしながら、身を清める理由はそれだけではない。仕事をしてそのまま行くと勘のいい彼女に悟られるのだ。できるだけ日常と変わらないふるまいを心掛けるが女のシックスセンスというものは侮れない。
制服に袖を通して、準備を整える。黒に近い紺色の制服は町の迷彩服だ。そういった意図をもって作成したDAの連中は本当にいやらしい連中だ。最近になって千束が制服がお揃いでないことをぼやいていたが、大きく気にすることはないだろう。私にとってリコリスの制服に大きな意味はない。リコリスとしてというよりも、私個人として動くことが多いからだ。
こちらでの生活を始めた時には、私という戦力を維持するために物騒なショタをよく送り込んでくれたものだ。
この日常に嫌気がさし、色々やんちゃしたものだ。
そんなこんなで、時間が迫っていた。遅刻しようものなら、メガネの年増に嫌味の一つでも言われ、お姫様からはおねだりの一つでも聞く必要が出てくるだろう。セーフハウスに用意されているママチャリに急いでまたがり、町に溶け込みペダルをこぎだす。
ルーティンのように散歩するおじいさん。健康のためだろうか少し小さめの引っ張り出したジャージに身を包み息を切らすおばさん。犬の散歩をするカップル。
皆が私に笑顔で挨拶をしてくれる。私もこの心休まる街の一員になれたのかと日常ながら心温める瞬間である。男子高校生がやたらと私を赤くした顔であいさつをくれるが、そんなに寒いだろうか。マフラーの一つでも送りたくなるが、あいにく持ち合わせは今かけている一つだけだ。挨拶を交わし、自転車のペースを上げる。
目的地に着き、裏手に自転車を止めて時間を確認する。意外とゆとりをもって到着できたようで、開店時刻の5分前を長針が指し示している。マフラーをほどきながらお店の入り口に駆け足で向かう。ポニーテールでむき出しのうなじに風が吹く。最近よりも冷え込みは薄くなったのか、と感じるほどだがやはりまだ少々寒い。少しあわただしく店のドアを開けて暖かい空気に包まれる。
「すこぉーし遅いんじゃないのぉ?」
「おはよう。冬も終わるが、まだ寒かったろう?」
嫌味に迎えてくる美女と、優しい笑顔を向けてくるナイスガイに迎えられる。これが日常であり、私が守ってよかったと思える当たり前である。
少し残念な美女は中原ミズキ。ある意味先輩であり、憎まれ口をたたいてくるが面倒見のいい女性だ。和服の似合う褐色の男性はミカ。DAの本部にいたころから、私ともう一人のお姫様の父親のような存在だ。いつも彼には頭が上がらない。
「おはよう。そろそろ春だなーって変わってきてるね。」
「無視すんじゃねぇ!クソガキャぁ!」
「ははっ!ごめんミズキ。そういえば千束はまだなの?」
「もうすぐ来るさ。その前に着替えてくるといい。そろそろ店を開ける。」
「はーい。すぐ準備するよ」
そういって更衣室に入る。
ミカが気を利かせてくれたのだろう、更衣室はまだ暖かい空気が流れており、まだ肌寒い時期であることを忘れさせてくれる。
全身が丸々写る鏡を見ながら着替えを射行うが、一つ気づいたことがある。いや、正確には朝風呂から気づいていたが、目を背けていたことだ。
「また成長したか。」
胸を両手でつかみながらため息を吐く。大きくともいいことはない。疲れやすくなるし、お姫様に枕にされて苦しいし。
着替えを終え、表に出ると同時に騒がしい春がやってきた錯覚に陥った。
「千束が来たぞー!!!!」
ドアの開く大きな音とともに、私の胸に飛び込んできた白髪の天使。錦木千束。
「おはよう紅葉!」
「おはよう千束。」
この日常はどうにか変えていきたいものだ。
新しい春まで、もう少し。
そのうち、オリ主のプロフまとめでも書いていければと思っていますがいかがでしょうか?
誤字編集しました。
土日に二話くらい投稿できたらいいな。