機動戦士ガンダムSEED 始まりの戦士   作:お鶴

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本当に、本当に長らくお待たせいたしました。
今回はオリ主の回想シーンがかなりの割合を占めており、分量が予想よりもはるかに多くなってしまいました。
あと無理なる展開もかなり多いかと思われますが、見逃していただけると幸いです。
最後に、今回の話は一部に自〇など気分が沈む展開がありますので、苦手な方は自衛をお願いします。


PHASE-05

ブリーフィングルームの一角を俺とキラくん、フラガさんにバジルールさんの4人で占拠し、各々椅子に腰を下ろした。

 

「なんで俺が人外なのかって所から話すんですけど、まずは実物を見てもらおうかな。これを見てください。」

 

そう言って、俺はうなじの部分を3人に見せた。

そこには丸い金属のパーツがあった。

 

「これが機体と俺を繋ぐコネクタです。普通に操縦する分には使いませんが、DD使う時にはここにアダプタ刺して接続します。鎮痛剤を注入するのもここからですね。」

 

話しながら、ポーチからアンプルを1本取り出した。

 

「それって...」

 

「そういえば、キラくんは1回ロッカールームで見てたね。中身はこの鎮痛剤で、アドレナリンを過剰分泌させて痛みを感じにくくするタイプ。だからDD使うとテンションが高くなるって訳です。脳内麻薬的な成分を含んでまして、DD発動時の痛みを和らげてます。使う時はさっき話したようにコネクタから注入するか、この注射器を使って投与します。」

 

そう言って無針注射器を取り出し、実際にアンプルをセットして見せた。

 

「後遺症とかは無いのか?」

 

「この薬自体には無いですね。酔うのも原因はDD側ですし、鎮痛剤のせいで後遺症残るとかはなかったです。」

 

ちなみにγ-グリフェプタンの依存性に関しては、コーディネーター特有の身体機能ゆえか禁断症状などが出たことは一度もない。今使っている薬液も、普通のナチュラルなら禁断症状で廃人化する可能性が高いらしいが、デメリットなしで服用できている。

アンプルを取り外し、注射器とともにポーチにしまった。

 

「さて、ここから核心に迫るわけですが、引き返せるのは今のうちです。リタイアする人はいますか?」

 

「おいおいなんだよ、急にもったいぶって。もちろん俺は最後まで聞くぞ。」

 

「僕も同じです。」

 

「私も立会人として、最後まで聞き届けよう。それに、まだお前についてわからないことも多いしな。」

 

全員から了承を得たところで、左手でペットボトルを取り、キャップを開けて水を飲み、気持ちを切り替えて先程までよりも真剣な表情で3人に向き直った。

 

「俺、軍人どころか人としてすら扱われてないんですよ。生体CPUと言いまして、扱い上はMSのパーツと同じように消耗品です。階級も便宜上与えられているだけです。」

 

「消耗品って...」

 

「おいバジルール少尉、今の話って本当か?」

 

「......ええ、事実です。彼は階級こそ准尉ですが、軍上層部からの扱いはStage0の生体CPUです。」

 

場になんとも言えない空気が満ちるのを感じる。

しかし、もう引っ込みはつかない。そのまま話を進めることにした。

 

「そもそも生体CPUとはなんぞやと言いますと、早い話が人工コーディネーター、いわゆる強化人間とか改造人間ってやつです。インプラント埋め込んだり、肉体を改造したりしてます。アサルトのテストパイロットやってた頃にDDを実装するために1回大規模改修が入りまして、その時に俺も改造手術を受けたって感じです。内容は脳内のマイクロチップと、脊髄にある神経接続用の装置とコネクタの設置ですね。ちなみにステージってのはさっき話し脳内麻薬への依存度のことで、俺はほぼ依存してないので0って訳です。あとはDDについて少々。正式名称を『Direct Drive』と言いまして、名前そのまま、機体と人体を神経レベルで接続して、自分の体を動かすのと同じ感覚で機体を動かせるっていうシステムです。」

 

「ちょっと待てよ、そんなことしたら人体への影響はどうなってんだ?タダじゃ済まないだろ?」

 

さすがはフラガさんだ。鋭い。

 

「手術を受けるだけでも、適合率が65%より低ければ体に重篤な障害が残ったり、最悪の場合そのまま死ぬこともあります。俺以外には軍からの志願者とか元死刑囚みたいな、早い話が死んでも困らないような連中が30人かき集められてたんですけど、被験者のうち18人が施術時点で死にました。そこで生き残った人達も、DDの起動実験で脳と神経が負荷に耐えきれずにほぼ全滅、実験の最後まで生き残ったのは2人だけでした。」

 

「2人ってことは、タチバナさんの他にもう1人パイロットがいるってことですよね?その方は今何処に...」

 

「亡くなったよ......俺と同室だったんだけど、朝起きた時には既に首を吊っていて冷たくなってた。アンプルと注射器入れてるポーチ、ピンク基調で、どちらかと言うと女子が使いそうなデザインだったでしょ?あれ、その人の形見なんだ。」

 

首元からドッグタグを取り出し、書かれている名前を見て溜息をつき、ぽつりぽつりと話し始める。

 

「ウェンディ・イングラム・ザックレー、それが彼女の名前です。」

 

 

 

 


 

 

 

 

今から数ヶ月前のこと、俺は上官命令でとあるラボへと向かうことになった。

今思えば、アサルトのパイロットに選ばれたのはこの実験を見越してのことだったのかもしれない。連合軍ではコーディネーターは極めて軽く見られているし、上層部もちょうどいいモルモット程度の認識だったんだろう。レッドウィングとしてのプロパガンダなんて、もうやりすぎてなんの魅力もないだろうしね。

そんなわけで宇宙からシャトルで地球へ降り、宇宙港で愛車を受け取ってフェリーに乗り換え、ラボのある街へ向かった。船から降り、今までの貯金のほとんどを使って買った愛車を走らせ、指定されたラボへ向かった。

こう見えて前世から車やバイクは好きで、この世界でも国際免許を車とバイク両方取得済みである。この世界での愛車は安心と信頼のNIS○AN製ジャパニーズカー、赤と黒のZにした。値段は張ったが、頑張って貯金してまで買ってよかったと思えるだけの魅力とロマンが詰まっている。まあ、貯金は寂しくなったが、原作が始まればどうせ使う暇もあんまり無いのでセーフ。

ラボに着き、駐車場に車を停めて荷物を取り出し、中に入った。受付で要件を伝え、指定された会議室に向かうと、既に数名が着席しているのが見えた。俺も後ろの方に移動し、適当な席に腰を下ろした。そういえば、このラボは軍と提携しているらしく、ここで働く警備員をはじめとした職員たちには軍属の人も多いらしい。

後になってからわかった事だが、この場に集められた被験者達は元死刑囚やホームレス、莫大な借金を抱えるギャンブル狂いなど、上層部から見れば死んでも困らないような、都合の良い人材ばかりだったようだ。

しばらく待ち、部屋がほぼ満員になると前方の大型モニタの電源が入り、白衣を着た男が画面に映り、話し始めた。

 

「皆さん、ようこそこのラボへお越しくださいました。皆さんにはここでとある実験に参加して頂きます。命の保証は出来ませんので、せいぜい頑張ってください。」

 

男の声に周囲がザワつく。怒声が上がるまでそう時間はかからなかった。

 

「いきなり実験だァ!?ふざけんじゃねぇ!」

 

「楽な治験のバイトって話だったろ!こんなん詐欺じゃねぇか!」

 

「そうだそうだ!俺は降りるぞ!」

 

声を上げた男が出口に向かい、その後に多数の被験者達が続く。しかし、いくらドアを押しても引いても、開く気配は無かった。

 

「なんだよ...なんで開かねぇんだよ!?」

 

「全く...楽なバイトというのは嘘ではありませんよ。皆さんはただベッドに寝たり、椅子に座ったりするだけでいいのですから。面倒な施術やセッティングは全部こちらで行いますのでね。」

 

「そういう話じゃねぇんだって!」

 

怒号が飛び交い、出口に人が殺到する。しかし、依然として扉が開く気配は無かった。

 

「そもそも、皆さんはこの契約に同意なさった上でここに来られたのでしょう?」

 

「隅から隅まで確認したけどよ、契約書には死ぬかもしれないなんて書いてなかっただろうが!」

 

「本当に隅々までお読みになりましたか?ちゃーんと書かれていましたよ?裏面に、ですがね。」

 

俺もここに来る前に軍の指示で書かされた訳だが、あんなの多分普通の人は気づかないだろう。一応俺は軍の指示で来たので、何をされるのか、どんなことをするのかといったところまで詳細に説明を受けている。まあ説明を受けたのも裏面のこと聞かされたのも契約書に名前書かされた後なんだけどね。要するに俺も騙されたクチである。

まあもちろんこんなことを知らされればどんな人でも怒り心頭、今まで以上に怒号が飛び交う修羅場と化した。

 

「皆さんいささか騒がしいですねぇ...元はと言えば皆さん自身の注意不足のせいだというのに...仕方がありません、強硬手段を取らせて頂きます。」

 

その言葉を合図に、部屋の天井から睡眠ガスが流れ込み、部屋にいた30人の被験者は一人、また一人と意識を失っていき、ついには全員眠りに落ちた。俺も何とか意識を保とうとはしたが、それも長くは持たず、結局意識を手放した。

 

 

 

 

 

目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。だんだん意識がハッキリしてくると、そこが病室のような部屋であることが分かった。上体を起こして周囲を見渡すと、自分と同じ患者衣を着た人が2,3名ほどいるのが分かった。

しばらくすると、看護師のような格好の女性が部屋に入ってくるや否や、こちらへすごい勢いで駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか?体に違和感はありませんか!?」

 

「い、今のところは大丈夫です。」

 

「分かりました、すぐにドクターを呼んできますね!」

 

そう言うと、またすごい勢いで部屋から出ていった。まるで嵐のような人であった。

またしばらく待てば、先程モニターに映っていた男が今度は現実に現れた。

 

「おめでとうございます!あなたは2人目の成功例です!」

 

「成功者って、いきなり何の話ですか?それに2人目って...」

 

「おっと、説明がまだでしたね。先程会議室で皆さんが眠ったあと、我々の方で少々皆さんの体をいじらせて頂きました。うなじの当たりを触っていただければ、恐らく気づいて頂けると思います。」

 

言われるがままにうなじへ手を伸ばすと、金属のようなひんやりとした感触が手を伝った。

 

「その表情...どうやら気づいていただけたようですね。その部品はモビルスーツとパイロットを繋ぐコネクタです。そのコネクタを通じて神経レベルでモビルスーツと接続、操縦することで、コーディネーターよりも高いレベルでの操縦を実現することがこの実験の目標なのですよ。」

 

「はぁ...ってそれよりも、さっき2人目って言ってましたよね?他の人はどうなったんです?」

 

「あぁ、ご安心を。まだ皆さん眠っているだけです。最も、目を覚ますとは限りませんがね。」

 

「死ぬかもしれないってことですか!?」

 

「そう焦らないでください。植物状態のことかも知れませんよ?」

 

「そういう問題じゃなくてですね...」

 

「まあ話はこのくらいにしておいて、別室へ移動をお願いします。1人目の成功例もそこにおりますので。」

 

「タチバナさんこちらへ、案内させていただきます。」

 

看護師に半ば強引に連れ出されたため、ベッドのそばに置いてあった上着を着て会議室へと移動した。扉を開けると、中に1人の女性がいるのが見えた。

こちらに気づいたようで、話しかけてきた。

 

「あの...あなたも実験を受けた方ですか?」

 

「えぇ、そうです。ということは、あなたもですか?」

 

「そうです!良かったぁ...私だけだったらどうしようかと...あっ...」

 

話が止まったので視線の先を追ってみると、彼女は階級章を見ているようであった。

 

「失礼致しました准尉殿!自分はウェンディ・I・ザックレー軍曹であります!」

 

「そんなにかしこまらなくても全然いいんだけどなぁ...タクミ・タチバナ准尉です。どうぞよろしく。全然呼び捨てとか、タメ語とかでいいよ。」

 

「そんなに失礼なことは出来ませんよ!」

 

「いや、タメ口とまでは行かなくても、フランクな感じで頼む。こっちもやりづらいからさ。」

 

「では失礼して、改めてよろしくお願いします、タチバナさん。あ、私は下の名前を呼び捨てでお願いします。」

 

「OK。それじゃよろしく、ウェンディ。」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

そこからはお互いの身の上について話した。ウェンディは俺の2つ下であることや今まで宇宙にいた事など、共通点があることも分かり、話が弾んだ。

しばらく雑談をしていると、合わせて10人の被験者が続々と入室してきた。最後の一人が着席すると、モニターにいつもの男が映し出された。

 

「手術に成功し、生き残った12名の皆さんごきげんよう。唐突で申し訳ありませんが、今後のざっくりとした予定を説明させていただきます。この後は皆さんに割り当てられた部屋まで、この施設の職員さんが案内してくださいます。荷物は既に運び込んでありますのでご安心を。くれぐれも失礼のないようにお願いしますよ?実験場以外には私の権力も及びませんのでね、怒らせちゃってついついうっかり殺されちゃっても文句は言えませんよぉ?明日はお休みです。休みの日は基本的に何をなさっても構いません。外出もGPS付きのリストバンドを着けて街まで行く程度なら可能ですが、明後日からは本格的に実験を開始しますのでしっかりと英気を養ってください。くれぐれもルールを守って、職員さんの言うことを聞いて生活するように。あ、そうそう、食事とシャワーのタイムテーブルは各居室にプリントが置いてありますので、各自確認するようにお願いします。それでは解散です。お疲れ様でした。」

 

モニターが消えると、部屋に職員が続々と入ってきた。そして被験者達が連れ出されていき、残るは俺とウェンディだけとなった。

 

「次は...チッ、両方コーディネーターかよ。まあいい、俺についてこい。」

 

「2人とも...ですか?」

 

「多分俺たちの部屋が近いってことじゃない?」

 

「なるほど、納得です。」

 

「いつまで話してんだ?さっさと来い。」

 

会議室を退出し、数分歩いて居室へと案内された。恐らく玄関や事務室、食堂などから1番遠い居室だろう。

 

「着いたぞ。ここがお前らの居室だ。」

 

「ここが俺の部屋...マジかよ...」

 

「どうした?素晴らしい部屋だろ?感謝して欲しいくらいだ。」

 

「は、はぁ...アリガトウゴザイマス...ステキナオヘヤデスハイ...」

 

まあ棒読みにもなるだろう。何せドアを開けると蜘蛛の巣は張り放題、ホコリも舞い放題のまさしく汚部屋という言葉が相応しい部屋だったのだから。

俺が絶句していると、ウェンディが恐る恐る口を開いた

 

「あの...私の部屋はどこですか?」

 

「さっきの話を聞いていなかったのか?ここがお前らの部屋だと言っただろう?」

 

「お前らってことは...私もこの部屋なんですか!?」

 

まさかの相部屋である。2段ベッドが見えた時点である程度察していたものの、色々と問題があるのではなかろうか。

 

「そうだ。なんか不満でもあるか?」

 

「さすがに男女が同じ部屋というのはちょっと...」

 

「あぁ?コーディネーター風情が一丁前に文句なんかほざいてんじゃねぇぞ?てめぇらに部屋が与えられてるだけありがたいと思え。それとも何だ?野宿の方が良かったか?」

 

「いえ...なんでもないです...」

 

「フン、ならいい。面倒事は起こすなよ?」

 

そう言い残し、職員の男は部屋を出て行った。

 

「......これからどうする?」

 

「......とりあえず、荷解きの前に設備の確認行きましょうか......」

 

「行くか....」

 

部屋を出て廊下に出るとウェンディが話しかけてきた。

 

「そういえばさっき、職員の人が『両方コーディネーター』って言ってましたよね?ということはタチバナさんも...」

 

「うん。俺は母親がコーディネーターでね、コーディとナチュラルのハーフなのさ。最も、連合の中だとコーディネーターの血が混じってるやつは一律で目の敵扱いなんだけどね。」

 

「へぇ〜、あ、私は第二世代のコーディネーターでして、両親も同じくコーディネーターなんですよ。」

 

とりあえず洗濯室や食堂、シャワー室などの位置を確認しに向かうことにした。

どうやらここは手術される前にいた場所とは違う場所のようで、玄関や事務室、自販機などがある中央棟、居室やシャワー室、洗濯室がある居室棟、実験場などがある実験棟からなる施設のようだ。

一通り見終わり、居室に帰ってきた。

 

「ゲッホゴッホ!?ドア開けただけでこんだけホコリ舞うってマジかよ...」

 

「...掃除しません?」

 

「大賛成。」

 

そこから数時間かけて掃除を行い、終わる頃には太陽も沈みかけていた。

 

「掃除終了!おつかれさん!」

 

「終わった〜......あっ!もう夕食の時間ですよ!遅刻してます!」

 

「やっべ完全に忘れてた!行くよ!」

 

「ハイ!」

 

食堂に駆け込み、食事をかき込むように済ませてまた部屋に戻ってきた。

 

「危ねーギリギリだった...この後どうする?」

 

「私は先にシャワー浴びてきちゃいます。タチバナさんはどうするんですか?」

 

「俺はまず荷物を整理しちゃうかな。」

 

「了解です。あのー...私シャワー行く前に着替えたいんですけど...」

 

「おっと、そしたら俺は飲み物でも買いに行こうかな。何飲みたい?奢るよ。」

 

「いいんですか?じゃあコーラでお願いします。」

 

「オッケー、着替え終わったらさっき教えた連絡先に連絡くれ。」

 

「わかりました。」

 

部屋を出て、中央棟の談話コーナーへ向かった。個人用のスマホを取り出してしばらく時間をつぶしていると、ウェンディから連絡が来たので、自販機でコーラと自分用のグレープソーダを購入して部屋に戻った。

 

「ただいま~っと、ウェンディはもうシャワー行ったし、誰もいないけどな。」

 

勝ってきた飲み物をそれぞれの机に置き、段ボール箱を開けて荷物の整理を始めた。

引っ張り出した寝間着に着替え、作業を開始した。しばらくして、あらかた荷解きが終わったところでドアが開き、ウェンディが帰ってきた。

 

「ただいま戻りました〜。おっ?コーラごちそうさまです!」

 

「おかえり、シャワーどうだった?」

 

「さっぱりしました〜。ちょっと狭い以外は文句なしですね。」

 

「そっか、そしたら俺もシャワー行ってくるわ。」

 

「はーい、行ってらっしゃい。」

 

シャワー室へ向かい、シャワーを浴びた。軍学校や軍での生活でもう慣れたが、やはり日本人の性というものか、オーブにいた頃よく行った銭湯や実家の風呂が恋しくなってくる。ゆっくりと湯に肩まで浸かって疲れを癒したいものである。シャワーが嫌いな訳では無いが、やはり立ったままというのは疲れを取りにくい。

体や頭を洗い、シャワーから出て部屋に戻った。ウェンディも荷解きを終えたようで、室内はシンプルで飾り気のない俺のスペースと、ピンク基調で可愛いウェンディのスペースで異なる様相を呈しており、対照的になっていた。

 

「ただいま。荷解き終わったみたいだね。」

 

「おかえりなさい。どうです?この部屋。いい感じじゃないです?」

 

「良いんじゃないかな?可愛いと思うよ。」

 

「でしょう?結構頑張ってみました。」

 

その後は雑談をし、点呼を受けてベッドに入った。ウェンディは2段ベッドの下で、俺が上だ。

ベッドに入ったは良いものの、やはり男女同じ部屋だと変に緊張してしまう。なかなか寝付けなかったのはウェンディも同じのようで、ほぼ同時に話し出した。

 

「なあウェンディ...」

「タチバナさん...」

 

「寝付けないのは同じみたいだね。」

 

「ですね。私は明日一緒にお出かけなんてどうかな〜と思いまして。」

 

「奇遇だね、俺も同じ。ちょっと買い物のお誘いでもと思ってさ。」

 

「じゃあ決まりですね。出発する時刻とかはどうします?」

 

「朝食終わってすぐはどう?早い方がいいと思うんだけど。」

 

「じゃあそうしましょうか。おやすみなさい、タチバナさん。」

 

「うん、おやすみ、ウェンディ。」

 

その後何とか眠りにつき、次の日。朝食を済ませて駐車場に停めてある車に乗り込み、街へ向かった。

運転していると、助手席でスマホを操作しながらウェンディが話しかけてきた。

 

「へ〜、スーパーとかレストランとか、結構色々なお店があるみたいですね。今日はどうしますか?」

 

「俺はなんでもいいよ。帰りにスーパーと家具屋に寄れればいいかな。」

 

「スーパーと家具屋さんですか?」

 

「うん。飲み物を箱買いしようかと思ってさ。家具屋では部屋に置く仕切り用のカーテンとか椅子に敷くクッションとか買おうかなと。」

 

「あの椅子すごい硬いですもんね...じゃあ、カラオケ行きませんか?私こう見えて歌上手いんですよ?」

 

「自分で言うとはなかなかの自信じゃないの。スコア対決とかする?」

 

「いいですね!それじゃ、カラオケにレッツゴー!」

 

丘の上にある研究所から街の中心部まで車を走らせ、ジャパンエリア以外では珍しいボックスタイプのカラオケに入店した。朝一だったこともあり、一番いい機材の部屋を利用できることになった。

 

「へぇ~...結構すごいですね...」

 

「まさかこんなに曲数多いとはね...」

 

その数何と優に百万を超える。さらに本人映像やライブ映像なども膨大な数収録されているようだ。

 

「タチバナさんお先にどうぞ。」

 

「じゃあお言葉に甘えて...よし、これなら歌えるかな。」

 

1曲目のチョイスはラクス・クラインの曲である。残念なことに、俺はこの世界の曲だとラクスの曲しか歌えない。前世にあった曲、とりわけガンダムソングならギターの練習がてらよく歌ったので結構な数歌えるが、残念ながらこの世界には存在していなかった。

 

「ラクス様良いですよね〜、なんと言いますか、心にスっと入ってくるような感じがします。」

 

「魂に直接語りかけてくる気がするよな。曲も歌声も最高に美しい。」

 

その後も時間いっぱいまで歌い、カラオケを出る頃には昼過ぎとなっていた。

ちなみに、スコア対決は僅差でウェンディの勝利である。

 

「いや〜、歌った歌った!タチバナさん結構上手いんですね。」

 

「ウェンディも上手かったじゃん。俺負けたし。」

 

「えへへ〜。歌うのは昔から好きで、時間がある時はよく歌ってたんですよ。」

 

「そりゃ上達するわけだ。さて、昼飯はどうする?」

 

「パンケーキ食べたいです!近くに美味しいお店があるらしいんですよね。」

 

「パンケーキか、久々に食べるな...」

 

そんなこんなで件のカフェに到着した。落ち着いた雰囲気で、探偵もののドラマによく出るような典型的な見た目のカフェだ。

そこで俺はチョコバナナパンケーキ、ウェンディはベリーパンケーキを注文したのだが...

 

「......デケェ」

 

ウェンディに運ばれてきたものはそびえ立つ塔のような、パンケーキと言うにはあまりにも高く、そして大きすぎる代物だった。

 

「ん?どうかしました?」

 

「いや、すげぇデケェなと...」

 

「このくらい普通ですよ〜、いただきまーす!」

 

「躊躇いも無く行きやがった...」

 

ちなみに、普通サイズの俺よりも早く食べ終わっていた。なんならおかわりまでしていた。昨日の夕食の時から気になっていたのだが、ドカ食いしたものはその細い体のどこに消えたのだろうか。考えたら負けな気がするのでこれ以上はやめておこう。

その後はスーパーと家具屋、ウェンディからの希望で立ち寄った書店で買い物をして研究所に戻った。

部屋に買ったものを運び込み、カーテンを組み立て終わったところでふと気になったことを思い出し、ウェンディに話しかけた。

 

「そういえば、本屋で何買ったんだ?」

 

「レターセット買いました。親と毎月文通してるんですよ。」

 

「ほえ~、どんなこと書いてるんだ?」

 

「近況報告がメインですね。もちろん軍機にかかわるようなことは書いてませんけど、こういう任務があったよーみたいなことも書いたりします。タチバナさんはご両親と手紙のやり取りとか、連絡とったりしてないんですか?」

 

「連絡かぁ...父さんとも最近会えてないし、母さんとも全く連絡してないな。」

 

「そういえば、タチバナさんのお父様は軍人って昨日の夜教えてくれましたけど、お母様は何されてるんですか?」

 

「今もやってるかはわかんないけど、母さんはオーブでご飯屋さんやってる。結構評判いいんだぜ?」

 

「へぇ〜、行ってみたいです!」

 

「オーブに行く用事があるなら行ってみるといいかもね、今も変わってなければ『タチバナ食堂』って名前で店出してるはず。」

 

「へぇ~...今度案内してくださいね。」

 

「俺が?まぁ、いいけど。」

 

「やったぁ!あ、そういえば、オーブにはON-SENなるものもあるって聞きました。なんでも、ひとたび浸かれば体の疲れや不調だけにとどまらず、病や怪我までたちどころに癒えて、さらには不老不死の力を得ることもできるとか...」

 

「さすがにそこまで万能ではないかなー...でも腰痛が和らいだり、お肌がすべすべになったりとかなら...」

 

「その話詳しく!」

 

「うおぉ急に食いつくねぇ!」

 

「当たり前です!お肌は女の子の命なんですから!さあさあさあ、その温泉について洗いざらい全て話すのです!」

 

「わかった!わかったからいったん離れろ!近すぎるから!」

 

マジで近かった。目と鼻の先ってこういう状況のことを言うんだなってくらい近かった。

その後は温泉について力説し、ウェンディの圧に負けたせいでなぜか温泉でのマナーやら何やらまで説明することになり、日付が変わるまで話していた。途中からメモまで取りだしていたので、よっぽど温泉が気になったとみた。いつか連れていきたいものである。

 

 

 

次の日からは本格的に実験が始まるということで、朝食が終わってすぐに集合がかかった。

ウェンディと実験場に向かえば、どうやら俺たちで最後だったようで、他の被験者が待っている場所へ行くと、いつものドクターが出てきて話し始めた。

 

「やぁやぁ被験者の皆さんごきげんよう。早速ですが、本日は起動実験を行います。皆さん割り当てられた番号順に、2人ずつあちらへ移動してください。まずは...そちらのお二方、移動をお願いします。時間がありませんのでテキパキお願いします。ほかの方々は今しばらくお待ちください。」

 

ドクターが示した方向を見れば、ここに来る前によく使ったアサルトのコクピットのようなシミュレータが2つ見えた。しかし、うまく言葉にはできないが、何か違和感を感じた。

 

「タチバナさん、あれってシミュレータですよね?」

 

「うん、それもMSの奴だ。しかも俺が知ってるのとは若干違うけど、最新型とほぼ同型のやつだと思う。」

 

「詳しいですね、連合ではまだMS導入されてないのに。」

 

「ま、まぁ、ここに来る前は兵器開発をするところにいたからね。MS開発の話は何回かあってさ、ザフトの基地から鹵獲したシミュレータも何回か触ったことがあるんだ。」

 

「そういえば元テストパイロットって言ってましたね。じゃあ、あれの使い方もお手の物だったりするんじゃないですか?」

 

「お手の物ってほどじゃないけど、使い方教えることくらいならできると思う。」

 

「あー、盛り上がってるところ申し訳ありませんが、今回はその経験が生きることはないと思いますよ。」

 

ウェンディと話していると、横からドクターが会話に入ってきた。

 

「どういうことです?いくらOSが違うとはいえ、基本的な操作くらいは同じだと思うんですが...」

 

「あなたが経験してきた操縦技術とは基礎理論から違いますからねぇ。」

 

「と言いますと?まさか操縦桿を一切使わないわけでもあるまいし。」

 

「鋭いですねぇ、遠からず近からずといったところですよタチバナさん...名前あってますよね?」

 

「合ってます。けど、操縦桿を使わないなんてそんなことありえるわけが...」

 

「言ったでしょう?基礎理論からまるで違うと。そもそも、ZAFTが開発したMSは人の形をしていながらも、操縦方法は旧来の戦闘機からほぼ変わらず操縦桿を用いている。これってかなり効率が悪いと思いませんか?もっと人に近い動きができればいいのにとも思いませんか?そこで私が提唱した『神経接続操縦』の出番というわけです。読んで字のごとく、操縦者と機体を神経レベルで接続することで高い操縦制度を実現するというものです。」

 

「神経レベルで接続って...そんなことしたらパイロットへの負担はどうなるんですか?」

 

「あなたは確かザックレーさん...でしたよね?なかなかいい質問です。正直な話、私にも未知数です。パイロットへの負担が高いことまでは予想できたのですが、どれほどの負荷がかかるのか、どの程度の人間がそれに耐えられるのか。それを見極めるのもこの実験の目標に含まれています。ちょうど起動実験も始まることですし、どれほどのものか実際に見てみるとしましょうか。」

 

ドクターが指さした方を見れば、二人の男がそれぞれシミュレータの中へ入っていくのが見えた。

扉が閉じてしばらくすると、突然耳をつんざくような悲鳴があたりに響いた。

 

「今の声って、シミュレータの中からですよね!?一体何が...」

 

「あちゃ~...やっぱり彼らはだめでしたか。」

 

「やっぱりって...予想できていたとでも言うんですか!?」

 

「もちろんですよ、タチバナさん。人間を無理やり機体に接続するわけですから。いくら計算で予測できないとはいえ、こうなることはある程度想像がつきますとも。それに彼らは筋骨隆々とはいえただのナチュラル、いくら適合手術に生き残ったとはいえ、あのシステムの、Direct Driveの起動負荷に耐えられるかというのは別問題ですから。彼らが生き残るには少々体が弱すぎたようです。まぁ、この段階で数名死んでしまう程度は計画に織り込み済みですし、仕方のない犠牲でしょう。あ、次の方どうぞ~。後がつっかえてますからね、じゃんじゃん行きましょう。」

 

「ふざけんなよ!人が死んでんだぞ!?こんな実験、俺は降りるからな!」

 

被験者の一人がそう叫び、実験場の出口へと走り出し、さらに数人がつられるように走り始めた。

しかし、ドクターには想定内だったのか、焦った様子もなく口を開いた。

 

「職員さん、死なない程度なら痛めつけていいんで、逃がさないでください。」

 

ドクターのこの発言により、職員たちが一斉に銃を構えて発砲した。足元を狙って放たれた銃弾のうち数発が当たり、最初に逃げだした男が下半身から血を吹き出しながら倒れて、駆け付けた職員たちによって無理やりシミュレータの中に押し込まれた。響いていた叫び声もしばらくするとぴたりとやみ、職員が扉を開けると男が力なく外側へ倒れこんだ。

 

「さて皆さん、反抗的な態度をとったらこうなりますからね~、気を付けてください。さぁ、実験を続けますよ~。次の方どうぞ~。」

 

その後も二人ずつシミュレータへと入っては死んでいった。逃げようにも銃を突きつけられているため逃げられず、結局従うほかなかった。そのまま被験者は減り続け、ついに残りは俺とウェンディだけになった。

 

「最後は...タチバナさんとザックレーさんですね。さぁさぁシミュレータへどうぞ。あなたたちはこの実験の大本命ですからね、頑張ってください。」

 

「あ~、俺の二度目の人生こんなんで終わりか...もうちょい種の世界をエンジョイしたかったな...」

 

「やだ...死にたくないよ...お父さん...お母さん...」

 

一度死んで転生を経験したせいで割とサクッと諦めの域に入った俺とは対照的に、ウェンディは怯え、涙を流しながらカタカタと震えていた。

シミュレータに押し込まれ、シートに座るとシートベルトがきつめに巻かれ、体ががっちりと固定された。背中をシートに押し付けるように座る姿勢になり、うなじにコネクタが吸い付くように固定され、機体との接続が開始された。瞬間、神経が焼けるような痛みが体中を駆け巡った。

 

「ッ!?グウゥゥゥウゥアアァアァアアァアァァ!!!」

 

激痛が絶え間なく襲い、痛みは強くなり続けた。かろうじて意識を保っていたものの、ついに限界が訪れ、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

目を覚ますと見知った天井が目に入り、手術後にいた病室と同じような部屋のベッドの上にいることが分かった。

体を起こすと、ちょうど見回りに来たのか、この前の看護師がこの前と同じくらいの勢いで駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか!?この指何本かわかります?」

 

「3本です。体調も多少体が重いくらいなので問題ないと思います。」

 

「わかりました。体調問題なし、多少の倦怠感あり、と...すぐドクター呼んでくるので待っててくださいね!」

 

今回もまた嵐のように去っていった。ふと時計を見れば、日付はわからないものの、昼前であることが分かった。周囲を見渡していると、ドクターとウェンディが部屋に入ってきた。

 

「タチバナさん!大丈夫ですか!?」

 

「あぁ、今のところは大丈夫。心配かけてごめんな。」

 

「良かった...急に倒れて丸一日も眠ってたから心配しましたよ...」

 

「あー、目が覚めたばかりで申し訳なんですが、昼食をとった後ミーティングに参加してください。起動実験の結果と、今後の実験の流れを説明します。」

 

「わかりました。」

 

「しかしながら、タチバナさんが無事に目覚めて良かったですよ~。実験においてモルモットは多いに越したことはないですからねぇ。いやぁ、よかったよかった。」

 

そう言ってドクターは部屋を出て行った。あの男にも少しは他人を労わる心があるのかと思ったら、この始末である。

それはさておき、部屋には俺とウェンディが残された。

 

「いやー、なかなかきつい実験だったな。体中が痛いのなんの。」

 

「痛い?どういうことですか?」

 

「え?背中に機械くっついた後、めちゃめちゃ痛くなかった?」

 

「いえ全然...気づいたら実験終わってました。」

 

「マジか...後でドクターに質問するか。」

 

「ですね。そろそろ昼食の時間なんですけど、立てそうですか?」

 

「ちょっと待ってね...っと、うん。足の感覚もあるし、大丈夫。」

 

「了解です。さ、行きましょうか。」

 

病室から出て、食堂で昼食をとった後ミーティングルームへ向かった。

 

「さて、実験の結果なのですが、お2人とも成功です。ただ、タチバナさんは成功したとはいえ気絶してしまいましたので、次回からは鎮痛剤を服用しつつ実験を継続しましょう。ザックレーさんも、何か実験中に体に違和感を覚えたらすぐに報告してください。さて、今日のところはこれで解散です。何か質問はありますか?...タチバナさん、どうぞ。」

 

「さっきウェンディから痛みとかを全く感じなかったって聞いたんですけど、何か考えられる原因とかってあるんですか?」

 

「ふむ...あくまで仮設には過ぎませんが、おそらくコーディネーターとナチュラルの身体機能の差が原因だと考えています。一般的に、コーディネーターはナチュラルと比べて身体機能が強いと言われているのは皆さんご存じのとおりです。今回の実験では、被験者全員の脳や神経にまったく同じだけの負荷がかかったわけで、しかも生き残ったのはコーディーネーターとハーフコーディネーターがそれぞれ1人ずつの計二人、それ以外のナチュラルは手術した時点もしくは先の起動実験で全員死亡したわけですから。それ以外の原因になりうる事象は今のところ考え付きませんし、正解でこそなくとも間違いではないと思います。ただ、これが分かったことで私今少々ピンチでして...」

 

「と言いますと?」

 

「そもそもDD...あ、Direct Driveのことです。あれって『ナチュラルでもコーディネーターと同等以上の操縦技術を発揮すること』をコンセプトにしているんですが、まさかコーディネーターだけ生き残ってナチュラルが全滅するとは想定していなくてですね...本末転倒と言いましょうか、このままだと計画が凍結されそうでして...投薬処理がメインの強化兵士計画もあるみたいですし、このままだと本当に私お払い箱なんですよねぇ...まぁそういうわけで、何とか成果を出して上層部にアピールしたいわけですよ。せめてタチバナさんが安定してDDを使えるようになって、お二方から実践データを収集できれば、もしかしたらまだここで研究させてもらえるかも...ってことで、お二人とも私のために頑張ってくださいね☆」

 

「どうしよう、俺やる気なくなってきた。」

 

「ま、まぁ軍から命じられてるわけですから、もう少しだけ頑張りましょうよ。」

 

「おぉぉぉ!ザックレーさん!あなたならそう言ってくれると思いましたよ!」

 

「調子がいい人だなぁ...仕方ない、俺も頑張るかぁ...頑張るしかないよなぁ...」

 

「タチバナさんまで!やはり神は私を見捨てていなかった!やりましょう!私たちでこの実験を成功させるのです!」

 

何を感激したのか、ドクターは目を怪しく光らせ、叫びながらこちらに駆け寄って俺たちの手を全力で握りしめた。

 

「近ぇ!そして痛ぇ!ちょ、強く握りすぎですって!放してください!」

 

「放しませんよ!やっと見つけた共犯sゲフンゲフン協力者なんですからねぇ!」

 

「今共犯者って言いかけましたよね!?俺なんかやばいことさせられんの?これ以上になんかされんの!?」

 

「あー、私余計な事言っちゃったかなー。ハハッ。ハァ...」

 

結局10分弱ほどこのやり取りは続いた。

 

「あー、いつもの何倍も疲れた...まだ休めないし...」

 

「この後すぐ実験ですもんねぇ...さすがに今日ばかりは休みたいなぁ...」

 

「まぁどうせ中止とか休みとかにはならんよな。あのドクターのことだし。」

 

「ですよね...ミスとかないようにしないと...」

 

などと愚痴りながら実験場に赴いた。少し遅れてドクターが入室し、説明を始めた。

 

「お二人ともさっきぶりですね。さて、これからシミュレータにて実戦に近い環境で、DDによる操縦訓練を行います。タチバナさんは鎮痛剤がまだ用意できていないないため」、低出力モードで開始、反応を見つつ徐々に出力を上げます。ウェンディさんは最初から出力マックス、どれだけ継続して使えるかを見ます。何か質問はありますか?」

 

「質問です。今回の実験で乗るMSを教えていただきたいです。」

 

「それについては、あとのお楽しみということで。ただ、あなたには馴染みのある機体だと思いますよ、タチバナさん。さて、他に質問は無いようですので、さっそく実験に移りましょう。」

 

俺とウェンディは新たなパイロットスーツに着替えるため、それぞれの更衣室へ向かった。。

新調されたパイロットスーツは見た目こそ今までとほぼ変わらないものの、首筋の部分に少し違和感を覚えた。おそらくコネクタ関係の部品だろう。

着替えを終えてドアを開けると、ほぼ同じタイミングで隣のドアが開き、ウェンディが顔を出した。

 

「そのパイロットスーツ...やっぱりタチバナさんって、あの『レッドウィング』ですよね?」

 

「ん?あぁ、そうだよ。」

 

「やっぱり!初めてお名前聞いた時からもしやと思ってましたけど、パイロットスーツみて確信しましたよ!後で写真お願いします!」

 

「俺はアイドルとか芸能人ってわけじゃなんだけどなぁ...まぁ別にいいけど。」

 

「まぁまぁそう言わずに!バード小隊に助けてもらった時からずっとファンだったんですよ!」

 

バード小隊とは、グリマルディ戦役の後、俺がアサルトのプロジェクトに引き抜かれるまでの一か月弱の間在籍していた5人編成の飛行隊の名前だ。当時はフラガさんをはじめとした個性的なメンバーに囲まれ、短い間だったがたくさんの思い出がある。

 

「バード小隊か、懐かしいな。みんな元気にしてるかな...」

 

雑談をしながらシミュレータに向かい、中に入るとドクターから通信が入った。

 

「あー、マイクテステス。お二人とも聞こえてますか?」

 

「こちらタクミ・タチバナ、聞こえてます。」

 

「こちらウェンディ・I・ザックレー、同じく問題ありません。」

 

「よし、それでは操縦訓練を始めます。まずは二人とも、先日の起動実験と同じように背もたれに背中をぴっちりとつけてください。首筋に吸い付く感覚があったら、離しても大丈夫です。」

 

言われたとおりにすると、うなじの部分にかちりと何かがくっついたような感覚があった。少し前のめりになってシートから背中を離すと、つながっているコードがピンと張り、それ以上は前に行けなかった。

 

「バイタル確認、双方異常なし。大丈夫そうですね。今、お二人の首筋には機体とつながるためのコネクタが接続されています。心拍数をはじめとしたバイタルデータを観測したり、鎮痛剤を投与する際もこのコネクタを使用します。長い付き合いになりますので、違和感があれば早いうちに教えてください。さて、それではお待ちかねの起動タイムと行きましょうか。ミーティングで話した通り、タチバナさんの方は出力を抑えてあります。心配せずに起動ボタンを押しちゃってください。」

 

起動ボタンを押し込むと、ラボに来る前までは毎日のように見ていた、懐かしい起動画面が映し出された。

 

「GUNDAMか...懐かしいな。」

 

「そういえばタチバナさんはMS開発に携わっていたんでしたね。今回は開発中の新型MS、GAT-X101 アサルトのデータをお借りしています。もちろん軍機ですので、絶対に口外しないように。」

 

説明を受けているうちに起動が完了し、モニターには倉庫の中のような風景が映し出された。

 

「それでは訓練を始めます。最初は歩行などから始めましょう。」

 

「あのー、私操縦方法とか何も知らないんですけど...」

 

「簡単ですよ、ただ強くイメージするだけです。あなたたちは今、機体と神経レベルでつながっているわけですから。自分の体を動かすのとほぼ変わらないはずです。」

 

「なるほど、イメージ...およ?およよ??どわぁぁぁぁ!」

 

隣に視線を向けると、ウェンディが乗っているであろうアサルトが盛大にずっこけていた。

 

「あー、ちゃんと集中しないと。途中で考えるのをやめると転びますよ。」

 

「それを先に言ってくださいよ!」

 

「そんじゃ俺も行きますかね、っと!結構揺れるな...ほれウェンディ、大丈夫か?」

 

「ありがとうございます。」

 

ウェンディのアサルトの元まで行き、手を貸して助け起こした。

その後は倉庫の外に出て軽いランニングなどを行い、機体の操縦に慣れたところで、訓練の終了時間が近づいてきた。

 

「さて、訓練の終了時間も近づいてきたわけですが、ここで一つも議選と行きましょうか。最初の倉庫に向かってください。武装を用意してあります。」

 

最初の倉庫に向かうと、2つ並べられたコンテナの中にシールドとビームサーベルが一組ずつ収められていた。

 

「どちらも性能は同じですので、好きな方をどうぞ。準備が整い次第、模擬戦を始めましょう。」

 

シールドを左手に、サーベルを右手に持ち、間隔を開けてウェンディと対峙した。

 

「それでは模擬戦を始めます。決着は撃墜判定が出るまでとします。両者構えて...始め!」

 

合図と同時に2機が駆け出し、中央でサーベルをぶつけ合い、鍔迫り合いになった。

 

「へぇ、初めてにしてはセンスがいいじゃないの!」

 

「タチバナさんこそ、たっぱり一筋縄ではいきませんよね...」

 

「一応アサルトに関しては操縦したことあるからね、そう簡単に負けるわけにはいかないのさ!」

 

敵機の胴体を蹴り飛ばし、強引に距離を開けた。

ウェンディのアサルトがしりもちをついたのを見逃さず、一気に勝負を決めるべく、全力で距離を詰めた。

 

「くぅっ!?いてて...ッ!?」

 

「もらった!」

 

「えぇい!当たって!」

 

腹部のコクピットにサーベルを突き入れようと踏み込んだ瞬間、シールドで横っ面をぶん殴られた。

 

「ガァッ!?(殴られたところが痛い?なんで...)」

 

「そこっ!」

 

「やっべ!」

 

振りぬかれたサーベルに対し、咄嗟にシールドを構えようと左手を動かした。しかし頭の痛みに気を取られていたせいか間に合わず、左の二の腕から先を切り飛ばされた。瞬間、鋭い痛みが自身の左腕にも走った。

 

「当たった!これで...」

 

「があぁぁぁぁっ!いってぇぇぇぇ!」

 

「あちゃ~、やっぱり痛覚も同期されちゃいますよねぇ...ま、いっか。ザックレーさん、さっさととどめを刺しちゃってくださいな。撃墜時のデータも必要ですからね。」

 

「とどめって...無理ですよ!タチバナさん無事ですか?タチバナさん!?」

 

「あぁ、俺は大丈夫...めっちゃ痛いだけだから...」

 

「ザックレーさん聞こえてますぅ?さっさととどめを...」

 

「できません!」

 

「あらら、はてさてどうしたものか...あっちょっと!勝手にマイクを...」

 

「ドクター、いいこと教えてやるよ。おい女!さっさとやらねぇと、てめぇの親が死んじまうぞぉ?良いのか?」

 

「ッ!それは...」

 

ドクターからマイクを奪い取った男がウェンディに呼び掛けた途端、ウェンディの動きが止まった。

 

「今俺がここで通信を一本入れれば、お前の親なんざすぐ殺せんだ。さっさとしろ。」

 

「...はい。わかりました。」

 

「ウェンディ...いったい何が...」

 

「ごめんなさい。」

 

その言葉を最後に、ウェンディ機のサーベルがタクミ機の腹部を貫き、実験は終了した。

俺は撃墜後のバイタルデータやその他諸々のデータを病室で取られながら、ドクターから説明を受けた。

あくまでも仮説にすぎないとは前置きしていたが、ドクター曰く、痛覚まで同調したのは中途半端に適合率が高いのが原因らしい。ウェンディの場合は適合率が極めて高く、MSとの関係が『体と洋服のような関係』、つまり『体と同じ動きをする別物』として認識しているため痛みを感じなかった。対して俺の場合、脳がMSと体を完全に同一のものだと錯覚しているために痛みを感じた。早い話、体が勘違いを起こしていたために起こった出来事らしい。ウェンディが最初動かすのに手間取って転んだのも、俺が初めてにもかかわらずスムーズに機体を動かせたのも、この体の勘違いが原因らしい。

かなり長時間にわたって検査と説明を受けることになってしまい、結局自室に戻れたのはとっぷりと日が暮れた後だった。

 

「ふぃ~、ただいま。」

 

「あ...タチバナさん...さっきは、その...」

 

「全然気にしなくていいよ、見てのとおり、ちゃんと治ったからね。それより、さっきのことなんだけど...」

 

「オープン回線でしたもんね、そりゃ聞こえてるか...」

 

「ウェンディさえ良ければなんだけど、どういうことなのか教えてほしい。」

 

「...わかりました、話します。私の両親は軍に人質に取られてるんです。昔は自分たちがコーディネーターだってことを隠して生活していたんですけど、私たちの正体に気づいたご近所さんが通報したみたいで、ある日いきなりブルーコスモスの人たちが家を襲撃しに来たんです。何でもするからお母さんとお父さんだけは助けてほしいと懇願したら、それを聞いた連合のお偉いさんから『軍に入ることと引き換えに両親の命を保証する』と言われて、それで入隊したんです。」

 

「そっか...てことは月一回文通してるって言ってたのも...」

 

「はい、それしか連絡手段がないんです。」

 

「なるほどね...最近親御さんはどう?元気にしてそう?」

 

「最近大きめの仕事が決まったみたいで、忙しくなってきたみたいです。手紙の口調がちょっと違った気がするけど...きっと疲れてるからだよね。うん、きっとそう。

 

「どうかした?」

 

「いえ、ただの独り言です。気にしないでください。」

 

「ふーん、まぁいいか。大きめの仕事決まったってことは、ウェンディのご両親って会社の重役とか?」

 

「そうなんですよ。お父さんは地元の会社で...」

 

余程ご両親のことが好きなのか、お父様のことを話すウェンディは楽しそうに見えた。その後にお母様のことも聞いたが、やはり同じように、楽しそうな笑顔を浮かべて話してくれた。

 

「...という訳なのです。」

 

「ふーん、ウェンディってさ、ご両親のこと好きなんだな。」

 

「そりゃもちろん!お父さんもお母さんも、大切な家族ですし、辛い時も一緒に頑張って来ましたからね!」

 

その後はなんやかんやで仲直りして眠りについた。

 

 

 

 

あれから数週間、ここでの生活にも慣れ、俺とウェンディのコンビネーションも板に付いてきた頃の事だった。いつものように訓練や食事後のミーティングを終え、ウェンディと談笑しながら居室へ歩いていた時である。

 

「あれ?無い!」

 

「どうした?忘れ物?」

 

「はい、多分実験場にあると思うんですけど...ちょっと取りに行ってきます。」

 

「俺も着いて行った方がいい?」

 

「いえ、私一人で大丈夫です。」

 

「そっか、じゃあ先に戻っとくよ。」

 

そう言ってウェンディと別れ、俺は自室へ向かった。

 

 

 

 


sideウェンディ

 

「あった!よかった~...」

 

私は忘れ物を回収した後自室へ戻ろうと出口へ足を進めると、出口近くの詰所から職員たちの話し声が聞こえた。まだ夕方だというのにすでに酒が回っているのか、かなり大きな声で話しているため、部屋の外まではっきりと聞こえた。

 

「...ってかよ、あの話聞いたか?」

 

「あぁ、あのコーディネーターの夫婦が殺されたってやつだよな。今朝のニュースで見たよ。けどそれがどうかしたのか?言い方はあれだけど、よくあるヘイトクライムじゃないのか?」

 

「それがだな...なんとやらかしたのはうちの軍のヤツらしい。」

 

「まじかよ!それって大丈夫なのか?」

 

「それがそうでもないらしいぞ。罰則は謹慎一か月と減給半年だけだとさ。まぁ相手がコーディネーターだしな、これくらいでちょうどいいだろ。」

 

「確かに、コーディ二人殺したくらいならちょうど良いかw」

 

ここまででも胸糞が悪かったが、続く言葉に私は絶句した。

 

「そういや、ここにもコーディネーターいただろ。ほら、あの被験者の...」

 

「あぁ~、あの女か。確かザックレーとか言ったっけ?」

 

「そうそう、そいつ。今回死んだのはそいつの両親らしいぜ。」

 

「マジか!この話、そいつに聞かれたらやばいんじゃね?」

 

「大丈夫だって。さっきミーティング終わったばっかだから、今頃は居室棟だろうさ。」

 

「なら大丈夫だな。しっかしコーディか...さっさと宇宙に帰るか、いっそのこと滅んでくれないもんかねぇ。ん?今誰か通らなかったか?」

 

「気のせいだろ。それよりもよ...」

 

そこから先はあまり覚えていない。気が付いた時には自室の前にいた。ドアを開けると、いつもと変わらない笑顔がそこにあった。

 

 

 

 


sideタクミ

 

ドアが開く音がしたのでそちらを見れば、予想通りウェンディが帰ってきた。しかしその表情は暗く、思い詰めているように見えた。

 

「お帰り、ウェンディ。どうした?なんか嫌なことでもあった?」

 

「いえ、何でもないです...」

 

「本当に?」

 

「本当に大丈夫ですから、気にしないでください...」

 

「...そっか、無茶しちゃだめだぞ?」

 

「...わかってます。今日はもう寝ますね、おやすみなさい。」

 

「...うん、おやすみ。」

 

何かがおかしいとは思ったが、この時はただ疲れているだけだと思い、そのまま声をかけなかった。俺もかなり疲れがたまっていたので早々に寝てしまった。ここでもっと粘って話を聞けていれば、あんなことは起こらなかったかもしれないが、今となっては後の祭りだ。

 

「ふぁ~...久々にがっつり寝たな。ウェンディおはよう...ウェンディ?」

 

次の日、目が覚めてウェンディに声をかけると、いつもは先に起きているはずのウェンディから返事がなかった。向かい側のベッドを見ると、天井から力なくぶら下がり、生気を失ったウェンディが目に入った。

 

「そんな...ウェンディ!返事をしてくれ!」

 

「朝から騒がしいぞ!何をやっている!」

 

「ウェンディが...ウェンディが!」

 

「チッ、めんどくせぇことしやがって...あぁ、俺だ。問題が発生した、至急応援を頼む。あぁ、4,5名ほど頼む。」

 

数分と経たず、職員たちが部屋へ押し寄せ、ウェンディの遺体を運び出していった。

作業が終わった後、職員のリーダーに声をかけられた。

 

「おい、あいつの遺体は俺たちの方で処理する。後で箱を持ってくるから、お前は遺品の整理をしろ。」

 

「...やっぱり、ウェンディは...」

 

「ああ、軽く死亡確認をしたが、脈は無かった。おそらく手遅れだろう。」

 

「そうですか...」

 

「まあ、今回はさすがに同情するぜ。先ほどドクターから連絡があった、今日の実験は延期とのことだ。遺品整理が終わったら今日は休め。」

 

「ありがとうございます...」

 

箱を渡された後、遺書とドッグタグ一枚、そして近くにあったポーチだけは何とか隠し、残りの遺品を詰め込んで、回収に来た職員に渡した。

次の日、実験に参加するために実験場へ向かったのだが、道中でドクターに呼び止められた。

 

「あー、タチバナさん。今日もというか、これからずっと実験はお休みです。」

 

「え?これからもずっとですか?」

 

「えぇ、昨日上層部からお達しがありましてね、『DD関連の実験はすべて凍結、タチバナ准尉は元々の任務に合流せよ』とのことです。まぁ要するに、ここでの実験は終わりってことです。」

 

「終わりって、そんな唐突な...ドクターはどうするんですか?」

 

「私も間もなくここを離れ、別の研究班に編入されることになりました。つまるところ、私たちはお別れってことですね。あ、そうそう。最後に会いに来たのはこれを渡すためです。」

 

そういってドクターは一枚の紙片を差し出した。見れば、複数の薬品の名前と調合の手順が書かれていた。

 

「あなたに合わせて最適化した鎮痛剤のレシピです。上側が必要な薬品名と量で、下に手順が書いてあります。餞別という奴ですよ。ここだけの話、裏面のレシピなら、γ-グリフェプタンなど使わずとも市販薬で作れちゃったりもします。ただ、正規品と比べると効果は薄くなるのでご注意を。」

 

「ありがとうございます。」

 

「えぇ、ではお元気で。」

 

そういってドクターは去っていった。

俺も部屋に帰って荷物をまとめ、二日後には宇宙へ上がり、その後バジルールさんたちと合流、元の任務へ戻ったのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「というのが俺が合流するまでの間に起こった出来事です。だいぶ端折ってますけどね。」

 

「なんつーか、大変だったんだな...」

 

「まさか私たちと合流するまでに、そんなことがあったとは...」

 

「とりあえず、聞いときたいこととかあります?なければこの場を締めようかなーと思ってるんですけど。」

 

「まあ、別にないけどよ...」

 

「そんじゃ、ここまでとしましょうかね。皆々様お疲れさまでしたっと。あ、キラくんだけ残ってね。」

 

「僕ですか?」

 

「そうそう。さっき俺、ブリッツとっ捕まえてきたでしょ?そのパイロットの様子を見に行こうかと思ってね。どうせ行くなら同じコーディネーターの俺達が行くのがベストかと思ってね。」

 

「わかりました。」

 

「よし、そんじゃ行こうか。」

 

ブリーフィングルームの出口でバジルールさんたちと別れ、俺たちは捕虜が収容されている懲罰房へ向かった。

通路を歩いていると、隣にいたキラくんから話しかけられた。

 

「あの少しいいですか?」

 

「ん?どしたの?」

 

「なんで、なんでそんなに笑っていられるんですか?さっきまでは、話しているときはあんなに辛そうだったのに、話が終わったとたん、まるで何もなかったみたいに...」

 

「なかなか痛いところを突くじゃないか、しょうがないから教えてあげよう。理由は単純、こうでもしないとやってらんないからさ。」

 

「えっ...」

 

「昨日まで一緒に酒飲んでたはずの親友が、次の日何も言わない死体になって、苦楽を共にした同期が、気づいた時には跡形もなく消えてる。こんな環境じゃ、自分を守るためにはこうするしかないのさ。こうやって無理やりにでも笑って、自分を騙して、自分にすら嘘をついてないと、俺は戦えないのさ。怖がらせちゃったかな?ひとまずこの辺で終わりにしようか、そろそろ目的地だしね。」

 

そう言って視線を前に向けると懲罰房へのドアと、その前に立つ警備担当が目に入った。

 

「お疲れ様です、彼の調子はどうですか?」

 

「先ほどまでは気を失ったままでしたが、現在は目を覚ましています。しかし、口を割るとは思えませんが...」

 

「いえ、あくまでも様子を確認するだけなので、大丈夫です。念のため、15分経っても俺たちが出てこなかったら、状況の確認もかねて一度声をかけてもらえますか?」

 

「わかりました、お気をつけて。」

 

警備係が開いたドアをくぐり、一番奥の房まで足を進めると、手錠をかけられて牢屋に入れられた、緑髪の少年がいた。

近くのパイプ椅子を手繰り寄せて座り、声をかけた。

 

「やっと目が覚めたようだね、ブリッツのパイロットくん。」

 

そう切り出し、俺はニコルへの尋問を開始するのだった。




先日活動報告にも投稿した通りですが、これから1,2か月に一回くらいのペースで近況報告をしますので、「投稿おせぇな」と思った際には一度覗いていただけると幸いです。
次回の投稿は設定集を更新してからの予定ですので、今しばらくお待ちください。

ウェンディ生存ルートのスピンオフ、どうする?

  • 『始まりの戦士』と同時進行で投稿する
  • 『始まりの戦士』が完結してから投稿する
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