第10話
山田はガチで毎日飯をたかりに来た。
疲れた日にめんどくさそうな料理をリクエストしてきたので、もやし炒めか500円か選ばせたらもやし炒めを選んだ。
案外もやし炒めは好きらしい。オレもだが。
頻繁に料理をねだりに来ているお姉さんとも仲良くなっていた。
初対面の時には少し警戒心を抱いていたお姉さんも、純粋なファンである山田に絆されたのか褒められてデレデレしている。
全くやれやれである。
でも、時折山田となら浮気しても良いとか言うのはやめてくれ。
するつもりないし。そもそも別に付き合ってないから浮気じゃないし。
日は過ぎて、5月も終わりかけた頃。
飯を通して仲良くなったオレと山田、そして伊地知さんは。
返却された中間テストの結果を見せ合っていた。
「は?何だこれ」
「もー。だから言ったのに」
0点のテストを5枚、堂々と掲げる山田。
お前選択問題も綺麗に全部不正解じゃねえか。
そんな点とっておきながらどこか自慢気なのも腹立つ。
「私は音楽に生きる女」
「全然かっこよくねぇから」
見た目から勉強できるタイプかと思っていたオレが間違いだった。
「こんなんでどうやって下高に入れたんだよ。賄賂か?裏入学か?」
「一夜漬け」
そんなまさか。と伊地知さんを見遣るが、彼女はうんうんと頷いている。
一応
0点取るような奴が一夜漬けで何とかなるような学校じゃないんだが。
「馬鹿と天才は紙一重」
「てれ」
「褒めてねぇ……いや、ギリギリで貶すより褒めてるが勝ってるか」
山田の知られざる生態をまた1つ解明してしまった。
ちなみに、伊地知さんはオレよりも良い点数を取っていた。さすが。
「じゃあ今日は飯無しか」
「何故」
「だってお前今日から補習だろ」
無言で床に崩れ落ちる山田。やっと補習という現実を思い知ったか。
まあコイツはテスト勉強してなかったみたいだし自業自得だな。
「終わったら食べさせて……」
「良いけど終わるまで待たないからな」
「お願い」
「やだよ。オレ学校で何すんだよ」
「補習来る?」
「行くか馬鹿」
放課後。
未練がましい目で見てくる山田をしっしと追い払う。
しっかり勉強してこい。
「佐藤くん、すっかりリョウと仲良しだね」
「不本意ながらな」
「リョウだけじゃなくて、私のことも呼び捨てでいいんだよ?」
「いや。伊地知さんは伊地知さんだから」
「そっかぁ」
おや。何か寂し気。
疎外感を感じさせてしまっただろうか。
「伊地知さん。……いや。やっぱり何か恐れ多い」
「そんな事ないよ?」
呼び捨てどころかむしろ様を付けたい。毎日拝みたい。
三大天使に伊地知さんを入れて四大天使にしたい。
ミカエル・ラファエル・ガブリエル・イジチエル
違和感ないな。
「呼び捨てが難しいなら、下の名前は?虹夏って呼んでもいいよ」
「絶対揶揄ってるよな」
によによと面白そうに笑う伊地知さん。
絶対オレの反応を見て楽しんでるだろ。
「じゃあオレの事名前で呼べる?」
「ヘぇっ?」
お返し、とばかりに聞いてみる。
変な鳴き声を上げる伊地知さん。
「伊地知さんもオレの事佐藤くんって呼んでるでしょ」
「う〜ん。そうだね……」
伊地知さんは少し悩んで。意を決した。
「し、しおくん……」
「うん……」
もしかして山田のせいでオレの名前をしおだと勘違いしてる?
それともニックネーム的な呼び方をしているんだろうか。
オレの名前は一応としおなのだが。何だか微妙な顔になってしまうのだった。
まあ、呼び捨ての話を有耶無耶に出来たのでよし。
◆
「……雨か」
ふと気がつくと、部屋の壁を雨粒がポツポツと叩いていた。
窓の外から、雨雲に覆われた空を見る。にわか雨ではなさそうだな。
おい。補習もう終わってんだろ。今日来ないのか。
山田にそんなLOINを送る。
家に着いてはや2,3時間は経つ。もうとっくに補習は終わっているはずだ。
返信が来るまでソワソワしてしまう。
何か変なことに巻き込まれてるんじゃないだろうな。
「はぁ〜……仕方ないな」
オレは多少水をはじきそうな上着を羽織り靴を履く。
そして傘を持って玄関の扉を開けた。
正面の部屋を見て気づく。そういえば今日お姉さん家に居なかったな。
あのものぐさが傘を持ち歩いているわけがない。
一応LOINを入れておいてやるか。
迎えにこいと言われても傘1個に3人は流石に無茶だ。
もしそうなったら諦めて買ってやるか。
「さて。迎えに行きますかね」
LOINに送られてきた位置情報に従って山田のいるであろう店へ着いた。
中に入ると少し真剣そうな顔で服を眺める山田がいた。
一枚の絵画のようになかなか様になっていて、声をかけるのに躊躇してしまう。
「しお」
「よ。待ったか?」
「服見てた」
「そか。で、どれが買いたいんだ?」
「なかった」
「なんなんだよ」
なんだ、いつもの山田か。
オレの視線を感じたのか、ふと山田がこちらに顔を向ける。
話しかけると、いつもの真顔の山田がいた。
せめて写真にでも撮っておけばよかったかと後悔。
「お礼に服見てあげる」
「いいのか?」
「うん。しおの私服センスないから」
「うぐ……はっきり言うな」
「お洒落にしてあげる」
「出来るだけ安物でお願いします」
「任せて」
認めるのも癪だが、山田の私服センスは目を見張るものがある。
とりあえず着れれば良いオレや、一着あれば良いお姉さんとはレベルが違う。
「ついでにお姉さんの服も見繕ってくれ。そっちも安いので頼む」
「お安い御用」
いつになく頼もしいな。
女子の買い物は長いと聞くから覚悟していたが。山田は意外にもテキパキと選んでいた。
あるいは、オレが来る前から選んでいたのかもしれない。
もし、オレの服を選んでやろうと財布を持って来いと言ったのなら見直すのだが。はっきり聞くのも何か癪だな。
「ありがとな。次の休みの日にでも着てみる」
「ん」
「お礼に一着買ってやるよ」
「じゃあアレ」
「舐めんな」
山田は飾られているアロハなシャツを指差していた。
何故あんなものがうん十万するのかわけがわからない。
投げ売りで100円とかで売ってそうなのに。古着とは。奥が深すぎる。
「服はいいから映画見に行きたい」
「今から?雨だし早く帰ろうぜ」
「見てる間に止むかも」
「止むかなあこの空模様で」
「お願い。チケット代奢るから」
「その奢る金はオレが貸すんだろ?」
「そう」
「分かったよ……」
相合傘をしながら映画館へと向かう。
まあ、今日くらいは肩が濡れても良いかなと思った。
もし付き合えるなら……
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伊地知虹夏
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山田リョウ
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廣井きくり