「やはりサメ映画にハズレなし」
「お前本当にサメ好きだな」
山田が選んだのは1人1人サメに食われていくホラー映画だった。
かなりチープだったが、そういうものだと思って見ればなかなか面白かった。
そうだな。最終的な感想としては。ジャンルはホラーではなくコメディだったな、とだけ。
「この後どうする?なんか買って帰るか?奢るぞ」
「天津飯作って」
「ん」
翌月になるが、映画代は出してくれるようなので。飯代はオレが出してやろうと思ったのだが。
山田はすっかりとお気に入りとなった天津飯をリクエストしてきた。
服屋回って映画見て。家で飯作るのも面倒になって、どうせなら何か食って帰ろうと思ったのだが。
奢られるよりも、100円払ってオレの料理が食いたいと言われたような気がして気分が良い。
天津飯は結構手軽な料理だし問題もない。リクエストに答えてやりますか。
「お。どうした?」
「低気圧」
「気をつけろよ」
傘に2人、帰路についていると。山田はフラッと何かに躓いた。
雨はまだ降り続いている。こんな中でコケたら大変だ。
山田を見ると、何だかウトウトしている。
「手繋ぐか?」
「何で」
「コケた時顔からダイブしたいなら無理にとは言わないけど」
お姉さんがぐでんぐでんに酔っ払っている時に、こうしてコケないように手を繋ぐのだが。
お姉さんの手とは随分違うな。
手を繋いでから。やはり眠いのか、何だかしおらしい山田。珍しいな。
こんな素敵シチュエーションなのに、慣れすぎてなんとも感じなくなってしまったのが物悲しい。
全部あの酔いどれお姉さんのせいだ。
家に着くと、なんの迷いもなくベッドに倒れ込む山田。
勝手知ったるなんとやら。恥じらいという言葉を知っているか?
濡れてしまったのか、いつも履いているタイツも脱ぎだした。
なんだかんだで、山田の生足は初めて見るかもしれない。
変な目で見ていると誤解されても癪なので早々に目を逸らす。
「じゃあ飯作るからゆっくりしててくれ」
「ん……」
サービスでタオルを一枚放ってやる。
ぷぷぷ。頭にかかってやんの。
まず鍋に水、料理酒、醤油を感覚で入れて火にかける。
味見をしながら、バランスを調節して。塩胡椒を加える。
味が整ったら、片栗粉を入れてとろみをつける。
しばらく火にかけて、これで餡は完成。簡単!
後はいつも通りのオムレツを作る。
小さなフライパンに持ち替え、火をつけて油を引く。
そこに卵を二つと、牛乳とチーズを混ぜ込んだものを流し込む。
牛乳はかさ増しだけではない。入れると味がマイルドになるのだ。
卵が固まり切らない半熟の状態でフライパンを持ち上げ、お米の上へ上手に乗せる。
これでふわとろオムレツの完成だ。
最後に上から餡をかけたらお手軽天津飯の出来上がり。
天津飯と言うより、あんかけ卵丼と言った方が正確かもしれないが。
うちにはカニカマなんて置いていない。
「おい、そろそろ完成だ」
返事がない。山田を見ると、ベッドに横になって寝ていた。
しょうがない奴だな。目を離した数分で寝入るとは余程疲れていたのか。
そういえば帰り道で低気圧弱いって言ってたな。
今日は補習も頑張ったようだし少し寝かせてやるか。
餡を温めていた鍋の火を止める。
あまり寝相は良くないタイプなのか、制服が少しずり上がっていた。
「ったく。腹冷やすぞ」
あまり見るのも良くないと思いかけ布団をかける。
が、やはり気になってちらりと目をやる。……腹筋割れてね?
なんか知らんけど腹立つ。
◆
「ゔ……」
床に座って新作アニメの情報を漁ってネットサーフィンしていると、山田が何か呻いている。
何か面白い寝言とか言わねぇかな。続けて何か喋り出さないかと注目する。
何か山田が神妙な顔してるの何かウケるな。
「ゔぅ……」
何かこれうなされてね?
眉間に皺のよった山田の肩を揺する。
「おい。山田。起きろ」
何度か揺すって見るが、起きる気配はない。結構眠りは深そうだ。
しょうがなく耳元に顔を近づけて声をかける。
「晩飯一ヶ月無料」
嬉しい事言ってみたら起きるんじゃないかと思い、耳元で喋ってみる。
……まあこんなので起きるわけないか。
おや。心なしか顔色が良くなった気が。
「大盛天津飯。食べ放題。いただきます」
山田の喜びそうな単語をたくさん囁いてみる。
段々と嬉しそうな表情になってきたが、最後には難しそうな顔に戻った。
顔色もあまり良くなさそうなのでそろそろ起こしてやるか。
「おい。山田。起きろ」
「ゔ……」
何度か揺すって見るが、起きる気配はない。結構眠りは深そうだ。
しょうがなく耳元に顔を近づけて声をかける。
「飯できたぞ。天津飯、食うだろ」
「うん……」
お、返事が返ってきた。いけるか?
「ほら、起きろ馬鹿。起きないと全部食うぞ」
「ゔ〜ん……」
暫く揺すってみても起きる気配はない。こいつ絶対朝弱いだろ。
揺らして無理なら、痛みで起こすか。オレは山田の頬を抓る。
うおっほっぺた柔らかっ何だこれ
起こすことも忘れて、もちもちと頬を弄んでいたらついに山田が起きてしまった。
ちっ……
「何ひへるの」
「……飯もうすぐでできるぞ」
オレは名残惜しくももちもちの頬から指を離して台所に立ち、冷めてしまったあんを温める。
炊飯器から白飯を取り出し、保温を切っていたのでレンチン。
「変な夢見た」
「どんな?」
「大きい天津飯の中に埋められる夢」
「悪夢じゃねえか」
あれだけ魘されていた理由もわかるというものだ。
「それで中から食べて脱出して」
「斬新なストーリーだな」
「最後に卵を食べて外に出たら巨人になったしおがいて」
「勝手に登場させるな」
「スプーンで掬ってご飯と一緒に食べられた」
「バッドエンドじゃねえか」
「しおになら食べられてもいいよ」
「お前そんな妙な事外で絶対に言うなよ」
山田は無神経の言葉足らずだから平気で言いそうだ。
そうでなくとも、クラスメイトから妙な勘ぐりをされているというのに。
「ほら、できた。まさか食いたくないとは言わないよな?」
「食べる」
合掌し、いただきますの後に揃って食べ始める。
うん、今日もしっかりと美味い。
熱々の白米に絡む少し甘じょっぱいあん。
オムレツを割くと中から半熟の卵ととろけたチーズがとろりとこぼれ落ちる。
塩辛いと思ったらオムレツと一緒に口に運ぶ。
すると牛乳のマイルドな風味がちょうど良くマッチする。
2人で黙々と食べ続ける。食事中はこんな無言でも心地よい。
「ご馳走様でした」
2人して同時に食べ終わり、余韻に浸る。
ふぅ、と一息。我ながら。良い仕事したな。
うとうとしている山田。全く。食ってすぐ寝ると体に悪いというのに。
欠伸をひとつ。食器を重ねて。それから────
隣で何かが動いた。
海底から引っ張り上げられるような感覚を覚え、目を開ける。
山田につられ、満腹で不覚にもいつの間にか寝てしまっていたようだ。
「ふぁあ……」
寝ぼけ眼で時間を確認する。やべ、もうこんな時間か。
山田は寝起きが悪い方なのか、うつらうつらとしていて大変危なっかしい。
「顔洗って来い。送ってってやるから」
「1人で帰れる」
「馬鹿。良いから聞いとけ」
なんでコイツいつも1人で帰ろうとするんだよ。
そんなフラフラな奴昼間でも1人で外に出せねぇわ。
翌朝。
少し寝てしまったせいでなかなか睡魔が来ず。
寝不足気味な頭のまま学校へと向かう。
「佐藤くんおはよう」
「おはよう、伊地知さん」
朝から天使を見られるとは光栄だ。
ところで。伊地知さんはまだ何やら話があるのか、こしょこしょと耳打ちをしてくる。
んぅん゛ん゛っ!!距離感!!!
「ねえ。2人でベッドで寝たって本当?またリョウが変なこと言ってるから気をつけてね」
あの女ァ!
特にこのシーンはあまりにも解像度が低かったので書き直し。
もし付き合えるなら……
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伊地知虹夏
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山田リョウ
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廣井きくり