ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

12 / 23
 翻弄される隣人
第12話


 

 

 

山田と一緒のベッドで寝てから、その翌日。

授業中に襲い掛かる睡魔と、休憩時間毎に事情を聞きたがる伊地知さんからの攻撃を躱し。

ついに一睡もすることなく放課後まで辿り着いた。

寝なかった代わりに、内容はほとんど頭に入らなかったがな。

 

補習に向かう戦士に心の中で敬礼をしていたところ。

山田は衝撃の台詞を吐いた。

 

「今日ご飯いらない」

「珍しいな」

 

というか、飯をたかりに来てからは初めてかもしれない。

とはいえまだ二週間も経っていないが。

 

「JOJO苑行く」

「は?お前が?」

 

雑草を生で食っていた何で高級焼肉を食いに行けるんだ。

この万年金欠ベーシストその2にそんな金があるわけがない。

 

「どこから借りた?金利はいくらだ?返済期限は?」

「借金じゃないし」

 

じゃあ何だ。奪ったのか?貢がれたのか?

相手の同意がある金銭の受け渡しでもカツアゲはカツアゲだぞ。

 

「親が連れてってくれるって」

「なんかの記念日か?」

「補習頑張ってるからって」

「なんで赤点取ったのに高級焼肉なんだよ」

 

赤点補習の山田は焼肉を食らい。一方オレは自炊で貧乏飯。世の中理不尽だ。

奇妙な冒険に出かける予定の山田を敵の仇のように睨む。

 

伊地知さんから聞くには、親は病院を経営しているそうな。経営て。

そんな親御さんは娘のリョウにはかなりの溺愛っぷりで甘々なんだとか。

山田はその過干渉が嫌で、よく外で飯食って帰ったり家出がてら虹夏の家に泊まったりしているそうな。

贅沢な奴だ。

 

「しおも来る?」

「は?」

「いつもご飯作ってくれるお礼」

 

奢りで高級焼肉のワードの強さにふらりと揺れそうになる。

いやしかし。相手は山田の親だ。

山田の親と飯食いに行くとか気まず過ぎる。

異性の友人の親と会食とかどんな罰ゲームだよ。

しかも娘さんと一緒に寝てしまった翌日の話である。

 

「いや、いいや」

「そう」

 

冷静に考えてNOである。

しかし高級焼肉か。逃した魚は大きかった……

 

「それよりも6月入ったら金払えよ」

「ん」

 

わかったのかわかっていないのか。そんな適当な返事が返ってくる。

まあ別に心配してはいない。こいつは金使いが荒いだけで

それに、払わなければこれからはもう作らなければ良いだけだ。

それはそれで寂しいな。

 

それにしても、そうか。山田来ないのか。

オレはお姉さんに生存確認のLOINを送る。

お姉さんも食べないなら、オレも外で食ってこようかな。

1人で食べるのに飯を作るのが面倒になってしまっていた。

 

───イライザの家にいる

 

意外にも早くに返信が来た。

にしても、昨日の夜からずっといるのか?

全く、バンドメンバーに迷惑かけて。

 

 

 

<  ひ ろ い き く り

 

 昨日 

 

既読
雨大丈夫ですか

 

だいじょぶ〜

今日帰れないかも!

 

既読
わかりました

既読
気をつけてくださいね

 

はぁーい

 

 今日 

 

既読
いきてますかー

既読
今どのへんいます?

 

イライザの家いるよ

 

既読
学校帰り迎えに行きます

 

いいよいいよちゃんと帰るから

 

既読
迎えに行きます

 

わかった

(._.)

 

 

 

 

イライザさんに会うのは……

確か前回のライブ以来だから、一週間ぶりくらいか。

久しぶりというほどでもないな。

 

 

 

 

 

 

一度家に帰り、オレは電車に揺られ新宿にあるイライザさんの部屋にお邪魔した。

イライザさんの部屋はオレたちの住んでいるような貧乏物件ではなく。

オシャレでモダンなしっかりしたセキュリティの部屋だ。

チャイムを鳴らすと、暫くして扉が勢いよく開かれる。

連絡していたとはいえ、返事もせずにいきなり開けるとは彼女らしい。

 

「トシオ!いらっしゃい!」

「どうも、お邪魔します。イライザさん」

 

自前のブロンド髪とぴょっこり跳ねるアホ毛は伊地知さんを思い出す。

伊地知姉妹と3人並べば、三姉妹に見えなく……もない。

若干髪色は違うが。アホ毛の形も違うな。

遺伝子が強すぎるのか、伊地知さんと店長さんのアホ毛は形がそっくりだ。

 

「お姉さんを預かってもらってすみません」

「いいヨいいヨ!私たちバンドのチームだからネ!」

「何か変なことしませんでした?吐いたり暴れたり」

「ダイジョブ!」

 

玄関から廊下を進んでリビングの扉を開ける。

この部屋だけでオレたちのワンルームの部屋の広さを超えている。

部屋にはシンプルかつお洒落なインテリアが並ぶ中。ソファーにお姉さんが座っていた。

おや。意外にもお酒は飲んでいないみたいだ。

それも珍しく昨日から飲んでいないのか、しおらしバージョン。

 

「お姉さん。大人しくしてましたか」

「おしおくん、私は幼稚園児じゃないんだよ」

 

大体同じようなもんじゃないですか。

 

「それよりお菓子買ってきましたよ。お茶にしましょ」

「やった!」

「ありがと〜」

 

適当に買ってきたコンビニスイーツを広げる。

出費は痛いが千円前後で日頃のお礼が返せるなら願ってもない。

イライザさんはティラミスのケーキ。お姉さんはチーズケーキ。

オレは3つ全部好みのものを買ったのでどれでも良かったため、最後に残ったモンブランを選んだ。

イライザさんにはコップだけ出してもらって、買ってきたお茶を注ぐ。

 

一口口に入れた瞬間に、栗の芳醇な甘味が口の中に広がる。

クリームは噛む必要のないほど滑らかで口の中に溶け出していく。

口の中が甘くなり過ぎたところに、お茶の仄かな濁りが甘さを流して中和する。なんて贅沢な一時だろうか。

オレのような貧乏人にはコンビニスイーツはなかなかの贅沢だ。

決して山田に対抗してではないが、たまには良いだろう。

 

暫くスイーツに3人で舌鼓を打って幸福になったところで。

イライザさんがいつものアニメトークを展開し始める。

 

「オススメしてくれたアニメ見ましたヨ!」

「何オススメしてましたっけ?」

「AlchemistがCraftする話ですヨ」

「ああ、新米の錬金術師が店舗経営するやつですね」

 

舞台上ではクールにギターを掻き鳴らす彼女だが、実際に接してみるとかなり印象が違う。

滅茶苦茶お喋りで押しもすごい。

 

「次は、魔女が色んな国を旅する話とかどうですか」

「女の子のアニメ?」

「はい、可愛い女の子ばっかりです」

「女の子が頑張る話大好きネ!」

「ああ、でも9話がトラウマ回なんで気をつけてください」

「トラウマ?」

 

イライザさんは重度のきらら民であり、きららのアニメや漫画を網羅している。

おすすめするのはきらら以外の作品になるのだが、これがまた難しい。

何せ、最近のアニメの主流はハーレム。オレは好きだが、女の子に勧めるとなるとまた違う。

イライザさんはきらら以外のアニメも見るので、ハーレム系やアニメ的なえっちなシーンには寛容ではあるのだが。

そういうアニメばかり見ているとも思われたくない、この思春期男子の気持ちをわかってほしい。

 

「イライザさんがオススメしてくれた釣りアニメも見ましたよ」

「良かったでショー!?」

「はい。2周しました」

「私釣りがしてみたくなったネ!トシオ、一緒に釣りに行かない?」

「良いですね。調べて今度行ってみますか」

 

初心者がいきなり釣り道具を買うのもハードルが高い。

釣具ごとレンタルしてくれるような場所がないだろうか。

釣り堀りとかならレンタルで簡単に釣れそうだな。

都内に良いところがないか調べてみるか。

そんな予定を考えていると、袖をくいくいと引っ張られた。

 

「……?どうしました?」

 

隣に座るお姉さんが服を掴んでいた。

お姉さんのわからないアニメの話をしていたから拗ねてしまったのだろうか。

自分の知らない話を聞きながら黙々と食べるのはさぞ寂しいだろう。申し訳ない。

 

「私も行きたい。その……釣りに」

「3人で行きまショー!」

 

なんて思っていたら、意外も意外お姉さんも同行したいという。

イライザさん大はしゃぎ。この人もアウトドア派だからな。

 

「ちょっと、部屋の中で木刀振り回すのやめてくださいよ」

 

イライザさんは日本文化大好き人間であり、和風っぽいものであれば何でも取り入れたがる。

いつも着物を着ているし、よく土産物売り場で売っている木刀を帯刀している。

彼女は現代の日本人よりも日本人している。

 

「寂しくなっちゃいましたか?すみません、置いてけぼりで」

「そういうわけじゃないし……」

 

流れ弾に当たりたくないので、楽しみネ!とか言ってるイライザさんを無視してお姉さんの介護を優先する。

お姉さんは素面で拗ねると子供みたいになるからすぐにわかる。

解決方法も子供みたいにあやしてあげれば良いから簡単だ。

お姉さんはまだいじいじとオレの服の裾を触っている。伸びるんでやめてください。

 

オレたちがやいのやいのやっていると、イライザさんも落ち着いたのかオレたちのやりとりをにっこり見ていた。

何か気恥ずかしくなってお姉さんの手を振り払う。

お姉さんは恨めしそうに見てきているが。

 

「トシオ、そのMont Blanc一口ちょうだい」

「どうぞ」

 

対面に座っているイライザさんの方へモンブランのカップを差し出す。

彼女はきれいに残っているクリームの部分にスプーンを突き立てて山岳の形を崩す。

口に入れたイライザさんは、頬に手を当てて幸せそうに咀嚼する。

アホ毛がぴょこぴょこと跳ねているのはどういう原理なんだろう。

 

「私のも。一口ドーゾ」

 

イライザさんは1掬いしたディラミスをこちらへと差し出した。

堂々としているが、これはあーん+関節キスになるのでは……

年上の余裕か、あるいは海外では普通なのか。

 

「チョコすっごい濃厚ですね。すごいお茶飲みたくなります」

「コーヒーと合いそうネ」

「コーヒーの魅力はまだ僕にはわかんないですね〜」

 

次からはお茶だけでなくコーヒーも買って来ようと心に決めた。

 

「おしおくん、私にも一口ちょうだい」

「……どぞ」

 

オレは既に空になっているお姉さんのカップを見てから、仕方ないので差し出す。

別にイライザさんにも、お返しがあると期待して渡したわけでもないしな。

 

「食べさせてほしいなって」

「……」

 

イライザさんの行動を見て、また変な波動を受信したのだろう。

オレはモンブランをスプーンで掬い、自分の口へ放り込んだ。

 

「無視!?」

 

別にお姉さんにあーんなんかしてもイライザさんみたいなドキドキとかないし。

 

 

 




最高評価&評価9折り返し&総合日間ランキング一桁入り&お気に入り千越え(どころか既に1500超えてる!)ありがとうございます!
この一週間の伸びがすごいです。これがランキング入りの魔力か。
なのに投稿遅れてごめんなさい!
単発とまでは言わなくともあまり長く続けるつもりもなかったんですが、評価良さそうなのでもう少し続けてみます。


L○NE風の特殊タグ作ってみました。
こちらをアレンジしたものです。
呪文知りたい方は誤字報告からコピペできます。

もし付き合えるなら……

  • 伊地知虹夏
  • 山田リョウ
  • 廣井きくり
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。