ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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第13話

 

 

 

アニメ談義が白熱してしまい、思った以上に長居してしまった。

イライザさんの部屋を出て、電車に揺られながら下北沢へと向かう。

部屋を出てから、お姉さんはずっとオレの背後を陣取ってちょこちょことついて来る。

そんな様子は、今朝のビビリな山田を思い出した。やっぱり似たもの同士では?

 

オレ達はカルガモの親子になりながら我らがホームのボロアパートに帰ってきた。

お姉さんも当たり前のようにオレの部屋に入ってきた。

まあ何となくそうかなとは思っていたが。

 

「お姉さん、今日晩御飯食べますよね?」

「うん……」

 

今日はあまり手間のかからない簡単なものにするか。

ついでに、多めに作って明日の弁当のおかずにしよう。

 

冷蔵庫から取り出した2、3袋のもやしを開けて鍋に入れて茹でる。

その間に人参の皮を神器であるピーラーで剥き、千切りにする。

 

茹でたもやしはシャキリとした食感が残っているうちにざるに上げ、今度は切った人参を茹でる。

もやしは冷水を浴びせてからざるに押し付けて水分を絞る。しっかり絞らないと水が出て味が薄れるのだ。

 

「リョウちゃんはいないの?」

「今日は家族で外食行くんですって」

「そうなんだ」

 

もう山田は、「オレの部屋にいなければ違和感」の域まで達したか。

まあ別にそれは良いのだ。ちゃんと金を払うなら、ではあるのだが。

 

「じゃあ、今日は2人きりなんだ」

「そうなりますね」

 

お姉さんはスススとにじり寄って来る。

何か鳥肌が立って背筋がゾワゾワっとする。

別に嫌というわけではないんだが……

容認しているとつけあがるから定期的に叱る必要がある。

 

「リョウちゃんの事は好きだけど、2人きりの時間が減っちゃったのは寂しいな」

「ちょっと……危ないじゃないですか」

 

オレは人参を茹でていた火を止めて、同じようにざるにあげる。

これでもう刃物も火も使わないので安全だ。

 

「ねえ、おしおくん」

「何ですか?」

 

水気を切ったら、ボウルに入れる。

ここに砂糖や塩、ごま油などを適量ぶちこんで菜箸を使って混ぜ合わせる。

 

「もし、リョウちゃんに告白されたら付き合う?」

「あいつにはそんな器用なことできませんよ」

「はぐらかさないでよ」

 

お姉さんの、こういうめんどくさい女ムーブというか何というか。

山田が通うようになってからはあまりなかったな。

お姉さんも遠慮というか、配慮はしていたのか。

 

「まあ、万が一にでもされたら……OKするでしょうね」

 

オレも健全な高校生。

まだ積極的に彼女が欲しいと思ったことはないが、告白されたら試しに付き合ってみたいとは思う。

そういう話だと、山田でなくともそれなりの女の子からの告白なら受けると思う。

 

「じゃあ、私が告白したら付き合ってくれる?」

「無理ですね」

「即答!酷い!これは酷すぎるよ!」

「いやでも、年齢差考えてくださいよ。正直お姉さんは恋愛対象じゃ……」

「わー!わー!聞こえない聞こえない!聞きたくない!」

 

お姉さんは、オレが言い終わる前に現実逃避に入ってしまった。

ちょっと可哀想な事したかな。でも、本当にもし気があるのならスッパリと断った方がいいと思う。希望を持たせるのは残酷だ。

オレがいるかも、とかいう幻想を持って他の男に行けないなんてそれこそ可哀想だ。

 

酒を入れようとするお姉さんを必死で止める。飲みたいなら部屋に帰って飲め。

 

「オレの部屋に入り浸ってたら彼氏だってできませんよ」

「そもそも出会いがないもん」

「ファンとかたくさんいるじゃないですか」

「あぁ……カスども?」

「それ定着してるんですか?」

 

泥酔状態でのライブでお姉さんがよく観客に呼ぶ呼称だ。

酔ってテンションが上がっての暴言かと思ったら素面でも言うんかい。

 

「私達のファンになるような人は信用できないかなぁ」

「まあ、確かに」

 

否定できないのが悲しい所だ。

何度かライブに行ったことはあるが、お姉さんのバンドのファンの人とは話さないようにしている。

 

「そもそも、お姉さんのタイプってどんな人なんですか?」

「私の世話してくれて、暖かいご飯作ってくれて、自分もお金ないのにお金貸してくれる、隣に住んでる男の子かなあ」

「脈無しだと思いますよ」

「そんなあ」

 

とはいえ、本心では完全に無しというわけではない。

お酒をやめて悪酔いしない責任感を持った立派な人になってくれればこちらから頼んで恋人になってもらいたい程。

だが、それはオレの好きな廣井きくりではない別の人間だ。

 

「あーあ。今日も振られちゃった。これでも、本気なんだよ?」

「高校生に本気になるなんて大人気ないですよ」

「今のうちに唾つけとかないとね」

「あれ、結構長い目で見てます?」

「だって私もうおしお君の料理がないともう生きてけないよ」

「どこまでついてくるつもりですか……」

 

オレだってお姉さんの事は人間的には好きだ。

面白いしかっこいいし、ちょっとダメなところもなんだかんだ可愛いし。

ただ、恋人にしたくはない。

お姉さんが恋人になったと考えただけで不幸の連鎖が目に浮かぶ。

こう言っては何だが、人生の罰ゲームか何かだろうか。

 

「イライザの家で寂しいって聞かれた時、咄嗟に違うって言っちゃったけど。本当は寂しかったんだ」

「……」

 

つん、と背中をつつかれる。

まあ、大人しくしてくれている分には良いか。

そろそろ良い感じに調味料と混ざったかな。少し味見をしてみる。

うん、良い感じだ。

 

「イライザの家では嫉妬して。帰ってからはリョウちゃんがいないって聞いて、ちょっと嬉しかったんだ」

 

お姉さん、何でこんな学生みたいな恋愛してるんだ。

全然育ってないじゃないか。お姉さんの恋愛遍歴が気になるな。

 

「おしおくんに彼女ができて欲しくないって思ってるし、もしリョウちゃんと付き合うなら、この関係を壊さずに3人で仲良くできるかなって考えてるの。私って酷い女だよね……」

 

お姉さんは酒を入れいていないとこうしてよくヘラるのだ。

この不安が嫌でお酒を飲んでいるところがあるらしい。

 

よくある、そんなことないよ〜待ちという訳でもない。

むしろそっちの方が対処法が分かりやすくて助かる程だ。

そんな対応をしてしまった時には更に深くに潜っていく。

 

なので。そんな時の対処法はこうだ。

 

「むぐ……」

「味付けどんな感じですか?」

「んむ……んむ……美味しい……」

 

オレは菜箸で味付けしたもやしを摘み、お姉さんの口元へと差し出した。

一度口を閉じさせれば、あとはこっちのペースに持ち込めば良い。

話を遮って変えてしまうのが一番簡単なのだ。

 

「はい、じゃあナムル完成です。お姉さんはご飯よそってください。少し早いけど晩御飯にしましょう」

「はーい」

 

オレは仕上げたナムルを皿に盛って机に乗せる。

うちの居酒屋ではお通しに使われているナムルだが、これがまた安い上に簡単に作れて絶品なのだ。

本当はしばらく冷蔵庫に入れて冷やした方が好みなのだが、そうも言ってられないからな。

 

多めに皿に盛ったが、ボウルの中にはまだまだ残っている。

残りは冷蔵庫にIN。朝食べてもよし、弁当に入れてもよし。

そんなに長持ちはしないが、どうせ美味いので冷凍するまでもなくすぐになくなる。

 

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 

ベッドに並んで2人。主食であるもやしをかっこむ。

うん、いつも通り美味い。塩の風味とごま油がちょうど良いバランスで噛み合っている。

あまり体に良くはなさそうな味付けだが、そんな味が居酒屋の醍醐味だ。

 

「お酒に合うのになあ……」

 

確かに、米と食べるように少し濃い味付けにしている。喉も乾くだろう。

うちの居酒屋でもナムルを肴に酒を飲んでいるお客さんもいる。

まあ、今日くらいは仕方ないか。

 

「良いですよ、今日は」

「えっ」

「おにころですよね?飲んでも良いですよ」

「本当!?」

 

お姉さんはガバッと立ち上がり、オレの頭を飛び越えて玄関へと向かう。

部屋に帰って酒を持ってくるのだろう。

 

「小さいパック1本だけですからね!あまり飲みすぎて吐いたら本当に怒りますよ」

「はーい」

 

まったく。調子良いんだから。でも、元気になったなら良かった。

お姉さんは拗ねると機嫌を取らないとこうして後に引くのだ。

 

お酒が入ってご機嫌なお姉さんは満足そうにナムルを平らげた。

少し気分が良くなっているが、まあまだ一本目なのでこんなもんだろう。

オレはダメ押しにお姉さんをおだてる。

 

「お姉さんのベース、聞かせてください。かっこいいところ、見せてくださいよ」

「お姉さんに任せなさい!」

 

お姉さんは元気に返事をして、自分の部屋にベースを取りに向かった。

オレは食器を下げて水につけ置き、お姉さんがベースを持って帰ってくるのを待った。

 

「へへへ。ベース、イライザの家に忘れてきちゃった……」

 

玄関を開けたお姉さんは、照れ臭そうに頭をかいていた。

まったく。お姉さんはお姉さんである。

 

 

 




おまけ
それぞれに告白したら

・伊地知虹夏
「あー、えっと。ありがとう!……でもごめんね、佐藤くん良い人だし、友達としては好きだけど……恋人としては見れないっていうか……」

完全に脈なしです。ありがとうございました。
末長く友達でいてください。


・山田リョウ
「恋人って事は毎日ご飯作ってくれるよね?……お弁当も作って。……朝ご飯も。……お金も貸して?」

恋人という関係をだしに調子に乗って色々要求される。
でも要求全部断られてもこれからもご飯作ってくれるなら付き合ってくれる。
恋人という関係をあまり重視してない。メリットデメリットで考えてそう。
キスとか嫌がるけどいざしたら耳だけ赤くなりそう。かわいい。


・廣井きくり
「本当!?やったー!じゃあこれにサインお願いね!……え?いやいや、まだ出さないよ。でも、そろそろ遊びの恋愛とかできないっていうか……」

ウキウキで婚姻届書かされる。高校生には重い。
でもそこが良いという勇者だけが付き合える。
一応サイン断っても付き合ってはくれる。


・清水イライザ
「推しの間に挟まるつもりはないネ!私は壁になりたいんだヨ!」

日本の悪い文化に毒されている模様。
しお×きくりか、きくり×しおか。どっちで妄想しているかそれが問題だ。


これからもタイトル通りベーシストとしかフラグ立ちません。
後出しでぼっちちゃんや喜多ちゃんと何らかの関係があるとかもなし。
でも一応、喜多ちゃんとは名前繋がりで仲良くなれたりなれなかったりとは妄想してますが。
現時点で、1話目からまだ一ヶ月経ってません。このペースで原作開始までいけるのか……?
突然一年飛ぶかもしれません。

もうきくりお姉さんで

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