ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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 伊地知虹夏生誕祭
第15話


 

 

 

「そういえば虹夏。誕生日おめでと」

「ありがと〜」

 

5月29日。

5月もそろそろ終わるといった頃。

山田は唐突に爆弾を落とした。

 

「え゛伊地知さん今日誕生日?」

「そうだよ〜」

 

伊地知さんの事を知ったのは入学式である4月。

仲良くなったのは山田繋がりなので5月に入ってから。

そんなオレが彼女の誕生日なぞ知るはずがないのだが。

山田は何故そう手遅れな状態で情報を明かすんだ。

昨日飯食った時にでも言ってくれればまだやりようはあったというのに。

 

「お前早くに言えよ。何も用意してないぞ」

 

若干の恨みを込めて山田に突っかかる

というかコイツも今の今まで忘れてたんじゃなかろうな。

 

「いやいや。良いよ別に気にしないで」

「そういう訳には……とりあえずこれどうぞ」

 

オレは間食用に買っていたポ○キーを一袋渡した。

本当なら1箱まるまるで渡しかったが、もう1袋開けてしまっている。

 

「あはは、プレゼントとか全然良いのに。でも、ありがとね」

 

伊地知さんは笑顔で受け取ってくれた。本当に申し訳ない。また後日何か贈ります。

まぁポ○キー1つで何か変わるとも思わないが。それでも何も無いよりはマシだろう。

 

「お前プレゼントあんの?」

「ない」

「そんなはっきりと……」

 

お前ら親友じゃなかったのか。

普段から伊地知さんに世話になっておいてそれは酷いぞ。

 

「リョウはいつものことだから。月末はお金厳しいだろうし」

 

一文なしになってから月が明けていないのだから。金がないのは当然か。

 

「でも忘れた頃にくれるよね」

「一年遅れなければセーフ」

「どう考えてもアウトだろ」

 

時間にルーズどころの話じゃないな。

 

「買いたい物は買いたい時に買うのがポリシー」

「お前は貯めるという概念を持っていないのか」

「それはロックじゃない」

「何でもロックを免罪符に使うな」

 

まあ確かに、貯金か散財か、どっちがロックかと聞かれれば散財する方がロックっぽいが。

それで本当にいいのか?

まあ、それが2人の普通なら無理にとは言わないが。

 

「伊地知さんも、何か欲しいものあったらプレゼントするよ」

「そんな、悪いよ」

「いやいや。いつものお礼に何かさせてくれ」

「お礼って、私何もしてないよ」

「そんな事ないない」

 

伊地知さんが話しかけてくれるようになってから、格段に学校が楽しくなった。

親はよく海外を飛び回り。学校でも基本ぼっちでいた。1人でいる時間が好きだったが。

お姉さんに山田に、そして伊地知さんに。

高校に入って周りが騒がしくなってから、こういう時間も好きなのだと知った。

特に、暇な休憩時間にも話しかけてくれる伊地知さんには感謝している。あと、ついでに山田にも。

男子からは美人2人を攫っていった敵みたいな目で見られる事もあるが。

 

「水掛け論」

「「……」」

 

山田が冷静なツッコミを入れる。

お前ボケしかできないのかと思ってたよ。

 

「まあ折角の誕生日なんだしさ。何かお祝いさせてくれよ」

「うん……じゃあ、ドラムスティックお願いしようかな」

「おお。さすがドラマー。任されました」

 

やっと折れてくれたか。

しかしドラムスティックってどのくらいの値段するんだろうか。

伊地知さんの事だから、あまり高いものを欲しがるとは思えないが。

 

「どんなのが良いんだ?」

「今使ってるのと同じのが良いかな。いい機会だから、そろそろストックのスティックに交換しようかなと思って」

 

ストックのスティック……無意識か?

なんかツッコミ入れるのも可哀想だから流すか。

 

「ストックとかあるんだ」

「うん。ライブ中とかに割れちゃったら大変だからね」

「割れたりするのか。危ないな」

「そうそうないけどね。大体、すり減ったりささくれてきたりで交換するよ」

「へぇ。スティックってどれくらい持つものなんだ?」

「一ヶ月くらい叩いてたら悪くなっちゃうかな。私の場合は大体二ヶ月以内、長く持っても三ヶ月で交換かな〜」

 

お姉さんのベースの弦も、大体それくらいで交換すると聞いた。

安い弦なら一ヶ月持たない事もザラだそう。

楽器って維持するだけでも大変なんだなとしみじみ思った。

 

「そうだ。今日バイトの後にStarryでお祝いするんだけど、時間大丈夫なら佐藤くんもおいでよ」

「オレが行ってもいいのか?」

「勿論!プレゼント貰ってさよならはちょっと寂しいでしょ?」

 

オレは明日にでも渡そうと思っていたのだが。

女子の誕生日お祝いしに家に行くなんて初めてだ。

 

「お姉ちゃんと、あとうちのPAさんとか照明さんとかいるよ〜。リョウも来るよね?」

「ケーキ食べに行く」

「ブレねぇなあ」

「も〜。捻くれてるんだから」

 

山田の明け透けな物言いに呆れるオレたち。それでこそ山田だ。

 

「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」

「うんうん!おいでおいで!」

 

嬉しそうに笑うなあ。

これは入学早々男子達を勘違いさせまくってるのにも納得である。

 

「お前はバイト休みなの?」

「うん」

「ケーキ食うなら今日は飯いらないか?」

「それは別」

 

やっぱ食うのかよ。

じゃああんまり腹に貯まらないものがいいかな。

 

伊地知さんが袋を開けて食べ始めたので、オレも開封済みのもう一袋から一本取り出す。

 

「一本ちょうだい」

「ほら」

 

オレと伊地知さんが食べているのに1人だけ食べられないのも可哀想か。

袋を掴んで差し出すと、山田は小さく口を開けた。

食わせろってか?ものぐさもここまで来たか。

 

口元に先端を差し出す。何かウサギに餌やってるみたいだ。

山田はチョコの部分をポキポキと食べ、最後の持ち手の部分で口を閉じた。

チョコのついている部分しか食べないとは。なんて贅沢な奴だ。

 

「おい。最後まで食え」

「ん!」

 

残った部分で唇を突き刺し、口をこじ開ける。

しかし山田は顔を背けて拒否を示した。

どうするんだコレ。オレに食えってか?

 

次からはト○ポにしよう。何たって最後までチョコたっぷりだからな。

何でオレは山田にお裾分けする前提でお菓子を買おうとしているんだろうな。

 

「山田。放課後スティック選ぶの手伝ってくれ」

「えー」

「オレ楽器の事よくわかんないからさ。補習終わんの待ってやるから」

「じゃあ今日のご飯タダで」

「仕方ないな」

「ポ○キーもう1箱買って」

「わかったよ……」

「一万円貸して」

「調子乗んな」

 

少し下手に出たらすぐにつけ上がりやがって。

 

 

 

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