プレゼントのスティックは山田の付き添いにより無事に買えた。
付き合う代わりにポ○キーを要求されたが。プレゼントのためならば安い出費だ。
山田の弁を信じるなら、あからさまな安物はともかくとして、ドラムスティックでの音の違いはあまり無いらしい。
ドラムのスティックが、ギターでいうピックだと思えばさもありなん。
一仕事終えたオレはいつも通り家で飯を作っていた。
今日は夜に誕生日会があるので簡単に作れて軽く食べられるパスタにした。
鍋に水を張って火にかけて、塩をひとつまみ。
沸騰したらテープを切って麺をそのまま入れて袋に書いてある時間だけ放置する。
半分しか浸かっていないが、勝手にふやけて麺がお湯の中に浸かるので問題ない。
小鍋から出ている麺が鍋の縁の熱で焦げないようにだけ注意だ。
数分待てば、あとはお湯から掬い上げて、市販のパスタ用のソースをかければ完成だ。
自作しても良いのだが、パスタを作る日は手抜きしたい時なので何種類か備蓄してある。
「だーやまー。お前味何にする?」
「んー」
「ん?」
山田が飯時に生返事するなんて珍しいな。
気になって見てみると、ヘッドホンでオーチューブの動画を見ていた。
よく聞いてみると、微かにジャカジャカ音漏れしている。
「これなんてバンド?」
「さあ。でも最近よくおすすめに出てくる」
「ふぅん……」
ヘッドホンを貸してもらって聞いてみるとメタル系だった。
全員女子高生そこらに見えるがかなりうまい。特にフロントマンの子。
バンドのこと詳しくないからあまり楽器のことはわからないけど。
メタルバンドなのに楽器に負けてない力強い歌声だ。何故かずっと半目なのが気になるけど……
つーか野次うるさいな。これ半分営業妨害だろ。誰かつまみ出せよ。
「おえー!」だとか、「うえー!」だとか。「もっと気合い入れろー!」だとか。
声援を送るにしてももう少し曲にあった合いの手とかにして欲しいものだ。演奏の邪魔すぎるだろ。
「おえええええええ」
あっこれお姉さんだ何してんだこの人……
カメラの画角が変わって観客が映し出された時、最前列で暴れる酔っ払いが映り込んだ。
さっきからうるさい奴がいると思ったらお姉さんかよ。
「これFOLT?」
「多分」
ライブ映像をよく見てみると背景がよく見知ったものだった。
FOLTはお姉さんのホーム。人違いということもないだろう。
これは一言物申さなければならないらしい。とりあえず今日は飯抜きだな。
今日はなかなか突撃して来ないがまだ寝ているんだろうか。
初めから連れて行く気は毛頭なかったが、このまま放っておこう。
Starryの営業が終わるまで、オーチューブでダラダラ動画を見て暇を潰した。
オレが参考にしてる料理動画見たり、イライザさんが行きたいって言ってた釣り動画漁って予習したり。山田が見たがった演奏動画見たり。
行儀は悪いが飯を食いながら動画を見ていたら、集中している間に山田が勝手にオレの皿からたらこパスタをかっさらっていった。
お前せめて一口ちょうだいとか断りを入れてからにしろよ。
何故こうも簡単にデリカシーのない事ができるのか。
デリカシーって言葉、山田から一番遠い言葉でなんかウケるな。
◆
「「「お誕生日おめでとう」」」
全員の掛け声で、伊地知さんのバースデーパーティーが始まる。
テーブルにはピザやらフライドポテトやら。パーティーと言ったらなつまめるジャンクなフードが並ぶ。
「ほら、プレゼント」
店長から、包装無しの剥き出しで何かの瓶が手渡される。
ラベルに書いてある文字は英語で、何が入っているのかはさっぱりだ。
「ありがとー!でこれ何?」
「バスソルト。こういうの興味あったろ?」
「あるある!ありがとうお姉ちゃん」
「私にも使わせろよ」
「も〜お姉ちゃんが使いたかっただけじゃないよね?」
「違ぇーし」
店長さんに倣ってお店の人たちもプレゼントを渡し始めたので、オレも慌ててプレゼントを取り出す。
山田に聞いた店で山田に選んでもらったドラムスティックだ。
ライブハウスの従業員さんらが渡してるコスメやハンドクリームとかをみていると、本人にプレゼントを聞いてて良かったと思う。
そういう女子の使う物って何が何だか全然わからない。
「伊地知さんどうぞ」
「ありがとね〜次の演奏から早速使ってみるよ」
「いえいえ」
山田に選んでもらったとはいえ、全部山田任せなのもどうかと思い。
おしゃれな感じの店で買った紙袋に入れて、これまた良い感じの店で買ったリボンで2本のドラムスティックを縛ってまとめた。
「あれ?このリボン……」
「あぁ。一応それも買ってきた」
「ありがとう。大切にするね」
紙袋だけではそのまま買ってきた感があるため。
装飾も何か付けようと考え、伊地知さんといえばリボンと思い付いたのだ。
多分いつも制服にクソデカリボンを付けているからだと思う。
「リョウはプレゼントあんの?」
「そのスティックは私が選んだ」
「じゃあプレゼント代折半するか?」
「プレゼントって値段じゃなくて大切なのは気持ちですよね」
「それあげる側が言う台詞じゃなくない?」
手ぶらの山田は店長、オレ、伊地知さんから怒涛の3コンボを受けた。
「今年中には何とか」
「まあいつもの事だしね」
伊地知さんも慣れた様子でさらっと流した。
オレと楽器店回ってる間に何か買ってくれば良かったのに。
「伊地知さん」
「ん?」
「あ?」
「あ、妹さんの方です」
オレの呼びかけに伊地知姉妹2人が反応した。
しまった、そりゃあ姉妹なんだから両方伊地知さんだよな。
「ほら、紛らわしいから名前で呼びなよ〜」
またその話題か。
この前は上手く話を逸らせたのだが。
店長さんも店長さんでニヤニヤ楽しんでるしなんか逃げられそうにない。
「虹夏さん。……何か恐れ多い……」
「何でさ」
「さん付けするから変な感じするんだろ」
「そうだよ〜友達でしょ?」
伊地知さんを呼び捨てなんて絶対無理だ。
さん以外の呼び方といえば……
「虹夏様?」
「ふざけてるの?」
「虹夏ちゃん……」
「何で白目剥きながら呼ぶの?」
ちゅぞぞーとドリンクを吸う伊地知さん。
不機嫌なんだろうか。でもこれだけはどうしても無理だ。
「私もしおくんって呼ぶからさ」
「クラスメイトからしばかれるから……」
「そんな野蛮なクラスだっけ!?」
伊地知さんは3人で昼食食ってる時の視線に気づいていないんだろうか。
山田は気づいてなさそうだよな。コイツ鈍そうだし。
「じゃあ姉ちゃんは?星歌さん?」
「店長さんは店長さんですよね」
「まあ良いけどさ」
「じゃあ私は?」
「オメーは山田で充分だろ」
「ぐすん」
「嘘泣きやめろ」
こちとらお前がガチで怖がってるとこ知ってんだからな。
今更そんな赤点の嘘泣きで騙されると思うなよ。
若干八つ当たり気味に応えた。
「しおくんリョウの扱い方上手になったね〜」
「言うこと聞いてくれないから不便」
「結構聞いてるだろ」
こっちはもう飯作ってやらない事だってできるんだぞ。
あと月明けたら金払えよ。
この後もたわいのない四方山話をして時間は過ぎていった。
ケーキが出てからは山田がプレートを食べようとするのではがいじめにしたりと大変だったが。
大天使イジチエルは半分に割って食べさせていた。