ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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 山田リョウの憂鬱
第17話


 

 

 

「お前月明けてから早速か」

「お小遣いもらった」

 

ギターケースからいそいそとベースを取り出したと思ったら、何やら新しいベースを買ったらしい。初めて見るベースだ。

 

「良いやつ?」

「それなり」

 

ベースを壁に立てかけて、パシャリと一枚。

打ちっぱなしの壁を背景にベースを撮りたかったらしい。

写真を撮った山田は、ぽちぽちと携帯を弄っている。

 

「さっきから何やってんだ?」

「これ」

 

 

 

 

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世界のYAMADA

@Yamada_OfTheWorld

 

ざ・はむきたすでベースやってます。今はこのベースが相棒。

 

ty下北沢駅 東口付近

ohtube/01SHi5HAN9Dasa1...

2015年8月から利用しています

 

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 世界のYAMADA @Yamada_OfTheWorld・0分

 

 
 
  my new gear...

 

 

 

 

 

そこには、トゥイッターに今撮ったであろう写真と共にMy new gear…という一文があげられていた。

っていうかハンドルネームの癖えぐいな。ちわっす、世界のYAMADAさん。

 

「まいにゅー……何?」

「マイニューギアだよ」

「何だそれ?新しい国名か?」

「新しい機材買ったときにする儀式」

「ふぅん……ダサくね?」

「なんて事を」

 

肩に手をかけガクガクとゆすられる。

いつになく情熱的だな……

 

「わかったわかった、悪かったよ」

 

襟首を掴む山田の手をはたき落とす。

でもこれ典型的な一周まわって逆にダサいパターンだろ。

新しいベース買いました!みたいな飾らない方が良いんじゃね。

でも結構反応されてる。おぁ、フォロワーもすごい数だ。

こういうのに憧れる奴いっぱいいるんだな……

オレはあんまり健全ではない気がするんだが。

 

「今度新しいベースで路上ライブするけど来る?」

「路上?Starryでしないのか?」

「ノルマ代めんどくさいし」

「あんまり人気ないんだな……」

「人気あるもん」

 

珍しく不貞腐れてる。

まあ聞いてる限りかなり上手いから本当なのだろうが。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

漫画ならばーんと効果音が付きそうな格好で登場するお姉さん。

そりゃあ聞いてたでしょうよ。オレらが帰ってからすぐに部屋に入ってきましたもんね。

山田も山田で、トゥイッター弄ってたから無視していたし。

 

「ダメですよ、お姉さんは。ライブ邪魔するんですから」

「あ、あれは酔ってる時だけで……」

「酒飲んだら問答無用で置いて行くんで」

「おしおくんなんか最近厳しくないー!?」

「当たり前です、人のライブ邪魔して。許してくれるのお姉さんのファンだけなんですからね」

 

お姉さんが馬鹿な事して恥ずかしい思いをするのは保護者のオレなんですからね。

ちなみに保護者扱いはSICKHACK公認だったりする。

ライブ前の飲酒量の調整したり、打ち上げで潰れたお姉さんを介抱したり。

リハに間に合うようにライブの行き帰りに付き添ったりしていたらいつの間にかそうなっていた。

 

オレは好きでやっているのだが、あいつの相手してくれて助かるとか、いつも押し付けててごめんだとか。

何故か必要以上に感謝されている。お姉さんってそんなに嫌われてんの……?

 

 

 

後日。

3人で山田が路上ライブをすると言っていた下北沢駅へと向かう。

お姉さんの事は野次入れないようにしっかりと見張っておかないとな。

しかし山田のライブを見るのは初めてだ。

お姉さんもだが。

ソロ弾きでもかっこいいのに、音を合わせたらもっとカッコ良くなるのずるいよな。

 

駅前に着くと、山田は抜け出して少し開いたスペースで楽器を広げていた女の子たちへと駆け寄る。

 

「あ、きたきた」

「リョウいきなりすぎ」

「新しいベース試したくて」

 

あの2人が山田のバンドメンバーだろうか。

お姉さんのバンドと同じ3人か。少数精鋭だな。

まだ来てないメンバーがいるのかもしれないが。

 

ドラムの子がスネアの設置、ギターの子がアンプの確認をしている中。

山田は楽器の調整よりも先に早速投げ銭箱を準備し始めた。

がめついなこいつ……しょうがないから入れといてやるか。

 

「あ、ありがとうございまーす!」

「リョウのファンの人ですか?」

 

とりあえずの2人分として1000円札を一枚投げておいた。

まあこのくらい出せば山田も満足するだろ。

 

「あいや、ファンっていうか……」

「舎弟」

「てめー勝手なこと言うな」

 

何も考えてない思考0のボケをかます山田。

いつ誰がお前の舎弟になったんだよ。

 

「おしおくんは私と半同棲してるんだ」

「変な言い方しないでくれます?」

「あっ、そうですか……それでは私たちギターの調整がありますので……」

 

滅茶苦茶引かれたんだが。やばい人の連れとか思われてないよな?

説明しようにも、話しかけないでオーラがすごい。

遣る瀬無くなって、諸悪の権化であるお姉さんを半顔で睨む。

どうか山田がバンド内で変な目で見られませんように……

 

「ややこしくなるんでお姉さんは黙っててくださいよ……」

「折角助けてあげようと思ったのにー」

 

ぶーぶーと文句を垂れるお姉さん。

連れて来るんじゃなかった……

野次を入れなくても迷惑な人だ。

 

 

 

~♪~

 

 

 

山田のバンドのメンバーとは露骨に視線が合わなかったが、まあ。別に音楽が聴ければそれで良いしな……

路上ライブは、演奏中の投げ銭に山田が演奏を中断するというアクシデントはあったが。

何の妨害もなく拍手で幕を閉じた。

 

山田らのバンドは、2曲のオリジナル曲と、1曲の新曲を披露した。

オレにとっては3曲とも初めて聞いた曲だったが。

最終的にはそれなりの人数が立ち止まって聞いていた。

中には投げ銭だけでなく物販で出していた自作CDを買っていく子もいたくらいだ。

やっぱり山田のバンドってばかなり上手いんだな。

 

お姉さんも師匠面しながらその様子を見ていた。

気づいたら、お姉さんは他のお客さんに紛れて、ポケットからクシャクシャになった1000円札を取り出し投げ銭箱に入れていた。

お姉さん的にも、この路上ライブはそれだけの価値があったのだろう。

お姉さんも出すなら、じゃあ500円にしとけばよかったな……とか思ってはいない。

 

「おしおくん。今ので私の所持金52円になっちゃった」

 

……こういう所がなければかっこいいのだが。

次のライブまで頑張って生き延びてください。

 

「どうだった?」

「かなり良いじゃん。見直したよ」

「……」

「どうしたんだよ?」

 

設営していた物品を片付けて。ギターケースを背負って戻ってきた山田。

彼女は大成功の路上ライブには似つかわしくない、浮かない顔をしていた。

 

「メンバーから何か言われたか?」

「いや……」

 

まさかお姉さんが適当なことを言ったせいでバンドに不和が生じたのかと不安になる。

お姉さん、悪ふざけにも程がありますからね。

 

「ごめん。今日は帰る」

「あ、おい、山田。帰るなら送ってくぞ」

「ちょっと1人で考えたい」

「……そか」

 

オレとお姉さんは顔を見合わせる。

楽しかった路上ライブ。しかし山田は何やら納得いっていない様子。

こんな山田は初めてだ。1人にしてやるのも優しさか。

オレたちは山田の背中を見送った。

 

「あの!」

「うお」

 

突然後ろから声をかけられ振り向くと。

そこにはさっき物販のCDを買ってた子がいた。

 

「初めまして、私喜多って言います」

「ああ、これはどうもご丁寧に……オレは佐藤です」

 

赤髪のサイドテールの女の子……喜多さんは深々とお辞儀をしたかと思えば、がばっと顔を上げてオレの肩に掴みかかる。

な、何だ!?

 

「あなた、リョウさんの何なんですか?」

 

一日に同じような質問を二度されるとは思っていなかった。

オレは咄嗟にお姉さんの口を塞ぐ。また変な事を言い出されてはたまらない。

 

「えっと。クラスメイトだよ」

「彼氏……とかじゃないんですか?」

「彼氏ではないよ、うん。ただの友達」

「そうですか〜」

 

見た目からは想像つかなかったが、山田の厄介ファンの人か……

こういう女子、下高にも何人かいるんだよな。

山田はその雰囲気から取っ付きにくいのか、そんな女子たちも1歩下がって眺めているだけなのだが。

 

「喜多さんはいつからファンになったんですか?」

「今日からです!」

「今日から!?」

 

滅茶苦茶行動力あるなこの人。

初日のファンが取る行動じゃないだろ。

 

「リョウさん、すごくかっこいいですよね……ちょっと浮世離れしてて、ユニセックスな見た目で、ギターが様になってて……これって一目惚れですよね!」

「あれベースだけどね」

 

オレも人の事言えるほど詳しくは無いが。

この子バンドの事全く知らないんじゃないか?

話聞いてる限り、曲の事1つも言わないし。ただの面食い?

 

「あ、そうだ。ライブとかの告知、トゥイッターでしてるみたいだからフォローしてやってくれ」

「あ、はい!是非教えてください!」

 

初対面からグイグイと来る喜多さんに世界のYAMADAのIDを教えてやる。

勝手に教えてしまったが大丈夫だろうか。

まあフォロワー多かったし1人増えても変わらんだろ……

 

「佐藤さんも良ければLOIN交換しませんか?」

「えっ?何故オレと……」

「リョウさんの話聞かせてください!」

「えぇ……」

 

初日からこの行動力とは恐れ入る。

既に厄介ファンの片鱗を見せつけているじゃないか。

 

結局彼女のアピールに押しに押されて、もう早く解放して欲しかったのでIDだけ教えて撤退した。

お姉さんは滅茶苦茶不機嫌になっていた。ずっと口塞いでてすみません……

もしかして、これを宥めるのもオレの仕事なのだろうか。なんて厄日なんだ……

 

 

 




トゥイッターの特殊タグの呪文は こちらからお借りしました。
呪文知りたい方は誤字報告からコピペできます。

虹夏には彼氏がい───

  • ない
  • 俺が伊地知虹夏だ
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