うぜぇ……
喜多さんから来る怒涛のLOINの通知にうんざりする。
IDを教えてしまったが最後、永遠に山田のことを聞かれるんだが。
あまり得意なタイプじゃないなとは思っていたがまさかこんな事になるとは。
今更後悔しても後の祭りか。
あまり詳しいことは言えないからトゥイッターで本人から聞いてくれ……って、送る前に返信きた。
いつの間に既読付いたんだ。この子スマホに張り付いてんのか?
一言返してやるとこれだ。
未読状態で何時間も放置していたのに全く諦める気配がない。執念が怖いわ。
オレは打ち込んでいた文を送って通知を切る。
打ち込んだ直後に既読が……張り付いてやがったな。もう返信しないぞ。
一方その頃山田はといえば。あの日からたまにアンニュイな表情を浮かべるようになった。
そんな顔も絵になるのが山田のいい所というかずるい所というか。
今日もまた何か神妙そうな顔をしている。
「だーやま。今日も飯食いに来るよな?」
「ん」
「何食べたい?」
「何でもいい」
「……」
山田が飯の事に興味を示さないなんて驚きだ。
それでも、いらないではなく何でもいいと言うあたり、飯を食いにオレの家に来るその根性を誉めるべきか。
路上ライブの日を見ていなければ、何か変なものを食ったのかと心配していたところだ。
その路上ライブだって、何が気に入らなかったのかもわからないのだが。
「何かあったのか?」
「別に」
「路上ライブ、本当は上手くいってなかったのか?」
「違う」
「じゃあどうしたんだよ」
「何でもない」
隣に座り、話を聞いてみるが。山田はふいと顔を背ける。
何だよ。そんなに言えない事なのか?
言いたくない事なら、無理に聞き出すこともないか。
そんないつになくダウナーな山田を見て、伊地知さんがちょいちょいと手招きをしている。
オレは山田を席に1人残して伊地知さんの下へと向かう。
「しおくんしおくん。リョウどうしちゃったの?」
「さあ……この前路上ライブやった時から何か変なんだよな」
気怠げにスマホをぽちぽちする山田を遠目にコソコソと話し合う。
この間から呼び方が変わって、何だか背中がゾワゾワする。
「大失敗しちゃったとか?」
「いや」
ライブは成功していたし、お金もそれなりにもらっていた。新しくファンもできた程だ。
……まあ、そのファンは音楽というよりも顔に惹かれているようだが。
「雰囲気もいい感じで、演奏も綺麗で。立ち止まってくれる人とかも結構いて。オレもなかなか良かったと思う。お姉さん……えっと。バンドやってる知り合いの人も満足してる感じだったし。間違いなく成功してた、はずなんだけど」
「う〜ん」
2人して頭を悩ませる。
山田の不調は間違いなく路上ライブの時から始まっていた。
しかしその路上ライブは成功している。どんなナゾナゾだよ。
そもそも山田の考えを見抜くとか無理ゲーだろ。
「山田に何があったか聞いてみてくれないか?伊地知さんになら何か答えてくれるかもしれないし」
「いや〜、リョウってああ見えて見栄っ張りだから。私にも弱い所見せたがらないんだよね」
それで1人で悩んでるのも馬鹿だよな。
無愛想で無遠慮で、不器用なところもあるのかよ。
つくづく否定形の言葉が似合う奴だな。
「じゃあ山田が相談して来るまで待つのか?」
「う〜ん、でもこのままだと困るよね」
いつも能天気な山田が落ち込んでいるとこっちまで調子が狂う。
仕方ない。月も変わった事だし、少し奮発してやりますか。
「よし。じゃあ今日はアレ作って元気付けてやるか」
「アレって?」
「唐揚げだよ」
◆
今回の唐揚げは胸肉を使う。
胸肉はもも肉と比べて少しだけヘルシーであり、何と言っても安い。
その代わりに少し淡白でパサつく事もあるのだが、今回は唐揚げにするなら問題ない。
醤油、料理酒、砂糖、塩、味の素を適量混ぜ込む。
下味はそこそこ適当にしても何とかなる。
もし味が濃くなってしまっても米と食べれば良いのだ。
肉をお好みのサイズにカットして、タレに漬け込む。
時間が無ければすぐに揚げても良いのだが、30分くらい放置しておけば味が染み込む。
「そして、それを朝から漬けておいたものがこちらになります」
「3分でわかる料理番組のやつ!」
そう。
言うまでもなく今晩は揚げ物をするつもりでいたのだ。
朝から古い油を処理して、キンチンペーパーで掃除して。
既に新しい油の準備をしていた。月初めだからな。豪勢にいこう。
「っていうか何で伊地知さんまで?」
「リョウが気になって……」
台所で冷蔵庫に入れたいた胸肉を取り出すオレ。
その隣には、助手よろしく伊地知さんが立っていた。
勿論、いつも通り奥ではベッドでだらける山田もいる。
「それでは油を入れて熱します」
「料理番組のノリ続けるの?」
もうやめます。
フライヤーにしている小さな鍋に、油をとぷとぷと注ぐ。
大体半分くらい注いでから、強火で油を温める。
基本家庭では少なめの油で揚げ焼きするのが多いが。
居酒屋でやっているように豪快に揚げるのが好きだ。
「たくさん使うね」
「男飯ですから」
油が整うまで、唐揚げの準備だ。
朝からタレに浸かっていた胸肉に片栗粉をまぶして真っ白にする。
こうする事で表面の衣がガリガリとする良い食感になる。
この時ダマができても大丈夫。むしろ良い食感になるくらいだ。
苦手な場合は手で混ぜて潰してやればいい。
本当はタレごと片栗粉を混ぜ合わせたほうがお店の唐揚げの衣っぽくなるのだが。
そうすると手とか容器が滅茶苦茶汚れるから面倒なのだ。
「それにしてもたくさん作ったね」
「今日たくさん作って、お弁当とかにも使いたいしな。まあ、今日1日で全部なくなるかもしれないけど」
「いやあ、それはさすがにないんじゃないかな」
「そうだと良いんだが」
伊地知さんにも手伝ってもらい、2人で粉をまぶしていく。
揚げ物の日を見越して買い込んでおいた胸肉は3パック。
一度に下処理すると結構な量だが、果たして。
衣ができたら、次はいよいよ熱した油で揚げる。
油の取り扱いは危険だから、初めて使う時は料理できる奴に注意点を教わりながら使うのをオススメする。
油はその性質を知らなければいざという時に火事になりかねないからな。
もし火がついたら、蓋をして火を止める。無理なら濡れタオルを被せて鎮火させる。
一番してはいけないのは水をかけること。油に水を欠けると燃え広がるし、最悪爆発する。
これはバ先で初めに聞かされたので覚えている。まずは消化器を持って来いとのことだが。
油の中に菜箸を差し入れて油の温度を確認する。
箸から気泡が出て来るようなら頃合いだ。
怖いからといって投げ込んだら熱い油が飛び散って危険だ。
油から低い位置までしっかりと持ち、入れる時もゆっくり沈み込ませる。
揚げる時間は肉のカットサイズによって変わってくる。
このサイズなら4・5分といったところか。
バ先の店では2度揚げをしているのだが。まあそこまでする事もないだろう。
じゅわーと揚げ物の良い音と共に、香ばしい匂いが立ち込める。
良い匂いだが、部屋や服に唐揚げ臭が付くのも嫌なため換気扇を付ける。
「良い匂い……お腹空いちゃうな」
「伊地知さんもどうぞ」
「じゃあ、小さいの一個だけ……」
「遠慮せずに食べて行きなよ」
「う〜ん。最近、ちょっと太っちゃったし……」
えっ、どこが?
はにかむ伊地知さんの体はいつも通りスレンダーだ。
オレは伊地知さんを頭から足の先までじっくりと見下ろす。
「あんまり見ないでよ……」
いや、そんなやらしい目で見てたつもりはないんだが……
伊地知さん滅茶苦茶痩せ型だし。
「全然太ってない、というかむしろ痩せすぎじゃない?」
「もう。そこはもうすぐ夏だから少しでも痩せて見せたい乙女心だよ」
「それは失礼致しました」
何だその可愛い理由は。
これ以上男子を勘違いさせてどうするつもりだ?
「ところで、伊地知さんには見せたいお相手が?」
「いるように見えるかな?」
「す、すみません……」
伊地知さんモテそうだし、事実オレが知る限りでも何度か告白されてるはずなんだが。
なぜこんなに威圧されるんだ……
虹夏には彼氏がい───
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る
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ない
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俺が伊地知虹夏だ