ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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第2話

 

 

 

「本当にクラスメイトだったんだ」

「は?」

 

翌日。

登校早々、山田が話しかけてきた。なんかまた失礼なこと言ってるんだが。

 

「ナンパの常套句かと思った」

「そんなナンパ聞いたことねぇよ」

 

名前はともかく顔くらいは普通覚えてるもんじゃないのか。

もし引っかかるとしても他人に興味がないお前くらいなもんだろ。

 

「伊藤。またご飯作って」

「佐藤な。佐藤俊雄」

「さとうとしお……?ぷぷ。傑作」

「駄洒落じゃねえよ」

 

人の名前で笑うとは何とも失礼な奴だ。

まあ、普段無表情な山田のレアな姿が見られただけ良しとするか……

 

「あんま下の名前好きじゃないんだよな」

「駄洒落だから?」

「いや……」

 

別に名前に関しては本当に気にしてはいないのだが。

こう何度もいじられると少しイラッとくるな。もうちょっと気を遣え。

 

「なんか古臭い感じあるだろ?最近のブームに乗り遅れてるっていうか」

「ふーん……じゃあ、しおで」

「呼びにくくないか?」

「よろしく、塩」

「お前絶対名前で遊んでるだろ」

 

ニヤニヤ顔が腹立たしい。マイペースにも程がある。

山田と話しているとペースを握られがち。他人に振り回されるのは御免だ。

砂糖、塩……と何やら妙なことを考えていそうだ。

オレは話を強制的に変えるべく昨日から考えていた話を切り出した。

 

「そうだ。今日買い出しに付き合ってくれるならまた飯作ってやるよ」

「付き合う」

 

ずいっと体を乗り出して目を輝かせる山田。一瞬どきりとした。

“買い物に“付き合うな。妙な言い方をしないでくれ。

 

「何作るの?」

「お前のせいで昨日からもうカレーの口だ」

「カレー……」

 

うっとりと頬に手を当て、ほうとため息をつく。

好きなのはわかったが、ちょっと反応が大袈裟じゃないか。

カレーなんてどこにでもあるだろう。

 

「その代わりお前荷物持ちな」

「か弱い女の子に荷物を持たせるなんて」

「じゃあカレーなし」

「そんな殺生な」

 

カレーを人質に取ると、山田は渋々といった様子で了承した。

とはいえ、勿論山田1人に持たせるわけではない。さすがのオレもそこまで鬼ではない。

どうせなら人出がある時に大量に買い置きをしておきたい。

 

ふと、教室が俄に騒がしくなる。

ちらりと視線を向けると、伊地知さんが教室に入ってきていた。

伊地知さんとは、山田の唯一と言っていい友人。

よく休憩時間なんかに2人で話しているのを見かける。

 

「おっはよー!珍しい組み合わせだね」

 

友人と朝の挨拶を交わしていた彼女は、オレと山田が話しているのを見て話しかけてきた。

 

「虹夏」

「おはよう、伊地知さん」

 

かっこいい系の美少女である山田は女子人気が高いイケメン女子。

逆に可愛い系の美少女な伊地知さんは男子人気が高い正統派美少女だ。

顔だけでなく性格も良い伊地知さんは友人も多くカースト上位。

オレのような陰キャにも優しく挨拶をしてくれる、そんな女の子だ。

 

別名勘違い男子量産マシーンとも。

現在では、だらしない山田のお世話係というまま属性も追加されているが。

 

「リョウに私以外の友達がいるなんて知らなかったな」

「昨日ご飯作ってくれた」

「え゛」

 

伊地知さんは、またこの子は。みたいな目を向けていた。

山田の生態が何となく理解できてきたオレにとってはとても共感できる。

 

「ったく。最近お金なくてしばらく食べてないって言うからお弁当作ってあげてるのに」

 

伊地知さんはものぐさな山田の代わりに教科書や筆記用具の準備をしてやったりと何かと献身的だ。

それに加えて、弁当まで作っているとは。全く羨ましい。山田は幸せ者だ。

……って、弁当?

 

「おい、待てどう言うことだ」

「記憶にございません」

「てめぇ!」

「え、なになに?」

 

山田を問い詰めると、行き倒れていたのは雑草食って腹を下していただけと言うことが判明した。

空腹だったのは一応本当とのこと。

 

「ごめんね〜佐藤くん。リョウが迷惑かけたみたいで」

 

保護者か。優しい。

 

「虹夏に免じて許して」

「舐めんな」

 

それに比べて山田ときたら。

 

「それより辛口は食べられないから中辛か甘口がいい」

「この流れでたかりにくるなよ」

「何の話?」

「しおが今日カレー作ってくれるって」

 

よくもまあ堂々と言えるものだ。

買い出しにも行きたいから別に組んだ予定は今更変えないけどさ。

 

「佐藤くん料理できるんだ」

「簡単なものだけな」

「うちでは私も料理作ってるんだ。佐藤くんがどんなの作るか興味あるかも」

 

伊地知さんは料理も作るのか。女子力高めだ。

山田にも少しくらい伊地知さんの女子力を見習って欲しい。

 

「じゃあ虹夏も来る?」

「え、いいのかな?」

「自分の家みたいな感覚で呼ぶなよ」

 

まずは家主の確認から先に取らないか、普通。

なんでオッケー出す前提で話を進めるんだよ。

 

確かに、伊地知さんのお願いであればどんなことでも聞いてあげたいが。

彼女をオレの家に呼ぶのは申し訳ない。

 

「社交辞令で流されて気まずくなるんだから」

「そんなことないよ〜食べてみたいな、佐藤くんの料理」

 

気を遣われてしまった。

だが無遠慮の擬人化である山田はともかく、伊地知さんのような可愛い女の子を家に呼ぶのも問題だ。

 

「山田からも言ってやってくれ」

「しお、断るなんてひどい」

「やかましいわ」

 

そうだった。誘ったのはコイツだった。

このままだとオレが意地悪をしているようではないか。

伊地知さんが嫌なわけではないと早く弁解しなくては。

 

「いや、そうじゃなくて。オレの部屋一人暮らし用で結構狭いからさ。3人とか入るともう鮨詰めなのよ」

 

な、山田。と視線を向ける。

 

「まるで監獄」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

人の家になんてこと言うんだ。

確かに、狭くて打ちっぱなしのコンクリート剥き出しで、窓開けたら落下防止用の格子がついていてちょっとボロいが。

ただの監獄じゃねえか。

 

「でもお洒落。打ちっぱなし剥き出しでかなりロック」

「言いようによってはな」

「へー、うちみたいだね」

「伊地知さんも打ちっぱなしに住んでるのか?」

「ああ、うちライブハウスやってるんだ。Starryって言うんだけど」

「へぇ〜。RC建築って防音性高いらしいね」

 

休憩中の会話で伊地知さんがバンドを組んでいる事は知っていたが。

家でライブハウスを経営しているとは初めて知ったな。

いや、盗み聞きをしていたわけじゃなくてだな。カースト上位グループの会話は声がでかいから嫌でも耳に入って来るんだ。

 

「でも内見の時に聞いたけど夏は暑いし冬は寒いらしいって聞いたぞ」

「あー、どうだろ。ライブハウスは経費でエアコンガンガンかけてるけど。佐藤くんは大丈夫なの?」

「高校入ってから借りてるからな。まだわからん。耐えられなかったら引っ越す」

「ロックだね」

「ロックだね〜」

「どの辺が?」

 

一応、ベースの練習をしてみていたりするのだが。

オレがロックを理解するにはまだ未熟らしい。

 

「おーい、ホームルーム始めるぞ〜」

「やば。2人ともまたね!」

「じゃあまた放課後に」

 

思った以上に時間が経っていたのか、担任が教室に入ってきた。

2人は慌てて席に着く。そのままホームルームが始まるが。

 

「……え?結局来るの?」

 

何だか流された気がする。

個人的には伊地知さんが家に来るのは大歓迎なのだが。

部屋に呼ぶのも料理を振る舞うのも、申し訳ない気がするのだった。

 

 

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