ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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 新宿 FOLT
第20話


 

 

 

そして遂にSICK HACKのライブの日。

 

あれから山田はいつも通りうちに飯を食いにきていて。

変に落ち込んでいるなんてこともなく。持ち直したように見える。

今日もライブ前にうちで集まり、少し早めの晩飯を食べていた。

これから3人で、FOLTまで向かう。

 

「今日は学ばせてもらいます」

「ははは。よきにはからえ」

「酔いすぎだろ」

 

山田の舎弟ムーブもこれはこれで面白い。

お姉さんもお酒とおだてで気が大きくなってるな。わけわかんないし。

 

ライブの日は、オレの部屋でもお酒を装備する事を許している。

でなければリハからトップスピードで飛ばせないのだ。

 

今回のおにころは一升瓶。ライブ中紙パックだと格好つかない。

それにパフォーマンスでよく口に入れた酒噴き出すし。

紙だと何個あっても足りない。

 

「チケット良し、ベース良し、おにころ良し、差し入れよし。さて行きますよ」

「ちょっと待って、もう一口だけ……」

「電車で吐かないでくださいよ?」

「よゆーよゆー」

 

お姉さんは本日2本目のおにころを豪快にラッパ飲みする。

お姉さんはオレが許すからと調子に乗って既に一瓶空にしていた。

一気飲みしやしないかと見張ってはいるが、今のところは大丈夫そうだ。

 

「じゃあ、2人とも新宿にレッツゴー!」

「お姉さん、そっち玄関じゃなくて風呂です」

 

……大丈夫か?

 

 

 

◆

 

 

 

新宿FOLT。

お姉さんらSICKHACKがホームにしているライブハウス。

アングラな感じは同じだが。アメリカンな装飾で、別エリアにはバースペースや休憩エリアがあったりとStarryとは全く違った雰囲気を醸し出している。

 

受付の個室はまるで映画で見るような海外の地下鉄だ。

流石にまだお客さんは入らないので受付に入っている人はいなかった。

オレと山田のチケットを2枚を置いてステージへと近寄る。

 

「佐藤くん。今日も廣井連れてきてくれてありがとうね。あれ、その子は?」

「ああ、一応友達……です。お姉さん達のファンらしくて」

「へぇ、そうなんだ。いつも応援ありがとね」

 

早速オレたちに気がついて話しかけてくれた志麻さんに、雑に山田を紹介する。

落ち着いたところとか、ボブなところとか。なんと言っても音楽に真摯な所とか。ちょっと似てるかもな。

彼女は廣井おねえさんと組んでるのが信じられないくらいの常識人だ。

いや、むしろ常識人でなければお姉さんを制御できないのか……

そこに関しては山田とは真反対だな。

 

「ドラムテク最高です。今日も変拍子のドラム捌き期待してます」

「ありがとう。なんか照れ臭いね」

 

なんかいい感じで会話盛り上がってんな。

オレお部屋でお姉さんと会った初期の頃の山田みたいでなんか面白い。

今はもうベストフレンドだもんな。ベーシストとしての尊敬は溢れ出てるけど。

 

「Hi!トシオー!また来てくれたんですネー!」

 

山田の熱いバンドトークに疎外感を感じていると、イライザさんが近寄ってきて撫でくり回される。

未だに美人なお姉様から外国風のスキンシップにはドギマギしてしまう。

……まあ。悪い気はしないのだが。

 

「ちょっと〜!しおくんは私のだぞ〜!」

「違いますけど……」

 

既におにころがキマっているお姉さんは絶好調だ。

まあこのくらいバカしてる方がお姉さんらしいな。

それはそれとして、はっきり否定はしておく。

 

「むー。少しくらい良いよネ?ライブ始まったら喋れないんだから」

 

イライザさんは、この陽気な性格がライブのイメージと合わないからとおしゃべり禁止令が出ているのだ。

かわいそうだけど、イライザさん喋り出したら止まらないしな。

それはそれで別の層からファンが増えそうだけど。

 

「仕方ない。わたしが許可を出そう!」

「やめてくれ……」

 

お姉さんから、イライザさんとは反対側から撫でくりまわされる。

この人もこの人でスキンシップ激しいな。

イライザさんと廣井お姉さんに挟まれて大変なことになってしまっている。

志麻さん助けて……って。まだ山田となんか話してるな。

 

「姐さん。今日は対バンよろしくお願いします」

 

そんな中助けを出してくれたのは、茶髪をツインテールにした吊り目の女の子だった。

なんかく(・)ま(・)すごいけど大丈夫そ?

 

「あ、紹介するね。うちの、後輩バンド?になるのかな?のシデロスの皆さんでーす」

 

この人見たことあるなと思ったら、思い出した。

前に山田と一緒にテレビで見た動画の、お姉さんが演奏妨害してたバンドの人達だ。

リーダーの子に見覚えがある。何故か演奏中ずっと半目だったからよく覚えている。

 

それにしても、動画のタイトルにあったSIDEROSってサイドロスじゃなくてシデロスって読むのか……

 

「姐さん、誰ですかこの人達」

「最近話してるしおくんとその友達だよ〜。今日は私がライブに誘ったんだ」

「なるほどね……アンタが姐さんを誑かしてるっていうシオとかいう男ね」

「君は大いに誤解をしている。一旦話し合おう」

 

オレの知らないところで変な浮き名が流れてるんだが。

なんとなくわかる。お姉さんが変な説明してるんだろ。

勘弁してくれ、マジで。

 

「今までずっと、お金借りてくれたり奢らせてくれたり家のシャワー借りてくれたり、仲良くしてくれてたのに!」

「あっ君もちょっと一癖ある子なんだ」

「は?」

 

バンドやってるとイロモノになりやすいのか。

オレの心のオアシスは伊地知さんとイライザさんだけだよ……

志麻さん?ああ。あの人は廣井お姉さんと関わらせさえしなければいい人なんだけど。

お姉さんの蛮行が志麻さんのキャパを超えると……いや、ここではよしておこう。

 

「ねえねえ、もしかして、割引シールの人ですかぁ?」

 

SIDEROSのリーダーさんが率いているメンバーの中に、見知った女の子がいた。

ゴスロリフリルの、地雷系のようなファッションの女の子。

 

「そういう君は……爆買いゴスロリの人!」

 

まさかの邂逅に驚きを隠せない。

まさかこんな場所で会うことになるとは。世の中狭いもんだな。

 

「え、なになに?どういう事〜?」

「誰よ?幽々の知り合い?」

 

お姉さんと茶髪ちゃんが聞いてくる。

なんと説明したものか……

 

「割引目当てで、よく夕方にスーパーへ買い物に行くんですけど。そこでよく出会うんです」

「話したことはないけどぉ〜幽々と同じで、割引の時間まで粘ってる人がいるなって気になってたんですぅ〜」

 

その名も知らない割引きの同志は、甘ったるい口調で話し始めた。

キャラ作り徹底してるな。

 

「兄弟たくさんで貧乏だから安い食材買わないと回らなくてぇ〜」

「うちは一人暮らしで仕送りとバイトで生活のやりくりしてるから食費をできるだけ切り詰めてるんだ」

「大変ですね〜〜〜」

「お互いにな」

 

この語尾ゆるゆるのゴスロリちゃんも色々苦労してるんだな。

人は見かけによらないというか、なんというか。

 

「でも、動画にはいなかったような?」

 

いたら流石に印象に残ってるはずだ。

バンドメンバーの中に、スーパーにゴスロリで来る浮きまくってる女の子がいたら流石に気がつく。

 

「最近メンバーの総入れ替えがあって」

「やっとパートが揃って、新生シデロスは今日が初ライブよ」

「なるほど。じゃあ期待して見てるよ」

「ふん。好きにしたら?」

 

物凄くツンツンした子だな。

まさかまだお姉さんとの仲を勘違いしてるわけじゃないだろうな……

 

「その話はまた後で。そろそろリハーサル始めるわよ」

 

目つきの悪いイケメンが女言葉で話しかけてくる。

この人はここ、FOLTの店長の吉田銀次郎さん。

例の如く癖は強いが、滅茶苦茶お茶目で優しい人だ。

オレがお姉さんを連れてきていると、あの廣井を飼い慣らした男だと一目置いているらしい。何故だ。

ちなみに、妻子持ちだとか持っていないとか。

 

「はーい」

「行くわよ」

「じゃあまた後で」

「また一緒にメイドカフェ行きまショウネ!」

 

SIDEROSとSICKHACKのメンバー達は楽器の準備を始めにステージへと向かう。

お姉さんのライブだけが目的だったのだが。楽しみが2倍になったな。

オレは手を振ってくれるイライザさんに手を振替して見送る。

 

「大槻ちゃん、人付き合いが苦手でね。バンドのメンバーもそれが原因で離れてっちゃったの。でも根は悪い子じゃないんだ。あんまり友達いないみたいだから、よければ2人とも仲良くしてあげてね」

 

そんな中、お姉さんは1人残って、オレと山田にそんな事を伝えてきた。

お姉さんが年上みたいな事言ってる、珍しい……

お姉さんが去って2人きりになったところで、山田が一言。

 

「メイドカフェって?」

 

そっちに食いついてくんなよ。話の流れ的にさ。

 

「イライザさんは可愛い女の子大好きなんだよ。特にメイドとかドストライクで」

 

イライザさんは同じ美少女好きな同志に布教したかったのか。

奢るからってんでメイドカフェだかコンカフェだかに連れ回された事がある。

だが、気恥ずかしくてオレには無理だ。申し訳ないけどもう行かない。絶対だ。

 

 

 




6巻最高!シラフお姉さん可愛すぎて死ぬ。
リーフレットどっちも欲しすぎて2冊買いました。
さらっと重要情報書かれてて大満足です。

久しぶりの投稿なのに新刊で新しく出た情報詰め込みすぎて説明回みたいになってごめんなさい。
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