ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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第22話

 

 

 

「みんなー!ありがとうー!カスども最高ー!」

 

「廣井ー!もっと暴れろー!」

「志麻様ー!こっち向いてー!」

「イライザー!俺だー!結婚してくれー!」

 

観客からの、野次にも似た声援が飛ぶ。

新宿FOLTのライブは最高のテンションのまま幕を閉じた。

今日のライブも凄かった。……色んな意味で。

 

お姉さんはいつも通り、ガスを飛ばしたりステージからダイブしたりマイクスタンドを振り回した挙句へし折ったりと散々暴れ回っていた。

だが勿論、ファンサだけしていた訳ではない。

妙に耳に残る、中毒性のあるフレーズを連続して使ったり。あえて曲調を外していたり、不協和音を奏でたり。

そんな独特なサイケデリックの演奏で観客を魅了した。

 

会場のボルテージが最大まで上がりきったところで、バンドの交代。

完全アウェイな空気感の中、新生SIDEROSが登場する。

 

SICKHACKがはけて、盛り下がったのは一瞬。

ガールズバンドらしからぬ力強い演奏と歌声でお姉さんたちが酔わせた観客を一気に惹き込ませた。

耳が壊れるような大音響を轟かせる楽器を飼い慣らし、その己の我儘な歌声1つで世界を作り出すのだ。

一音一音で聞けばただの騒音。それを纏め上げて音楽にさせたのは間違いなく大槻ヨヨコという人間の力だった。

 

ただただ圧倒された。

侮っていたつもりはなかったのだが、同じくらいの歳だからと無意識に低くみていたのかもしれない。

まるで一つの生物が絶叫するかのような旋律は聴くもの全てを魅了した。

オレも例外ではなく、ステージ上の大槻ヨヨコに釘付けになっていた。

 

そんなSIDEROSを、もう一度交代して前座にしてしまったSICKHACKはさすがだったが。

SIDEROSが作り上げていたメタルの空気感をぶち壊し、サイケデリックの空気に染め上げ直した。

 

SICKHACKとSIDEROSのツーマンライブ。

このライブは新生SIDEROSのお披露目ライブであり、お姉さんなりの応援だったのではないだろうか。

お姉さんに紹介にあずかったSIDEROSのライブは成功して派手なデビューができた。

しかし、実力が足りていなければアウェイの中で最悪な一歩目となっていたはず。

お姉さんは信頼していたのか。

SIDEROSが。いや、大槻ヨヨコが、そんな空気を覆すくらいのパフォーマンスができるって事を。

でなければ、目をかけている後輩バンドをこんな崖に我が子を突き落とすような目には合わせないだろう。

 

そして好き放題声が飛び交いながら大盛況で幕を閉じたのが今のこと。

物販も売れまくって、マイクスタンドの弁償代も余裕で回収できそうだ。

 

「さ、行くぞ」

「もう帰るの?」

「いや。楽屋に行くんだよ」

 

人混みの中から山田を見つけ出し、勝手にどっかに行かないように確保する。

放置していると迷子になった挙句勝手にいなくなったとか言い出しそうだ。

 

「アンタは……姐さんに纏わり付く悪い虫」

「まだその勘違い続いてたのかよ」

「何しに来たのよ」

 

観客がはけた後。演奏の終わったSIDEROSのメンバーたちは裏の楽屋にいた。

オレたちはお姉さんに招待されているのだから、挨拶も無しでそのまま帰るのは逆に失礼だ。

それになんと言っても、銀ちゃんさんがオレとお姉さんをセットとして扱っているからな。

いつからか、問題児のお姉さんをライブハウスから連れて帰る責任を負わされていた。なぜだ……

 

「すいません。ウチのリーダーがツンデレで」

「誰がツンデレよ、誰が!」

 

この娘、前回のメンバーは不仲で全員クビにした暴君って話だったけど。

まだ初めてのライブが終わったばっかりなのに結構仲良さそうだな。

 

「長谷川あくびっす。ヨヨコ先輩のバンドでドラムしてます。こっちはメンバーのふーちゃん」

「本城楓子です〜お菓子作りが趣味です〜」

「あ、幽々わ〜幽々っていいますぅ〜」

 

黒マスクのパンクファッションガール。年中ゴスロリの巷で話題の割引爆買い娘。

そして1人だけ世界観が違うゆるふわ清楚ちゃん。

全員振り切ってるな……

 

「オレは佐藤俊雄。楽器は弾けないけど名前の通り料理が趣味。こっちはマブの山田」

「山田リョウ。趣味はその料理を食べること」

「バンド繋がりなんだからバンドの趣味にしろよ」

「そうか」

 

さっきまでライブで大盛り上がりしてた山田はどこに行ったんだ。

もう既にスンってなってるじゃないか。

 

「いやー疲れたー」

 

そんな中、楽屋の扉からお姉さんが現れた。満足気な様子で、タオルで顔を拭っている。

汗もすごいし、激しい動きだったのだろう、服と髪も乱れている。

 

「姐さん、お疲れ様です!」

「ありがと〜!大槻ちゃんも良かったよ〜!」

 

お姉さんの登場に気がついた大槻ヨヨコはお姉さんにスススっと近付いて挨拶していた。

この太鼓持ちな感じ、お姉さんと会った頃の初期山田みたいだなあ。

しかしお姉さんは話を切り上げてこちらへと話しかけてきた。

お姉さんそんな適当に扱わないであげてください……

後ろでヨヨヨちゃんがじっとりした目線で見て来てます……

 

「リョウちゃ〜ん今日のライブどうだったー?」

「最高です。狙ってくれてありがとうございました」

「あははお酒で顔ベタベタじゃーん顔洗ってきなよ」

「もう一生顔洗いません」

「いいから早く洗って来い!」

「わあー」

 

あーもう、手のかかる。

有名人と握手した後のベタ台詞みたいなこと言ってんじゃねえよ。

山田の背を押して、無理矢理お手洗いに行かせる。

 

「あははリョウちゃん面白いね〜」

「勘弁してください」

 

確かに普段の山田を知っているとキラキラ山田は見てて面白いが。

山田がトイレに行った後、入れ替わるように志麻さんとイライザさんが入って来た。

ドラマーの彼女は、エフェクターボードとアンプだけの2人と違い片付けに時間がかかるのだ。

イライザさんはその手伝い。

 

ちなみにこれはお姉さんの性格が悪いわけではなく。

普段から機材を壊して回る破壊神なお姉さんは、志麻さんから手伝いを断固拒否されているのだ。

泥酔中に関しては特にだ。

 

「ヤホートシオー!来たヨー」

「佐藤くん。今日のライブも楽しんでもらえたかな?」

「はい!いつも通り最高です」

 

イライザさんに後ろから抱きつかれながら頬を好き放題もちもちされる。何が楽しいんだか……

 

「佐藤くんが来てくれるライブは廣井が無茶しないから助かってるよ。お金はいい……っていうか逆に払うからまたおいで」

「あ、いえ。ライブが決まったら廣井お姉さんがチケットすぐに渡してくれるので……」

 

良かった、今日はいつもの志麻さんだ……

というか今日のライブですら大人しかった方なのか。

オレがいないライブはどんな事してるんだ?

 

「あ、そうだ。差し入れ持ってきたの忘れてたんで皆で食べましょう」

「気が効くな。一枚拝借」

「お前が一番に食うな」

 

無料の食い物と聞きつけた山田が早速手を伸ばしてくる。

いつの間に戻って来てたんだよ。しょうがない奴だな。

残りを山田に掻っ攫われる前にSIDEROSの皆さんにも配る。

 

「気を使わせちゃってごめんね。毎回」

「気にしないでください。お姉さんがチケットタダでくれるのでなんか悪いなあと……」

「いい子……廣井。お前迷惑かけるなよ」

「え〜なんで急に?」

「イライザもそろそろ離れなさい」

「えー」

 

イライザさんも志麻さんに怒られ、渋々オレから離れる。

常識人助かる。

 

「今日も大成功した事だし、売り上げは打ち上げでパーっと使っちゃおうか!」

「まあ今回は廣井の意見に賛成かな。SIDEROSの皆と、佐藤くんとお友達もおいでよ」

「いえいえそんな、好きでやってることなので……」

「どうしたぁ、少年。ノリが悪いぞぉ」

「酒くさ……」

 

廣井お姉さんが鬱陶しく肩を組んでくる。途端、香る強いアルコール臭。

そりゃ浴びるように飲んで吹き出したりしてたらそうだよな。

色気もへったくれもねぇな。イライザさんの甘い香りを見習ってください。

 

「今日は私たちの奢りだよ」

「ゴチになりまーす!」

「廣井。お前も払う側だ」

 

結局流されて、SICKHACKとSIDEROS、そしてオレと山田は打ち上げへと向かうことになった。

 

 

 




しょうもないミスでこの話を消しちゃいました。再投稿。
ハーメルンに削除時バックアップの機能があって良かった〜〜〜
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