ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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第23話

 

 

 

「しおく〜んお酒無くなっちゃった!おかわりちょうら〜い」

「もう飲んだんですか。今日はもうおにころの一升瓶2本開けてるんですから少しは休憩してください」

「せっかくのライブなんだからもっと飲むの〜!」

「はいはい、おじいちゃん。ライブはもう終わりましたよ」

 

居酒屋での経験で酔っ払い相手にするのは慣れている。コツはまともに相手しないことだ。

とはいえ、出禁の店を増やされても困るので介抱はしてやる。

お姉さんは吐き散らかして色んな店で出禁食らってるからな……

せめてもの救いは、ここが新宿だった事でオレのバイト先に行こうとはならなかったことだ。

うちでされたらたまったもんじゃない。

 

「お水飲みましょう、お水」

「やだーそんなの飲みたくないよぅ」

「これ飲んでら次頼みましょうねー」

「うぇ〜」

 

昨日までのシラフのお姉さんはどこへやら。

ライブで酒をたらふく飲んで通常運転に戻り、もう駄々っ子みたいになってしまっている。

いつも安酒ばかりで美味しいお酒が飲めないお姉さん。

ここぞとばかりにキンキンに冷えた生ビールを流し込んでいた。

 

「はいお水です。こっち先に飲んでからお酒いきましょうね〜」

「うー」

 

お姉さんはようやく水の入ったグラスを受け取ってくれた。

水を押し付けることに成功したオレはやっと一息。

 

居酒屋に来て早々、とりあえず生、の合言葉で大人組はひと足先にグラスに口をつけていた。

 

オレたちは、セオリー通りメンバー同士で固まって座っていた。

つまりSIDEROS、SICKHACK、そしてオレと山田の3グループだ。

意外と言ってはなんだが。山田は端の方でちんまりしていた。

その反対では廣井お姉さんが陣取っている。ベーシスト包囲網だ。

 

「好きなの頼んでいいからね。佐藤くんはフライドポテト好きだったかな?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

人数の少ないオレたちは、半分SICKHACKのテリトリーに入っている。

机を挟んで正面には志麻さんとイライザさんが座っている。

志麻さんは周りに目を配って、注文を取ってくれた。できる女タイプだ。

 

「君は何か頼む?」

「私は酒盗」

「君いくつだよ……」

「コイツ大人ぶってるだけなんで。鶏からとか頼んであげてください」

「あはは。仲良いんだね」

ふざけた注文をする山田の代わりに、この間作ったら美味そうに食ってた唐揚げをオーダーする。

勝手にバラされて指でブスブス刺されまくってるけど。仲良く見えますかね。

 

ちなみに酒盗とは、魚の内臓を漬け込んだ塩辛に似た酒のつまみだ。

酒飲みは味が濃いものを食べて、喉が渇いたところにビールを流すのが王道。

オレだって居酒屋でバイトしてなかったら知らなかったよ。そんな知識。

 

「私生もう一杯!」

「お前には聞いてない」

 

とか言いつつ、オーダーしてあげる志麻さん優しい。

 

「皆今日は良かったヨ!沢山食べてってネ!」

「ありがとうございま〜す!」

 

いつの間にかイライザさんはSIDEROSの娘たちと盛り上がっていた。

彼女はオレに親しいのではなく、オレにも親しいだけなのだ。

世界中みんな友達なワールドワイドな皆のお姉さんなのである。

彼女も彼女で、欧米なりのスキンシップで男性ファンを勘違いさせまくる勘違い製造機の1人だ。

 

数分もすれば揚げ物も揃いそれぞれが思い思いの料理を摘み始める。

お、ここの鶏皮美味しい……プルプルだ。うちでも作ってみようかな。

 

「ぷはぁ〜!生き返る〜!」

 

しっかりと水を飲んだお姉さんは酒のグラスに口をつける。

相棒のベースは壁に立てかけて、グラスを取られまいと愛おしそうに抱きしめるお姉さん。

まあいいんだけどさ。取ったりしませんよ。

 

「オーダーも来た事だし、リョウちゃんの悩み。聞かせてくれる?」

 

そうだった……

オレも忘れていた、お姉さんが山田をライブに呼んだ理由。

ベロンベロンに酔っ払っていても、お姉さんは覚えていた。

 

「何の話?」

「リョウちゃんね。何か悩み事があるけど相談はしたくないみたいなの。だから気分転換に今日ライブ誘ったんだ」

「廣井……何か悪いものでも食ったか?」

「ちょっと〜私が悩み聞いてたらそんなに変?先輩ベーシストとして若い子に何かアドバイスしてあげようって優しさじゃん」

「優しさねえ」

 

まあ志麻さんの言いたいこともわかるが。

お姉さんはやる時はやる女だ。

 

「ほらほら、ゲロっちゃいなよ」

「……」

 

お姉さんが言うと不穏な単語やめてくれ。

がしかし。山田は何に感化されたのか、その悩みを話し始める。

 

「うちのバンド。作曲が私で、作詞はメンバーがやってるんですけど。新曲の歌詞が」

「気に入らなかったの?」

「なんていうか、まあ、はい……」

 

山田は言いにくそうに答える。なんだそのあいまいもことした返事は。

 

「でも、オレはいい曲だなって思ったけど」

「私、このバンドの青臭いけど真っ直ぐな歌詞が好きだったんだ……」

「確かに、路上ライブで聴いた時、新曲って言ってた曲は歌詞書いた人違うのかなって思ったけど」

 

音楽音痴なオレにはわからないが、お姉さんはなんとなくわかってはいたらしい。

音すげー曲すげーノれるーくらいしか感想が出ないオレにはわからない世界だ。

 

「音楽性曲げてまで、歌詞を売れ線狙いにしたら音楽やってる意味ないじゃないですか」

「まああるあるだよね。音楽性の違いっていうか、方向性の違いっていうかさ」

「よく聞くバンドの解散理由じゃないですか」

「だから悩んでるんだよね?」

 

山田は静かに頷いた。

なるほど。だからあんなに深刻そうな顔してたのか。

 

「まあバンドって結構人間関係が大事だからさ。少し拗れるだけで解散なんてよく聞く話なんだよ。ほら、SIDEROSだって解散して、再結成したばっかりだし」

「FOLTの同期、何組残ってるかな」

「懐かしいね〜。初ライブの時はお客さん2人しかいなくてね。その上パフォーマンスが怖かったのか途中で逃げられちゃったし……」

「初ライブからだったんですか」

「そうそう。緊張誤魔化すために初めてお酒飲んだんだ」

「あの時はあんな大人しい廣井が豹変するなんて思いもしてなかったな……」

 

お姉さん何をしたんだ……

 

「それにしても、志麻さんはお姉さんとタイプ全然違うのによく解散だー!ってなりませんよね」

「思うのは毎回ライブやる度に思ってるけど」

「そんな!」

 

まさかの回答に、お姉さんがガーンとショックを受ける。

オレの不用意な発言でSICKHACK解散の危機!?

焦っていると志麻さんは何かを思い出すように視線を宙に泳がせた。

 

「でも……乗りかかった船だしな」

「おぉ〜珍しい。志麻デレだ!」

「誰が志麻デレだ!」

 

SICKHACKではあまりにもいつも通りなやりとりになんだかほっこりしてしまう。

このバンドは何があっても解散しなさそうだな。

 

「リョウちゃんは、解散したい訳じゃないんだよね?」

「はい」

「じゃあ、歌詞が気に入らなかったなら、次の曲は自分で作詞してみたら良いじゃん!」

「自分で?」

「そう!音楽で自分の気持ちをぶつけるの。それに、自分が書いた歌詞なら納得いく曲が作れるんじゃないかな?」

「でも私、作詞とかしたことなくて」

「誰でも一回目は初めてなんだよ。私とおしおくんも手伝うからさ。ね?」

「まあ手伝えることがあるならな」

 

音楽音痴なオレが何か手伝えることがあるのかは知らないが。

山田が悩んでいるのなら、手助けするのが友達ってもんだろ。

 

 

 




お姉さんの元ネタのバンドを、完全に守備範囲外でしたが後学のために何曲か聞いてみました。
こんな音楽もあるのかあと思いながら聴いてたものの段々頭から離れなくなってきてやばいです。
サイケデリックやばい。
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