第3話
「本当に荷物持ちさせられるとは……」
「二日分の飯代くらいは働け」
嘘ついて同情引いた事、まだ許してないからな。
飯は食わせるが、それとこれとはまた別の話。
「伊地知さんも悪いね、荷物持ってもらって」
「いやいや、ご馳走になるんだから当然だよ。むしろお金払おうか?」
「いやいやいや、大丈夫大丈夫」
山田と違って、まともな感性の持ち主である伊地知さんはそんな提案をしてくるが。
伊地知さんにお金を払わせるなんてとんでもない。山田は払え。
オレは無理矢理にでも話題を変えるべく口を開く。
「でも本当助かったよ。個数制限の卵と牛乳が3人分買えた」
「それは良いんだけど。野菜買わなくて良かったの?カレー作るんだよね?」
「ああ、野菜は農家の祖父祖母が定期的に送ってくれてるんだ。まだいっぱい残ってて」
「へぇ〜良いお爺ちゃんだね」
そのおかげで、野菜の他にも米にも困っていない。
仕送りのやりくりも大変だからとても助かるのだ。
「もし今度伊地知さんが買い出しに行くときは呼んでくれ。荷物持ち付き合うよ」
「えぇ、そんな悪いよ」
「男手はそういう時にこそ使うもんだぞ」
「なら代わりに、今すぐ私の荷物持ち手伝って」
「言っとくけどお前のが一番軽いんだからな」
勿論一番重い牛乳や肉が入った袋はオレが持っている。
「もやし買いすぎ。重い」
「もやしなめんなよ。大量に買っても安いんだからな」
「貧乏だね」
「お前が言うな、お前が」
買い物中にも山田が駄菓子をねだったりと一悶着あった。
オレは買わないという確固たる意志を示したのだが。
山田の顔がぴえんの顔文字みたいになったところでオレが折れてドリ○スを1袋だけ買ってやった。
山田は甘え上手というか、甘やかされ上手というか。
つい世話してやりたくなるような不思議な魅力がある。
「そうだ。これはほんのお礼」
お菓子の話で思い出した。
袋をガサゴソと漁り、取りやすいように上部に入れていた一口チョコの封を切る。
中から3つ取り出し、2人に差し出す。
「え、良いの?ありがとう」
「では、ありがたく頂戴致す」
伊地知さんが1つ受け取り。そして山田は残った2つを奪い去った。
オレが何か言う前に包み紙を開けて2ついっぺんに口に放り込んだ。
……まあ、山田を黙らせるには安い出費か。
何だか馬鹿らしくなって、自分用にもう1つ取り出す気も失せた。
「佐藤くんごめんね〜リョウが」
「山田の奇行に慣れ始めたオレがいる」
「段々と慣れてくるよね」
当の山田を見ると、チョコをコロコロと転がしてなんかぽやぽやしてる。
おぉ。この顔もレアだ。写真に撮って残しておきたいような気もする。
「意外と表情豊かなんだな」
「話すと面白いでしょ?」
もっとも、伊地知さんはなお表情豊かなのだが。
今も、友達の良さをわかってくれた!という嬉しそうな顔をしている。
女の子らしくて大変良いと思います。一日中伊地知さんの笑顔を眺めるバイトをしたい。
「でもこれが女子からはクールに見えるんだから世の中わからないもんだね」
「昨日で見た目での偏見が全部無くなった」
「あはは、わかるなあ」
「あとは、行動が読めん」
「わかるわかる」
伊地知さんがわかるわかるお姉さんになってしまった。
休憩中に聞こえてくる話の限りでは、伊地知さんの周りには山田の奇行を知る人間はいないらしい。
まあコイツ教室ではクールキャラの猫被ってるしな。オレも昨日まで知らなかったくらいだ。
伊地知さんにとって、山田に関しての初めての共感者だったのかもしれない。
にしても山田は何で嬉しそうなんだ。巧妙に悪口を言ったつもりなのだが。
「リョウには変人って言ったら喜ぶよ」
「どういう性質?」
オレが山田を奇妙な目で見ていたら、伊地知さんが新情報を持ってきた。
それを聞いた山田はむふふと笑う。あ、なんかデジャブ感。
◆
「おぉ〜……なんか秘密基地みたい」
「それは褒め言葉なのか?」
「狭いって言えばいいのに」
「台無しだよ」
伊地知さん。オブラートに包んでくれてありがとう。
山田。デリカシー初級試験赤点だ。
「狭くて悪いな。早速作るから座っててくれ」
「あ、お構いなく〜」
買ったものを仕分けて、冷蔵庫に仕舞い込んでいく。
出てきたド○トスは山田に放り投げる。
「見て、虹夏。カードたくさん」
「や、やめなよ、男子のそんな場所開けるの」
山田はまたベッドの下の収納を開けて伊地知さんに見せびらかしていた。
それ滅茶苦茶仲良くても家に来るのが10回目くらいにし始めるやつだから。
そして大丈夫だ伊地知さん。オレは電子書籍派だからいかがわしいものは入っていない。
「お前また勝手に開けるなよ」
「これどうやって遊ぶの?」
「ルール難しいぞ」
オレが手を離せないからって好き勝手するな。
このままではオレのプライベート空間を荒らしに荒らされそうなため、モニターで動画配信サイトを開く。
画面に集中させて山田を大人しくさせる作戦だ。
「結構時間かかるからなんか見ててくれ」
「じゃあシリアルキラーVSキラーシャーク」
何だその確実にB級であろうタイトルは。
何なんだろう、サメが出てくるだけでB級感出るよな。
確かに山田はB級映画好きそうだ。
「これからカレー食べるんだよ?食欲無くなっちゃうよ」
ツッコミどころそこか?
「佐藤くんはどんなの見るの?」
「あー。オレは感動系とか好きかな」
「良いねぇ。最近どんなの見た?」
「履歴見てみよう」
「あ、ちょ……」
まさかそうくるとは。オレは背筋に冷たいものが流れる。
山田が表示した履歴には。アニメ、アニメ、アニメ……
そう。オレはゴリゴリのアニヲタなのだ。
別に隠しているわけではいないが、女子の前で打ち明けるには心の準備が足りなかった。
「へぇ〜佐藤くんアニメ好きなんだ?」
「ま、まあ……」
声が硬くなる。お、終わった……オレの学校生活終わった……
「じゃあこのどれか見ようよ」
「ん」
あれ、2人とも意外と乗り気な様子。
キラキラした女の子って、萌え系とかアニメとか苦手なんだと思っていた。
伊地知さんが優しい女の子でよかった……ほろりと涙が落ちる。
ありがとう伊地知さん。もし心の中で、アニヲタキモ!とか思っていたとしても良い。
オレは君のことを一生感謝して生きていきます。
「どれが面白かった?」
「そうだな……」
これは責任重大だな。初心者が入りやすいアニメといえば……
とりあえず、ハーレムものとエッチなシーンがあるものは除外するとして。
そうなるとオレが見ているアニメはかなり絞られてくるな。
そうだな。萌え系でも、きららなら薦めやすいか。きららの中でも王道といえばやはりこのアニメか。
「あ、じゃあ。け○おん!とかどうかな?軽音楽部のガールズバンドの話なんだけど」
「へぇ〜ちょっと面白そうかも!」
「話数結構あるからキリの良いとこまでな」
ドリト○を開けて画面を見つめる山田を確認して台所へと立つ。
これでやっと安心して料理が始められる。
「あれ?音出ないよ?」
「あっ」
そういえばスピーカーが壊れていたんだった。
2人にはイヤホンを片耳ずつ分割してもらう事になった。
本当に申し訳ない。