カレーの主役と言えば、やはり肉だ。
チキンカレーやポークカレーもいいが、個人的には断然ビーフカレーだ。
いつもはバイト上がりに割引になっている肉を買うのだが。
今回は伊地知さんも食べるため少し奮発して牛すじを購入。
牛すじを圧力鍋に放り込み、水を入れて火にかける。
「可愛い〜。この子が主人公かな?」
「うん」
「あ、声も可愛い〜」
「うん」
伊地知さんはテレビ見る時につい声が出る感じか。
逆に山田はじっくりと見る派だな。
その間に、冷凍庫から生姜を取り出し、スライスする。
ねぎの青い部分を切り落とし、鍋の大きさに入るように長さを調節する。
残った白い部分は切り口にラップを巻いて収める。
これらは食べるのではなく臭みを取るためのものだ。
鍋が沸騰したら、火を切ってそのまましばらく放置。
「ドラムこの女の子だって」
「うん」
オープニングが始まった辺りで調理へ集中する。
適当な時間でザルにあげ、茹で汁は捨てる。
流水にかけてざっと洗い、流れきらなかったアクや汚れを落とす。
「この子たち、幼馴染みたいだよ。ベースとドラムだって」
「ん」
「ちょっと親近感だね」
「そだね」
山田も楽器やってたのか。もしかしてベースだろうか。
教室では伊地知さん以外と殆ど喋んないから知らなかった。
先に下茹でした牛すじと、用意しておいた生姜とネギを入れ水に浸して加圧する。
これで牛すじの下処理は完了だ。面倒だが、処理に手をかけると味と食感が全然変わってくる。
加圧している間に野菜を切る。
今回は奇を衒わずに王道の玉ねぎとじゃがいもとにんじんを入れる予定だ。
まずは最難関であるじゃがいもの皮剥きからだ。
じゃがいもにはもう芽が生えてきていた。
オレはともかく、2人の腹を壊すわけにはいかない。
芽が生えていた部分はいつもより多めに抉って捨てる。
ピーラーを使うと無駄な部分が出なくて良い。人類の叡智だ。
しかし、じゃがいもはデコボコしていて、ピーラーを使っても皮を剥くのに時間がかかる。
ぷしゅうと圧力鍋から蒸気が出たら火を弱火にしてもう暫く放置。
上記の噴出する音に気づいてか、伊地知さんがこちらに意識を向ける。
「野菜切るの手伝おうか?」
「大丈夫大丈夫。大人しくご馳走になってくれ」
伊地知さんの親切心が心に染みる。
じゃがいもの皮剥きが下手すぎて見ていられず。という可能性が頭に浮かんだが悲しすぎるので忘れることにする。
にんじんも同様にピーラーで皮を剥き、やや小さめにカットする。
肉の量はいくらあっても良いが、個人的に野菜がゴロゴロしているのは苦手だ。
今回作るカレーも、野菜は小さく少なめ、ルー多め。
断じて野菜を切るのが面倒だから、と言う理由ではない。
玉ねぎは繊維に沿って切ると汁が飛びにくい。
できる限り目が痛くならないよう線に従ってカットする。
玉ねぎは最後にはしんなりとするので大きめに切って問題ない。
野菜が切り終わると、牛すじの加圧時間が終わるまで待機。
「あぁ〜泣いちゃった……」
「うん」
「泣かないで〜」
「ん」
「愛おしい……」
いつの間にか、伊地知さんは主人公に母性を抱いていた。
山田然り。ダメな子に惹かれる性質なのだろうか。
時間まで、壁に寄りかかってけい○ん!を視聴する。
オレレベルになると、音が聞こえなくても彼女らの声を脳内再生する事が可能だ。
「この子リョウみたい」
「どこが」
「すぐ餌付けされるとことか?」
「ん〜」
ケーキをもぐもぐしている主人公。
個人的なお気に入りのシーンだ。
まあ、確かに似ていなくもないかな。
タイプは違うが、飯を美味しそうに食べる山田を思い出す。
山田のように美味しく食べてくれると、飯をねだられても悪い気はしない。
アニメを見ているといつの間にか圧力鍋のピンが下がっていた。
鍋から菜箸で取り出して、すじ肉は一口サイズにぶつ切り。ネギと生姜はここでサヨナラ。
あんなに硬かった牛すじが、圧力をかけただけでこんなにプルプルになっている。
切り終わったら、野菜と一緒に鍋へぶち込み、もう一度加圧する。
これで作業の9割が終了。あとは加圧時間待って、ルーを入れて煮込むだけ。
「待って待って!飛ばさないでよ」
「なんで」
「どんな曲演奏するのか聞きたいじゃん」
「早く2話見たい」
「きっとすぐ終わるからさ」
いつの間にか1話が終わっていた。リモコンの取り合いをしている2人。
OPEDを飛ばすか飛ばさないかで論争をしているようだ。
個人的には次回予告まで見て欲しいが、押し付けは良くないよな。
「今はあんなんだけど、きっとこれからこういう曲を演奏できるようになるんだよ!」
目をキラキラさせて力説している伊地知さん。どハマりじゃん。なんだか嬉しい。
やはり女子高校生のバンドだからか感情移入しやすいのだろう。
次回予告が終わってから、2人にはなしかける。
「あとは煮込むだけだ。あと1話分くらい待ってくれ」
「しおー。お菓子食べたい」
「ド○トスはどうした」
「もう食べた」
「お前カレー入るのか?」
「カレーは別腹」
「でかい別腹だな」
こう言う場合って普通、お菓子は別腹じゃないのか。どっちでもいいけどさ。
「佐藤くんここ座る?」
「いいよ、座ってて。オレは鍋かき混ぜたりしないとだから」
「それくらい私がするよ」
「まあまあ。お客さんは休んでなって」
どうしても手伝いたがる伊地知さんを宥める。
本当にいい子ちゃんだな。
時間になってから火を消し、圧力が下がるまで待ち蓋を開ける。
水を追加して、ルーをバラバラにして、多めに放り込み。
ルーが一箇所に固まらないよう、混ぜて溶かす。
カレーの匂いが染み込まないうちに、早めに換気扇を回しておく。
あとは煮詰めて、時々回すだけ。
オレは水っぽいしゃばしゃばしたものよりも、どろっとしている方が好みだ。
いつもならもう10分か20分くらい火にかけるのだが。
山田と伊地知さんがいるとはいえ、1人暮らしで鍋いっぱいのカレーを作るのは違和感があるかもしれない。
確かにカレーは足が速いが、冷蔵庫や冷凍庫に入れておけば割と持つのだ。
自炊は一度にたくさん作って冷凍保存しておくのが楽で良い。
それに、万年金欠の隣人がいるからな。と、とある女性を頭に思い浮かべて苦笑い。
最後の最後に、ちょっとお洒落感を出したくてオムレツを焼いてみる。
鍋を奥のコンロに移し、手前にフライパンを置く。
油を敷いて卵を落とし、菜箸で黄身と白身をかき混ぜる。
牛乳を入れてかさ増しし、固まりきる前に火を消して余熱でじっくりと焼き上げる。
「2人とも米どのくらいにする?」
「大盛りで」
「はいはい」
「私はご飯もルーも少しでいいかな。いっぱい食べると晩御飯食べれなくなりそう」
「はいよ」
大皿に米を盛って、ルーをかけるとすぐにカレーのスパイシーな香りが広がる。
まだ速い時間だが、この香りを匂うとお腹が空いてくる。
半熟のオムレツをフライ返しで乗せて、オムカレーの完成だ。
机を組み立て、上にカレーとスプーンを乗せる。
「山田。出来たぞ」
「ん」
伊地知さんとオレには山田の1/3くらいの量をよそう。
オムレツは卵一個を伊地知さんとオレとで半分だ。
ルーを入れるときに何気なく肉を多めに入れてやる。
「はい、伊地知さん」
「ありがとう」
「ではいただきます」
「ちょっとリョウ。佐藤くんが食べるまで待ちなよ」
「あはは、大丈夫。伊地知さんも温かいうちに食べなよ」
「ありがとう」
山田の無遠慮な態度にぷんすこする伊地知さん。
彼女も料理をするので気持ちがわかるのだろう。
山田がバクバク食っている中。結局伊地知さんはオレの分ができるまで待ってくれた。優しい……