ベーシストの胃袋を掴む話   作:朝潮

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 隣のお姉さんを揶揄う
第6話


 

 

 

「お姉さ〜ん。いますか〜」

 

何度かチャイムを鳴らすが、家主は出てくる気配はない。

外出中か、はたまた酔い潰れているのか。

 

周りに人がいないことを確認して、観葉植物の中に手を差し込む。

指の感触を頼りに葉っぱの中をガサゴソ弄ると、チャリっと金属音が鳴る。

お姉さんはすぐに鍵を無くすので家の前にスペアキーを常備しているのだ。

 

鍵を回して扉を開けると、むわっと形容し難い謎の匂いが鼻をつく。

玄関には靴が散乱していて埃っぽい。電気がついていないせいで薄暗く、部屋の奥まで見通すことは出来ない。

 

「入りますよ〜」

 

一言断りを入れて、ずかずかと部屋に上がる。

オレの部屋とは左右対称になったワンルームだ。

床には小さなパック酒がいくつも転がり、その横では汚れたワンピースを纏った美女がすやすやと眠っている。寝相の悪さはご愛嬌。

 

「また薄着で寝て。お姉さん風邪引きますよ」

「う〜ん……」

 

肩を揺すると、小さく身じろぎをする。

そしてゆっくりと目を開け、焦点の定まらない瞳がこちらを見つめる。

 

「もう夜ですよ。いつまで飲んでたんですか?」

「えへへ、覚えてな〜い」

「また訳わかんなくなるまで飲んだんでしょ」

「そんな事ないよ〜お昼頃に一本だけ〜」

「じゃあこれ何ですか?」

「あれ〜おかしいな〜1本だけのつもりだったんだけど」

 

床に転がっているおにころのパック酒を指差す。少なくとも3本は飲んでいる。

 

「でも、ほらほら。酔ってないよ〜」

「じゃあ、はーってしてください」

「はぁ〜」

「はい、酒気帯びです。お酒抜けるまで大人しくしててくださいね」

「そんなぁ〜」

 

酒が抜けていたらシュンとなるからすぐにわかる。

とはいえ、起きていたらずっと飲んでいるような人間。

これでも抜けている方だ。

 

「とりあえずシャワー浴びてきてください。今日はカレーですよ」

「やったー!おしおくん大好き〜結婚して〜」

「お風呂入ってくれたら良いですよ」

 

突然服をパサパサと脱ぎ去るお姉さん。オレは悶々としながらも紳士的に背を向ける。

どうせオレが洗うからって適当に投げ捨てるな。

 

おそらく素っ裸になったであろうお姉さんがシャワールームに入る。

うちのアパートはバストイレ別だがシャワーのみで湯船がない。着替える場所がないのだ。

 

「あ、おしおくん。一緒に入る?」

 

扉を少しけて顔を出すお姉さん。磨りガラス越しに肌色の裸体が目に毒だ。

美人なんだからもう少ししっかりして欲しい。

 

「晩飯抜きです」

「や、やだな〜冗談だよ〜〜」

 

渋々と言った様子でシャワールームに戻るお姉さん。

オレだって健全な男子高校生。お姉さんのようなダメ人間でも意識してしまうわけで。

 

お姉さんが脱ぎ捨てた服を預かる。汚れているので洗わなきゃダメだ。

お姉さんは面倒くさがって服を着回すのでオレが用意してやらないといけない。

このワンピース、着古して肩紐がダルダルになってしまってるな。これいつ千切れてもおかしくないぞ。

新しいのに買い替えないと。

 

「タオルと着替え置いときますよ。終わったらうちに来てくださいね」

「ありがと〜」

 

シャワーの音と、ガラス越しのくぐもった返事。

毎回の事だが、どうにも落ち着かない。

オレの部屋からバスタオルと、前々からお姉さんのために購入していたパジャマを持って来る。

下に着るキャミソールとショーツはお姉さんの部屋から用意する。

用意していないと部屋がびちゃびちゃになってしまうのだ。

最近オレは、まともに生活できないお姉さんの服や飯の管理をしている。

オレがいないとダメダメな生活力皆無のお姉さんをどうしても甘やかしてしまう。

山田にも同じ空気を感じているのだが……気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、おしおくん……これ何かな……?」

「お風呂上がりましたか?あ、可愛いですね。似合ってますよ」

「いや、この歳になってこれはちょっと……」

「お姉さん童顔じゃないですか。似合ってますよ」

 

少女趣味のような可愛らしいカラーのバスローブ。

実はフードを被ると猫耳になっているのだ。被ってくれないかなあ。

 

「おしおくん、こんな趣味だったんだ……」

 

シャワーと服のダブルパンチで、大分素面に近づいてきた様子。

前に酔っているお姉さんに飯を作ったら、食べている途中に盛大にリバースされた事がある。

それから、泥酔中の彼女にはもう2度と食わせないと決めていた。

ただ、カレー粉にはウコンが入っているのだとか。少々の酔い覚ましにはなるだろう。

 

「じゃあ、そこ座ってください。すぐよそうんで」

「うん……」

 

先程までのハイテンションが嘘かのように、借りてきた猫になったお姉さん。

火にかけていた鍋をおたまでかき混ぜる。良い感じにどろっとしてきたな。

 

「はい、お待たせしました。熱いうちにどうぞ」

「いただきます」

 

皿を差し出して、お姉さんの隣に座る。

彼女はスプーンで掬ったカレーを口に運ぶ。

 

「美味しい……」

 

お姉さんは1口飲み込んだ後、しくしくと泣き始めた。そんなにか。

オレはお姉さんの背中をさする。

 

「お願い〜結婚して〜」

「お酒やめられたら良いですよ」

「うぅ……一日一本で」

「完全禁酒です」

「無理だ〜」

 

ほろほろと涙を流しながら2口、3口と進める。

その度に、「うぅ」とか「あぁ」とか情けない声を出している。

 

「お肉柔らか〜ジュ〜シ〜」

 

お姉さんも美味しそうに飯を食う。オレが入居するまで、毎日居酒屋やコンビニ弁当ばかりだったようで。

オレが金欠なお姉さんを不憫に思って、「作りすぎちゃったんで」と飯を作って持って行った日にも泣かれたのを思い出す。

 

「おかわり!」

「はいはい」

 

結局、お姉さんはカレー三杯を綺麗に食べ切った。これは冷凍する程余りそうにないな。

皿を下げ、4人分の食器を洗う。大きくなったお腹を撫でながら、ベッドの上でくつろいでいる。

お姉さんの満足そうな顔に、仕方ない人だなとため息をつく。

 

 

 

きくりお姉さんのにおい

  • くさい(良い意味で)
  • いい匂い(フェロモン的な)
  • いい匂い(香水的な)
  • 無臭
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