放課後。
伊地知さんの案内の下彼女の姉が経営している、噂のStarryとやらにお邪魔した。
新宿のとこと同じで、地下に降りた場所にあるアングラな店だった。
だが、同じライブハウスでも雰囲気は結構違う。
そこで出会ったのは伊地知さんの姉だという店長。
新宿然り。ライブハウスの店長というのは基本厳ついんだろうか。
伊地知さんの話では別にお金は取らないって話だったが。
店長に却下されていた。何かオレまで怒られてるみたいでちょっと怖かった。
店長曰く、営業前に遊びにくるのは良いが、ライブを聞くならそれは別だって話。
見た目で結構チャラチャラしてるのかと思ったけどしっかりしてる人だった。
でも多分優しい人だと思う。一杯ドリンク貰ったし。
オレ自身そんなにライブには興味なかったが、山田が働く姿というのがどうしても見たくなってお金を支払った。
意外と言ってはなんだが、山田は真剣に仕事をしていた。
感心していたが、暇を見つけ出しては上手にサボっていた。
要領がいいタイプだな。
◆
バイトが終わって、オレと山田は帰路についていた。
山田はオレの家で飯食って帰るつもりらしいが。
「そういえば、StarryでSICK HACKっていうバンドがライブした事ないか?」
「SICK HACKをご存知で?」
「うおびっくりした。どうした、目がしいたけだぞ」
山田がずいっと顔を近づける。
瞳をキランキランに輝かせた山田は、いつにもなく饒舌に話し始める。
オレ別にバンドに詳しいわけじゃないから半分何言ってるかわかんないし。
「それに、SICK HACKは新宿が活動拠点だから」
「そうなのか」
確かに、貰うチケットはいつも新宿の何とかってライブハウスのだ。
そういえばお姉さん、家賃滞納して追い出されて住居転々としてるって言ってたな。
最初は新宿の方に住んでいたんだろうか。
安い家賃の物件を借りるもののすぐに追い出され、段々遠くに流れて。
そんな姿がありありと想像できる。
「SICK HACK好きなの?」
「あぁー……まあ」
純粋に好きなわけでは無いのが心苦しい。
好きなのは好きなのだが、お姉さんからチケットを貰えなければ行くかわからない。
それに。どちらかというと、音を聞くよりもお姉さんのかっこいい姿を見に行っている節もある。
ベースを弾いてるお姉さんは本当にかっこいいのだ。
「次のライブは一緒に行こう」
「まあ、そのくらいなら」
「そして最前列で踏まれよう」
「それはちょっと嫌かなあ」
お姉さんがどんなライブをやっているのか見に行ったら。
どんでもねえパフォーマンスをしていてビビった。
しかも観客も調教されてるのか、そんなファンサービス(?)に喜んでいる始末。
オレは後ろの方で、穏やかに見られたらそれでいいです。
家に着くと、山田はギターケースもといベースケースからいそいそとベースを取り出した。
やっぱりベーシストだったのか。どおりでダメ人間のにおいがしたんだ。
山田は流れるような指の動きで旋律を弾く。
その指捌きは、早すぎてもうなんか逆に気持ち悪いくらいだ。
まだまだ練習し始めたばかりで、異音混じりにしか弾けないオレとは天と地ほどの差。
「何の曲?」
「今日やってたバンドのやつ」
「へえ……」
一曲弾き終えた山田に拍手を1つ。何だよ、滅茶苦茶うめぇじゃん。スラップベースかっけぇ。
バンドの花形はギターだが、たまに聞こえる裏からのベースは滅茶苦茶かっこいい。
惜しむべきは、どのバンドの曲かわからない事だ。
知っている曲でも、ベース単体で聞いたら全然わからない。
早速台所に立ち、オムライスを作ろうと言ったところで玄関のチャイムが鳴る。
「どうぞ〜」
「こんばんは。おしおくん、ご飯食べさせて〜」
玄関を開けて現れたのは、まだ猫耳のパジャマを着ているお姉さん。
偉いことに、酒は抜けている様子。さてはこの人、オレが帰るまで待ってたな。
お姉さんはオレのベッドでベースを弾く山田を見てフリーズした。
山田も山田で、突然現れたお姉さんに硬直している。
「ま、まさか、かかか、かか、か、彼女!?」
「いえ、飼い猫です」
山田は一度餌やったら学習して毎日のように来るようになった野良猫のようなもの。
彼女だなんてとんでもない。
「おしお君もそんな歳だからいつかはできるかもとは思ってたけど!あまりにも早すぎる!」
「いや、話聞いてくださいよ……」
この人はどうしても山田を彼女に仕立て上げたいのか。
山田が彼女って。……まあ、やぶさかではないが。
「大丈夫です全然好みじゃ無いので」
「告白しても無いのに急にフラれたぞ」
何か滅茶苦茶冷静に否定されたんだが。
別にワンチャンとか全く狙ってなかったが。
そこではっきり言われるとちょっと悲しい。
「そりゃ私もそうだったよ。こんなに年下だし全然恋愛対象じゃないよ」
「だからなんで告白して無いのにフラれるんだよ。山田に受けた傷まだ治ってないんで傷口抉らないでくれます?」
告白してもいないのにフラれまくる現状に理不尽さを感じる。
仏と呼ばれたオレでも流石にイラッとしてきた。
「でもね。毎日割引のお惣菜や弁当食べてた所に、暖かいご飯作ってくれる男の子がいたら嫌でも意識しちゃうじゃん!」
「嫌だったんですか」
「嫌じゃないから困ってるんだよー!」
今日のお姉さん、酒抜けてるのに騒がしいな。
「もう冷たいお弁当には戻りたくないの!暖かいご飯が食べたいの!」
「電子レンジ買えばいいじゃ無いですか」
「そう言う問題じゃないの!」
あーもう。お姉さん、何かめんどくさい女になっちゃったな。
結局何が言いたいんだろう。
「私みたいに君も絶対に落とされる。気をつけて」
人を女たらしみたいに、人聞きの悪い。
悲しい事だが、生まれてこのかた女性にモテたことは一度もない。
「今はいいとしても、親の作ったご飯を食べなくなってからふと思い出して手作りのご飯が恋しくなるんだよ」
「親は料理できないので。いつもお金貰って弁当買ってます」
「落とされかかってるじゃん!」
滅茶苦茶叫んでる。うるさいなあ……
「まあまあお姉さん落ち着いて……」
「おしおくんだって私よりも若い娘の方がいいんでしょ!私とは遊びだったんだ!」
わーん!と、大の大人がシラフで泣き出してしまった。
オレは何もしていないはずだが、何故だか申し訳なくなる。
「そうだ!今からオムライス作るんですよ。お姉さんも食べていってください」
「食べる……」
こういう宥め方は、何だか悪化しそうな気もするが。
今は何も考えずに後回しにする事にした。
まずはチキンライスを作る。
今回の具材は鶏肉、にんじん、玉ねぎ、もやし。
まず鶏肉を適度な大きさにカット。油を引いたフライパンに火をかけて焼く。
にんじんは人類の叡智であるピーラーで皮を剥く。超便利。
にんじんと玉ねぎは小さめにみじん切りにして、フライパンにぶち込んで炒める。
火が通ってきたら、ケチャップとコンソメを投入。
鍋にお湯を張り、もやしを半袋投入して茹でる。
今回は少し硬めに茹でてシャキッとした食感を残してみる。
鍋から掬ってもやしを流水にさらし、適度な大きさに切る。
あんまり大きすぎるともやしの風味が出そうなので気持ち小さめ。
炊飯器から米を取り出し、少し多めにフライパンに投下して全てを混ぜ合わせる。
ケチャップが足りなかったので更に追加。しばらく炒めて、チキンライスの完成。
皿を3皿用意して、均等に分ける。
何度もオムレツを作るつもりはないため、今回はおかわり無しだ。
自分の分にスプーンを突き立て、少し味見。
うん。ケチャップの風味が少し少ない気がするが、まあ十分だろう。
最後に、オムライスの主役であるオムレツを作る。
ここからはいつもの作業だ。
フライパンにバターを投げ入れて溶かす。
卵をといて、牛乳、チーズ、塩胡椒を入れる。
卵は半熟のまま固まりきる前にチキンライスの上へと乗せる。
そして真ん中に切れ込みを入れて、左右に開く。
中からとろりと半熟の卵とチーズが溢れ出して、いつも見ているオムライスの形へと変化していく。
先に出したら、待たせるもう1人が可哀想だ。
完成させる前に、オムレツをもう1つ作る。
失敗したら自分用にしようと思っていたが、失敗することなく無事2つともうまくいった。
同じように割いて広げ、卵の上に、ケチャップでリョウ、きくりと書いて出来上がり。
「はい。オムライスの完成」
机を出して、スプーンと共にベッドに座る2人へ提供する。
美味しそうな匂いに待ちきれないと言った表情の2人。
また変な事に巻き込まれたくなくて料理中2人のことはずっと無視していたが。
お前ら本当に似た者同士だな。
「いただきます」
「いただきまーす」
2人はスプーンをオムライスに突き立て、口に運ぶ。
緊張の一瞬。オレは2人の顔を固唾を飲んで見守る。
「う〜ん♡いつになくおいひぃねぇ……」
「これが人類の神秘……」
「今日はおかわりないから味わって食えよ」
2人の幸せそうな顔が見れただけでも満足だ。
……おっと。呆けてないで自分の分のオムレツも作らないとな。
「たまごふわふわ……」
「とろとろ……」
「ふわふわだよ」
「とろとろです」
何かまた変な言い争いが起きてるんだが。どっちでもいいだろ別に。
2人の不毛すぎる言い争いに、オレが料理名をふわとろオムライスと名付けて戦争を終わらせた。
「それにしても、この卵が美味しいよねえ」
「これはお店レベル」
まあ、本当にお店で出してますし。
「おしおくんの卵料理は天津飯もおいしいよ〜」
「しお。明日」
「明日土曜だろ。オレバイトだぞ」
「じゃあ朝」
「お前ガチで毎日来んの?」
この調子だとオレのプライベートな時間が無くなりそうなんだが。
オレはみんなでワイワイするよりも1人でいる時間の方が好きだ。
しかし、なんだかんだ言って2人とも仲良くなれたようでよかった。
山田はSICK HACKのファンだと言っていたからどうにでもなるだろうが。
お姉さんが拗ねたら面倒だからな。
「やっぱり餌付けされてるんじゃん」
そんな中、お姉さんの恨みがましい言葉がポツリと呟かれた。
もし付き合えるなら……
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伊地知虹夏
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山田リョウ
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廣井きくり