夢魔の主~或いはナザリック地下墳墓のメンヘラコミュ障ぼっち~   作:(๑╹◡╹)ノ

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ナザリック心得その4.『祝え! 新たなる神の誕生(勘違い)を!』

 ナザリック地下墳墓階層守護者たちによる渾身の『忠誠の儀』はバッチリ決まった。

 見事さくらもちとモモンガを撃退することに成功したのである。快挙である。

 

 

 

 

 ……そして後には階層守護者たちが残された。

 

 当然、二人の敬愛する至高の御方々に立ち去られたことにより面々の表情は暗い。

 

「ど、どういうことでありんすか? 何故さくらもち様とモモンガ様の御二方はこの場を…」

 

 愛らしい美貌を歪めながら青白い顔をより一層青褪(あおざ)めさせオロオロと呟くシャルティア。

 その言葉を受けて、ナザリック随一の頭脳派デミウルゴスも呻くように言葉を漏らす。

 

「私にも御方々(おんかたがた)の深遠なるお考えは(はか)りかねる。……忠誠の儀がお気に召さなかったのか」

 

 もし仮にデミウルゴスの推測が正しければ、先の行動が御方々の勘気(かんき)(こうむ)ったことになる。

 各々絶望的な心持ちとなり、自然、円形闘技場には重苦しい沈黙の(とばり)が降りてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フッ。いかにデミウルゴスといえど、今はまだそこまでの推測が限界のようね」

 

 さもおかしくてたまらない、といった様子でアルベドがこの場に降りる帳を切り裂いた。

 その声に呼応するように俯いていた顔を跳ね上げさせる守護者たち。

 

 希望、絶望、諦念、願望。

 

 その他様々な情念が込められた5対の瞳が嫣然とした笑みを浮かべ佇む彼女を射抜く。

 

「それは一体どういう意味だい? アルベド」

 

 眼鏡のブリッジを指で持ち上げ調整しながら、努めて冷静にデミウルゴスが尋ねる。

 言外に『つまらない内容であったなら例え君であろうとも容赦はしない』との念を込めて。

 

 しかしアルベドは、それを受けて怯むどころか更に慈愛の色を乗せてその笑みを深めた。

 

「分からないのも無理はないわ。これは玉座の間で立ち会った私だから感じることだもの」

 

「もう! いいからさっさと結論から教えなさいよっ!」

「お、お姉ちゃん… お、落ち着いて…」

 

 他のことならいざ知らず、ことが敬愛する至高の御方々にかかわることである。

 

 冷静さを失い堪え性がなくなってしまうのも至極当然。

 思わず激昂してしまうアウラを抑えながらも、マーレも恨みがましくアルベドを見詰める。

 

 言葉に出すまでもなく他の階層守護者たちもみな同じ気持ちを抱いていた。

 

「ごめんなさい、勿体ぶってたつもりはないの。ただ、何処から話すべきかって…」

 

 それに対して素直に自身の非を認め謝罪するアルベド。

 己とて逆の立場であったならばと考えれば、彼ら彼女らの気持は痛いほどによく分かる。

 

 だからこれ以上の引き延ばしはお互いのためにすべきではない。

 そう判断し咳払いを一つ。

 

「……だから、そうね。アウラの望む通り結論から教えてあげましょう」

 

 他の守護者たちもいよいよ真実が明かされるのかと固唾(かたず)を呑んでその時を待ち構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御二方は子作りのために席を立たれたのよ!」

 

 アルベドはビッチであった。ビッチであるがゆえの結論を臆面もなく言い放った。

 

 衝撃的な言葉であった。

 内容的には階層守護者たちに否やはない。むしろ諸手を挙げて歓迎すべき事態である。

 

 しかし、それが忠誠の儀と一体どのように結び付くのか。

 

 智将デミウルゴスが思い至るまでもなく、全員から即座に懐疑の視線が翔んでくる。

 

「それがもし真実ならば二つと無い慶事だがね、アルベド」

「そうね、デミウルゴス」

 

「しかし些か荒唐無稽に過ぎないかというのが私の… いや、『我々』の正直な感想だ」

 

 一同を代表し、デミウルゴスが言葉を返す。

 

 これがアルベドの早とちりで我々階層守護者たちがぬか喜びに沈む、だけならばまだ良い。

 しかしそれが万が一至高の御方々の耳に入ってしまえばどのように御心を乱されるか。

 

 そのような不敬・不遜は決してあってはならない。

 これがデミウルゴスを始めとする各階層守護者たちの抱いている偽らざる本音であった。

 

 あるいはアルベドがトンデモ仮説の出汁に不敬にも御方々を利用したのではないか? 

 同僚に対しそのような疑念を抱きたくはないが、そんな邪推すら頭に過ってくる始末である。

 

「……そうね。やはり最初から結論をぶつけられても理解し難いところがあるわよね」

 

 彼らの言葉に悪びれることなく、アルベドは美しい顎に手を当て静かに思考の海に浸った。

 しかし、ふと気配に気付いて顔を上げる。

 

「いえ、逆よね。答え合わせから逆算すれば誰だって嫌でも理解できるはずだもの」

 

 円形闘技場内に訪れたユリ・アルファらプレアデスの面々を見て、そうつぶやいた。

 

 相変わらずアルベドが何を考えているのかは読めない。

 だが、彼女が至高の御方々に守護者統括を任されたという厳然たる事実は変わらない。

 

 ならばと、デミウルゴスはその事実に免じ一旦矛を収めることにした。

 

「……やれやれ。ま、良いとしよう。だが君の仮説が間違っていた場合は?」

「その時は煮るなり焼くなりお好きに。甘言を弄した責任の重大さくらいは心得ているわ」

 

「結構。その時は君の横で誠心誠意御方々に償いを果たすとしようか」

「あら、損な生き方ね。感謝なんてしないわよ?」

 

「もとより期待してないさ。踊らされた側にも責任が発生するというだけの話だからね」

 

 相変わらずの覚悟のキマり具合を見せ付けるとともに、穏やかに笑い合う二人。

 

 少なくともアルベドがおかしくなったわけではない。

 その事実を再確認して他の階層守護者の面々も揃って安堵の息を漏らした。

 

 ガンギマリ状態がデフォルトである程度には、下僕(シモベ)たちは揃って覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼ら彼女らの様子を気にも留めずにアルベドはユリに話し掛ける。

 

「おかえりなさい、ユリ。……どうしてモモンガ様の御前(おんまえ)ではなくわざわざ此処に?」

「ただ今戻りました、アルベド様。……こちらへは、モモンガ様の御指示を受けて」

 

「やはり、ね」

 

「なにが『やはり』なんでありんすか?」

「それは私から説明しようか。……構わないね? アルベド」

 

「えぇ、どうぞデミウルゴス。あなたなら間違いはないでしょうから」

 

 モモンガの指示によりここへと送られた、とユリは述べた。

 それもユリ単体ではなくプレアデスが揃って。

 

 となれば御方々の深遠なる意図は読み解けないまでも我らに何を期待してるかは理解できる。

 

(……なるほど。つまり、ここからが『答え合わせ』ということだね? アルベド)

 

 シャルティアの当然の疑問に対する回答を、デミウルゴスが引き継いだ。

 

「至高の御方々のお考えは私たちより遥か高みにあられる。……ここまでは良いね?」

 

 一同揃って(うなず)く。

 

 例えモモンガとさくらもちが刹那の快楽を求めて行動するゲーム脳を極めていようとも。

 悲しいかな、下僕(シモベ)たちが主君をどのように認識するかまでは自由なのである。

 

 残念なことに。

 

「当然、我らが先程抱いた懸念や交わした議論も御方々の想定通り、ということになる」

 

「オォ… ナントイウ…」

「す、すごいです! 流石はモモンガ様とさくらもち様!」

 

 感嘆の吐息が、歓声が守護者一同から沸き起こる。

 御方々を讃える声の数々を我がこと以上に喜びながら、デミウルゴスは言葉を続ける。

 

「ゆえに慈悲深い御方々は、愚かな我々のために、説明役を派遣してくれたのだよ」

 

「な、なるほど! そうだったでありんすか! そうとも知らずわっちらは…」

「確かに。一歩間違えれば仲間割れをしてたかも、か… うぅ、反省しなきゃよね…」

 

「お、お待ち下さい! 私どもは、モモンガ様よりそのような御指示はなにも…」

 

 至高の御方々の深遠たる思考の高み()にある者は感心し、ある者は深く反省の意を示す。

 

 これに驚いたのはユリを始めとするプレアデスの面々である。

 確かにみんなのところで待っていて欲しいと言われ、ここ円形闘技場へと移動してきた。

 

 しかし、それ以外にこれといった指示を受けてないにもかかわらず期待されては困るのだ。

 そんな彼女らの気持ちを(おもんばか)ってかアルベドが安心させる笑みとともに謝意を示した。

 

「……あぁ、ごめんなさい。あなたたちはただ見聞きしてきたままを語れば良いのよ」

「見聞きしてきたままを、ですか?」

 

「えぇ、私の考えでは特段それらを禁じられてはいないと思うけれど… どうかしら?」

 

 言われて思い返せば、取り込み中とは言われたもののそれだけである。

 みんなのところで待っていてとの指示は受けたが、それ以外の追加命令も制限もないのだ。

 

 となれば、この場で階層守護者たちと雑談をしようとも任務に抵触することはない。

 

(……なるほど。つまり、モモンガ様とさくらもち様は)

 

 だからこそ至高の御方々は敢えて我々に何も告げずこの場に向かわせたのか。

 下手に細かい指図を与えてはその先入観が妨げとなるであろう。

 

 つまり、この状況に持ち込めば後は思い通りにことが進むと確信していたのであろう。

 

 そう考えれば、なるほど、アルベドの推論は全て筋が通っている。

 全ては至高の御方々の想定通りだったのだと、ユリはそのように判断した*1

 

「委細承知いたしました。私どもで良ければ、見聞きしてきたその全てを語りましょう」

 

 自分たちの到着前にどんな激論が交わされていたか分からないが解決の一助となるならば。

 そう思い姉妹で顔を見合わせると、互いに肯き合い見聞きしたことの報告を開始した。

 

 

 ──モモンガ様がさくらもち様のお部屋の前で頻りに声を掛けられていたこと。

 

 ──扉を開けろ、と情熱的にノックをしながら言葉を発せられていたこと。

 

 ──俺を一人にしないでくれ、と恐らくは心の底から叫んでいたこと。

 

 ──報告を受けるのももどかしい様子で、戻ったプレアデスたち全員を下がらせたこと。

 

 

 それらを滔々と語り終えたユリは、いつしかその場が静まり返っていることに気付く。

 

「あの、ボク… いえ、私めがなにか失礼なことでも…?」

 

 思わず出てしまった素の一人称を訂正しながら、ユリは一同に恐る恐る声を掛けた。

 

 その言葉にシャルティアやアウラが赤面しながら俯いてしまう。

 アルベドは手を振りながら苦笑を浮かべ、報告をしてくれたユリを優しくフォローする。

 

「いいえ、違うのよ。……私たちの想像以上にモモンガ様が情熱的だったから。ね?」

 

 視線を逸しながらも、シャルティアとアウラは揃ってコクリと小さく頷いた。

 

「………」

 

 確かに『そういう』現場だったと理解してしまえば、赤面してしまうのも無理はない。

 釣られるようにユリをはじめプレアデスのメイドの何名かも同様に頬を紅潮させた。

 

 かわいい。

 

「コホン。……さて、と」

 

 ほんのりピンク色に染まった場の空気はサキュバス的には大変心地好い。

 心地好いがこのまま話が進まないというのも困りものなのだ。

 

 (ただ)れた内心をこっそり胸の奥底にしまいつつ、アルベドは咳払いを一つして言葉を紡ぐ。

 

「ともあれ… 決まり、ね。異論はあるかしら?」

 

 ぐるりと周囲を見渡す。

 当然というべきか、その場の誰からも反論の声はあがらない。

 

 ……いや、拍手が一つ。デミウルゴスである。

 

「ないとも。完敗だよ、アルベド。……しかし、こんなにも喜ばしい敗北は初めてさ」

 

 心からの笑みを浮かべながら、デミウルゴスがこの掛け値なしの慶事を言祝(ことほ)いだ。

 そんなデミウルゴスに対してアルベドも笑みを返す。

 

 この大いなる喜びを信頼するナザリックの仲間たちと共有できたことは間違いなく嬉しい。

 

(けれども…)

 

 その美貌に浮かべられた笑顔に、一片の翳りが混じる。

 智将たるデミウルゴスはアルベドの変化したその表情の意味を正確に把握する。

 

「……なるほど。君の気持ちは分からないでもないよ、アルベド」

「………」

 

「我らの忠誠の儀をきっかけにしてしまったかも知れない、と気に病んでいるのだね?」

「えぇ。我らの稚拙な振る舞いが御方々に決意を促したのかもしれない、そう考えると…」

 

「ど、どういうことですか…?」

 

 二人の会話についていけないマーレが疑問を差し挟む。

 それに怒りを示すこともなく、飽くまでも穏やかな物腰でデミウルゴスは解説を始める。

 

「いいかい、マーレ。栄えあるナザリックは至高の御方々を頂点に一見盤石の構えだろう」

「一見? どういうことでありんす?」

 

 不敬な言葉を咎める色を乗せ、剣呑な物腰でシャルティアがデミウルゴスを睨み据えた。

 

 ナザリックは常に完璧である。いいや、『完璧でなければならない』。

 それを疑うことはもはや反逆の意があるも同然なのだ。

 

 口にしたのがこれまで貢献著しいデミウルゴスでなければ即座に八つ裂きにしていただろう。

 

 それ程迄にナザリック地下墳墓内のNPCたちの忠誠心は限界を振り切っているのだ。

 当然、それに伴い視野が狭まるなどの諸々の弊害はあるのだが今のところは置いておこう。

 

「コキュートス。キミならばナザリックが抱える唯一の懸案事項が分かるのでは?」

 

 コキュートス。

 

 二足歩行の蟲型の異業種でありナザリック内のNPCでも随一を誇る武人でもある。

 寡黙な彼らしく多弁は弄さないが、その武の側面から分析した見解は一定の信頼を得ている。

 

 彼は暫しの沈黙の後、言葉を選ぶようにして合成音じみた言葉を発した。

 

「モモンガ様、さくらもち様… 御二方ノ『オ世継ギ』、カ」

 

「そのとおり。我々の忠誠の儀を受けてすぐ、聡明なるさくらもち様は気付かれたのだろう」

「あるいは私たちの空虚な振る舞いにより、欠けたる部分が一層目に付かれたのかもね」

 

 アルベドの補足にデミウルゴスは黙って首肯する。

 

 さくらもちさん、全く気付いておりませんが。

 むしろビビり散らかして脇目も振らずに逃げ出しただけですが。

 

「我らの振る舞いに奮い立たれたのかもしれない」

「………」

 

「或いは我らの振る舞いに心底落胆されたのかもしれない」

「………」

 

「至高の御方々の真意を推し量ろうなどもとより不敬極まることだろう。……それでも!」

 

 

 ──自分の浅はかな行動が、慈悲深い至高の御方々に決意を迫ってしまったならば。

 

 ──……私は、自分自身の無力さが何よりも腹立たしく情けないよ。

 

 

 嗚咽(おえつ)とともに吐き出されたデミウルゴスの言葉を笑える者は、この場には存在しなかった。

 

 

 

 

「……バカね、デミウルゴス。それはかえって傲慢というものよ」

 

 いや、例外がたった一人。

 

 アルベドは持てる全ての辛さ・切なさを乗せた表情のまま、それでも笑顔を『作った』。

 そして今なお嗚咽を漏らす同僚の肩を叩く。

 

「今はただ、喜びましょう? 御方々の紡がれるでしょう輝かしい未来を、心から」

「……アルベド、何故、君はそこまで強い。どうして、そこまで強くあれる」

 

 慈愛に満ちたアルベドの言葉に、問いを投げかけたのは飽くまでデミウルゴスである。

 しかしながらその内容は、この場に集うアルベドを除いた全員の本心でもあった。

 

「……私はあなた達と何も変わらない」

「とてもそうは思えない」

 

「守護者統括という役割を与えられただけの、ただの、一人のアルベドに過ぎないわ」

「しかしッ!」

 

「違いがあるとすれば、『ただひとつ』。それは…」

 

 

 ──それは…? 

 

 

 その場に在る全ての者の心が一つとなる。

 

「さくらもち様は、私に『意見』を求めてくださったの。一箇の存在として、目を向けて」

 

 ………。

 

 誰からともなく、自然、涙が零れてしまう。

 

 

 嗚呼、それが真実ならば…──

 

 夢や幻ではないのならば…──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、なんという喜びであろう。

 

 ナザリックの下僕(シモベ)どもは至高の御方々のために存在している。

 それが基本にして絶対だ。

 

 上命下達(じょうめいかたつ)

 それを旨として、絶対者の意を遂行するのが下僕(シモベ)の役割だ。

 

 考えを述べよ、という命令ならば分かる。

 任せる、という委任についても無論だ。

 

 そこに不満などあろうはずもない。

 道具として至高の御方々に使い捨てられるだけでも、それは光栄に他ならないのだから。

 

 しかし。

 しかしである。

 

 御方々に『意見』を汲み取って戴き、それを御心に加えた上での命令を戴ける。

 或いは下らぬ『意見』を却下され、一つの存在として面と向かって否定をされる。

 

 この喜びをどのように例えたら良いであろう。

 

 在るべき魂の故郷に苦難の末に漸く辿り着いたような安堵感。

 或いは絶対的な母の胎内に丸ごと抱かれるような恍惚感。

 

 アルベドが『こう』なってしまうのも無理はない。

 それを頭脳によってではなく、魂によって『納得』してしまった。

 

 自身の編み出す働きが、決して一方通行ではないと御方々より直々に保証されたのである。

 自分たち一人一人がナザリックの未来、その一部になれるという栄誉を許された喜び。

 

(……この無上の喜びを、ナザリックの下僕(シモベ)以外が果たして理解し得るだろうか?)

 

 いいや、理解できるはずがない。

 理解できてたまるものか。

 

 デミウルゴスを始めとして、この場にいる面々は深い喜びに打ち震えていた。

 

 無論、適当に丸投げをしただけのつもりのさくらもちにとっては(あずか)り知らぬことであるが。

 これが自分の部下や家族たるNPCを信じて裁量を預けるモモンガならば違っただろう。

 

 しかし若干人間不信の気があるさくらもちは、最後の最後で手綱を手放しきれなかったのだ。

 モモンガとの性格・性分の違いがモロに出てしまった形となる。

 

 かくして下僕(シモベ)たちによる勘違いは暴走し、その醸成を余儀無くされる。

 

 極限まで高められた忠誠心は物理的圧力と見紛うほど発展し、円形闘技場一帯へ充満する。

 

 

 

 

 

 

 その時、ナザリック地下墳墓が轟音とともに大きく揺れ動いた。

 

「ひゃあああああ! お姉ちゃん!?」

 

 臆病な性質のマーレは思わず悲鳴を上げ、姉のアウラへとすがりつく。

 その他の面々も、すわ外敵かと直ちに臨戦態勢に移行する。

 

 例外は、静かに揺れる天井を見上げるアルベドとデミウルゴスのみ。

 

「ま、マーレ! しっかりしなさいよ! ……アルベド、これは一体どういうことッ!?」

 

 双子の弟を宥めつつ、アウラはアルベドに事情の説明を要求する。

 アウラの怒声に対して、アルベドはやれやれと首を振りながら額に手を当て吐息を一つ。

 

「なんでもかんでも私に聞かないで。それに、これを説明するなんて野暮というもの」

「そ、それってどういう…」

 

「フフフ… やはりそういうことなんだね、アルベド」

「……デミウルゴス?」

 

「ナザリック広しといえど、これだけの事象を引き起こせる御方など限られるだろう?」

 

 得心のいった表情とともに説明を始めるデミウルゴスに対し一同はハッとした顔を浮かべる。

 そして、アウラはその驚愕の色を浮かべた表情のまま小さくつぶやいた。

 

「ま、まさか… このまるで超位魔法をぶつけたかのような振動は、モモンガ様の…」

「フフフ… さて、ね? アルベドじゃないが語るのはそれこそ野暮だろう?」

 

「はうぅ~… これだけの『愛』、果たしてわっちでも受け止めきれるかどうか…」

「ダガ、ソレデモさくらもち様ナラ… さくらもち様ナラ、キットナントカシテクレル…」

 

「そ、そうだよ! なんてったってさくらもち様はナザリックが誇る【踏破者】だし!」

 

 そのさくらもち様、モモンガ様に負の接触(ネガティブ・タッチ)されただけで悶絶してましたがそれは。

 

 そんな事実は忘却の彼方に消し去ったアルベドは、両手を天に掲げ、声高らかに(うた)う。

 

「さぁ、祝いなさい! 新たなる神の誕生を!」

 

 一拍の間を置いて。

 

 

 

 

 

 

「ナザリック万歳!」

 

 シャルティアが。

 

「モモンガ様万歳!」

 

 アウラが。

 

「さくらもち様万歳!」

 

 マーレが。

 

「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」

 

 コキュートスが。

 

「至高の御方々万歳!」

 

 そしてデミウルゴスが、プレアデスが。

 

 熱狂の渦とともに、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』をその口で讃える。

 ある者は喜びに全身を震わせ、ある者は感動のあまり涙をこぼしながら。

 

 今日はナザリックにとってなによりも喜ばしい日なのだ。

 

 ゆえに、彼ら彼女らは心ゆくまでその喜びを、ほんの一端なりとも表現し続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにあれ、こわい」

「……う、うへへ。こ、こわすぎる… か、かえりたい。すごくかえりたい… だめ?」

 

 ちょうど部屋から戻ってきた至高の御方々がドン引きしているとも知らないままに。

*1
モモンガ様もさくらもち様もそこまで考えてないと思います。




カルネ村に向かうのは次回になりました。
進行遅くてゴメンナサイ。
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