夢魔の主~或いはナザリック地下墳墓のメンヘラコミュ障ぼっち~   作:(๑╹◡╹)ノ

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ナザリック心得その7の2.『悪いことをしたらごめんなさいしよう』

 意気揚々とカルネ村に隣接する森に飛び込んでから暫く。さくらもちは、今…──

 

「うへ、うへへぇ… や、やっちまったですよぅ… うへ、泣きたいぃ…」

 

 ()めていた。ぼそぼそと独り言をつぶやきながら。

 

 

 

 ……()めた、とも言う。

 

 狂騒に身を委ねるが如く暴走し、()だっていた思考。

 それが常と変わらぬフラットなものに戻っている。

 

 正気に返った。

 冷静さを取り戻した。

 

 様々な言い表し方はあれどその意味するものは唯一つ。

 即ち、『やらかしちゃってから羞恥に悶える羽目になった』という一点であった。

 

(「あなた、私と似てますねぇ?」? 「さぁ、いきましょうか」? ハハッ… 死にたいぃ)

 

 後悔するのはいつだって、取り返しがつかなくなってから。

 それがさくらもちに備わった生来の()の悪さとは言え、流石にこの状況は天を呪いたくなる。

 

 ……これが一人だったのであればまだ良かった。

 その辺の樹木に二度三度頭を叩き付けてからそそくさと退散するだけの話なのだから。

 

 ……ここが自分の寝室であったならなおのこと良かったであろう。

 枕に顔を埋めて思う存分絶叫し、封印すべき思い出と恥に蓋を被せられたであろうから。

 

 けれど、そうはならなかった。そうはならなかったのである。

 今は大勢の同行者を抱えているし、ここは安穏とできる寝室(わがしろ)ではない。

 

 それがさくらもちの現実であった。

 

 森の中を王国戦士長ガゼフならびに覚悟を決めた王国戦士団のみなさんとともに突き進む。

 しかもさくらもちを取り囲むような形で*1

 

 もう逃げられないゾ♡*2

 

 真っ赤になってぷるぷる震えているさくらもちの姿に誰も気付かないのはご愛嬌である。

 

(こ、この状況は不味い… なんとか離脱してモモンガさんと渡りをつけないと…!)

 

 自分一人がテンパった末に法国とやらの人々にボコられるのはまだいい。

 痛いのは嫌だけれど我慢はできる。……多分、きっと、メイビー。

 

 だが、自分に扇動される形でついてきた王国戦士団のみなさんには申し訳が立たない。

 

 なんとか無事に帰らせなければ。

 そしてモモンガさんにこの状況をふわっといい感じに纏める方策を考えてもらわねば*3

 

 その一心で、メンヘラコミュ障は意を決して転進を進言しようと口を開いた。

 

「あの…」

 

「いやぁ! しかし、まさかあの法国の『六色聖典』と戦うことになるなんてなぁ!」

「あぁ、大した土産話になるだろう。といっても誰も信じちゃくれないだろうがな」

 

「良いんだよ、それで。人知れず王国を護ったなんて格好良いじゃないか。ね? 戦士長」

「フッ、そうだな。終わった後の酒宴は私の奢りだ。遠慮せず手柄を分け合ってくれ」

 

「ヒューゥ! さっすが戦士長! いいんスか、さくらもち殿(どの)への報酬まであるってのに?」

「はは… なぁに、心配するな。もしもの時は王に直談判して国庫を逆さに振らせるさ」

 

「その、ですね… あ、いや、やっぱなんでもないです…」

 

 ダメでした。

 なんかいい感じに覚悟を滲ませた男たちの渋い会話の前に掻き消されてしまいました。

 

 さくらもちは泣きたくなった。

 

(ど、どうして私がこんな目にぃ… 神様ぁ、私がなんか悪いことをしましたかぁ!?)

 

 警護上の心配をしてくれた部下に容赦なくパワハラをかましていましたが、それは。

 

 

 

 

 

 一行は森を進む。

 

 和気あいあいとしながらも程よい緊張感を保った理想的な士気の高め方。

 それを歴戦の勇士たる王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ麾下の兵たちはよく心得ていた。

 

 ……無論、さくらもちは置いてけぼりであるが。

 

「うぅ…」

 

 しかしヘタレではあるが、ことは(多分)人の命がかかっている状況なのである。

 ここが勇気の振り絞りどころとさくらもちは精一杯己を鼓舞し、彼女なりの大声を発する。

 

「あのっ! ……そ、そろそろ私からも発言をぉ」

 

「……さくらもち殿(どの)の言うとおりだ、おまえたち」

「へ? あの、まだ私なにも…」

 

「『お客さん』だ。そろそろ気を引き締めろ」

 

 森の切れ目の向こうには、大勢の兵士が武装して待ち構えていた。

 時間切れであった。

 

「ちくしょう… なんで私ばっかりこんな目にぃ…」

 

 もとよりメンヘラは沸点が低い。

 思い通りにならない展開に、この状況に、若干苛立ちが募り始めていた。

 

 ガゼフは剣を抜き放ち、油断なく相手を見据える。

 

 対する武装勢力はガゼフたち王国戦士団より装備が充実している様子だ。

 素人目ながら、さくらもちが見る限り練度も王国戦士団のそれより高いように感じられる。

 

 オマケに、ユグドラシルでは雑魚モンスターだったが炎を纏った天使も従えているのだ。

 六色聖典のガチ過ぎる備えに覚悟を決めていた王国戦士団も思わず硬直してしまう。

 

 さくらもちは空気を読まずに見覚えのある天使を指差し、言葉を紡いだ。

 

「あ、あれは… えーと… なんでしたっけ… こう、喉まで出かかってるんですけど…」*4

「無理をするな、さくらもち殿(どの)。……敵がここまで戦力を揃えていたとは予想外だった」

 

「は? いや、ホントに見たことはあるんですけどぉ!?」

「そうではない。……我等に付き合うのは此処までで充分、貴殿には是非逃げ延びて欲しい」

 

「………」

 

 イラッとした。思わず無言になる。

 

 さくらもちは例えそれが自分を思ってのことであれ。

 ……いや、自分を思ってのことであればこそ。

 

 ──『行動を強制される』ことをなによりも嫌う。

 

 イライラが募ってくる。

 

(そもそもアレですよね? 私のこと雇いたいとか言いましたよね? 私、応じましたよね?)

 

 ガゼフは、せめてもの時間稼ぎをと思ったのだろう。

 返事のないさくらもちの背を押し、雄々しく敵の一団の首魁と思しき男に声を張り上げる。

 

 そんな戦士長の姿に勇気を得たのだろう。

 戦士団の面々は一時は怯えた炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)に対して、揃って剣を向ける。

 

 悲壮な覚悟である。……肝心のさくらもちを置いてけぼりにしてではあるが。

 

(なんでいきなり放り出すんですかね? なんか私が約束破ったみたいじゃないですか?)

 

 イライラがピークに達する。

 メンヘラはもう我慢ができなかった。

 

「ちょっと! ガゼフさん! いきなりなに勝手なことほざいてるんですか!?」

「さ、さくらもち殿(どの)…? いや、今はそういう場合ではない。一刻も早くこの場を…ッ!」

 

「……遅い。もはやその判断は遅過ぎるのだよ、ガゼフ・ストロノーフ」

 

 対峙する首魁の男は一人の娘を逃がそうとする眼前の滑稽な芝居を皮肉げに見据える。

 もとより目撃者はただの一人とて見逃がす訳にはいかない。

 

 今この場で彼らに許されるのは『苦しんで死ぬ』か『苦しまずに死ぬ』かの二択のみ。

 

 やり取りから察するに、少女が巻き込まれただけの存在に過ぎないことは想像に難くない。

 だからこそ、彼はガゼフの迂闊さが許せなかった。

 

 ガゼフほどの男ならばこちらの狙いが彼一人であることは薄々勘付いていたはず。

 であるなら恐れをなして引き籠もるか、あるいは大人しく首を差し出すかであるべきだ。

 

(……フン、判断を誤ったな。あたら無関係な犠牲を増やすなど英雄の名が聞いて呆れる)

 

 六色聖典が一角、陽光聖典ニグン・グリッド・ルーインは本気でそう侮蔑していた。

 

「私は任務を果たせればそれで良い。……せめて苦しむことなく逝くが良い」

 

 巻き込まれてしまっただろう哀れな少女の冥福を祈りに乗せ、手を振るう。

 その動作(ルーティーン)に、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が応える。

 

 胸元で巨大な火球(かきゅう)を発生させると、それをガゼフら王国戦士団に向け投擲(とうてき)し…──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ぺしっ! 

 

 気の抜けるような音とともに、さくらもちに弾かれた。

 

「そ、そそそそそういう場合じゃないぃ!? わ、わた私の話なんて聞く価値がないとっ!?」

「………」

 

 あまりにあまりなありえざる光景に周囲の面々が硬直し、言葉を失う。

 

 例外は未だに興奮して、ムギャオー! と吠えているさくらもちだけである。

 怒れる小動物である。

 

(いかんな… この任務についてから長い。知らず疲労が蓄積していたのだろう…)

 

 眉間を良く揉み解し、大きく深呼吸。

 そうして気を取り直したニグンは再度ルーティーン通りに手を振るった。

 

「大体ですね、ガゼフさん! あなたは…」

「あ、危ないさくらもち殿(どの)ッ!」

 

 再度迫りくる心持ち先程のそれより大きくなった火球(かきゅう)を見て、ガゼフはさくらもちに警告する。

 

 ──ぽしゅんっ! 

 

 さくらもちは今度も振り返りすらせず、まるでハエでも払うように火球(かきゅう)を掻き消した。

 もともと表情に乏しかったニグンの顔が、今、完全に虚無顔になった。

 

 そんな背後の諸々にも気付かぬままに、さくらもちはなおもガゼフに言い募っているのだが。

 

「ご、誤魔化そうとしたってダメですからね! そもそも逃げるんならみなさん一緒に…」

「……あの、さくらもち殿(どの)。今、あなたはすごいことをしたと思うのだが自覚はおありかな?」

 

「は? 今、そもそも私の話の途中でしたよねぇ? 勝手に話題変えないでくれますかぁ?」

 

 メンヘラは話が通じない。自分の話を遮られるのも話題を変えられるのも大嫌いなのだ。

 ……そもそも自分がすごいことをしたという自覚など全くないのだが、さておき。

 

 事此処に至り陽光聖典ニグン・グリッド・ルーインはようやく気付いた。

 真に危険なのはガゼフではなく、瞳孔をかっ(ぴら)きながら彼に迫る小柄な少女であるのだと。

 

 そうと決まれば彼に油断や慢心はない。複雑な印を結ぶと朗々と詠唱を歌い上げる。

 

「偉大なる炎の天使よ! 我が力のその(すべ)てを捧ぐ! なんとしてでもあの小娘を…」

「さっきからうるっさいっ! 今、私がははははは話してますよねぇ!?」

 

 少女が振り返り、《力ある言葉》とともにヒステリックに怒声を放つ。

 

 ……ただ、それだけで。

 

 ──ぐしゃり…

 

 たったそれだけのことで、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)は自らの魔力を暴走させて自壊へと至ってしまった。

 

「………」

 

 呆然自失、という言葉がまさに相応しいのであろう。

 さくらもちを除いた誰もが言葉を失っている。

 

 それほどまでに今引き起こされた現象は、彼らの知る現実からかけ離れた光景であった。

 

 ガゼフの武技によって討ち倒されるのであればまだ良い。

 かの男にはそれを不可能ではないと思わせる実績と凄みがある。

 

 あるいは彼の部下らの奮闘により見事討伐を成し遂げたとしても構わない。

 痛手ではあるが、それだけの奮戦ぶりなら拍手の一つも送ってやって然るべきだろう。

 

 いずれの結果になろうと、沈着冷静なニグンは受け入れる心の準備ができていた。

 

(だが、これはない… これはあんまりだ… こんな理不尽があってたまるものか…!)

 

 しかし、『戦いの舞台にすら上がれない』などと。

 こんな理不尽があってたまるか! 

 

 それが今のニグン・グリッド・ルーインの偽らざる掛け値なしの本音であった。

 

 されども幸か不幸か、彼は非凡な男であった。

 身体は絶望の恐怖に震えながらも、淀みなく部下に指示を出せる。……出せてしまうのだ。

 

「恐らく対象は耐魔性能に優れた一級の魔導具を所持している。近接にて仕留めよ」

 

 文字だけでこの戦いを眺めていたのであれば、なるほど、行き着くべき結論であろう。

 しかし眼前で味わった者にしか計り知れない恐怖が、本能が、それらを欺瞞だと告げている。

 

 それでもそう命令せざるを得ない自らの無能さに、ニグンは額に汗を滲ませる。

 部下が己の命を(まき)の如く()べて時間を稼いでくれれば、逆転可能な切り札が彼にはある。

 

 全ては勝利のために。ゆえにこそこの命令は合理的であり、必然であるはずだった。

 

(だからといって捨て駒のように… いや、捨て駒として部下を犬死にさせても良いのか?)

 

 自身の信仰や名誉についての葛藤など、遥か遠い彼方へと置いてきた。

 名声が地に堕ちたところでそれは自業自得であると割り切っている。

 

 しかし、部下が何一つ報われぬままこの異郷の地にて骸を晒すなど余りに惨いではないか。

 部下たちにこれまで口外できないような汚れ仕事をやらせてきた自覚はある。

 

 そんな彼らに、自身が持つ切り札のために無駄死にせよ、という意味に等しき命令に…──

 

「はっ! ご下命、しかと」

 

 しかし、部下たちは迷うことなく頷いて行動を開始した。

 ……全ては人類守護のために。

 

「聞けッ!」

 

 信頼できる腹心が剣を抜いて部下らに檄を飛ばす。

 

「あの娘は恐らく帝国の叡智パラダイン翁にも劣らぬ魔法詠唱者、心して当たれッ!」

『応ッ!』

 

「誰が倒れても振り返るな! ただ前のみを見て進め… それでは、全軍吶喊(とっかん)するッ!」

吶喊(とっかん)ッ!』

 

 そうして彼らは一糸乱れぬ隊列のまま勇猛果敢に敵に向かって突撃し…──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、一人残らずバタバタと地に倒れ伏した。

 

 ピクリとも動かない。

 生きているのか、死んでいるのかすら分からない。

 

 たかが数秒の間の出来事であった。

 

 だが、彼らが命を賭して稼いでくれた貴重な数秒であるとニグンは誰よりも理解していた。

 だからこそ…──

 

「今こそ顕現せよ! かつて魔神を屠り去りし、最上位天使よッ!!」

 

 法国の至宝たる魔封じの水晶を掲げて、最上位天使を召喚する。

 その威光に慌てふためいている連中を睥睨(へいげい)しながら、ニグンは狂気の笑みを浮かべる。

 

莫迦(バカ)め! 部下を無惨に殺し尽くした貴様らに、恐怖と、絶望と、後悔をくれてやるッ!」

 

 一瞬。

 

 ただその一瞬で、まばゆい閃光によって彼らは森ごと焼き払われた。奥にある村ともども。

 

「ぜぇ、はぁ…ッ!」

 

 焼け野原の真っ只中で荒々しく息を吐く。

 

 自身の力量を遥かに上回る存在を対象とした召喚術。

 しかも、己のタレントにより強化されたこの最上位天使を果たしていつまで制御できることか。

 

(……いいや、構うまい。構うまいよ)

 

 狂気の哄笑(こうしょう)()(いず)る。

 

「ハハハ! 焼き尽くせ、最上位天使よ! 我が魂魄(こんぱく)(かて)に、このまま王国を焼き払え!」

 

 守るべき、苦楽を分かち合うべき部下はもういない。

 

 ならばせめて任務だけでも。

 人類守護のために世界を一つにするという任務だけでも完璧にこなしてみせようではないか。

 

「ハハハ! ハハハハハハ! 誰もいないのか? 誰か私を止めてみせろ! ハハハハハ!」

 

 無人となった荒野に、虚ろな哄笑が響き渡る。

 いつまでも、いつまでも…──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい悪夢(ユメ)、見れましたか?」

 

 なのに、何故か耳元で女の声が聞こえた気がした。

 

 途端、まるで三文芝居の書き割りが剥がれるかのように目の前の光景が切り替わる。

 自身のすぐ目の前で、少女がクリスタルを手にして興味深そうに眺め回している*5

 

「そ、それは…!?」

 

 魔封じの水晶。

 さきほど『自分が使ったはずの切り札』である。

 

「ふーん、こんなのもあるんですねぇ。……おっと、もうお目覚めですか? 優秀な方ですねぇ」

 

 言われ慣れている言葉だが目の前の少女(バケモノ)に言われてしまうのは些か据わりが悪い。

 

 思わず立ち上がろうとしたが、縄の戒めにそれを阻害される。

 ……どうやら捕縛されているらしい。

 

 動かせる範囲で視線を左右すれば、部下も同様に縛り上げられている光景が目に入った。

 そしてガゼフら王国戦士団は(また)き健在であり、此方に微塵の油断も抱いていない様子が窺えた。

 

 ……為す(すべ)はない。少なくとも今は。

 

 ニグンは早々に抵抗を諦めると、『今しがた起きた不可解な現象』について思考を巡らせた。

 

(先程までの出来事が見る影も無い… 夢、だったのか? ……『どこからどこまで』が?)

 

 背筋がゾッと冷える。

 

 まるで現実と見紛うようなやり取り、感触、そして実体感。

 

 ……いいや、誤解を恐れずに云うのであれば。

 

 ニグンにとって、先程まで起こっていたあれらは『紛れもない現実そのもの』であった。

 まさに世界を書き換えるような神をも恐れぬ所業。

 

 このようなことは、例え帝国の叡智フールーダ・パラダインとて容易に出来ることでは…──

 

(……待てよ?)

 

 そこまで考えて、ニグンに天啓が奔る。

 

(神をも恐れぬ所業≒神の如き偉業… 即ちこの少女… いや、この御方は…ッ!?)

 

 そのりくつはおかしい。

 しかし悲しい哉、この場にツッコミ役は不在であった。

 

 震える声音でニグンが言葉を発する。

 

「もし、そこの御方… よろしいでしょうか?」

「え? あ、はい。ガゼフさんじゃなくて私にですか…?」

 

「は、はい。……どうか、質問をお許し願えませんか?」

「え? ……は、はい。どうぞ? ……捕虜の待遇とかについてかなぁ? 私に聞かれても困るんだけど*6

 

「御慈悲に感謝申し上げます。……では」

 

 すぅ、はぁ… と二度三度と深呼吸を行う。

 

 新兵の時すら「ふてぶてしいヤツだ」と教官や先輩に揃って言われるほど緊張とは無縁だった。

 そんな彼が人生最高に暴れ狂う己の鼓動を必死に宥めながらさくらもちに尋ねた。

 

 まるで神への直答を許された哀れな物乞いの如き(うやうや)しい仕草で。

 

「貴方様は… もしや、『ぷれいやー』様なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(『ぷれいやー』って、ユグドラシルの? じゃあ、ここってやっぱりユグドラシルに関係が?)

 

 顎に手を当て考えてみるが、考えてみても分からないものは分からない。

 

 とはいえ、位階魔法が通じたりユグドラシルで見掛けたモンスターが存在することは事実。

 転移という不可解な現象さえ除けば、ここがユグドラシル2の舞台と言われても信じただろう。

 

「………」

 

 さりとて、自分一人では答えの出ない問題で時間を浪費するのもよろしくない。

 今なお熱視線を送ってくる目の前の男に返事をしてあげなければならないであろう。

 

「……あ、はい*7。その、確かに私はユグドラシルのプレイヤーですけど… 何故それを?」

 

 (ぷれいやー)はあっさりと頷いた。

 途端、ニグンの双眸(そうぼう)より()()()い涙の滝が流れ出す。

 

「ッ!?」

 

 これにギョッとしたのはさくらもちとガゼフたち王国戦士団の方である。

 

「『ゆぐどらしる』の名まで… 間違いない… 神は、神は此処に降臨されて… おぉん!」

 

「え? え? なに? なにこれ、こわい。私のせい? 私のせいなんですか、これ?」

「さ、さくらもち殿(どの)!? まさか陽光聖典すらも狂わせるような精神攻撃をッ!?」

 

「し、してねーんですけどぉ!? ガゼフさん、わ、私のことなんだと思ってるんですかぁ!?」

 

 わたわたと慌てだすさくらもち。驚愕に表情を染め上げるガゼフ。

 そして涙と鼻水を精一杯垂れ流し到底お見せできない顔になっている僧服の男。

 

 場は混沌(カオス)へと(いろど)られる。

 

「わ、私ニグンめの生まれ育った幾年月はぁ… ひっく、全てはぁ… この日のためにぃ…」

「と、取りあえずもう一回寝ててください! みょんみょんみょん~… 眠れ~… 眠れ~…」

 

「……すやぁ」

 

 取りあえず男──ニグンさんと云うらしい──をもう一回強制的に眠りにつかせた。

 静かにはなったが奇異の目線を向けられている事実に変わりはない。

 

 無論、これまでの関係から敵意が込められていない様子だが*8それもいつまで続くことか。

 

「どうしよ、これ…」

 

 これまで人的被害は0ながら、心の底から疲れ果てた表情でさくらもちはそうつぶやいた。

 いつになく苦み走った、少し遠い目をしながら。

 

「……この陽光聖典は先程さくらもち殿(どの)を崇めていたようだが、心当たりはおありか?」

「いえ、まったく。……正直ちょっと引きました」

 

「ならばやはり彼をもう一度起こして、落ち着かせた状態で聞いてみるしかないのでは?」

「それは… わ、私はありがたいんですけれどぉ… ガゼフさんたちはよろしいので?」

 

「貴殿がいなければ我等は少なくない損害を被っていた。いや、ともすれば敗北すら有り得た」

 

 その言葉を否定するほど蛮勇にはなれないのであろう、王国戦士団も悔しげに俯く。

 

「ならばこそ、さくらもち殿(どの)にとって忌憚(きたん)なき形にて場を締め括っていただければと思う次第だ」

「なんと…」

 

「何も出来なかった以上、我等の事情はその後で結構。謝礼の足しとでも思っていただきたい」

 

 ガゼフさんが良い人過ぎる。

 こんな物分かりの良い市民に寄り添うお役人さんなどリアルでは見たことがない。

 

 さくらもちの中の彼への好感度上昇がとどまるところを知らない。

 

 ありがたくもお言葉に甘えて、さくらもちはニグンへの質問権を譲ってもらうことにした。

 未だ夢の中のニグンをそっと揺さぶる。

 

「ニグンさん… ニグンさん、起きてください… ニグンさん…」

「うーん、むにゃむにゃ… ぷれいやー様ぁ…」

 

「起き…」

「あぁ、ぷれいやー様! 私めなどになんと勿体ないお言葉を! ありがたき… すやぁ…」

 

「………」

 

 さくらもちは笑顔のままイラッとした。

 

 もとよりメンヘラには忍耐力という概念が欠けている。

 だからだろう、その場をすっくと立ち上がると少し距離を取った。

 

「さ、さくらもち殿(どの)… 一体何をッ?」

 

 助走をつけて駆け出す。そして、そのまま…──

 

「えいっ」

「あいたぁっ!?」

 

「さ、さくらもち殿(どの)ォーッ!?」

 

 眠りこけているニグンさんの後頭部を(最大限に加減して)蹴り飛ばしたのであった。

 

「いつつ… 一体何が? ……ハッ、ぷれいやー様!? やはり先程の光景は現実かッ!」

 

 そして感動の雄叫びを上げ再び涙を流さんとするニグンさんの襟首を掴み笑顔で告げる。

 

「泣くな、叫ぶな、崇めるな、鼻水も垂らすな… 返事は『はい』か『YES』でお願いします」

 

 さくらもちはちょっと疲れていた。

 さっさとこの話を終わらせたくて仕方なくなっていた。

 

 笑顔の圧に押し切られる形でニグンはコクコク頷いた後に「……はい」と言葉を返した。

 蚊の鳴くように小さな声音であった。

 

「結構。……で、えーと、ユグドラシルのことは御存知なんですか?」

「ハッ! 我等スレイン法国に伝わりし伝承に御座います!」

 

「伝承? ……あともうちょっと声のボリューム下げてくださいお願いします」

「申し訳ありません。……神であるぷれいやー様が降臨され、世界を救われたという神話です」

 

「なるほど…」

 

 自分たち以外にも転移(?)してきたプレイヤーはいたらしい。

 この情報をここで入手できたことは僥倖であった。

 

 さくらもちがそんなことを考えていると、ニグンが申し訳無さそうに声を掛けてきた。

 

「あの… 誠に僭越(せんえつ)ながらこの戒めを解いていただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ、ホントに僭越ですね… 立場分かってるのかなぁ…」

 

「ま、誠に申し訳ありません。何分、拘束された状態で3つ質問に答えると死んでしまうので…」

 

 いきなり火の玉弾丸ストレートをぶち込まれ、さくらもちが思わず真顔になる。

 なんだそのリアル顔負けのブラック企業っぷりは。スレイン法国の闇を垣間見てしまった。

 

「た、大変じゃないですか! 今すぐ拘束を解けば大丈夫なんですよねッ!?」

「はい! 大丈夫です… グハァッ!?」

 

「し、死んだァ────ッ!? なんかホントに破裂して死んじゃったァ───────ッ!?」

 

 唐突にニグンが破裂してしまったので、この後めちゃくちゃ蘇生させた。

 ……あとついでに拘束も解除しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……めっちゃ疲れたです。……主に精神的に」

 

 そこにはくたびれたOLもかくやという有様のさくらもちが転がっていた。

 ちなみに蘇生の奇跡を目の当たりに、というか体験したニグンは無事信仰心を深めている。

 

 やったね、さくらもち! 信者が増えるよ!*9

 

 しかしその甲斐あってか色々と聞き出すことが出来た。

 主にこの襲撃の真意とか色々と。

 

 ……話してしまって大丈夫なんだろうか? 

 

「全く問題ありません! なんせ神であるぷれいやー様にご報告できるのですからッ!」

「……あ、はい。どもです。あと音声のボリューム下げて。目の輝き抑えて。……まぶしいです」

 

「承知しましたッ!」

 

 音声のボリューム下げろって言ってんだろ。

 若干やさぐれながら、さくらもちは貰った情報について考えをまとめていた。

 

 ・スレイン法国は神であるぷれいやーの代理人を気取っている。国是は人類守護*10

 ・人類守護を掲げる法国としては、人類自ら覇権国家を築き上げて欲しいと願っている。

 ・飽くまで法国は神の代理人ゆえ、自ら先頭に立つのではなくその支援に徹したいらしい。

 ・候補として残ったのはリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の二つ*11

 ・王国は貴族の腐敗がヤバいので帝国に総取りさせて覇権国家に導きたかった。

 ・しかし一人の英雄の存在が王国に一縷の希望を抱かせてしまった。

 ・この一連の作戦はその英雄ガゼフを謀殺することで人類統一へと導くための一助、らしい。

 

 そんなことに巻き込まれた側としてはたまったものではないだろう。

 

 焼き払われた村の人々はもとより、政治工作で殺されそうになった王国戦士団にしてもそうだ。

 流れで知ったがガゼフの装備が身分の割にみすぼらしいのも妨害工作ゆえであったとか。

 

 異形種となった弊害か、この話に激しい怒りや嫌悪感は覚えない。

 しかし、代わりに胃の奥がジクジクするような不快感がまとわりついてくる。

 

(お題目としては分からないでもないんですけどねぇ… しかし…)

 

 しかし、である。

 

「……気に入りませんねぇ」

 

 己の爪を噛みながら、さくらもちは小さくつぶやいた。

 決して、ガゼフたち王国戦士団の人々に絆されたというわけではない。

 

 さくらもちは自分に不利益をもたらしかねない存在を排除することに躊躇しない。

 おバカではあるが彼女なりのリスク管理というものは心掛けてはいるのだ。

 

 では何故、全力で法国から距離を取りたいと思っているのか? 

 

 そんなさくらもちの内心の変化など知る由もないニグンが満面の笑みで提案してくる。

 

「なので、ぷれいやー様さえよろしければ我等が法国にお越しいただき…」

「失礼、その前に」

 

 自分がされたら不快になる無礼と知りつつも、その言葉を手をあげて遮った。

 無論ニグンは弁えたもので、怪訝な表情を浮かべたものの特に抵抗なく発言権を譲る。

 

 それに甘える形で軽く息を吸い込んでから、さくらもちは言葉を放つ。

 

「その返事をする前に、あなた方にはやるべきことがあるのではないでしょうか?」

「……は?」

 

「思い付くこと、ありませんかね? 本当に?」

 

 全く心当たりが無いとばかりに首を傾げるニグンにさくらもちはメンヘラエンジン全開となる。

 

「突然の侵略行為と村々を焼き払ったことへの謝罪と補償… それが大前提です」

「し、しかしそれは…」

 

「国家のやることです。素人目線ながら綺麗事ばかりで済まされないのは理解していますよ?」

「……は。ご理解を賜り恐縮でございます」

 

「だけどバレたら素直に『ごめんなさい』するのが筋というものですよねぇ? 違います?」

 

 圧が吹き荒れる。まともにそれを受けたニグンは震えとともにそれを受け止める。

 

 ガゼフたち王国戦士団の面々も「よく言ってくれた」とばかりに頷いている。

 ……一部拝んでいる者もいるが*12

 

 そんな背後のことなど気にも留めず(気付かないとも云う)、さくらもちはなおも言い募る。

 

「あのですねぇ… 名目があれば悪いことしても許されるって本気で思ってますかぁ?」

「そ、それは…」

 

「そもそも悪いことしなければ目的達成できない力の無さを恥じて下さいよぉ! 全力でぇ!」

「……か、返す言葉もございません」

 

「私はニグンさんたちが趣味で悪いことをしてるだなんて思いたくありませんけどぉ!」

「……め、滅相もございません。……仰せの通り、全ては我々の力不足が招いたことです」

 

「じゃあ、どうすればいいか分かりますよねぇ!?」

「……は」

 

「キチンと『ごめんなさい』しますか? しませんか? しないなら話し合いに応じません」

 

 そこまで言ってから、さくらもちは腰に手を当ててフンッと鼻を鳴らした。

 要は全力の駄々こね行為であった。

 

 悪いことをするのは良い。……良くはないが仕方がない。

 人間、国家に限らず綺麗事ばかりでは生きていけないのは一片の真実であろうから。

 

 だけど、それが明るみになった時にキチンと筋を通して謝れるか否か。

 そこをさくらもちは重要視していた。

 

 責任の取り方とかリカバリーの仕方とか考えるべき問題は種々様々あるだろう。

 けれど、まずは謝るべきである。筋道を違えたことが発覚したならば詫びを入れるべきである。

 

 ……そこで形だけでも謝れない人間とは良好な関係を築けそうな気がしない。

 

 それがさくらもちの考え方であった。

 

 それが出来ないならば信用も信頼も出来ないし、そんな相手とは関係を築けない。

 都合によって他者を切り捨て悪びれもなく笑う。そんな連中と公言しているに等しい。

 

 その時、突如として盛大な歓声が沸き起こる。

 

「ひゃわっ!?」

 

 恐る恐る振り返ると王国戦士団のみなさんが泣きながら拍手をしていた。

 

「うぅ、さくらもち殿(どの)… いや、さくらもち様… なんて聖女なんだ…」

「凄い御力を持ってるってのに、自分のことよりもまず俺たちのことで怒ってくれるなんて…」

 

「え? あ、いや。べ、別にみなさんのために怒ったわけではなくてですね…」

 

 言っている内容は全くの勘違いであったが。

 

 これは不味い。なんだか知らんがとにかく不味い。

 そう思ったさくらもちは弁明せんと口を開こうとしたが…──

 

「うぉおおおおんッ!!!」

 

 大音声にさくらもちの小さな声は掻き消されてしまった。

 声の主は誰あろう、何度お願いしてもボリュームを下げてくれないニグンさんその人であった。

 

「ちょ、ニグンさん… うるさ…」

「わ、私はぁ! 感動しましたッ! こうまで慈悲深く、道を諭してくださるなどッ!」

 

「ほぇ? あ、いや、その。諭すってよりただ手前勝手なワガママ言っただけで…」

「ぷれいやー様はその御力だけではなく、御心まで神そのものであると深く実感しましたッ!」

 

「え、えーと… じゃあ、ちゃんと謝罪と補償をしてくれるってことでいいんですね…?」

「はいッ! 我が身命を賭してでもッ! ご下命を確実に遂行してご覧に入れますッ!」

 

「……あ、はい。じゃあ、それでいいです。……もう、いいです」

 

 なんかもう色々と面倒くさくなったさくらもちは流れに身を任せることにしたのであった。

 その表情は今やチベットスナギツネもかくやという虚無に彩られていた。

 

 ふと、そんな中でガゼフと視線が交錯してしまう。

 

「……す、すみませんでした。ガゼフさん」

 

 コソコソと近付いて耳打ちするように小声で話し掛ける。

 さくらもちの謝罪に心当たりのないガゼフは首を傾げて問い返す。

 

「はて、さくらもち殿(どの)に謝罪をされるような瑕疵(かし)は見当たりませんが?」

「その… 勝手に謝罪と補償とか決めてしまったことです…」

 

「……あぁ」

「本来、人の命はお金で取り返せるものじゃありません。喪ったものは返ってきませんし」

 

「………」

「け、けれど… 今、人類は結構危機的状況なんですよね…?」

 

「……えぇ、それを否定することは出来ません」

 

 己の無力さに歯噛みしながらも、そう返答するより他はない。

 

 国内だけに目を向けても貴族に腐敗は蔓延(はびこ)り、城下には麻薬が流通している。

 八本指なる地下組織の摘発も(よう)として進まぬ状況だ。

 

(……なるほど、これでは法国が痺れを切らすのも無理はないか)

 

 そう自嘲する。

 

「だ、だから有能な人は一人でも多く抱えておくべきかなって… そ、その…」

「ふむ。……それを気にされていたのですかな?」

 

「そ、それは… その、はい…。だ、だから… その、ごめんなさい… ガゼフさん、みなさん」

 

 おどおどとした仕草で自分の髪をいじりつつ、何度も頭を下げるさくらもち。

 その仕草には、先程ニグンに向けて大見得を切った少女の姿はどうにも重ならない。

 

 なんとも微笑ましい彼女の姿に、ガゼフは思わず口元を緩めながら声をかける。

 

「どうか頭をお上げ下さい、さくらもち殿(どの)。……私はむしろ感謝しているのです」

「か、感謝ぁ…? な、なんでぇ…?」

 

「……本来、民草の『消費』など数字上の問題として処理されるものでしかないのです」

「そ、そんな…」

 

「しかし貴女はそれに目を向け、憤り、かの陽光聖典すら叱り飛ばしてくださった」

「あ、あぅ… ちょ、ちょっと調子に乗ってましたぁ… すみません…」

 

「ハハッ! いやなに、実に痛快でしたとも!」

 

 その言い草に渋い表情となるニグンを横目に眺めながら。

 心底愉快そうに、くつくつ笑ってガゼフは言葉を続けた。

 

「貴女にこそ救われたのです。私も、部下たちも… そして消えてしまった村の民たちも」

「………」

 

「何度でも言いましょう。貴女で良かった、と。……貴女だからこそ我々は救われたのです、と」

「が、ガゼフさん…ッ!」

 

「どうか胸をお張り下さい。貴女の選択に異を唱える者などここには一人もおりませんよ」

 

(な… なんなんですか、この人ぉ… ぐう聖すぎませんかぁ…!?)

 

 冷血、怠惰かつ自分勝手なさくらもちといえども多少なり人の心は持っている。

 ぐうの音も出ないほどに聖人極まっているガゼフの暖かい言葉に必死に涙をこらえる。

 

 そこに、王国戦士団の一人の若干お調子者そうな男性が口を挟んできた。

 

「ただ一つ注文付けるなら、補償金は貴族どもには渡らないようにして欲しいッスねぇ」

「……あー」

 

 そういえばガゼフにろくな装備も渡さずにむしろ妨害してきた貴族連中のことがあった。

 まだ伝聞でしかないというのに、最早そのクソさ加減には一定の信頼が置けるまである。

 

 どうしたものかと考え込むさくらもちをフォローするかのようにニグンが口を開いた。

 

「ならば国王に直接それらが渡るよう、法国よりの使節団に厳命しておきましょう」

 

「……えっと、大丈夫なんでしょうかぁ? ニグンさん」

「はっ! これでも六色聖典の一角。それなりに政治面でも発言権を有しておりますれば」

 

「う、うへへぇ… まこと、ありがたし… そ、それじゃあそういった形でお願いしますぅ…」

 

 良かった。

 

 一時期はどうなることかと思ったが、なんとか解決の目処がたった。

 やり遂げたという達成感でいっぱいである。

 

 爽やかな心持ちで澄み渡る青空を見上げると、一陣の風が草原に舞い踊った。

 悪くない気分である。

 

(フフッ、こんな素敵な風景をモモンガさんと共有した…)

 

 ──………

 

 ──……? 

 

 ──……! 

 

(あぁあああああ!? モモンガさんへの報告すっかり忘れてたぁあああああああ!?)

 

「『悪いことをしたらごめんなさいしましょう』。……いい言葉だな、感動したぜ」

「あぁ、流石はさくらもち様だよ」

 

「ははっ! 拾ってもらった命を無駄にしないよう、俺らもますますがんばっていかないとな」

 

 そんな王国戦士団のみなさんの爽やかなやり取りを尻目に。

 今回の一件の功労者たるさくらもちは頭を抱えながら小刻みに震え続けるのであった。

 

(あぁあああああああッ! うわぁああああああああああああああああああああああッ!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう… どうしよう… まず小刻みに情報を出していって反応をうかがって… それからぁ…」

 

 無論、モモンガさんにしっかりと怒られお説教されたことは言うまでもない。どっとはらい。

*1
ガゼフさんと王国戦士団のみなさんは善意でさくらもちを護衛しています。

*2
繰り返しますが、ガゼフさんと王国戦士団のみなさんは善意でさくらもちを護衛しています。

*3
モモンガさんは某万能タヌキ型ロボットじゃねーんだぞ。

*4
なお、さくらもちと違ってモモンガさんはユグドラシルのモンスター、魔法、アイテムを全て暗記しているらしい。頭おかしい。

*5
眠らせて操ってから危険物やら切り札やらをセルフで提出させた模様。鬼畜の所業である。

*6
そういった質問だった場合、さくらもちからすれば、まさに「ガゼフさんに聞いてください」案件である。

*7
コミュ障は人との会話でジッサイ「え?」「あ」「はい」を多用しがち。古事記にもそう書いてある。

*8
こめられていたら半自動的に眠っちゃうし。

*9
なお、さくらもちは全く嬉しくないものとする。

*10
人類の定義に亜人や異形種は含まれないらしい。「初手アウトじゃねぇですか…」とはさくらもちの弁。

*11
他の国々は基準に満たなかったり、基準を満たしても外的・内的要因で滅亡間近とか様々な問題を抱えていてほぼ論外ばかりである模様

*12
マジで今のところ王国戦士団視点からは聖者のようなことしかしていないのである。……死んだ人間も蘇生とかさせたし。

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