リハビリまだまだ続いてます!
「さすがティファレト様!スコアでまた一位を取られたのですね!」
「美しい上に知的でお強いなんて!」
取り巻きたちが自分を賞賛する声は、何とも心地よい。童話に登場するような絹糸のように美しい艶のある髪や、精巧に作られた人形のような端正な顔。彼女の名前はティファレト。ここ、“スクール”と呼ばれる場所で生産されている強化人間の成功例の一人だ。13歳ながら、強化を施された彼女の肉体は成人男性のアスリートに匹敵し、動体視力や反応速度はまるでプロボクサーの攻撃を軽々にかわすほどだ。
「ふふん!この私がここでの最初のセフィラだからね!しかも13歳で!!」
取り巻きたちは絶え間なくティファレトを褒め称え続ける。もちろん、彼女たちにはティファレトへの敬意がいくらかはあるものの、主に占めているのは将来的に彼女が握るであろう権力にしゃぶりつくヒルのような精神による物である。もちろんティファレトは盲目的ではないのでそのことを理解していた。
(ふん、くだらない虫どもね。お前たち程度じゃ私の駒使いも務まらない……ん?)
ティファレトは2人の少女と、その2人にガッチリと腕をつかまれながら建物の影に引きずられている銀髪の少女を見た。好奇心に駆られて近づき、施設の影から覗いたところ、銀髪の少女がちょうど顔にビンタをくらい、尻餅をついていた。
「てめー、ほんとムカつくんだよ。媚女が」
「アンタみたいな落ちこぼれが、“先生”のお気にってだけで評価されやがってさぁ?」
銀髪の少女は目に涙を浮かべながらもニコリと笑顔を作る。
「チッ……!そういうのだよ!お前のそういうとこがムカつくんだよ!」
振りかぶって銀髪を殴りつけようとする腕が止まる。驚いて後ろを振り向くと美しい少女がこちらの腕を掴んでいて、それに気づくと同時に顎に衝撃が走って体が崩れ落ちる。
「ティ……ティファレト!」
「あぁ?いつからお前みたいな小虫が様をつけなくて良くなったの?」
「クソッ!お前みたいなぐえ"っ……」
狼狽えるもう1人の鳩尾にティファレトの拳がめり込み、白目を剥いて倒れ口から泡を吹いて倒れた。
「やっぱり私すごいわねぇ……で、あんた」
銀髪の少女はビクリと体を震わせて恐る恐るこちらを見る。不安そうな目が合うと、涙を浮かべたままこちらにニコリと笑いかけてきた。
「……アンタ、悔しくないの?」
「…………」
「はぁ、イライラするわね!?アンタ名前は!?」
少女はまるでこちらの事を化け物を見るように青い目を向け、刺激しないような素振りでニコリと笑う。
「わ、私は…………」
「ん………」
ふと気がつくといつもの自分の部屋であった。豪勢な天井の装飾に出迎えられ、私は上体をおこし、モゾモゾと動いてベットから降りて洗面台を目指す。豪勢な金の装飾の入った鏡を見ると、そこには大きな傷のある自分の顔が写っていた。
「ひ………ひぃっっ!?ひっ!ひぃ!?いやっ!いやぁああああああああ!!!」
鏡の砕け散る音で冷静になる。震えの混じった呼吸を落ち着かせ、ヒリヒリと痛む拳をさすりながらもう一度残骸に映る自分を見ても傷は見当たらない。
「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!クソッ!クソッ!クソァァアアアアアア!!!アイツ殺すッ!殺すッ!殺す殺してやる!!」
あれから3日、フレイヤはほとんどの時間をフェニックスのコクピットで過ごしていた。あの戦いで気絶し、目が覚めたときには阿頼耶識が繋がったまま毛布で包まれていた。話を聞いたところによると三日月が奮闘し、大ダメージを与えたもののシャオ共々取り逃してしまったようだ。
今でもあの時のツカサを思い出すだけで吐き気がする。彼女に起きた状況を知っているのは突入組と幹部、女性陣のみであった。ツカサは言葉を発することはなくなり、ただひたすら毛布にくるまっていて、たまに聞こえる啜り泣く声が胸を貫いて、フレイヤはいつも逃げ出してしまうのだ。
「もう……いやだ……」
フレイヤは頭を抱えてうずくまる。泣きたくなくても涙は止まらない。霞んだ手のひらを見つめ、人の指を叩き潰した感触を思い出して、体が震える。
「違うの……私はそんなんじゃ……私はいい子なの…………」
突然コックピットが開き誰かがこちらを覗き込んだ。
「ヨッドさん……」
「やぁ、様子を見にきたよ」
ヨッドは端正な顔でこちらに微笑みかけてくる。そして手を伸ばし、フレイヤの頬に触れた。
「……私のせいなんです。私がいるから、弱いから……」
「君のせいじゃないだろう?」
ヨッドの優しい目にフレイヤは引き込まれそうになる。全てを委ねたくなるような優しい目。
「あ…………」
ヨッドの顔が少しずつ近付いてきて、お互いの息を感じる距離になる。2人の唇が重なる____
「いやっ……」
____すんでの所でフレイヤの手がヨッドを押し退けていた。
「……ごめんなさい」
フレイヤはコックピットからさっさと逃げ出そうと縁に手をかける。しかし、ピタリと動きを止めてこちらを振り返った。
その表情は先ほどと全く違っていてまるでイタズラ好きな少女のようにクスクスと口元を押さえている。
「くすくす、フラれちゃったねぇ」
「……あの嫌味ったらしいのが出てくると思ったが」
「キモいのは嫌なんだってさぁ」
フレイヤは無邪気な子供のように笑う。
「……君は何だ?」
「え?何って?」
「僕は嫌味ったらしいのも、戦闘狂のも知っている。オドオドしてるのだってね。僕は研究所にいたし、フレイヤを作る時にもいた。
しかし君を知らない」
「あれぇ、私の時はいなかったの?
ん、強いて言うなら……隠し味?」
顎に人差し指を当てて首を傾げるフレイヤ、あざとさも混じるその雰囲気はまるで小悪魔のようだ。
「あ、ちなみに私ならいつでもキスくらいしてあげるよん」
わざとらしい投げキッスにヨッドは浅くため息をつく。
「やめておくよ。僕が欲しいのは君じゃあない」
「そう?ざんねーん」
3日後、目的の港町に到着し、経営組は荷物の仕分けや輸送船の申請などで忙しく動いている。しかし、それ以外の団員は実に退屈な時間を過ごしており、特に年少組は手伝うべきことがない状況だ。
「なぁ、最近空気重くね?」
「まぁ、ほらみんな忙しいのと……この前のフレイヤのアレ……がさ?」
「うんわぁ、思い出すだけできついよあれ……」
「連れ去られてよっぽど怒ってたんだなぁ、フレイヤ…………」
しばらく沈黙が続いた後、ライドが立ち上がった。
「……フレイヤの話してたらおっぱい揉みたくなってきた」
「……俺はいいや」
「俺もパス、猫で忙しい」
何か嫌なことを思い出したかのような表情で頬をさする者と、やけに猫が多いこの港を楽しむ者など他のメンバーも同じように揉みに行く気配はないようだ。
「なんだよノリ悪いなぁ……俺は行くぞ」
「港からは出てないと思うんだけどなぁ……ん」
ライドがふと曲がり角を見ると、白い髪が風になびき、それがおそらくフレイヤと思わしきものであると気づく。
「おっ!いた!」
ライドがフレイヤを追いかけて曲がり角を曲がろうとした瞬間、聞こえてくる音にゾッとして立ち止まる。音から想像できるそれに震える体を動かし、恐る恐る覗き込んだ。その瞬間、喉の奥が凍りつき、足の力が抜けて尻餅をついてしまった。
(な、なんだよ……何してんだよ……!?)
白い髪の少女が何かを何度も踏みつけ、蹴飛ばしていた。言葉にするのも悍ましい光景で、吐き気が込み上げる。何よりも異様なのは、イタズラをする少女のようなクスクスという笑い声がその光景の先から聞こえてくる。
抜かした腰になんとか言うことを聞かせて立ち去ろうとするもフラフラと安定しない。やっとのことで立ち上がり逃げ出そうと足を一歩前に出す。
「なにしてるの?」
すぐ後ろから聞こえた声、特に凄んでいるような声色でもなく状況さえ違えばただの日常のワンシーンとして処理するだろう一言にライドの体は固まってしまう。振り向くか、前に進むか、動かず返事だけをするか。次の行動の選択肢だけが頭の中で回り続けているがどれも行動に移せない。数秒の沈黙ののちライドの肩に手が置かれる。ぴくりと体を震わせ、壊れた人形の様に後ろをぎこちなく振り向いた。
「んぐっ…!?んむちゅっ!?」
口を塞がれたかと思いきや中にぬるりとした物が侵入してきてライドの口の中を弄ぶ様に動き回る。
「んちゅ…んぷっ……んんっ!ぷはぁ!?な、なにを……」
やっとの事でフレイヤの優しい拘束を振り解き彼女と目が合っあ。その瞬間、ゾクリと体に小さな感覚が走り、ライドは無意識に走り出していた。
(あ、あの目……人を殺す時の三日月さんと同じっ……)
一方フレイヤは走り去るライドを見つめながらクスクスと笑っていた。ライドの言う“目”、ちゃんと笑顔を作りながらもその面の奥には獲物を喰らう獣の目が覗いていた。
「はぁーっ、キスちょぉ気持ちいい〜……やっぱり生身は最高だなぁ〜!
ん〜、それにしても気になるのはぁ……三日月・オーガスくん、!なんであんなに強いのかなぁ?」
『シャオの回収、完了しました。現在再生治療室に運び込んでいます』
「やぁ、ご苦労」
高級そうな椅子にふんぞり帰り、スーツとオールバックの男の名はイェソド、ホドやティファレトと同じセフィラの1人である。
「
『恐らく気付かれていないかと思います』
「上出来、やっぱりスクール育ちのガキどもはまだまだ詰めが甘いなぁ?」
『やはりイェソド様の様に……』
「おい、そのキッショい名前で呼ぶなよ。
俺にはアヴル・アヴリールって名前があるんだ。俺は宗教は嫌いでね、金にはなるが稼ぎ方が楽しくない」
『申し訳ございません』
「次から気をつけりゃいいさ。
……にしても鉄華団ねぇ、ケセドを囲ってる集団か。フッ……上手く使えそうだ」
「ねぇ、三日月くーん」
フレイヤの猫撫で声と頬を突く感覚に三日月は目を覚ます。安眠の邪魔をした犯人の方をチラリと向くとニコニコとニヤニヤの間の様な表情でこちらを見下ろしていた。
「……なに」
三日月は安眠を妨害され少しだけ不機嫌そうに頭を掻いて上体を起こす。フレイヤはクスクスとまた笑うと隣に座った。
「隣座っていい?」
「もう座ってるじゃん」
「そうだね!」
「はぁ」
「私の事ってさ、みんな知ってるんだっけ?」
「心がたくさんあるってのは」
「おー、偉いねぇ」
心底めんどくさそうな表情でこちらを見つめてくる三日月に対してフレイヤはそれを楽しむかのように口元を抑えて笑う。
「はぁ……で、なんの様なの?」
「んー、私ね!ちょっと三日月くんの事気になってるの!」
「俺の事が?」
「そうそう!三日月くんちょぅ強いしさ!結構顔もかっこいいし、ちんちくりんなとこも結構好き!」
ピッタリと密着する様に体をすり寄せ、お互いの吐息を感じるほどに顔を近づけるフレイヤ。三日月はそれに対して少し困った様な、迷惑そうな表情で見つめてくる。
「俺は今のフレイヤは嫌いだよ」
「え」
「ウザいし」
「ん゛……」
「うるさいし」
「ん゛ん゛……」
「いつものおとなしいフレイヤの方が俺は好きだよ」
「私だってフレイヤだよん?」
「でも心が違うんなら別人なんじゃない?」
「うーん、沢山あるけど違うのとはまた別なんだよね」
「よくわかんないけど、とにかく俺は嫌いだよ」
「なんでぇー!!私もチューしたい!!!」
「嫌いな奴とはやんないよ」
「嫌いな奴って!……ん?好きな奴とはするの?」
「うん」
フレイヤは少し首を傾げて考えると、ガッテン言ったようにハッとした。
「じぇらしぃ……だけどまぁ、そっか……」
少し悲しそうにした後、クスクスと笑いだす。
「私はこれからも貴方のことを知りたいと思ってるよ」
「そう」
(備えないとね……“あれ”が出てくる前に)
ライドが見た光景は最初は描写してましたが自分でもキツかったんでわかりにくくしてます