「あー、アトラが泣かした〜」
「わ、私何もしてないよ!?
ど、どうしたのフレイヤ!」
「わ、わからないです……なんか、止まらなくて」
身体を起こし、ゴシゴシと目を擦る。原因はきっとさっきのだろう。誰なのか、何の歌なのかははっきりせず、ただその光景が見えただけで何もわからない。
「何してんだお前ら」
皆が声のする方へと振り向くと、オルガが立っていた。
「……なんで泣いてんだ?フレイヤ」
「アトラが泣かした」
「わ、私じゃっ!」
「……まぁ、仲良くな。
とりあえず
あぁ、それと……」
オルガが横にズレて後ろを向く。そこにはオセアニア連合でよく見られる服を着ていて、肩までかかった艶のある黒髪の少女が立っていた。
「初めましてっ!ウチ、ツカサ!ツカサ・麟燕・スペルピアっちゅーもんです!」
その服装と独特なイントネーションにフレイヤは覚えがあった。
「この人は麟燕会、テイワズの取引先の組織で……まァ、色々あってうちへの派遣ってことになった」
頭をかきながら困った様な表情しているオルガを見ると、その色々というのは何やらよくないことの様だ。それを気にせずに少女は一歩前へと出た。
「よろしゅう頼んますっ!」
元気な声で挨拶をすると、フレイヤの方を見てニコリと笑う。そしてテクテクと近づいて息のかかる位置まで顔を近づけた。
「ほんまやなぁ。姐さんの言うてた通りのべっぴんさんで綺麗な目、してはりますわぁ!」
「ひ、ひぇぇ……!」
「あ、すんまへん!驚かせてしまいましたわ!
ウチの姐さんから自分のこと聞いとりますねん!レイプ、あっ……なんか困ってたから助けたって!」
「あ……はい……」
「ウチ、メカニックやっとりますねん!
姐さんからはガンダムフレームの事調べ……勉強してこいって事で船乗ることになったやさかい、改めてよろしゅうたのんますみなさん!」
次の日、フェニックスのオーバーホールが終わってないフレイヤとその付き添いのアトラは、テイワズから直接仕事を受けたオルガ達とは別行動を取ることになった。ライドを含めた数人の年少組やツカサも残る様でそれぞれ暇を潰している。
「しっかしこのガンダムなんですけど、前に奪われた朱雀にむっちゃ似とりますわ」
ツカサがハッチの横をペチペチと叩きながらつぶやいた。
「す、朱雀……ですか?」
「あぁ、前にウチがテイワズはんに卸すモビルスーツが変な奴らに取られたってのは聞いてますやろ?そのモビルスーツが朱雀ですねん。
カラーリングはここまで紅くはなかったけど、全体的な雰囲気とか機構がむっちゃ似とるわぁ」
突然、ズイッと鼻と鼻が触れる寸前の距離まで顔を近づけてくるツカサ、その行動にフレイヤは体が固まってしまった。
「疑っとるわけじゃありませんけど、なんか知ってへんかなぁ?って思っとるんですわ」
「し、しししし知らない……です」
真顔でじぃっと目を合わせて離さないツカサに対してフレイヤは目が泳ぎダラダラと冷や汗を垂らす。本当に心当たりがないのだが、ここまで圧をかけられるとやってもいない事を白状してしまいそうだ。
「プッ……アハハ!」
ツカサの整った顔が崩れ、真顔から笑顔へと変わる。
「ハハハ、冗談ですわ!にしてもフレイヤはん、ほんま美人やなぁ……姐さんは知りまへんけど、ウチは両方いけるクチやさかい、その気があったらいつでも声かけてもろてもよろしいですわ!」
そういうと鼻歌混じりにスキップしながらコックピットの中へと乗り込んでゆくツカサ。
「中身は全然ちゃいますわ。へぇ、こら珍しい……コントロール・シリンダータイプねぇ
こんな滅多にないシステムよう操縦できますねぇ、やっぱ阿頼耶識がすごいんかなぁ。
あ、あとでそっちも見してもらえまへんか?」
(一方的に喋る人だ……)
その日の夜、フレイヤはなかなか眠りにつけずにいた。その原因というのも、急遽増えた女子団員へのとりあえずの対応として、個室だったアトラの部屋に転がり込んで一緒のベッドで寝るという習慣が定着していたのだが、そこへ
「ウチも一緒にええですか!」
とツカサが言い出したのを断れなかったせいだ。現在の寝床は左にアトラ、右にツカサと挟まれている状況である。
さらにツカサはフレイヤの腕を抱きしめる様に寝ていて、動きにくい状況なのである。
起こさない様にゆっくりと拘束をといて起き上がり、部屋から出る。ペタペタと目をこすりながらしばらく歩くと、開けた場所に出た。テイワズの工房である。
現在整備されているモビルスーツはない様で、薄暗くメカニックらしき人も数人しかいない。すれ違う人に軽く会釈し、軽く床を蹴ってふわりと浮き上がる。昼と比べて無重力空間での動き方が上手くなったのかフェニックスの元へと器用に着地した。
「……フェニックス」
鉄塊に対してその名を呼ぶ、当然返事はない。コクピットのハッチを開けて乗り込み、阿頼耶識を接続する。
どうせお前には動かせない
「……練習するもん」
シミュレータを起動し、CGで再現されたグレイズが画面上に出現した。カーソルを合わせて射撃するも明後日の方向へと銃弾が飛び、次の瞬間には接近され撃破された。
ふん、これじゃ役に立たんよ
「うるさい、役に立って見せるもん」
もう一回、またもう一回と繰り返すも瞬時に撃墜されてしまう。
わからないやつだよ
「私だって……」
ならわからせてやる
また同じ様に起動するが、今度はグレイズは出現しなかった。代わりに見覚えのない機体が目の前に浮かんでいる。それそのものは知らない、しかし自分の忘却した残滓にそれに関する僅かな記憶が残っていて、フレイヤは身震いした。詳しいことは覚えていないが、それに関する僅かな情報をようやく口から絞りだした。
「ガンダム……フレーム……!?」
途中で気づいたのはフレイヤが寝転がってる時に描写的に仰向けなんですが、阿頼耶識があるとできないのでなんかすごい良い感じの阿頼耶識をカバーできるクッションがあるって事で納得してください(^^;;
あとコントロール・シリンダーってのはVガンダムの操縦桿みたいなやつです!